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5章 激闘、二回戦!
033話 本能と、次への布石と ②
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11-9の逆転で二ゲーム目も連取する。
「みのりんナイス!」
「ありがとう、美夏さん」
美夏からスポーツドリンクを受け取りながら稔里ちゃんが返事をする。
「ごめんゆのち。このゲーム取らせるつもりだったけどアリスがスイッチ入っちゃった」
「え、そんな。相手強いし連取できて良かったですよ」
絵東先輩にとってはこのダブルスは勝つのが当たり前で、私に村川さんの分析をさせるところまでが試合の目的になっている。
「ユキさんすみません」
「いいっていいって。ゲーム終盤でスイッチ入るのはアリスの本能みたいなものだし」
たしかにあそこでスイッチが入ったのは意図的なものというより稔里ちゃんの本能のようだった。絶対に勝ちたいというスポーツ選手には大事な本能。
「ゆのちのためにも、私自身の次もあるし、このゲームで決めるよ、アリス」
「はい!」
***
SIDE:SHIZUKA
「村川、わざと打たされてるからフットワークだけ気を付けて」
「わかってる。有栖川のやつ、お前とのシングルスではまだ手の内見せてなかったのかよ」
違う。
たしかに今のアリスちゃんは私とシングルスを戦った先ほどとは別人のような動きを見せている。これはシングルスで手を抜いていたわけではない、逆だ。あの二人はダブルスになると一足す一が二ではなく三どころか十にも百にもなる。
それでも絵東にブランクがある分こちらが少しは有利かと思っていたが、とんでもない。大人と子供ほどの実力差がある。
ただ、シード校のエースダブルスが為す術もなく負けるわけにはいかない。絵東を絶好調のままにさせたら副将戦のミクちゃんには荷が重くなるかもしれない。
少しでも相手の調子を削る。
***
SIDE:YUNO
第三ゲーム。
稔里ちゃんが珍しく短い下回転サーブを出す。妙高さんはフリックがあまり得意ではないのか、フォアのツッツキで短く返してくる。三球目、先輩は前陣速攻型なのでフリックは得意技だ。サウスポーからのフリックで村川さんのバック側深くに素早くボールを打ち込む。村川さんはタイミング的にブロックカウンターで良いところを、強引にバックハンドドライブで打ちにくるがわずかにボールはコートオーバーする。
その後、中盤戦まで進み、今までの二ゲームとこの第三ゲームの違和感の正体に気付く。
このゲームは妙高さんが絵東先輩に対してミス覚悟でかなり厳しいコースを突いている。そして、先輩はその厳しいコースにカウンターとなるような更に厳しいコースを村川さんに打ち続けている。
これは次のシングルスへの布石だ。向こうからすれば第四試合の先輩の、こちらからすれば第五試合の村川さんのフォームを少しでも崩して後半のシングルスへ向かう。
『ダブルスと私のシングルスは絶対取るから。大将戦で勝負』
私は今更、試合前に言われた先輩の言葉を反芻すると、歩幅を広げて試合と同じ目の高さにする。村川さんの打球を、フォームを、目の前の相手として焼き付ける。
これが、本物の団体戦なんだ。
「みのりんナイス!」
「ありがとう、美夏さん」
美夏からスポーツドリンクを受け取りながら稔里ちゃんが返事をする。
「ごめんゆのち。このゲーム取らせるつもりだったけどアリスがスイッチ入っちゃった」
「え、そんな。相手強いし連取できて良かったですよ」
絵東先輩にとってはこのダブルスは勝つのが当たり前で、私に村川さんの分析をさせるところまでが試合の目的になっている。
「ユキさんすみません」
「いいっていいって。ゲーム終盤でスイッチ入るのはアリスの本能みたいなものだし」
たしかにあそこでスイッチが入ったのは意図的なものというより稔里ちゃんの本能のようだった。絶対に勝ちたいというスポーツ選手には大事な本能。
「ゆのちのためにも、私自身の次もあるし、このゲームで決めるよ、アリス」
「はい!」
***
SIDE:SHIZUKA
「村川、わざと打たされてるからフットワークだけ気を付けて」
「わかってる。有栖川のやつ、お前とのシングルスではまだ手の内見せてなかったのかよ」
違う。
たしかに今のアリスちゃんは私とシングルスを戦った先ほどとは別人のような動きを見せている。これはシングルスで手を抜いていたわけではない、逆だ。あの二人はダブルスになると一足す一が二ではなく三どころか十にも百にもなる。
それでも絵東にブランクがある分こちらが少しは有利かと思っていたが、とんでもない。大人と子供ほどの実力差がある。
ただ、シード校のエースダブルスが為す術もなく負けるわけにはいかない。絵東を絶好調のままにさせたら副将戦のミクちゃんには荷が重くなるかもしれない。
少しでも相手の調子を削る。
***
SIDE:YUNO
第三ゲーム。
稔里ちゃんが珍しく短い下回転サーブを出す。妙高さんはフリックがあまり得意ではないのか、フォアのツッツキで短く返してくる。三球目、先輩は前陣速攻型なのでフリックは得意技だ。サウスポーからのフリックで村川さんのバック側深くに素早くボールを打ち込む。村川さんはタイミング的にブロックカウンターで良いところを、強引にバックハンドドライブで打ちにくるがわずかにボールはコートオーバーする。
その後、中盤戦まで進み、今までの二ゲームとこの第三ゲームの違和感の正体に気付く。
このゲームは妙高さんが絵東先輩に対してミス覚悟でかなり厳しいコースを突いている。そして、先輩はその厳しいコースにカウンターとなるような更に厳しいコースを村川さんに打ち続けている。
これは次のシングルスへの布石だ。向こうからすれば第四試合の先輩の、こちらからすれば第五試合の村川さんのフォームを少しでも崩して後半のシングルスへ向かう。
『ダブルスと私のシングルスは絶対取るから。大将戦で勝負』
私は今更、試合前に言われた先輩の言葉を反芻すると、歩幅を広げて試合と同じ目の高さにする。村川さんの打球を、フォームを、目の前の相手として焼き付ける。
これが、本物の団体戦なんだ。
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