はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

文字の大きさ
72 / 106
6章 柚乃、出陣

034話 試合序盤と、作戦と ①

しおりを挟む
SIDE:YUNO

 相手の妙高さんの厳しいコースへのドライブを、絵東先輩が体勢を崩しながらもカウンターブロックでフォア側奥深くへ返す。村川さんは動かざるを得ずフォア側へ踏み出して強烈なスピードドライブを打ち込んでくる。
 そのボールにいつの間にか一歩下がっていた稔里ちゃんが、相手が重なるように中陣からのロングドライブ、と見せかけて上半身を捻ってバック側へストレートのスピードドライブを放つ。重なるようにフォア側へ来ると予想していた妙高さんは一歩も動けない。

「ッサーッ!!」

上半身をそり返した体勢のまま、稔里ちゃんが天井へ向かってガッツポーズをすると、そのまま先輩とハグをする。

「3-0で山花高校の勝利です。礼」
「ありがとうございました」


 礼をして二人が戻ってくる。元々同じ中学のいわば同門対決の四人。本来なら掛ける言葉もあるのだろうが、うちの絵東先輩と向こうの村川極李さんはこれから連戦でシングルスを戦う。集中力を高めたままお互い鬼気迫る表情で引き返してくる。

「みのりんナイス!」
「ありがとう、工藤さん」

 戻ってくる稔里ちゃんを美夏がハイタッチで迎える。そして。

「ゆのち、約束通りまずはダブルス取ってきたよ。あと二勝だ」
「……はい!」

 お互い利き手の逆、先輩の右拳と私の左拳でグータッチをする。
 ダブルスの後の副将戦第四試合と大将戦第五試合は同時開始。つまり今から私の出番だ。

 私だけ一回戦は試合をしていないので、これが高校デビュー戦。
 しかも相手は第二シード聖マリヤ女学院のダブルエースの一人。
 私は念入りにラバーの粘着具合を確かめると、軽く脚を広げて股関節と腰のストレッチをする。

「ゆの、ぶちかましてこい!」
「うん」

 先鋒戦の美夏の奮闘を思い出しながら返事をする。

「『いつラブ』だよ!」
「うん、大丈夫」


 はじまりはいつもラブオール。そう思ってすでに卓球台へ向かっている相手の村川さんを見る。自分でもびっくりするくらい冷静に相手を見ることができている。

「鈴原さん」
「はい、大丈夫です」

 前原先生からの呼びかけに落ち着いて答える。
 先生から教わった作戦は全部頭の中に入っている。

 私はタオルを握り締めると、卓球台へ向かった。


***

「お願いします!」

 形式的な礼をすると、試合前のラリーを始める。
 
(すごい回転量。 みのりちゃんと絵東さんはこんなの普通に打ってたんだ)

 稔里ちゃんのお手本のような綺麗な回転でも、先輩のような高速ラリーでもしっかりと乗った回転でもない。村川さんのは一発一発が男子のような強烈な上回転。しっかりと抑え込まないとすぐに力負けしてホームランしてしまいそうだ。
 でもここからすでに戦いは始まっている。ラリーで大したことないと思われたらその時点で相手に精神的優位に立たれる。私は自分からすぐにバックに切り替えてラリーを行う。


 試合前のラリーは特に決まりは無いが最初フォアハンド同士で打った後、片方がバックもしくは両方がバックハンドでの打ち合いをすることが多い。初心者~中級者くらいまではフォアでしか打たない人も多いので、バックでのラリーをすればある程度の経験者だというアピールになる。

 それに先生から授かった『作戦』を遂行する上で、自分のバックハンドでどれくらい相手と打ち合えるかを知っておくことは重要だ。

 普段は身体を温める程度の試合前ラリーですでに身体も脳もけっこうな疲労だ。だがそんなことは少しも相手には見せないで試合開始前のラケット交換を行う。


 この試合開始前のラケット交換は、ある程度の経験者になれば相手がどんな戦術なのかを大体知るための大事な行為だ。村川さんのラケットはフォアバック両面とも極厚の裏ソフト。これだけで攻撃型の選手だとわかる。
 そしてここから先生の作戦は始まっている。
 なるべくポーカーフェイスでラケットを返すと自分のラケットを受け取る。


「ラブオール」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...