孤高の騎士団長は誰のものにもならないオメガ

ゆなな

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フェリクスの家

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 フェリクスの家は、城下町を抜けて人の気配が少ない森の中にある。
 静かな場所にある大きな屋敷。フェリクスは質素な屋敷で構わなかったが広さやたくさんの部屋がある屋敷が欲しかったのだ。
 城下町から少し離れているため、長らく空き家となって半分朽ちていたこの屋敷を、安く買い取ることができたのは幸いだった。
 もちろんフェリクスが住んでいる現在はきちんと掃除や改修がなされているため、古いがとても広く部屋数も十分で清潔感のある洋館だ。
 屋敷は基本的にはフェリクスの一人住まいだが、戦線に赴いて長らく家を空けているときにはフェリクスに恩義を感じてくれている誰かが掃除や換気、馬の世話をしてくれている。そのため、長期にわたり家を空けてもいつもと変わらない状態で屋敷はフェリクスを迎え入れてくれる。
 レンガ造りの洋館の古い扉を開けると、よく磨かれている木の床のエントランスだ。エントランスには中古品屋から見つけてきた趣ある絨毯が敷かれている。
 一階には台所と食堂も兼ねている居間やフェリクスの書斎へと続く扉がある。

「いい匂いがします。やっぱりフィーが来ていそうですね」

「そのとおり。食事の下準備だけしておいたよ。今日は量が要ると思って。バルトこそやっぱり宿舎に帰らずにフェリクス様に付いて帰ってきたな」

 居間へ続く扉を開けながらバルトが言うと、返事をしたのはフェリクスではなく家主の留守中に部屋を訪れていたフィート・ネフィルという細身のオメガの男だった。
 フィートは仲間内でいつもフィーと呼ばれている。
 十人程度ならば同時に食事ができる大きな木のテーブルがあり、奥には暖炉とソファがある。フィーはそのソファに座っていた。

「フィー、お前が来てるっていうことは、アンダーバーに動きがあったのか?」

「戦地から帰ってきたばかりのフェリクス様とバルトに言うのは申し訳ないんですが、今夜アンダーバーが久しぶりにさらってきた子供や、金で買った子供を売りに出すオークションを開催するそうです」

 素早く問うフェリクスにフィーが答える。
 アンダーバーはこの国に蔓延る地下組織で、オメガやアルファの子供をオークションで売買することで多額の利益を得る人身売買や、オメガの発情期やアルファのラットを思いのままに操る法律で所持が禁止されている薬物の売買で、多額の儲けを生み出している。
 フェリクスはそこで売買される子供たちをオークションにかけられる前に開放する活動を、もう十年近く続けていた。

「オークション開催の場所と時刻は?」

「場所は裏城下町二丁目の賭博場です。あそこは賭博で作った借金を返せなかった者を捕らえておく地下牢がありますよね? 子供たちはそこに。おそらく今夜は十名ほどオークションにかける予定で時刻は午前一時きっかりにスタートです」

 フィーは裏城下町と言われる治安があまり良くない地域で酒場に勤めている。
 フィーは耳と目がとてもいいことを利用して、フェリクスのために情報屋としても動いてくれている人物だ。
 オメガだが、騎士団養成のアカデミーを卒業し、今は退団したが、かつては騎士団に属していたこともあり自分の身は自分で守ることができる。数年前からバルトとともに、フェリクスの解放活動に力を貸してくれている仲間であり、かつてフェリクスが助け出した子どもの一人でもある。

「午前一時か。それなら午後十時から始めて日付が変わる前には完了する必要があるな」

「フェリクス様、裏城下町二丁目の賭博場の構造からいつかアンダーバーがオークションに使う可能性が高いと思い、潜入して内部を調べたことがあります」

 バルトはそう言って、フェリクスの屋敷の一階奥にある書斎から革張りのノートを持ってきた。そこにはバルトが調査して書いた賭博場の見取り図があった。

「さすがだ。助かる……ありがとう、バルト」

「……っい……いえ……っフェリクス様にしていただいたことを思えばこれくらいっ……」

 思わず満面の笑みを浮かべてバルトに礼を言うと、彼の男らしく整った顔は真っ赤になった。

「バルト……お前がいつまでたってもフェリクス様と同じアルファなのに、そのようにフェリクス様に惚れ込んでいつでも番犬のように隣にいるから、フェリクス様を好きなオメガ達も怖くて声が掛けられないって噂だぞ。フェリクス様はもう来年には三十歳なのに未だに番がいないのはお前のせいだからな」

 すでにアルファの番がいて共に暮らす仲であるフィーが、バルトの様子に眉をひそめる。

「番を作らないのは別にバルトのせいじゃないさ。俺がそんな気になれないだけだ」

 フィーの言葉にフェリクスは肩をすくめて苦笑いをして答える。

「確かに……フェリクス様は僕みたいな最高のオメガを振るくらいですからね……あ、もうこんな時間! それじゃフェリクス様、僕は一旦帰って午後九時頃にもう一度来ますね。バルトは? 作戦までまだ時間あるから一緒に戻る?」

 フィーの職場であり恋人との家でもある裏城下町の酒場の上に、バルトは下宿しているのである。
 帰って夕食は番と摂るつもりのフィーが尋ねると、バルトは首を振った。

「いや。俺は時間までここにいる。フェリクス様、よろしいでしょうか?」

「好きにしろ。いつも勝手に客間のうちの一つを自分の部屋代わりにしてるだろ」

 二人のやり取りを見ていたフィーが溜息を吐いて言った。

「バルト、本当にいい加減団長試験も受けて、第一騎士団から離れた方がいいと思うよ。どちらにせよフェリクス様のこの仕事の手伝いをするなら、公務は離れたところから支えるのでもいいと思う。外側から助けられることも多いはずだ」

「フェリクス様は人望があるので外側から支えてくれるヤツは他にもいるが、フェリクス様の隣に立てる実力があるのは俺しかいない。それにそばにいなければ、急に何か起こってもお支えすることができないだろう。フェリクス様は離れたところにいる俺に助けを求めたりなんて絶対なさらないだろうし」

「本当にお前は重症だよ、バルト……フェリクス様からも団長試験を受けるように言ってくださいよ」

「言ってるんだがな。最近言うことを聞きやしない」

 そう言ってフェリクスは肩をすくめた。
 フィーと同様、バルトもフェリクスがアンダーバーのオークションから救い出した子どもだった。
 その時バルトは十四歳で、頭がいい子ではあったが、これがアルファなのかと思うほどに細くて頼りない子どもだった。
 今から八年も前なのでちょうど成長期に入る前のことだっただけなのだが、それでも今の雄々しい獅子のような姿からは想像ができないほど細く頼りなかった。
 誰よりも男らしく、強く賢く成長したバルトが眩しくてフェリクスはもう彼の真っ直ぐな眼差しが眩しくて直視することもできない。
 あまりに穢れた自分とは違いすぎる。
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