はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

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1章 卓球部再結成

006話 部活顧問と、再始動と ①

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SIDE:YUNO

 幼馴染の美夏を卓球部に勧誘した私たちは、その足でそのまま絵東先輩の教室へ向かった。
 もちろん稔里ちゃんからのメッセで先輩が教室にいることの確認は取ってある。

「失礼します」

 教室の戸は前後どちらも閉まっていたが、稔里ちゃんは躊躇せずノックすると戸を開けて教室に入っていく。
 三年の先輩方の視線を一斉に受けて私は怖さを感じてしまうが、恐る恐る中をのぞき込むと、絵東先輩がこちらに気付いてやって来る。

「アリスお前なー、普通一年がそんな簡単に三年の教室に入ってこないんだぞ」

 呆れたような、仕方ないような表情をして絵東先輩が稔里ちゃんに話し掛け、そして私たちを見る。
 事前に稔里ちゃんから連絡はしているが、美夏が加わって私たちが三人になっているのを確認すると、絵東先輩は軽く頷く。

「よし、ここじゃ人も多いしちょい移動するか」


***

 絵東先輩に連れられて、本校舎と更衣室や武道場なんかがある別棟との間の渡り廊下にやって来た。
 もう少し早い時間だと着替えに来る部活の生徒で人通りの多い場所だと思うけど、この時間はほとんど人がいない。

「この辺でいいか。で、アリス。話って何?」

 先輩の問いかけに、稔里ちゃんは私と美夏を半歩前に出させる。

「卓球やりたい人、三人集めました。ユキさんを入れて四人です」
「うん、そうみたいだね。えっと、お名前聞いてもいいかな?」

 先輩が美夏の方を向いて尋ねる。

「工藤美夏です! ゆのと一緒に卓球やりたくて入部希望ですっ!」

 先輩は美夏のあまりの威勢の良さに不意を突かれたような顔をするが、すぐに優しい表情になる。

「アリスに無理やり誘われたんじゃない、って聞こうと思ってたけど、その必要はないみたいだね」

 稔里ちゃんの方を向いた先輩は、再び厳しめの表情に変わる。


「で、アリス。次にすることは?」
「え、次……?」

 全く想定していなかったという表情をする稔里ちゃん。

「四人揃ったから、卓球部を復活して……」
「四人揃ったからっていきなり卓球台勝手に使えるわけないでしょ。次は顧問の先生探し。今どの部活の顧問もしていなくて、それで顧問を引き受けてもいいと言ってくれる先生なんて中々見つからないよ。それに練習場所。廊下で練習するわけじゃないんだから、どこかの部活と交渉して体育館使わせてもらえるようにしなきゃだよ」

 わたしの中学時代は週二回の体育館練習以外は廊下に卓球台を広げて練習していたのだけど、今そんな話をしても話がこじれるだけなので特に口は挟まない。
 顧問の先生と練習場所か。たしかに大事な問題だ。稔里ちゃんも問題の難しさを感じ取ったのか、辛そうな顔をしている。

 稔里ちゃん一人に辛い顔をさせる問題じゃない。私も何かできることを。そう考えたところで、助け舟は思わぬところからやってきた。


「っていうのが普通は踏まなきゃいけない手順なんだけど、実は卓球部に関してはそこはクリアされてるんだよね」
「え?」

 きょとんとする稔里ちゃんを無視するように絵東先輩が話を続ける。

「卓球部は、音楽の前原 直美(まえはら なおみ)先生が休部前から顧問をやっていて、カタチ上は顧問を続けてくれているから前原先生にお願いすれば顧問の問題はクリア」

 難関そうだった顧問の先生の問題について目途がついているようでホッとする。でもこのことは先輩が調べていてくれたのだろうか。

「練習場所も休部前に使っていた二体、第二体育館のことを二体って言うんだけどそこを今全面使っているバド部が部員減って以前のように半分卓球部が使ってもいいって話になってるから」

 こちらも「話になっている」ということは先輩がバドミントン部の人に話をしてくれているのだろうか。

 難しい問題が立ち塞がったかと思ったら解決していて、稔里ちゃんも少し戸惑っているようだ。そんな稔里ちゃんの背中を先輩がポンと叩く。

「じゃ、前原先生のところに行こうか」
「は、はい!」

 職員室へ向かいながら、先輩が稔里ちゃん本人には聞こえないように私の方を向きながらポツリとつぶやく。


「はー、この辺やっちゃうのがやっぱりアリスに甘いんだろうなぁ」

 やっぱり絵東先輩は裏で稔里ちゃんのために色々動いていたようだ。なんだかんだでお互いがお互いのことを好きな先輩後輩なんだろうな。私はそう思って少し嬉しくなった。
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