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「ん、ぅ……」
俺のボロアパートに着いて、部屋の扉を閉めるなり、彼にぎゅっと抱きしめられて、唇を奪われた。
ライブが盛り上がったから興奮しているんだろうか。
それとも、今夜も泊まりたいのかな?給料入ったとはいえ、ネカフェに泊まるのも、当時の俺たちからしたらまぁまぁ高い支出だった。
びっくりしてしまったのが、顔に出てしまっていたのかもしれない。
「ごめん」
彼はちいさく言うと、俺の手を引いて、ちいさなちいさなバスルームに入った。そこにリュックは置いてないよ?と言う間もなく押し込まれて、服を脱がされた。
興奮したみたいに少しだけ手荒く洗われて、バスルームの壁に手を突いて立ったまた繋がった。信じられないくらい気持ちよくて、脚がガクガク震えて、たらたらとみっともなくペニスから体液を溢しながら抱かれた。
やっぱりまた大きな声を出してしまうと、「これ、咥えて」とタオルを口元に当てられた。ごめん。聞き苦しかったよね。
一度バスルームで中に出されたあと、狭いシングルベッドでもう一回。声を出しちゃだめだと思うほどに出てしまって、ベッドの上では彼の大きな手で、また口を塞がれた。
男の喘ぎ声なんて、本当にみっともないよね。ほんとごめん。
そう思うのに、体の奥でめちゃめちゃに動く彼が、気持ち良さそうな吐息を何度も漏らすと、俺で気持ちよくなってるのかなと思えてたまらなかった。
最後にくるっとひっくり返されて向かい合って正常位で貫かれたときは、手ではなく、口で口を塞がれたものだから、俺はばかみたいに必死に彼の舌を吸いながら達した。
*****
ふと物音に目を覚ますと、ベッドの上に寝ていたのは俺だけで、彼は食事用と勉強用を兼ねた小さなテーブルの前に座っていた。
眠い目を擦ると、少し視界がクリアになって、テーブルの上にはパソコンと持ち運べる電子ピアノみたいな電子機器が並んでいることに気がついた。
部屋の灯りは落とされて、灯りはパソコンのモニターの光だけ。ヘッドフォンを着けた彼は長い指で鍵盤に触れたりパソコンに触れたり忙しそうだった。
あのライブで歌われた綺麗な曲は、彼が生み出したものだったのだと、俺はそのときになって初めて気がついた。
俺が起きて彼を見ていたと気が付かれてしまったら、彼が消えちゃうんじゃないか、そんな気がして、息を潜めて俺は彼を見ていた。
どれくらいそうして彼の背を見ていたんだろうか。
不意に彼がうんとちいさい声で、歌った。
なんて、きれいな歌なんだろう。
あんまりきれいだったものだから、じわっと滲んだ涙が溢れて頬を伝った。
自分でも涙が溢れたことに驚いて、慌てて拭った。
ヘッドフォンをしていた彼には物音は聞こえていなかったと思うけれど、気配を感じたのか、ヘッドフォンをそっと外した彼が振り返った。
「もしかして、起こしちゃいました?」
申し訳無さそうに彼が言った。
「ううん。ただ目が覚めただけ。それより、昨日歌った曲も全部作ったの?」
俺は静かに聞いてみた。
「作曲だけです。作詞は得意じゃないんで」
潜められてちいさな声。
「そうなんだ。本当にきれいなメロディだった……あんなの作れるなんて、すごいね」
俺が感嘆していうと、彼は照れくさそうに笑った。
「ほんと?」
「うん。デビューとか、出来ちゃいそう。そういう話はあったりしないの?」
「多分、ボイストレーニングや歌の練習もっとして、曲ももっと沢山作らないと難しいんですよね」
もっと音楽に打ち込みたいけど、それだけじゃごはん食べられないからと残念そうに彼は言った。
「あの……っじゃあ、狭いけど……ここに住む?」
思わず俺は言ってしまった。
俺の提案に彼は目を見開いた。
「あ……っいや……その……そうしたらバイト減らして音楽もっと出来るかなと思って……っ」
僅かに空いた間に焦った俺は、さらに言い募った。
「……アオイさん、いいの?」
彼が俺の瞳の奥まで暴いてしまうような瞳で聞いた。
「うん……っ今よりもっと音楽に時間掛けられたら、きっと成功するんじゃないかなと思うし……っ」
俺が言うと、彼はベッドに座っていた俺をぎゅっと抱きしめた。
「じゃあ、一緒に住むってことは、付き合うってことでいい?」
「え?」
思わず驚いた声を上げると、違った?って綺麗な形の眉を寄せて彼は俺の顔を覗き込んだ。
「あ……っいや……っえっと……」
ちがく、ない……デス……
意志の弱い俺。
律儀な彼はただでここに住むのは申し訳ないと思って言ってくれてるんだから、無理に付き合わなくてもいいよって断らないといけなかったのに。
だって今までの恋人達だって、誰も俺には本気にならなかった。
それなのに、こんなに美しく才能に溢れる彼が、凡庸な俺のことを好きになる理由が見当たらない。
だけど、美しい彼の恋人になる魅力に抗えず、俺がその申し出を受けると、彼はほっとしたように笑った。
別に恋人にならなくても、ここに住んで構わなかったのにって思いながら、優しく抱きしめられてベッドに転がる幸せを、自分からは離せなかった。
いつか俺が役に立たなくなったら、そのときは静かに身を引くから、そう思いながらも、その仮初の幸せに抗えなかった。
彼の夢に役立てるかもしれないことが、抱きしめてもらえることが、嬉しかった。
