とろけてまざる

ゆなな

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おまけのSS

ユキの巣作り

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 はっきりとおかしいと思ったのは病院のロッカーから白衣が消えていたときだった。いっそ恐ろしいほどに記憶力の良い永瀬は自分の持ちものを無くしただとか忘れただとかいった経験が殆ど無かった。いや、殆どどころではない。全く、だ。
 そう言えば、と思い当たることがあり永瀬は自分の持ち物をチェックすると愛用している万年筆も見当たらなかった。
 永瀬は冷たく整った美貌に柔らかな笑みを浮かべながら病院の地下駐車場に向かった。永瀬でなければ気付かないほど上手く隠してはいたが、もうすぐ発情期に入るせいで、少しばかり躯が怠そうであったユキは今日は早めに仕事を切り上げ、既に二人で住む家に帰宅していた。
 病院の駐車場から愛車を出すと少しでも早く帰宅したくてアクセルを常より強く踏んでいる自分に気付き永瀬は思わず苦笑した。

 そうなのだ、柄にも合わず自分は浮かれている。それというのもここのところ、二人の関係はとても上手くいっていたからだ。まだ言葉で愛は交わしてはいなかったが、ユキは随分と永瀬に心を開いてきたように見えた。昨夜の夕食後などはソファでテレビを見て寛いでいる永瀬の横に座ったユキが自分からそっと肩に寄りかかってきた愛らしい仕種などどうしようもないほど可愛らしくて思わず口付けた。
 最初の頃は永瀬のキスを受け止めるだけで精一杯だったユキなのに、昨日は触れるだけのキスにユキからそっと永瀬の唇に舌を差し込んできた。柔らかでちいさな舌に永瀬は彼より十も歳上にも関わらず、理性を無くしそのまま抱いてしまった。セックスの間中もずっと口付けを欲しがるユキは本当に愛らしかった、と漸く手に入れた可愛い人のことで永瀬の優秀な頭脳はいっぱいになっていた。

 家に辿り着くと、電気は全て消され、室内はしん、と静まり返っていたが柔らかく甘いユキの香りが漂っていた。まだ発情期ではないため、強く香っているわけではなかったが、永瀬の心の奥の柔らかいところをぎゅっと締め付けるような甘い香り。
 永瀬の寝室から香るそれに導かれるままに向かいたかったが、ルームウェアに着替えてから向かおうとクローゼットに先に向かった。
「え?」
 永瀬は恐らく彼の人生で初めてこんな驚いた声を出した。予想はしていたものの、クローゼットの中にある殆どの衣類が消失していたからだ。
「これは、想像以上だな」
 くつくつと永瀬は喉の奥で笑った。仕方ないな、と着替えずそのまま寝室に向かうとベッドの上にはいっそ見事と言っていいほどのたくさんの永瀬の衣類。それとベッド脇のチェストの上にはユキらしく丁寧に並べられた永瀬の愛用品。そう、もうすぐ発情期を迎えるユキは永瀬の香りのするものを沢山集めて巣作りをしていたのだ。まだ色々なことに怯えているユキが番になることを良しとしないので、番になっていない二人だが、永瀬のものを集めて巣作りしてしまったのは、もうユキの本能は永瀬と番になりたくて仕方がないということなのだろう。

