リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~

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第45章 バグだらけの侵入と、運命の管理者

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東京の中心、かつて皇居があった場所にそびえ立つ「黒い塔」。  周囲には見えない壁(結界)があり、自衛隊や警察も近づけない異常事態になっていたが、一般市民にはその塔が見えていないようだった。認知阻害フィルタが働いているのだ。

 私たちは堂島さんの軽トラで、結界のギリギリまで接近した。

「……ここからは徒歩だ。結界をどう抜ける?」

 一ノ瀬が計算結果を示す。 「正規のルートはありません。ですが……一点だけ、データの密度が極端に低い『穴』があります」

 彼女が指差したのは、塔の基部にある、マンホールのような排気口。

「あそこは廃棄データの排出口。……シルヴィア様の『不運』を使えば、システムエラーを起こしてゲートを誤作動させられるはずです」

「私ですか!?」  シルヴィアが自分を指差す。

「ああ。君の出番だ。思いっきりドジを踏んでくれ」

 私たちは排気口へ向かった。  シルヴィアは緊張のあまり、何もないところで足をもつれさせ、転倒。その拍子に、彼女が履いていた靴が脱げ、排気口のセンサー部に激突した。

 バチッ!  『SYSTEM ERROR』の赤い光が明滅し、堅牢なゲートがガガガ……と音を立てて半開きになった。

「……開いた」  我妻監督が呆れる。「セキュリティがザルすぎるだろ」

「いや、彼女の不運が強すぎるんだ。行こう!」

 塔の内部は、光のラインが走るサイバー空間のような場所だった。  重力が曖昧で、壁や天井にも通路がある。

「侵入者検知。排除シマス」

 無数の幾何学立体(ポリゴン)のようなドローンが現れ、レーザーを照射してきた。

「伏せろ!」

 私たちは走った。  六郷社長が即席で作った「ジャミング装置(強力な磁石をモーターで回すだけの荒っぽい機械)」を作動させると、ドローンたちがふらふらと墜落していく。  カレンは落ちていた鉄パイプ(データ上のゴミ?)を拾い、舞うようにドローンを叩き落とす。

「ここは私のステージよ!」

 最上階。  そこには、巨大な光る球体――『運命の原簿』が鎮座していた。  その前に、一人の老人が浮遊していた。  長い白髭に、真っ白なローブ。いかにも「神様」といった風貌だが、その手にはタブレット端末が握られている。

「……やれやれ。バグごときが、ここまで上がってくるとは」

 老人がため息をついた。  彼こそが、運命監査局長。この世界のシナリオライターだ。

「柏木誠。おとなしく消えていれば、来世で少しはマシな人生を用意してやったものを」

「余計なお世話だ。俺は今の人生が気に入ってるんだ」

 私は一歩前に出た。

「返してもらおうか。俺たちが汗と涙と、たまに豪運で手に入れた『歴史』を」

「却下する。貴様の存在は、予定調和を乱すノイズだ。……ここで完全に消去(デリート)する」

 局長がタブレットを操作した。  空間が歪み、私の体が足元から透け始めた。  存在の消滅。痛みはない。ただ、自分が「いなくなる」という感覚だけがある。

「柏木さん!」 「オーナー!」

 仲間たちが駆け寄ろうとするが、見えない壁に阻まれる。

「終わりだ。……さらばだ、特異点」

 私の視界が白く染まっていく。  ああ、これが最後か。  金も、名誉も、仲間も、記憶も。すべて消えるのか。

 ……いいや。  まだだ。  私には、まだ「切り札」がある。

 私は消えゆく手で、ポケットの中を探った。  そこには、シルヴィアが最初に出会った日に落とした、あの壊れたスーツケースの「車輪(キャスター)」が入っていた。  不運の象徴。  だが、今の私にとっては、世界で唯一の「計算外の物体」だ。

「……神様。あんた、ギャンブルは好きか?」

「何?」

「俺の存在が消える確率と……あんたのタブレットが『故障』する確率。どっちが高いか、賭けようぜ!」

 私は全力で、その車輪を投げつけた。  ターゲットは、局長のタブレット端末。  私の体はもう半分消えている。力が入らない。  軌道は大きく逸れ、明後日の方向へ飛んでいく。

「ハハハ! 狙いも定まらんか! 愚かな!」  局長が嘲笑う。

 だが。  その車輪は、壁に当たり、天井に跳ね返り、床を転がり――。  シルヴィアが転んだ拍子に蹴っ飛ばした小石に当たり、奇跡的な角度で跳ね上がった。

 そして。  まるで吸い込まれるように、局長のタブレットの充電ポートに突き刺さった。

 バチッ!!

「……あ」

 局長の手元で、タブレットが激しく発光した。  ショート。  直後、大爆発。

 ドカァァァァン!!

「ぬわぁぁぁぁぁ! データがぁぁぁ! バックアップ取ってないぃぃぃ!」

 神様の絶叫が響き渡る。  光る球体『運命の原簿』が制御を失い、暴走を始めた。

「……勝った」

 私の体が、実体を取り戻していく。  世界が、再構築されていく音が聞こえた。  それは、誰かが決めた運命ではなく、私たちがこれから作る「白紙の未来」の音だった。
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