はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

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1章 卓球部再結成

004話 四人目と、幼馴染と ②

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「ねえ、絵東さんとの約束は経験者じゃないとダメなのかな?」
「えっと、ユキさんは、本人の意思を尊重するから。やる気のある人なら未経験でもいいと思う」
「じゃ今までみたいに経験者の人に声かけるんじゃなくて、未経験者で卓球に興味ありそうな人を探してみない? 卓球経験者である程度やる気の人はそもそもヤマコー選んでないと思うんだ」

 私の言葉に稔里ちゃんがきょとんとした顔をする。もしかしたら気付いてないのかなと思ったので説明を付け加える。

「私もだけど、卓球やるつもりなら高校の部活動実績とか調べるし、そしたらうちに女子卓球部無いことはわかるから」
「なるほど……柚乃さん?」
「ん、何?」
「柚乃さんも、うちに卓球部ないこと調べてた、の……?」

 稔里ちゃんの顔が曇りかけているので、真っすぐ稔里ちゃんを見る。あらためて見たら美人の圧なんて関係ない。クールそうに見えるけど不安な気持ちだってあるんだ。出会って数日だけど稔里ちゃんは大事な友達だ。

「うん。最初は卓球続けようと思ってなかったから。でもこの前絵東さんに言ったことは本当だよ。今はみのりちゃんと一緒に卓球やりたい」
「うん」

 稔里ちゃんに笑顔が戻ったので安心して話を続ける。


「私ね、幼馴染がいるんだ。小学校に上がったときからずっといっしょ。その子と同じ高校に行きたくて、地元のヤマコーを選んだの。まあ向こうはヤマコーぎりぎりだったから勉強すごい頑張っていたみたいだけど」
「私もすごい勉強した。柚乃さんは頭いいのね」
「あはは、どちらかというと運動キャラよりも勉強キャラだったからなぁ」

 インドア派だった私が今も体育会系の卓球を続けているのは自分でも奇跡的なことだと思っている。
 それこそスポーツ万能な幼馴染がずっといたから……。

 そんな話をしているととりあえず教室の前に戻ってきたので一年三組に入る。教室には中学時代からの友人である宮ちゃんこと宮本晶ちゃんが一人帰り支度をしていた。

「あ、宮ちゃん。宮ちゃんは部活決めたんだっけ?」
「ん-、アタシは漫研。ゆるそうな感じだった割には絵描くアプリとかしっかり揃ってるっぽかったし」
「そっかー。宮ちゃんイラスト上手だもんね」
「お二人さんは卓球部の勧誘かい?」
「うん。中々見つからなくてね」

 なんとなく会話の流れからダメ元で聞いてみる。

「宮ちゃん卓球部どう?」
「どうってアタシ初心者だよ」
「宮ちゃん運動神経良いし初心者でもやる気があれば大歓迎だよ」
「いやアタシもう漫研に入部届出したし」
「あはは、まぁそうだよね」

 ダメ元の勧誘だったのであっさりと引き下がる。その時、宮ちゃんが全然予想していなかった話を振ってくる。


「初心者でも歓迎ならくどみか誘えば? 運動神経の権化じゃん」
「くどみか?」

 知らない固有名詞に稔里ちゃんがオウム返しで聞き返す。

「あ、さっき話したわたしの幼馴染だよ」
「柚乃さんがヤマコーに入った理由の」
「あはは……」

 なんかそう言われると特別な間柄みたいで照れてしまうけど、私と美夏はずっと一緒、それ以上でもそれ以下でもない。

「幼馴染さんは卓球やらないの?」

 その一言は全くの想定外だった。
 そういえばさっき宮ちゃんにも同じことを聞かれた。そう思い出すまでにどれくらいの時間をかけて自分の脳が動いたのかわからない。それくらい自分にとって突拍子もない話だった。

 美夏が卓球をする?
 だって美夏は私と違って子供の頃からスポーツが何でもできて、常に目立つ存在で。

「鈴原、くどみかのこと、ちゃんと卓球に誘ったこと無いんじゃない?」

 宮ちゃんの言葉に、はっとする。
 私が卓球を始めた時。それ以降の節目の時。
 美夏を卓球に誘ったことはあったか自問する。

「一度しっかりと鈴原の口から誘ってみ? そいじゃアタシは部活行くわ」
「うん、いってらー」

 宮ちゃんを見送った後、私は考え込む。

「柚乃さん?」

 美夏を今まで卓球に誘っていなかったこと。
 そのことに何か深い理由があるような気もするし、単にタイミングが合わなかっただけな気もするけど。

 今は隣にいる友達のために動こう。
 それが私が高校に入って初めて自分の意思で起こしている行動だ。


「みのりちゃん。ミカを、幼馴染を卓球に誘ってみてもいい?」
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