かきまぜないで

ゆなな

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番外編SS

BLUE HEAVEN6

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 陽介は約束どおり夜遅くになってから高弥の病室に忍び込んできた。
 いつもは四人部屋だが手術前日なのでよく眠れるようにとその夜は高弥は特別に一人部屋だった。
 月の明かりが眩しいほどに輝いていた夜だった。
「高弥、起きてる?」
 するりと病室に忍び込んできた陽介がベッドに横たわる高弥に密やかに話しかけた。
「……ほんとに来てくれた……」
 驚いて身を起こした高弥が思わず零れてしまったというような声で呟いた。
「来るっつったじゃんか」
「そうだけど……どうやって入ったの?」
 被っていたパーカーのフードを外しながら陽介は
「うるせぇ受付はもう閉まってるし、エントランスの守衛は顔見知りになったからさ、忘れ物っつって入った。ナースステーションの前ちょっとドキドキしたけど、見つかったら見つかったでそんときも忘れ物って言えばいっかなーとは思ったんだけど、誰も会わなかった。ラッキー」
そう言って笑いを溢すと高弥もふはっと息を吹くように笑った。
「もー、ほんとヨウ君って信じらんないことするよね」
「やっと笑った……」
 陽介は呟くように言ってベッドの端に座って、月の光を受けていっそう白く無垢に見える高弥の頬をそっと撫でた。
「え……?」
 どういうことかというような顔をした高弥。
「お前ここのところずっと心から笑ってなかったじゃん」
 そう言って陽介が笑うと、高弥は笑う陽介の顔をじっと見た。
 多分、月明かりだけではあまりよく見えていないはずだが、そうとは思えないくらい澄んだ瞳。
「ねぇ、ヨウくん……1個お願い聞いてくれる?」
 月明かりの中、秘密を打ち明けるように高弥は言った。
「んー? 俺に出来ることなら、何でもしてやるよ。言ってみ?」
 陽介がそう言うと言うと、
「キスして欲しいんだ……」
唐突に高弥は切り出した。
「は……? お前何言って……」
 らしくもなく動揺する陽介に高弥は続ける。
「もしさ、明日の手術、失敗したら……」
「ばか、失敗なんてねぇよ。安心して受けて来いよ」
「うん、わかってるよ。でもさ、ヨウくん。もし、もし……もしぼく明日手術が失敗したら死んじゃうかもしれないんだよ。死ななくても、色んなことわからなくなっちゃうかもしれない……ヨウくんとちゅうしたいよぉ……だって、だってぼく、ヨウくんのこと……」
好き、なんだもん……
「高弥……」
 小さな躯は震えていた。
 小さな、小さな高弥は暗闇でもわかるくらいに真っ赤な顔をしていた。
 思わず頬に手を伸ばすと、信じられないくらいなめらかだった。作りものを重ねた女の頬とはまるで違って、きめ細かくてなめらかな頬。
 そっと頬にくちびるを落としてやると、くすぐったそうに身を竦めた。それから少しくちびるを尖らせて……
「子供扱いしてる……」
と文句を言った。
「こんな小せぇくせに、子供じゃねぇから困ってんだろうが……」
 溜め息混じりの密やかな声で陽介は応える。
「ファーストキスもしないで死にたくない……」
 暗い部屋でも、綺麗な瞳にせがまれて、心がぐらぐら揺れる。キスなんかどうでも良くて誰彼構わずしてきたのに。
 キスなんか誰とでもできるのに。
 こんなにも綺麗なものに自分が触れてもいいものかと今はひどく躊躇ってしまう。
 だが同時に潤んだ瞳に月の光の中でどうしようもなく誘われた。
「俺なんかファーストキスの相手にしちまって、後悔してもしんねぇからな」
そう言ってちいさな顔に手を添える。
「しないよ……絶対後悔しないもん。ずっと思い出にするから……お願い……」
 こんな綺麗な彼のファーストキスを奪うことができる幸福にどうしようもないほどに心が震えた。
 愛らしいちいさなくちびるの先にゆっくりとそっと触れる。
 ほんの少し触れただけなのに、柔らかい感触と甘い吐息にくらくら目眩がしそうだった。だが、腰に腕を回すと驚くほどの細さにぎくり、となり冷静になる。
 ほんの少し力を入れたら折れてしまうのではないかと思えるほど細かった。これだけの子供のようなキスなのに、こんなにも心が震えるものなのか。
 そっとくちびるを離すと
「もっと、ちゃんとして……」
 掠れた高弥の声がやたらに大人っぽくて、翻弄されてるのは自分なのだと、主導権を握っているのは彼なのだと陽介は思い知る。
「……ぜってぇ、途中でくち、開けんなよ?」
 何かに抗うような絞り出すような声で陽介は言うと、どうにかなりそうなほど柔らかいくちびるにぐっと自分のくちびるを押し当てた。
 頭の中が沸騰してしまいそうだった。
 食べてしまいたいほど愛しいという気持ちで狂いそうだった。
 何度か押し当てて、ちゅ、ちゅと啄むようにくちびるを重ねると……
「ん………っ」
 鼓膜が溶けるほど甘い声が高弥のくちびるから漏れて、ほんのわずかにそのくちびるが開いてしまった。
 どうしても我慢できなくて、その隙間からぬるり、と熱い舌を挿入してしまう。
 高弥の口のナカは思ってたよりもずっと温かった。甘い唾液を思う存分吸って、ちいさな舌も咥内も余すところなく舐めると、苦しそうな声が漏れた。
 陽介はちいさな鼻にそっと触れて
「鼻で息してみ……」
 くちびるの間からそう言って、再び甘い高弥の舌に吸い付く。
 真利のショタコンという言葉が頭にリフレインするのと共に、悪いコトをしている罪悪感も胸に渦巻くが、何もかもを凌駕するくらい甘くて、温かくて、気持ちよくて、愛しくて、やめられない。
 くちゅくちゅと濡れた卑猥な音が背徳感を伴って響く。
 いよいよ苦しそうな高弥が背中をトン、と叩いたところで、ようやく陽介はくちびるを離した。
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