「ユキ、ただいま」
 永瀬が声を掛けると
「せん、せぇ?」
 舌っ足らずなユキの返事。瞳はとろん、と蕩けていた。
「随分たくさん集めたな……」
と、目を細めて柔らかな栗色の髪を撫でて褒めてやると、蕩けた瞳が嬉しそうに瞬いた。あまりに色っぽくて綺麗な瞳に永瀬はまるで初めて恋をした少年のような心持ちになった。永瀬の白衣を抱き締めて永瀬のルームウェアをぶかぶかと余らせて身に付け、ぽやんとしているユキはとても愛らしくて小児科病棟で懸命に働く姿からは想像できないような姿で、こんなユキの姿を見たことあるのは永瀬だけに違いない。
「俺も中に入れてくれるか?」
 永瀬が問うとこくり、と頷いて
「うれしい……」
と頬を紅潮させたのが愛らしくてもっと喜ばせたくなる。
ベッドの中に運び込まれ沢山の衣類達の真ん中に僅かに作られたスペースで白衣を抱き締めるユキを永瀬も狭いスペースに入り込み抱き締める。そして、その愛らしい耳元に
「すごく上手に巣作りしたな」
と囁くと泣き出しそうなほどにユキの瞳は潤んだ。
「ほんと?気に入ってくれたの?」
どこか幼さを感じる声に
「あぁ、とても気に入ったよ」
と言ってやると嬉しそうにぎゅっと抱き付いてきた。
 譫言のように嬉しい、と呟いたユキの唇に永瀬は口付けた。すると永瀬のシャツのボタンをユキの細い指先が外す。子供たちに痛い思いをなるべくさせないように器用に処置を施すユキの指先が自分のシャツのボタンを外していると思うと永瀬は堪らない気持ちになる。それにしても自ら永瀬を脱がすなど随分と積極的だな、と永瀬が嬉しく思ったとき。全てボタンを外して永瀬からシャツを抜き取ったユキはそれはそれは蕩けそうな笑顔でシャツをぎゅっとその胸に抱き締めて
「先生の、匂いがする……」
とうっとりと呟いた。永瀬のシャツを脱がせたユキの目的が自分の思っていたものと随分違うことに気付いて永瀬は一瞬ぽかん、とした表情を浮かべた。それから思わず笑ってしまった。全く、この存在は永瀬が今までの人生でしたことがない表情をさせるのが何て得意なのだろうか。
 一頻り笑うと永瀬の脱いだばかりのシャツに顔を埋めるユキの頤を軽く指で掬って上を向かせた。
「こら。シャツの方が俺よりもいいのか?」
と、言うと、とろりとした瞳が軽く見開かれて、いやいやと首を振る。
 そして、なめらかな腕を永瀬の首に巻き付けてぎゅっとしがみついて
「先生、の方がいいっ行かないで……」
と哀願される。いつもより大分素直なユキの唇に 永瀬はそっと口付けて、そして唇を触れ合わせたまま呟いた。
「じゃあ俺の方がいいってちゃんと教えてくれるか……?」
 ぶかぶかのルームウェアの中に永瀬の掌を差し込んで、そのなめらかな感触に永瀬は目を細めた。
ユキが身に付けている永瀬のスウェットはぶかぶかで、そのため簡単に手の侵入を許してしまう。なめらかな平らな胸にも容易に触れてしまうことが出来た。蜂蜜入りのミルクのような肌にある愛らしい桜色のちいさな胸の先。そっと指で触れると、敏感な躯はびくびくと震えた。
「んぁ………っ」
 親指と人差し指で摘まむと、先程の口付けで少し緩んでいた唇からは砂糖菓子のような甘い吐息混じりの声。ぶかぶかのスウェット捲ると小さくて可愛らしいそれは永瀬の目を楽しませてもくれる。子供を宿したら、この薄い胸はうっすらと膨らみ、子供が吸いやすいように胸の先もぷっくりと膨らむらしい。そして、永瀬の子供のためにとろりと甘いミルクを出すようになるのだ。考えるだけで頭の奥が痺れるほどの慾望でおかしくなりそうだ。まだ穢れを知らぬかのような風情のそこを早く紅く実らせたい……
 そう思って淡い桜色の乳暈を指で揉みしだきながら、濡れて紅い果実のような唇にそっとキスを落とす。唇を離すと……
「あっ………せんせ……もっと……」
「え………?」
ユキから溢れたとは思えない台詞に永瀬が思わず聞き返してユキの瞳を覗き込むと、焦点がゆらゆら揺れているユキの瞳があった。
「もっと……いっぱい……」
ちゅう、してほしい……
「……っ」
 うっすらと開いた唇からは濡れた舌が覗いていて永瀬は息を飲んだ。
 破壊的な威力を持つ台詞に沸騰した脳内のままに、甘い果実に唇で触れ、柔らかな舌に絡めると、ユキは唇の隙間から甘えた子猫が喉をならすように声を漏らして、永瀬の唾液を嚥下した。ユキの腕が永瀬の首すじに絡んで、甘えるように身を寄せてくる。
 こちらもやはりゆるゆるのスウェットのボトムスのウエストから手を差し入れると……
「?!」
 驚きで永瀬は思わず唇を離してしまうと、
「……せんせぇ……」
 それが不満なのか、いやいやと首を振って鼻先を擦り付けてくるユキ。
「ちょ……ちょっと待ってくれ、ユキ。まさか……」
 ずるり、とゆるゆるのボトムスを下ろすと……あるはずの下着はなく、しっとりと濡れている薄くて柔らかな下生えが露になった……
 ユキはしまった!というように永瀬から顔を逸らせた。
 濡れた愛らしい屹立に指を絡めてやると、名残でくちゅくちゅと、ぬめった。
「……どういうことかな?ユキ?」
 理性が蕩けかけている今でさえも恥ずかしいようで、ユキの耳朶は真っ赤に染まっていた。
「……だって……だって……」
 絡めた指の動きを止めると、ゆるゆると腰が揺れて『止めないで欲しい』と瞳が誘う。
「言わなきゃ、このままだ」
 永瀬が意地悪に言うと、少し躊躇ったのち……傍らの枕に顔を埋めながら……
「せんせ、の白衣……ぎゅってしたら……っ……熱くなってきちゃって……」
 永瀬はごくり、と生唾を飲み込む。
「……それで……っそれで……」
 それ以上は言えなくなったユキの耳元に低く掠れた声が流し込まれる。
「一人でしちゃったのか……?」
 びくん、っと躯が揺れる。
「……あ……だって……だって……仕事中の先生、格好いいから……っ思い出しちゃって……っ……ごめんなさい……っ」
 声に涙が混じりだす。
 ユキの涙を拭ってやって……
「あぁ、謝らなくていい。嬉しいよ、俺のことを考えてしてくれたんだろう?」
「ほんと?嬉しい、の?」
 優しく頭を撫でてやる。
「嬉しいよ……俺のこと考えてしたんだろう?」
 そして……
「どうやって、一人でしたの?」
見せてごらん……
 それは、ひどく誘惑する悪魔のような囁きで。
「や……恥ずかしい、です」
 ゆるゆると頭を振って抵抗するけれども
「じゃあ、此所はこのままだぞ?……ほら、見せてごらん?」
 触って欲しいのに、永瀬はひどく意地悪で。
 ユキの細い指先は、永瀬の囁きに導かれるように、ユキの愛らしい屹立に絡んだ。
「あっ……あっ……」
 永瀬が見ていると思うと、さっきよりずっと熱くなって……指先が止まらない。
 一人でしたときと同じように、永瀬の白衣に顔を埋める。永瀬の香りでユキの胸はいっぱいになる
「せんせ……ぇ………んんっ……」
 普段はクールな永瀬の瞳が熱っぽくユキを見つめていて……
「ひゃっ……」
ぬるりとぬかるむ後孔に永瀬の指先が触れた。
「此所は?」
「……っ……え?」
「此所は弄らなかった?」
永瀬の人差し指のほんの先だけが、潜ってくる。切なくて、もっと奥まで満たして欲しくて頭がおかしくなりそうだけど、そんなこと言えるはずもなく。
 逡巡したのち、頭を横に振って永瀬の言葉を否定すると、浅いところでぐちゅぐちゅと抜き差しされて──
「大分、柔らかくなってるけど?本当に弄ってない?」
 永瀬が問うと、ユキの顔は真っ赤に染まり、大粒の涙が零れた。
「……ちょっと、だけです……も、許して……」
「あんまり可愛いと苛めたくなっていけないな」
 永瀬は低く嗤う。
 それから
「此所に指を入れて自分を慰めているユキも見たいが……」
 あんまり可愛く誘惑するから、限界だよ……
 指が抜かれて、代わりに熱いものが押し当てられ……
「あっ……せんせ…っんんっ」
大きな声が出そうになるのを、白衣を食んで抑えると……
「そんなに、白衣にばかりキスしていると、妬いてしまうな……」
 永瀬はユキの指先に絡む白衣を取り上げてしまう。
 そして、一番奥まで貫いて、甘い果実のような唇に噛みつくように口付けた。
 永瀬のものに、囲まれて。上の口も下の口も永瀬に塞がれて……
 ユキは永瀬の香りに包まれる暖かな巣の中で抱かれて、何もかも永瀬のものになってしまいたくて、切ない涙を溢しながら必死に狂おしいほどの甘さに溺れた……
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