とろけてまざる

ゆなな

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おまけのSS

永瀬和真の意外な一面~病院編~

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 ざわり

 帝都大学付属病院の産婦人科は他の科と比べいつも賑やかではあったが、外来が終りかけ、静けさを取り戻しつつあった時間帯には相応しくないざわめきが起こった。
 その男は白衣に身を包み、コツコツと革靴を鳴らして産婦人科にやってきた。巨大な組織である帝都大学付属病院に於てさえも知らぬものは居ないほどの有名人。『神の手』とも評されるほどの腕を持つ天才外科医は、この病院の最年少の役員でもあった。彼の持つ社会的スペックについても目を瞠るものであったが、院内の看護師の間ではどちらかというと類い稀なる男の容姿が話題に登ることが多かった。
 この日もパリコレのモデルも斯くもや、と言わんばかりのすらりとした長身の体躯に羽織った白衣とシルバーフレームの眼鏡が麗しい男は、回りのざわめきをものともせずに産婦人科の中を進んで行った。
 だが、男の貌は何処か憂いを帯びていた。
 まだ僅かに残っていた診察を待つ患者の視線を完全にその身に全て集めた男は、看護師を一人捕まえると問うた。
「黒崎先生と話出来るかな?」
「は……はいっっ」
 声をかけられた看護師の声は完全に上擦っていた。
この時点で看護師一同は彼が此処にやってきた理由を察することが出来た。
 黒崎は実績と信頼が篤く、永瀬直々に指名を受け永瀬の番の担当医をしている医師だ。可愛らしい彼の番は現在絶賛妊娠中で、その身に何かあったのではと険しい永瀬の表情に、看護師達は一様に不安になる。
 看護師はいそいそと永瀬を黒崎の診察室に通す。

「ユキ先生に何かあったのかしら?」
 年齢不詳のαの女医である黒崎が悠然と診察室の椅子に腰かけていた。とても美しい女性だが正確な年齢は誰も知らない。噂によるとその見た目からは信じられないが50代らしい。
「心音ドップラーを一台買い取りたいのだが」
「は?」
 唐突に切り出した永瀬の言葉に、黒崎が美しくルージュの塗られた唇をぽかん、と開けて呟いた。
「だから、心音ドップラーを一台買い取りたい」
(やっぱり聞き間違えじゃなかった!!)
その場にいた誰もが思った。
黒崎は開けていた唇を漸く閉じ、こほんと咳ばらいすると
「健診のときにちゃんと心音の確認してますよ」
と説明した。
「それは分かっているが、今は月に一度の健診だろう?不安になったときいつでも家で確認できるようにしたいんだ」
「市販の買えば?」
 以前から永瀬と付き合いのあるらしい黒崎は、呆れて返した。
「市販のよりも医療用の方が聞きやすい。お腹の子はオメガの可能性もあるからな。オメガは体が弱い子も多いからマメに心音を確認したいんだ」
黒崎は永瀬の話を聞いて苦笑すると
「この前新型に買い換えたから旧型なら買い取らずとも貸してあげられるわ。持っていったら?」
「ありがとう、助かった」
 そう言って満面の笑みを浮かべた永瀬は今度はちらりと黒崎の診察室の奥にある大きな機械に視線を飛ばした。
「超音波診断装置はだめよ。ユキ先生は常識人だからそんなものまで持ち帰ったら叱られるわよ?」
 ユキの性格も熟知している黒崎に釘を刺されて、永瀬は超音波診断装置を持ち帰るのは諦めた。

 耳をそばだてていた看護師達は暫く開いた口が塞がらなかった。しかしそんなことはものともせず、悩みが解消され颯爽と自らの医局に戻って行く姿はとても美しかったという。
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