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6章 柚乃、出陣
034話 試合序盤と、作戦と ①
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SIDE:YUNO
相手の妙高さんの厳しいコースへのドライブを、絵東先輩が体勢を崩しながらもカウンターブロックでフォア側奥深くへ返す。村川さんは動かざるを得ずフォア側へ踏み出して強烈なスピードドライブを打ち込んでくる。
そのボールにいつの間にか一歩下がっていた稔里ちゃんが、相手が重なるように中陣からのロングドライブ、と見せかけて上半身を捻ってバック側へストレートのスピードドライブを放つ。重なるようにフォア側へ来ると予想していた妙高さんは一歩も動けない。
「ッサーッ!!」
上半身をそり返した体勢のまま、稔里ちゃんが天井へ向かってガッツポーズをすると、そのまま先輩とハグをする。
「3-0で山花高校の勝利です。礼」
「ありがとうございました」
礼をして二人が戻ってくる。元々同じ中学のいわば同門対決の四人。本来なら掛ける言葉もあるのだろうが、うちの絵東先輩と向こうの村川極李さんはこれから連戦でシングルスを戦う。集中力を高めたままお互い鬼気迫る表情で引き返してくる。
「みのりんナイス!」
「ありがとう、工藤さん」
戻ってくる稔里ちゃんを美夏がハイタッチで迎える。そして。
「ゆのち、約束通りまずはダブルス取ってきたよ。あと二勝だ」
「……はい!」
お互い利き手の逆、先輩の右拳と私の左拳でグータッチをする。
ダブルスの後の副将戦第四試合と大将戦第五試合は同時開始。つまり今から私の出番だ。
私だけ一回戦は試合をしていないので、これが高校デビュー戦。
しかも相手は第二シード聖マリヤ女学院のダブルエースの一人。
私は念入りにラバーの粘着具合を確かめると、軽く脚を広げて股関節と腰のストレッチをする。
「ゆの、ぶちかましてこい!」
「うん」
先鋒戦の美夏の奮闘を思い出しながら返事をする。
「『いつラブ』だよ!」
「うん、大丈夫」
はじまりはいつもラブオール。そう思ってすでに卓球台へ向かっている相手の村川さんを見る。自分でもびっくりするくらい冷静に相手を見ることができている。
「鈴原さん」
「はい、大丈夫です」
前原先生からの呼びかけに落ち着いて答える。
先生から教わった作戦は全部頭の中に入っている。
私はタオルを握り締めると、卓球台へ向かった。
***
「お願いします!」
形式的な礼をすると、試合前のラリーを始める。
(すごい回転量。 みのりちゃんと絵東さんはこんなの普通に打ってたんだ)
稔里ちゃんのお手本のような綺麗な回転でも、先輩のような高速ラリーでもしっかりと乗った回転でもない。村川さんのは一発一発が男子のような強烈な上回転。しっかりと抑え込まないとすぐに力負けしてホームランしてしまいそうだ。
でもここからすでに戦いは始まっている。ラリーで大したことないと思われたらその時点で相手に精神的優位に立たれる。私は自分からすぐにバックに切り替えてラリーを行う。
試合前のラリーは特に決まりは無いが最初フォアハンド同士で打った後、片方がバックもしくは両方がバックハンドでの打ち合いをすることが多い。初心者~中級者くらいまではフォアでしか打たない人も多いので、バックでのラリーをすればある程度の経験者だというアピールになる。
それに先生から授かった『作戦』を遂行する上で、自分のバックハンドでどれくらい相手と打ち合えるかを知っておくことは重要だ。
普段は身体を温める程度の試合前ラリーですでに身体も脳もけっこうな疲労だ。だがそんなことは少しも相手には見せないで試合開始前のラケット交換を行う。
この試合開始前のラケット交換は、ある程度の経験者になれば相手がどんな戦術なのかを大体知るための大事な行為だ。村川さんのラケットはフォアバック両面とも極厚の裏ソフト。これだけで攻撃型の選手だとわかる。
そしてここから先生の作戦は始まっている。
