26 / 29
3章
どういうつもり?
しおりを挟む
大広間のロビーは学校の本館内から続く渡り廊下からも来られるが、今日のように外部から客を招いて行う行事も多いため、そのまま外に続く立派なエントランスもある。
アンドレアに抱き上げられたままエントランスを潜り抜けると、正面の大階段だ。
アンドレアが階段を下りているうちに、階段下にある馬車廻しにはビスコンティ家の馬車が横付けされていた。
「おかえりなさいませ。アンドレア様、サラン様」
階段を降り切り、馬車の前に立つとアンドレアが何も言わずとも、控えていた侍従がさっと馬車の扉を開けた。
馬車に乗り込むと、そっと柔らかな座席の上に降ろされた。
サランとアンドレアが座席に座ると、馬車は静かに動き始めた。
「ここで治癒魔法使ってもいい?」
「どう考えてもそうするためにうちの馬車に乗せたんだろうが。早くやれ」
サランが尋ねると、何を馬鹿なことを言っているんだと言わんばかりのアンドレア。
「はいはい」
助けてくれたときはまるで王子様のようだったが、やっぱりアンドレアはアンドレアだ。
そう思ってサランは肩を竦めて答え、靴下と靴を脱いだ。
すると日に焼けていなくて白い足の甲の真ん中の皮がべろっと剥けていた。さらにその周囲は赤黒く痣になっているようだった。
ひゅっと息を呑んだような音が聞こえてサランは顔を上げたが、アンドレアは何だか仏頂面をしていたのでどうやら勘違いだったかと思い直してサランは再び傷口と向き合った。
傷口に翳した掌に魔力を集中させると、少しずつ剥けた皮膚は元に戻り、痣も薄くなっていく。
踏まれた傷が綺麗に元通りになると、サランは靴下と靴を履いた。
これぐらいの傷を治すのは造作もないが、今日は昼間の交流会でも随分魔力を使ってしまったし、晩餐会も楽しかったけれど疲労が大きかった。
それに自分に治癒魔法を使うのは通常治癒魔法の何倍も魔力を消費する。
治癒魔法を自身にかけてから歩いて寮に帰宅するとなると疲労困憊であっただろうから、正直に言うとアンドレアが馬車で送ってくれて助かった。
「ふぅ……」
サランは治癒魔法をかけ終わると、ぐったりと馬車の座席の背凭れに背を預けた。
礼を言った方がいいことぐらいサランも分かってはいたが、なぜだか素直になれないし、アンドレアもぐったりしているサランにはいつもの憎まれ口を叩かなかった。
馬車内は静かだったが、不思議と心地よかった。
「俺がやるから降りなくていい」
馬車がスタンダードクラス五年の寮の前に着くと、馬車を御していた侍従が降りようとするのをアンドレアは遮り、自ら馬車を降りた。
先に降りた彼から無言で手を差し出されたので、素直に手を借りて馬車を降りた。
「痛みは?」
地面に足を着けたサランにアンドレアが問うた。
「大丈夫。……あのさ……」
少し言い淀んだサランに、なんだというようにアンドレアは片眉を上げた。
「あの……ありがとう……?」
何とかサランが礼の言葉を絞り出す。
「なんで疑問形なんだよ。素直じゃねぇな」
そう言いながらもサランの顰め面での礼に、ふ、とアンドレアは笑いを零した。
元々顔が整っていることもあり、すぐ近くで見る彼の笑顔は中々の衝撃でサランは目を見開いた。
「……それに、礼なら、こっちがいい」
アンドレアはそう言うと、サランの頤を男らしい指先でくいっと持ち上げた。
「……っ」
瞬きを一つする間に離れたが、一瞬確かに柔らかいものが、唇に、触れた。
男は目を丸くして瞬きもせずに佇むサランの頭を、二度ほどポンポンと叩いた。
「早く部屋に入れ。お前らの部屋クソ狭すぎだけど、風邪ひくよりましだろ」
そう言うとアンドレアは再び馬車に戻り、行ってしまった。
馬車が行ってしまっても、しばらくその場を動けないサラン。
「くしゅんっ」
晩秋の夜の冷たい風に晒されて、くしゃみが一つ出たところでサランは我に返った。
「はぁ?! どういうこと?!」
思わず口から出た疑問にいつでも応えてくれる聡明な親友は、今日に限って隣にいなかった。
そのため、サランの声だけが寮の前に響いた。
アンドレアに抱き上げられたままエントランスを潜り抜けると、正面の大階段だ。
アンドレアが階段を下りているうちに、階段下にある馬車廻しにはビスコンティ家の馬車が横付けされていた。
「おかえりなさいませ。アンドレア様、サラン様」
階段を降り切り、馬車の前に立つとアンドレアが何も言わずとも、控えていた侍従がさっと馬車の扉を開けた。
馬車に乗り込むと、そっと柔らかな座席の上に降ろされた。
サランとアンドレアが座席に座ると、馬車は静かに動き始めた。
「ここで治癒魔法使ってもいい?」
「どう考えてもそうするためにうちの馬車に乗せたんだろうが。早くやれ」
サランが尋ねると、何を馬鹿なことを言っているんだと言わんばかりのアンドレア。
「はいはい」