俺のボロアパートに着いて、部屋の扉を閉めるなり、彼にぎゅっと抱きしめられて、唇を奪われた。
ライブが盛り上がったから興奮しているんだろうか。
それとも、今夜も泊まりたいのかな?給料入ったとはいえ、ネカフェに泊まるのも、当時の俺たちからしたらまぁまぁ高い支出だった。
びっくりしてしまったのが、顔に出てしまっていたのかもしれない。
「ごめん」
彼はちいさく言うと、俺の手を引いて、ちいさなちいさなバスルームに入った。そこにリュックは置いてないよ?と言う間もなく押し込まれて、服を脱がされた。
興奮したみたいに少しだけ手荒く洗われて、バスルームの壁に手を突いて立ったまた繋がった。信じられないくらい気持ちよくて、脚がガクガク震えて、たらたらとみっともなくペニスから体液を溢しながら抱かれた。
やっぱりまた大きな声を出してしまうと、「これ、咥えて」とタオルを口元に当てられた。ごめん。聞き苦しかったよね。
一度バスルームで中に出されたあと、狭いシングルベッドでもう一回。声を出しちゃだめだと思うほどに出てしまって、ベッドの上では彼の大きな手で、また口を塞がれた。
男の喘ぎ声なんて、本当にみっともないよね。ほんとごめん。
そう思うのに、体の奥でめちゃめちゃに動く彼が、気持ち良さそうな吐息を何度も漏らすと、俺で気持ちよくなってるのかなと思えてたまらなかった。
最後にくるっとひっくり返されて向かい合って正常位で貫かれたときは、手ではなく、口で口を塞がれたものだから、俺はばかみたいに必死に彼の舌を吸いながら達した。
*****
ふと物音に目を覚ますと、ベッドの上に寝ていたのは俺だけで、彼は食事用と勉強用を兼ねた小さなテーブルの前に座っていた。
眠い目を擦ると、少し視界がクリアになって、テーブルの上にはパソコンと持ち運べる電子ピアノみたいな電子機器が並んでいることに気がついた。
部屋の灯りは落とされて、灯りはパソコンのモニターの光だけ。ヘッドフォンを着けた彼は長い指で鍵盤に触れたりパソコンに触れたり忙しそうだった。
あのライブで歌われた綺麗な曲は、彼が生み出したものだったのだと、俺はそのときになって初めて気がついた。
俺が起きて彼を見ていたと気が付かれてしまったら、彼が消えちゃうんじゃないか、そんな気がして、息を潜めて俺は彼を見ていた。
どれくらいそうして彼の背を見ていたんだろうか。
不意に彼がうんとちいさい声で、歌った。
なんて、きれいな歌なんだろう。
あんまりきれいだったものだから、じわっと滲んだ涙が溢れて頬を伝った。
自分でも涙が溢れたことに驚いて、慌てて拭った。
ヘッドフォンをしていた彼には物音は聞こえていなかったと思うけれど、気配を感じたのか、ヘッドフォンをそっと外した彼が振り返った。
「もしかして、起こしちゃいました?」
申し訳無さそうに彼が言った。
「ううん。ただ目が覚めただけ。それより、昨日歌った曲も全部作ったの?」
俺は静かに聞いてみた。
「作曲だけです。作詞は得意じゃないんで」
潜められてちいさな声。
「そうなんだ。本当にきれいなメロディだった……あんなの作れるなんて、すごいね」
俺が感嘆していうと、彼は照れくさそうに笑った。
「ほんと?」
「うん。デビューとか、出来ちゃいそう。そういう話はあったりしないの?」
「多分、ボイストレーニングや歌の練習もっとして、曲ももっと沢山作らないと難しいんですよね」
もっと音楽に打ち込みたいけど、それだけじゃごはん食べられないからと残念そうに彼は言った。
「あの……っじゃあ、狭いけど……ここに住む?」
思わず俺は言ってしまった。
俺の提案に彼は目を見開いた。
「あ……っいや……その……そうしたらバイト減らして音楽もっと出来るかなと思って……っ」
僅かに空いた間に焦った俺は、さらに言い募った。
「……アオイさん、いいの?」
彼が俺の瞳の奥まで暴いてしまうような瞳で聞いた。
「うん……っ今よりもっと音楽に時間掛けられたら、きっと成功するんじゃないかなと思うし……っ」
俺が言うと、彼はベッドに座っていた俺をぎゅっと抱きしめた。
「じゃあ、一緒に住むってことは、付き合うってことでいい?」
「え?」
思わず驚いた声を上げると、違った?って綺麗な形の眉を寄せて彼は俺の顔を覗き込んだ。
「あ……っいや……っえっと……」
ちがく、ない……デス……
意志の弱い俺。
律儀な彼はただでここに住むのは申し訳ないと思って言ってくれてるんだから、無理に付き合わなくてもいいよって断らないといけなかったのに。
だって今までの恋人達だって、誰も俺には本気にならなかった。
それなのに、こんなに美しく才能に溢れる彼が、凡庸な俺のことを好きになる理由が見当たらない。
だけど、美しい彼の恋人になる魅力に抗えず、俺がその申し出を受けると、彼はほっとしたように笑った。
別に恋人にならなくても、ここに住んで構わなかったのにって思いながら、優しく抱きしめられてベッドに転がる幸せを、自分からは離せなかった。
いつか俺が役に立たなくなったら、そのときは静かに身を引くから、そう思いながらも、その仮初の幸せに抗えなかった。
彼の夢に役立てるかもしれないことが、抱きしめてもらえることが、嬉しかった。
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