なるべくポーカーフェイスでラケットを返すと自分のラケットを受け取る。
「ラブオール」
相手の妙高さんの厳しいコースへのドライブを、絵東先輩が体勢を崩しながらもカウンターブロックでフォア側奥深くへ返す。村川さんは動かざるを得ずフォア側へ踏み出して強烈なスピードドライブを打ち込んでくる。
そのボールにいつの間にか一歩下がっていた稔里ちゃんが、相手が重なるように中陣からのロングドライブ、と見せかけて上半身を捻ってバック側へストレートのスピードドライブを放つ。重なるようにフォア側へ来ると予想していた妙高さんは一歩も動けない。
「ッサーッ!!」
上半身をそり返した体勢のまま、稔里ちゃんが天井へ向かってガッツポーズをすると、そのまま先輩とハグをする。
「3-0で山花高校の勝利です。礼」
「ありがとうございました」
礼をして二人が戻ってくる。元々同じ中学のいわば同門対決の四人。本来なら掛ける言葉もあるのだろうが、うちの絵東先輩と向こうの村川極李さんはこれから連戦でシングルスを戦う。集中力を高めたままお互い鬼気迫る表情で引き返してくる。
「みのりんナイス!」
「ありがとう、工藤さん」
戻ってくる稔里ちゃんを美夏がハイタッチで迎える。そして。
「ゆのち、約束通りまずはダブルス取ってきたよ。あと二勝だ」
「……はい!」
お互い利き手の逆、先輩の右拳と私の左拳でグータッチをする。
ダブルスの後の副将戦第四試合と大将戦第五試合は同時開始。つまり今から私の出番だ。
私だけ一回戦は試合をしていないので、これが高校デビュー戦。
しかも相手は第二シード聖マリヤ女学院のダブルエースの一人。
私は念入りにラバーの粘着具合を確かめると、軽く脚を広げて股関節と腰のストレッチをする。
「ゆの、ぶちかましてこい!」
「うん」
先鋒戦の美夏の奮闘を思い出しながら返事をする。
「『いつラブ』だよ!」
「うん、大丈夫」
はじまりはいつもラブオール。そう思ってすでに卓球台へ向かっている相手の村川さんを見る。自分でもびっくりするくらい冷静に相手を見ることができている。
「鈴原さん」
「はい、大丈夫です」
前原先生からの呼びかけに落ち着いて答える。
先生から教わった作戦は全部頭の中に入っている。
私はタオルを握り締めると、卓球台へ向かった。
***
「お願いします!」
形式的な礼をすると、試合前のラリーを始める。
(すごい回転量。 みのりちゃんと絵東さんはこんなの普通に打ってたんだ)
稔里ちゃんのお手本のような綺麗な回転でも、先輩のような高速ラリーでもしっかりと乗った回転でもない。村川さんのは一発一発が男子のような強烈な上回転。しっかりと抑え込まないとすぐに力負けしてホームランしてしまいそうだ。
でもここからすでに戦いは始まっている。ラリーで大したことないと思われたらその時点で相手に精神的優位に立たれる。私は自分からすぐにバックに切り替えてラリーを行う。
試合前のラリーは特に決まりは無いが最初フォアハンド同士で打った後、片方がバックもしくは両方がバックハンドでの打ち合いをすることが多い。初心者~中級者くらいまではフォアでしか打たない人も多いので、バックでのラリーをすればある程度の経験者だというアピールになる。
それに先生から授かった『作戦』を遂行する上で、自分のバックハンドでどれくらい相手と打ち合えるかを知っておくことは重要だ。
普段は身体を温める程度の試合前ラリーですでに身体も脳もけっこうな疲労だ。だがそんなことは少しも相手には見せないで試合開始前のラケット交換を行う。
この試合開始前のラケット交換は、ある程度の経験者になれば相手がどんな戦術なのかを大体知るための大事な行為だ。村川さんのラケットはフォアバック両面とも極厚の裏ソフト。これだけで攻撃型の選手だとわかる。
そしてここから先生の作戦は始まっている。
なるべくポーカーフェイスでラケットを返すと自分のラケットを受け取る。
「ラブオール」
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