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強面騎士団長は宿敵だったはずなのに5章
一緒だから
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氷の洞窟が近づいて来るにつれ、サランの心臓の鼓動は速まってきた。
徐々に雪や風が強くなり、宿舎のある駅前や王族や貴族の邸宅が並ぶ街のエリアとは様相が変わる。自然の影響が色濃く出てきたのだ。
「サラン、洞窟周辺は山から吹き下りてくる風が強い。ここからシールドを張るがフィアマが揺れることもあるからしっかり捕まってろ」
「うん……うわ……っ」
アンドレアに答えると同時に強い風が吹きつけてきた。強い風と前が見えなくなるような雪。アンドレアがフィアマごとぐるっと取り囲むようにシールドを張ったからサランの上には雪がかからないが、そうでなかったらサランは雪ですっかり凍えてしまっていただろう。
この地域にやってきて、サランは初めて自分が極寒の土地の自然の恐ろしさを正しく理解できていなかったことに気が付き始めた。
「ユノ……ユノ……っ……」
洞窟が近づいてくるのに比例してサランの不安はさらに募り始める。
「大丈夫だ。サラン、キリヤ様は先にユノのもとに向かっているし、氷の洞窟はキリヤ様の竜のグレイスの生まれ故郷だ。キリヤ様とグレイスは誰より氷の洞窟について詳しい。心配するな」
「……うん、わかった」
安心させるように話すアンドレアの落ち着いた声は、頼りがいがあった。
思えばユノの行方がわからなくなるという非常事態に取り乱してしまったサランが、ユノを助け出すために冷静に動けたのはアンドレアがいてくれたお陰だ。
学生という身分でありながらも騎士団で公務をしているからこそ、非常事態のときでも冷静に判断できるのだろう。
ユノが心配で胸がちぎれそうではあったが、アンドレアが張ってくれたシールドに守られながら彼の竜で危険地域である氷の洞窟に向かった。
「この辺りだな。フィアマ、下に降りてくれ」
ひと際雪が激しく降るあたりで、アンドレアが言うとフィアマはゆっくりと下降した。
「わ……」
初めて見た氷の洞窟は竜の住処というだけあって、竜がそのまま飛行しながら出入りできるような壮大な大きさだった。入口には巨大な氷の塊がごろごろと落ちていて、洞窟の中はその名のとおり氷でできていた。
洞窟は壮大でぞっとするほど美しい。そして洞窟の奥の暗闇は訪れるものを深淵に引き込もうとしているようで恐ろしく、サランは身震いをして、アンドレアのコートを思わずぎゅっと掴んだ。
ゴオォォォ
「な……何の音……?」
「キリヤ様の竜の声や飛ぶ音だと思う。洞窟の中は音が響くからそれで大きな音に聞こえるだけだから大丈夫だ」
奥からは轟音が聞こえて、サランが思わず呟くように言うと、アンドレアがコートを掴んだサランの手を上から包み込むように握って返して答えた。サランはその手の大きさと温かさを心強く感じた。
「そ……そっか。そうだよね。洞窟って音が響くもんね」
それから間もなくして大きな竜が洞窟の中から現れた。轟くような音はアンドレアが言うとおりこの竜が洞窟の中で羽ばたく音だったのだ。
フィアマがゆっくりと地上に降り立つと、キリヤの竜もフィアマの傍に降り立った。
もう一方の竜にはキリヤが乗っていて、その腕の中にはユノの姿が見えた。
真っ青な顔色で血の気がない。意識もなくキリヤの腕の中でぐったりしている様子が見えて、サランは一気に全身の血が引いていくような感覚に陥った。
「ユノっ」
ぐったりしたユノを見て、落ち着きを取り戻していたはずのサランは一瞬でひどく取り乱した。何も考えられずとにかくユノの傍に行かなくてはと思いフィアマから飛び降りようとした。
「待て! サランっ」
アンドレアが背中からそんなサランを抱きしめて飛び降りるのを止めた。
「あ…………」
彼のシトラスの香りが取り乱したサランの心を繋ぎとめた。そして、サランの耳元で彼は丁寧に言い聞かせるように話した。
「凍傷なら、体温の高い炎の竜の上で手当てをしたほうがいい。この谷でも表面体温は四十度を超えているから、かなり温かい」
サランは落ち着いたアンドレアの声に、とても安堵した。
それからアンドレアはうんと優しい声でサランにだけ聞こえるように囁いた。
「サラン、ここからはサランにしかできないことだ。でもサランならきっと大丈夫だから。落ち着いてユノのために全力を尽くしてくれ」
そう言って大きな掌がサランの頭を撫でた。温かかくて、力強かった。
徐々に雪や風が強くなり、宿舎のある駅前や王族や貴族の邸宅が並ぶ街のエリアとは様相が変わる。自然の影響が色濃く出てきたのだ。
「サラン、洞窟周辺は山から吹き下りてくる風が強い。ここからシールドを張るがフィアマが揺れることもあるからしっかり捕まってろ」
「うん……うわ……っ」
アンドレアに答えると同時に強い風が吹きつけてきた。強い風と前が見えなくなるような雪。アンドレアがフィアマごとぐるっと取り囲むようにシールドを張ったからサランの上には雪がかからないが、そうでなかったらサランは雪ですっかり凍えてしまっていただろう。
この地域にやってきて、サランは初めて自分が極寒の土地の自然の恐ろしさを正しく理解できていなかったことに気が付き始めた。
「ユノ……ユノ……っ……」
洞窟が近づいてくるのに比例してサランの不安はさらに募り始める。
「大丈夫だ。サラン、キリヤ様は先にユノのもとに向かっているし、氷の洞窟はキリヤ様の竜のグレイスの生まれ故郷だ。キリヤ様とグレイスは誰より氷の洞窟について詳しい。心配するな」
「……うん、わかった」
安心させるように話すアンドレアの落ち着いた声は、頼りがいがあった。
思えばユノの行方がわからなくなるという非常事態に取り乱してしまったサランが、ユノを助け出すために冷静に動けたのはアンドレアがいてくれたお陰だ。
学生という身分でありながらも騎士団で公務をしているからこそ、非常事態のときでも冷静に判断できるのだろう。
ユノが心配で胸がちぎれそうではあったが、アンドレアが張ってくれたシールドに守られながら彼の竜で危険地域である氷の洞窟に向かった。
「この辺りだな。フィアマ、下に降りてくれ」
ひと際雪が激しく降るあたりで、アンドレアが言うとフィアマはゆっくりと下降した。
「わ……」
初めて見た氷の洞窟は竜の住処というだけあって、竜がそのまま飛行しながら出入りできるような壮大な大きさだった。入口には巨大な氷の塊がごろごろと落ちていて、洞窟の中はその名のとおり氷でできていた。
洞窟は壮大でぞっとするほど美しい。そして洞窟の奥の暗闇は訪れるものを深淵に引き込もうとしているようで恐ろしく、サランは身震いをして、アンドレアのコートを思わずぎゅっと掴んだ。
ゴオォォォ
「な……何の音……?」
「キリヤ様の竜の声や飛ぶ音だと思う。洞窟の中は音が響くからそれで大きな音に聞こえるだけだから大丈夫だ」
奥からは轟音が聞こえて、サランが思わず呟くように言うと、アンドレアがコートを掴んだサランの手を上から包み込むように握って返して答えた。サランはその手の大きさと温かさを心強く感じた。
「そ……そっか。そうだよね。洞窟って音が響くもんね」
それから間もなくして大きな竜が洞窟の中から現れた。轟くような音はアンドレアが言うとおりこの竜が洞窟の中で羽ばたく音だったのだ。
フィアマがゆっくりと地上に降り立つと、キリヤの竜もフィアマの傍に降り立った。
もう一方の竜にはキリヤが乗っていて、その腕の中にはユノの姿が見えた。
真っ青な顔色で血の気がない。意識もなくキリヤの腕の中でぐったりしている様子が見えて、サランは一気に全身の血が引いていくような感覚に陥った。
「ユノっ」
ぐったりしたユノを見て、落ち着きを取り戻していたはずのサランは一瞬でひどく取り乱した。何も考えられずとにかくユノの傍に行かなくてはと思いフィアマから飛び降りようとした。
「待て! サランっ」
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「あ…………」
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「凍傷なら、体温の高い炎の竜の上で手当てをしたほうがいい。この谷でも表面体温は四十度を超えているから、かなり温かい」
サランは落ち着いたアンドレアの声に、とても安堵した。
それからアンドレアはうんと優しい声でサランにだけ聞こえるように囁いた。
「サラン、ここからはサランにしかできないことだ。でもサランならきっと大丈夫だから。落ち着いてユノのために全力を尽くしてくれ」
そう言って大きな掌がサランの頭を撫でた。温かかくて、力強かった。
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