助けてくれたときはまるで王子様のようだったが、やっぱりアンドレアはアンドレアだ。
そう思ってサランは肩を竦めて答え、靴下と靴を脱いだ。
すると日に焼けていなくて白い足の甲の真ん中の皮がべろっと剥けていた。さらにその周囲は赤黒く痣になっているようだった。
ひゅっと息を呑んだような音が聞こえてサランは顔を上げたが、アンドレアは何だか仏頂面をしていたのでどうやら勘違いだったかと思い直してサランは再び傷口と向き合った。
傷口に翳した掌に魔力を集中させると、少しずつ剥けた皮膚は元に戻り、痣も薄くなっていく。
踏まれた傷が綺麗に元通りになると、サランは靴下と靴を履いた。
これぐらいの傷を治すのは造作もないが、今日は昼間の交流会でも随分魔力を使ってしまったし、晩餐会も楽しかったけれど疲労が大きかった。
それに自分に治癒魔法を使うのは通常治癒魔法の何倍も魔力を消費する。
治癒魔法を自身にかけてから歩いて寮に帰宅するとなると疲労困憊であっただろうから、正直に言うとアンドレアが馬車で送ってくれて助かった。
「ふぅ……」
サランは治癒魔法をかけ終わると、ぐったりと馬車の座席の背凭れに背を預けた。
礼を言った方がいいことぐらいサランも分かってはいたが、なぜだか素直になれないし、アンドレアもぐったりしているサランにはいつもの憎まれ口を叩かなかった。
馬車内は静かだったが、不思議と心地よかった。
「俺がやるから降りなくていい」
馬車がスタンダードクラス五年の寮の前に着くと、馬車を御していた侍従が降りようとするのをアンドレアは遮り、自ら馬車を降りた。
先に降りた彼から無言で手を差し出されたので、素直に手を借りて馬車を降りた。
「痛みは?」
地面に足を着けたサランにアンドレアが問うた。
「大丈夫。……あのさ……」
少し言い淀んだサランに、なんだというようにアンドレアは片眉を上げた。
「あの……ありがとう……?」
何とかサランが礼の言葉を絞り出す。
「なんで疑問形なんだよ。素直じゃねぇな」
そう言いながらもサランの顰め面での礼に、ふ、とアンドレアは笑いを零した。
元々顔が整っていることもあり、すぐ近くで見る彼の笑顔は中々の衝撃でサランは目を見開いた。
「……それに、礼なら、こっちがいい」
アンドレアはそう言うと、サランの頤を男らしい指先でくいっと持ち上げた。
「……っ」
瞬きを一つする間に離れたが、一瞬確かに柔らかいものが、唇に、触れた。
男は目を丸くして瞬きもせずに佇むサランの頭を、二度ほどポンポンと叩いた。
「早く部屋に入れ。お前らの部屋クソ狭すぎだけど、風邪ひくよりましだろ」
そう言うとアンドレアは再び馬車に戻り、行ってしまった。
馬車が行ってしまっても、しばらくその場を動けないサラン。
「くしゅんっ」
晩秋の夜の冷たい風に晒されて、くしゃみが一つ出たところでサランは我に返った。
「はぁ?! どういうこと?!」
思わず口から出た疑問にいつでも応えてくれる聡明な親友は、今日に限って隣にいなかった。
そのため、サランの声だけが寮の前に響いた。
187
あなたにおすすめの小説
遊び人殿下に嫌われている僕は、幼馴染が羨ましい。
月湖
BL
「心配だから一緒に行く!」
幼馴染の侯爵子息アディニーが遊び人と噂のある大公殿下の家に呼ばれたと知った僕はそう言ったのだが、悪い噂のある一方でとても優秀で方々に伝手を持つ彼の方の下に侍れれば将来は安泰だとも言われている大公の屋敷に初めて行くのに、招待されていない者を連れて行くのは心象が悪いとド正論で断られてしまう。
「あのね、デュオニーソスは連れて行けないの」
何度目かの呼び出しの時、アディニーは僕にそう言った。
「殿下は、今はデュオニーソスに会いたくないって」
そんな・・・昔はあんなに優しかったのに・・・。
僕、殿下に嫌われちゃったの?
実は粘着系殿下×健気系貴族子息のファンタジーBLです。
当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる
蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。
キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・
僕は当て馬にされたの?
初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。
そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡
(第一部・完)
第二部・完
『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』
・・・
エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。
しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス……
番外編
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』
・・・
エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。
『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。
第三部
『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』
・・・
精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。
第四部
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』
・・・
ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。
第五部(完)
『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』
・・・
ジュリアンとアンドリューがついに結婚!
そして、新たな事件が起きる。
ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。
S S
不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。
この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。
エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃)
マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子)
♢
アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王)
ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃)
※扉絵のエリアスを描いてもらいました
※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
僕を振った奴がストーカー気味に口説いてきて面倒臭いので早く追い返したい。執着されても城に戻りたくなんてないんです!
迷路を跳ぶ狐
BL
*あらすじを改稿し、タグを編集する予定です m(_ _)m後からの改稿、追加で申し訳ございません (>_<)
社交界での立ち回りが苦手で、よく夜会でも失敗ばかりの僕は、いつも一族から罵倒され、軽んじられて生きてきた。このまま誰からも愛されたりしないと思っていたのに、突然、ろくに顔も合わせてくれない公爵家の男と、婚約することになってしまう。
だけど、婚約なんて名ばかりで、会話を交わすことはなく、同じ王城にいるはずなのに、顔も合わせない。
それでも、公爵家の役に立ちたくて、頑張ったつもりだった。夜遅くまで魔法のことを学び、必要な魔法も身につけ、僕は、正式に婚約が発表される日を、楽しみにしていた。
けれど、ある日僕は、公爵家と王家を害そうとしているのではないかと疑われてしまう。
一体なんの話だよ!!
否定しても誰も聞いてくれない。それが原因で、婚約するという話もなくなり、僕は幽閉されることが決まる。
ほとんど話したことすらない、僕の婚約者になるはずだった宰相様は、これまでどおり、ろくに言葉も交わさないまま、「婚約は考え直すことになった」とだけ、僕に告げて去って行った。
寂しいと言えば寂しかった。これまで、彼に相応しくなりたくて、頑張ってきたつもりだったから。だけど、仕方ないんだ……
全てを諦めて、王都から遠い、幽閉の砦に連れてこられた僕は、そこで新たな生活を始める。
食事を用意したり、荒れ果てた砦を修復したりして、結構楽しく暮らせていると思っていたのだが……
*残酷な描写があり、たまに攻めが受け以外に非道なことをしたりしますが、受けには優しいです。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷う未来しか見えない!
僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げる。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなのどうして?
※R対象話には『*』マーク付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる