12 / 106
1章 卓球部再結成
006話 部活顧問と、再始動と ①
しおりを挟む
SIDE:YUNO
幼馴染の美夏を卓球部に勧誘した私たちは、その足でそのまま絵東先輩の教室へ向かった。
もちろん稔里ちゃんからのメッセで先輩が教室にいることの確認は取ってある。
「失礼します」
教室の戸は前後どちらも閉まっていたが、稔里ちゃんは躊躇せずノックすると戸を開けて教室に入っていく。
三年の先輩方の視線を一斉に受けて私は怖さを感じてしまうが、恐る恐る中をのぞき込むと、絵東先輩がこちらに気付いてやって来る。
「アリスお前なー、普通一年がそんな簡単に三年の教室に入ってこないんだぞ」
呆れたような、仕方ないような表情をして絵東先輩が稔里ちゃんに話し掛け、そして私たちを見る。
事前に稔里ちゃんから連絡はしているが、美夏が加わって私たちが三人になっているのを確認すると、絵東先輩は軽く頷く。
「よし、ここじゃ人も多いしちょい移動するか」
***
絵東先輩に連れられて、本校舎と更衣室や武道場なんかがある別棟との間の渡り廊下にやって来た。
もう少し早い時間だと着替えに来る部活の生徒で人通りの多い場所だと思うけど、この時間はほとんど人がいない。
「この辺でいいか。で、アリス。話って何?」
先輩の問いかけに、稔里ちゃんは私と美夏を半歩前に出させる。
「卓球やりたい人、三人集めました。ユキさんを入れて四人です」
「うん、そうみたいだね。えっと、お名前聞いてもいいかな?」
先輩が美夏の方を向いて尋ねる。
「工藤美夏です! ゆのと一緒に卓球やりたくて入部希望ですっ!」
先輩は美夏のあまりの威勢の良さに不意を突かれたような顔をするが、すぐに優しい表情になる。
「アリスに無理やり誘われたんじゃない、って聞こうと思ってたけど、その必要はないみたいだね」
稔里ちゃんの方を向いた先輩は、再び厳しめの表情に変わる。
「で、アリス。次にすることは?」
「え、次……?」
全く想定していなかったという表情をする稔里ちゃん。
「四人揃ったから、卓球部を復活して……」
「四人揃ったからっていきなり卓球台勝手に使えるわけないでしょ。次は顧問の先生探し。今どの部活の顧問もしていなくて、それで顧問を引き受けてもいいと言ってくれる先生なんて中々見つからないよ。それに練習場所。廊下で練習するわけじゃないんだから、どこかの部活と交渉して体育館使わせてもらえるようにしなきゃだよ」
わたしの中学時代は週二回の体育館練習以外は廊下に卓球台を広げて練習していたのだけど、今そんな話をしても話がこじれるだけなので特に口は挟まない。
顧問の先生と練習場所か。たしかに大事な問題だ。稔里ちゃんも問題の難しさを感じ取ったのか、辛そうな顔をしている。
稔里ちゃん一人に辛い顔をさせる問題じゃない。私も何かできることを。そう考えたところで、助け舟は思わぬところからやってきた。
「っていうのが普通は踏まなきゃいけない手順なんだけど、実は卓球部に関してはそこはクリアされてるんだよね」
「え?」
きょとんとする稔里ちゃんを無視するように絵東先輩が話を続ける。
「卓球部は、音楽の前原 直美(まえはら なおみ)先生が休部前から顧問をやっていて、カタチ上は顧問を続けてくれているから前原先生にお願いすれば顧問の問題はクリア」
難関そうだった顧問の先生の問題について目途がついているようでホッとする。でもこのことは先輩が調べていてくれたのだろうか。
「練習場所も休部前に使っていた二体、第二体育館のことを二体って言うんだけどそこを今全面使っているバド部が部員減って以前のように半分卓球部が使ってもいいって話になってるから」
こちらも「話になっている」ということは先輩がバドミントン部の人に話をしてくれているのだろうか。
難しい問題が立ち塞がったかと思ったら解決していて、稔里ちゃんも少し戸惑っているようだ。そんな稔里ちゃんの背中を先輩がポンと叩く。
「じゃ、前原先生のところに行こうか」
「は、はい!」
職員室へ向かいながら、先輩が稔里ちゃん本人には聞こえないように私の方を向きながらポツリとつぶやく。
「はー、この辺やっちゃうのがやっぱりアリスに甘いんだろうなぁ」
やっぱり絵東先輩は裏で稔里ちゃんのために色々動いていたようだ。なんだかんだでお互いがお互いのことを好きな先輩後輩なんだろうな。私はそう思って少し嬉しくなった。
幼馴染の美夏を卓球部に勧誘した私たちは、その足でそのまま絵東先輩の教室へ向かった。
もちろん稔里ちゃんからのメッセで先輩が教室にいることの確認は取ってある。
「失礼します」
教室の戸は前後どちらも閉まっていたが、稔里ちゃんは躊躇せずノックすると戸を開けて教室に入っていく。
三年の先輩方の視線を一斉に受けて私は怖さを感じてしまうが、恐る恐る中をのぞき込むと、絵東先輩がこちらに気付いてやって来る。
「アリスお前なー、普通一年がそんな簡単に三年の教室に入ってこないんだぞ」
呆れたような、仕方ないような表情をして絵東先輩が稔里ちゃんに話し掛け、そして私たちを見る。
事前に稔里ちゃんから連絡はしているが、美夏が加わって私たちが三人になっているのを確認すると、絵東先輩は軽く頷く。
「よし、ここじゃ人も多いしちょい移動するか」
***
絵東先輩に連れられて、本校舎と更衣室や武道場なんかがある別棟との間の渡り廊下にやって来た。
もう少し早い時間だと着替えに来る部活の生徒で人通りの多い場所だと思うけど、この時間はほとんど人がいない。
「この辺でいいか。で、アリス。話って何?」
先輩の問いかけに、稔里ちゃんは私と美夏を半歩前に出させる。
「卓球やりたい人、三人集めました。ユキさんを入れて四人です」
「うん、そうみたいだね。えっと、お名前聞いてもいいかな?」
先輩が美夏の方を向いて尋ねる。
「工藤美夏です! ゆのと一緒に卓球やりたくて入部希望ですっ!」
先輩は美夏のあまりの威勢の良さに不意を突かれたような顔をするが、すぐに優しい表情になる。
「アリスに無理やり誘われたんじゃない、って聞こうと思ってたけど、その必要はないみたいだね」
稔里ちゃんの方を向いた先輩は、再び厳しめの表情に変わる。
「で、アリス。次にすることは?」
「え、次……?」
全く想定していなかったという表情をする稔里ちゃん。
「四人揃ったから、卓球部を復活して……」
「四人揃ったからっていきなり卓球台勝手に使えるわけないでしょ。次は顧問の先生探し。今どの部活の顧問もしていなくて、それで顧問を引き受けてもいいと言ってくれる先生なんて中々見つからないよ。それに練習場所。廊下で練習するわけじゃないんだから、どこかの部活と交渉して体育館使わせてもらえるようにしなきゃだよ」
わたしの中学時代は週二回の体育館練習以外は廊下に卓球台を広げて練習していたのだけど、今そんな話をしても話がこじれるだけなので特に口は挟まない。
顧問の先生と練習場所か。たしかに大事な問題だ。稔里ちゃんも問題の難しさを感じ取ったのか、辛そうな顔をしている。
稔里ちゃん一人に辛い顔をさせる問題じゃない。私も何かできることを。そう考えたところで、助け舟は思わぬところからやってきた。
「っていうのが普通は踏まなきゃいけない手順なんだけど、実は卓球部に関してはそこはクリアされてるんだよね」
「え?」
きょとんとする稔里ちゃんを無視するように絵東先輩が話を続ける。
「卓球部は、音楽の前原 直美(まえはら なおみ)先生が休部前から顧問をやっていて、カタチ上は顧問を続けてくれているから前原先生にお願いすれば顧問の問題はクリア」
難関そうだった顧問の先生の問題について目途がついているようでホッとする。でもこのことは先輩が調べていてくれたのだろうか。
「練習場所も休部前に使っていた二体、第二体育館のことを二体って言うんだけどそこを今全面使っているバド部が部員減って以前のように半分卓球部が使ってもいいって話になってるから」
こちらも「話になっている」ということは先輩がバドミントン部の人に話をしてくれているのだろうか。
難しい問題が立ち塞がったかと思ったら解決していて、稔里ちゃんも少し戸惑っているようだ。そんな稔里ちゃんの背中を先輩がポンと叩く。
「じゃ、前原先生のところに行こうか」
「は、はい!」
職員室へ向かいながら、先輩が稔里ちゃん本人には聞こえないように私の方を向きながらポツリとつぶやく。
「はー、この辺やっちゃうのがやっぱりアリスに甘いんだろうなぁ」
やっぱり絵東先輩は裏で稔里ちゃんのために色々動いていたようだ。なんだかんだでお互いがお互いのことを好きな先輩後輩なんだろうな。私はそう思って少し嬉しくなった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる