はじまりはいつもラブオール

フジノシキ

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7章 全道大会へ向けて

043話 挑戦と、兆しと ①

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SIDE:YUNO

「よし、ゆのち先鋒頼んだ!」
「はい、行ってきます」

 メダリストの藤堂香さんによる一日臨時コーチの日。
 練習試合とかやってもらえたら最高だねなんて話をしていたら、本当に一人ずつ試合をしてもらえることになった。
 そして、もしやれたらということで決めていた順番は、私、稔里ちゃん、絵東先輩、美夏だったので、私がまず藤堂さんと試合をすることに。

「お、最初はキミだね。鈴原さんかな。よろしく」
「鈴原柚乃です。よろしくお願いします!」

 ジャージを脱いでユニフォーム姿となった藤堂さんと対峙する。
 マリ女の青ユニは威圧感がある、という話をした記憶があるが、テレビで見ていた日本代表ユニを着ている藤堂さんの存在感はその比ではない。

 でも圧倒されてよくわからないまま試合終了、ということにだけは絶対にしたくない。高校最初の練習試合で平川高校の秋野さん相手にそうなってしまって、貴重な機会を勿体なくしてしまったという反省がある。

(すごい重さ、これがピンポン球!?)

 試合前のラリー、お互いが粘着系ラバー同士の打ち合いというのはほぼ初めての経験だ。最初は重いと感じた絵東先輩のボールも今では普通に打ち返せるようになって、成長できていると思っていたが、世界レベルのボールは次元が違う。試合前の基礎打ちのフォームから全球パワードライブのようなボールが飛んでくる。

 逆に同じ粘着ラバーの私も、しっかりとしたフォームで打てばこんな重たいドライブを打てるんだ。藤堂さんのフォームを目に焼き付けながらラリーを行う。


「ラブオール」

 審判に入った美夏の掛け声と共にいよいよ試合が始まる。

 最初は藤堂さんのサーブから。
 藤堂さんの卓球の特徴といえば、中国選手並みのパワーで打ち抜く攻撃型かつトリッキーな動きだ。もう現役を引退されているのに、腕や脚の筋肉なんか陸上選手やボクシング選手みたいに細くてムキムキだ。
 当然守備一辺倒に追い込まれてしまうカットマンは相性としては最悪で、この日が決まってから観た藤堂さんの現役時代の対カットマン戦の動画はカットマン側の全敗だった。

 でもまずは相性なんて気にしないで食らいつく。
 藤堂さんのサーブは、オーソドックスな下回転ショートサーブから。粘着ラバーということは当然下回転もかなり掛かる。ネットに引っ掛けないようしっかりとツッツキで返球する。
 三球目で攻撃してくるイメージでカットマンの立ち位置まで一歩下がるが、藤堂さんは三球目もツッツキで返してくる。そのまま基礎練のようなツッツキの打ち合いになり、十球目を私がネットに引っ掛けてしまう。

 ツッツキに関してだけ言えば下回転ということで稔里ちゃんや絵東先輩よりも上手という自負があった。一球目から自分の土俵で相手に上回られたという感じだ。


 二球目も同じようなサーブ。ツッツキで返そうとして、今度のはナックル系であることに気付く。相手のサーブでラケットを離れてから二回バウンドをするまでのコンマ数秒の世界での判断。慌てて押し出すような感じの対ナックルのツッツキに切り替える。

 またツッツキの打ち合いになりそうだったが、今度は五球目を藤堂さんがフォアに回り込んでのドライブで打ってくる。逆クロスのパワードライブに私は慌ててバックハンドのカットで切ろうとするが、ラケットに当てるのが精一杯でボールは卓球台まで届かずに沈んでいく。
 パワードライブはマリ女の村川さんのように全身で打ち込んでくるか、ヒラコーの秋野さんのように重心を低くしながら腕をしならせて打つのが通常だ。まして逆クロスとなるとしゃがみ込みながら全身の捻りで打つ人がほとんどだ。だが、藤堂さんはただの基礎打ちのような力感ゼロのドライブで逆クロスのパワードライブを打ち込んできた。

 もしかしたら藤堂さんにとっては今のはパワードライブでも何でもないただのドライブなのかもしれない。想像していた以上に次元が違い過ぎる。

 でも、できるだけ多くをこの試合から学ぶ。今日こそ後悔はしない。
 私のサーブ権。格上相手だからといっていきなり全開とはしない。あくまでサーブの手の内はギリギリまで見せないのが私の卓球だ。


 横下回転で、バックのツッツキしかできない場所へショートサーブを出す。村川さんの時は先読みされてチキータを打たれたのでその準備も欠かさない。

 すると、藤堂さんはストップのような打ち方で手首だけを返し、バックフリックで返球してきた。フリックなので威力はそこまででもないが、不意を突かれたので返球のカットが浮いてしまう。浮いたとはいえ下回転はしっかりと掛かっていたはずだが、スマッシュで思い切り打ち抜かれてしまう。
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