孤高の騎士団長は誰のものにもならないオメガ

ゆなな

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バルトとの出会い

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 バルトとフェリクスが出会ったのは八年前の嵐の夜だった。
 眩しい青年に成長した彼の姿に、フェリクスは初めて出会った日のことに想いを馳せることが多くなった。
 今から八年前のその日、オークションに掛けられる子どもたちが閉じ込められていると情報を得たフェリクスが向かったのは、城下町の外れにある古い塔だった。
 ゴルール公国に蔓延る地下組織アンダーバーは証拠を掴まれるリスクを回避するため、アジトなどは持たずその時々の状況に合わせて場所を変える。
 攫ったり、買ってきたりした子どもたちを捕らえておくための場所も毎回変えていて、しっぽを掴ませない。
 フェリクスは塔の入り口の見張り番の僅かな隙を突いて塔に侵入すると、塔の中にある螺旋階段を駆け上った。
 塔は薄汚くやたらと高い。その一番上にある部屋に子供たちは閉じ込められているとフェリクスは情報を得たのだ。
 階段を一番上まで上りきると現れた古い木の扉。
 その扉の前でフェリクスは腰に差した剣を抜いた。
 その年フェリクスはゴルール公国の騎士団長試験で、当時第一騎士団長であったバッカスを破り、第一騎士団長に昇進したばかりだった。

「君たちをここから助けにやってきた! 今からこの扉を剣で切り、こじ開ける。危険だから扉から離れて!」

 フェリクスは扉の前でそう叫び、扉の前に人の気配は感じられないことを確認してから、この国一番だと自信がある剣技で、古い木の扉を切り裂いた。
 フェリクスの剣で古い扉は二つに綺麗に切られた。
 切れた扉を蹴り飛ばすと、扉は簡単に壊れた。
 中には数人の子どもがいて、皆やせ細って哀れであった。
 子どもたちは剣で扉が切られたことに驚いたようだったが、一人も声を上げることはなかった。
 フェリクスの時と同じならば大きな音を立てると殴られるのだろう。
 五人ほどいた子どもはオメガもいればアルファもいた。
 オメガは専用の娼館で働かされるか、金持ちの奴隷にされるのが目的で集められる。
 一方で能力の高いアルファを子供のうちに躾け、能力は高いが大人しい奴隷が欲しいという者に売るのも流行だった。
 アルファは大人になると能力が高すぎて手に負えなくなるので、子どものうちに躾けと言う名の酷い虐待によって、扱いやすくも能力が高い奴隷に仕立てあげられるのだ。
 どちらにせよアンダーバーから売られた子供には人権がない。
 今でも助け出した時のバルトのことはよく覚えている。
 フェリクスが助けに入ったその塔の片隅にいた金の髪で美しい少年、それがバルトだった。オメガに見えるほど細かったが、フェリクスはひと目でアルファだと分かった。
 痩せていたが翡翠のような目が綺麗で印象的な子どもだった。

「怖がらないでくれ。君たちを助けたい。この階段を下りて塔の下へ行くのは危険だから、この窓からロープを垂らす。それを伝って下りられるか? 落ちても大怪我をしないようにこの窓の下には藁草を敷いてはある」

 フェリクスは極力穏やかな声で言った。
 そして窓のそばにあった古ぼけた本棚に左肩に巻いて持ってきたロープの端を括り付けた。

「ここに括るだけでなく、俺もしっかりロープを掴んでおく。気持ちが決まったものから降りてくれ。下りたら真っ直ぐ前に林が見えるだろう? そこで隠れて待っていてくれ。あまり奥には行くなよ。手前の木の陰にでも隠れていて。俺も後からすぐに行く。馬車で逃げた後、君らの家か安全な場所に必ず送るから信じてくれないか」

 フェリクスは子どもに安心してもらえるように、親切に丁寧に説明することを心掛けた。

「俺、行きます」

 すると、フェリクスの申し出に対し、アルファの男の子どもから順にロープを手に取っていった。
 アルファの子はとりわけ賢いから、逃げることのリスクと留まることのリスクを瞬時に天秤にかけ、逃げることを選択できたのだろう。
 身体能力も高く、ロープを使って下りることが問題ないのも大きいかもしれない。
 二人のアルファは問題なくするするとロープを使って地上に下り、近くの林に隠れることはできた。

「オメガの子は体重が軽いから、アルファの子たちよりもロープを使って下りるのは難しくないよ。それに落ちても大丈夫なように下に藁草をたくさん敷いてあるからね」

 フェリクスの言葉にオメガの子たち二人も窓からロープを伝って下りた。
 部屋の中にはアルファだとわかる微細なフェロモンを放っていることで、ようやくアルファだとわかるような痩せて小さな金髪の男の子が一人だけ残った。

「怖い?」

 フェリクスが尋ねると、男の子はうなずいた。綺麗な金髪で瞳は翡翠のようだった。
 あまりに綺麗でフェリクスは思わず息を呑んだ。
 おそらくクランブルク帝国出身の貴族の子だろう。
 アルファだが、騎士になるためのアカデミーなどには通ったことがなく、大切に大切に育てられているように見えた。

「名前はなんて言うのか聞いてもいい? あだ名でもいいよ」

「バルト……」

「いい名前だね、バルト。無理してここから下ろしたくはないんだけど、このままここにいたら近いうちに君は売られる。そこではどんな非人道的なことをされるかわからないんだ。俺が抱えて降りてあげるから、一緒に行こう」

 フェリクスは極力小さなバルトが安心するように微笑んだ。
 そのとき、初めてバルトの瞳に光が灯ったようだった。
 ――なんて美しいんだろう……
 フェリクスは非常時にも拘わらず、驚いてその翡翠色の瞳に魅入ってしまった。

「……貴方と一緒に行きます」

 翡翠の瞳は力強くて、彼はやはりアルファだなとフェリクスは強く感じた。

「よし、行こう!」

 フェリクスがそう言ってバルトに手を伸ばすと、彼はしっかりと握り返してくれた。
 今一度本棚にしっかりとロープが結ばれているのを確認してからフェリクスはバルトを抱き上げた。

「俺にしっかりしがみついていてくれ。そう、首にぎゅって腕を回してて」

 抱き上げたバルトがしっかりとフェリクスにしがみついたのを確認してから、フェリクスはロープを掴んで、窓枠に手を掛けた。
 フェリクスの卒業した騎士養成アカデミーでは、危険地帯での活動や国民の災害救助をすることを想定して人を抱えたままロープで高所から下りる訓練もあったため、バルトを抱えたまま難なくロープを伝って地上に下りることができた。

「もう下りられたの……?」

 バルトは地上に着くと安心で力が抜けたのか、藁草の上にバルトを下ろすとへなへなと座り込んで美しい瞳を真ん丸にして言った。

「さぁ、無事に逃げ切るまであと少しだから頑張ろう!」

「……はい!」

 フェリクスが笑顔で言って再び彼に手を差し伸べると、バルトはフェリクスの手を取った。そして二人は林の中まで手を繋いで走った。
 他の子どもたちと無事に合流してフェリクスの馬車に乗り込み、アンダーバーの魔の手から逃げたのであった。
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