89 / 106
7章 全道大会へ向けて
043話 挑戦と、兆しと ①
しおりを挟む
SIDE:YUNO
「よし、ゆのち先鋒頼んだ!」
「はい、行ってきます」
メダリストの藤堂香さんによる一日臨時コーチの日。
練習試合とかやってもらえたら最高だねなんて話をしていたら、本当に一人ずつ試合をしてもらえることになった。
そして、もしやれたらということで決めていた順番は、私、稔里ちゃん、絵東先輩、美夏だったので、私がまず藤堂さんと試合をすることに。
「お、最初はキミだね。鈴原さんかな。よろしく」
「鈴原柚乃です。よろしくお願いします!」
ジャージを脱いでユニフォーム姿となった藤堂さんと対峙する。
マリ女の青ユニは威圧感がある、という話をした記憶があるが、テレビで見ていた日本代表ユニを着ている藤堂さんの存在感はその比ではない。
でも圧倒されてよくわからないまま試合終了、ということにだけは絶対にしたくない。高校最初の練習試合で平川高校の秋野さん相手にそうなってしまって、貴重な機会を勿体なくしてしまったという反省がある。
(すごい重さ、これがピンポン球!?)
試合前のラリー、お互いが粘着系ラバー同士の打ち合いというのはほぼ初めての経験だ。最初は重いと感じた絵東先輩のボールも今では普通に打ち返せるようになって、成長できていると思っていたが、世界レベルのボールは次元が違う。試合前の基礎打ちのフォームから全球パワードライブのようなボールが飛んでくる。
逆に同じ粘着ラバーの私も、しっかりとしたフォームで打てばこんな重たいドライブを打てるんだ。藤堂さんのフォームを目に焼き付けながらラリーを行う。
「ラブオール」
審判に入った美夏の掛け声と共にいよいよ試合が始まる。
最初は藤堂さんのサーブから。
藤堂さんの卓球の特徴といえば、中国選手並みのパワーで打ち抜く攻撃型かつトリッキーな動きだ。もう現役を引退されているのに、腕や脚の筋肉なんか陸上選手やボクシング選手みたいに細くてムキムキだ。
当然守備一辺倒に追い込まれてしまうカットマンは相性としては最悪で、この日が決まってから観た藤堂さんの現役時代の対カットマン戦の動画はカットマン側の全敗だった。
でもまずは相性なんて気にしないで食らいつく。
藤堂さんのサーブは、オーソドックスな下回転ショートサーブから。粘着ラバーということは当然下回転もかなり掛かる。ネットに引っ掛けないようしっかりとツッツキで返球する。
三球目で攻撃してくるイメージでカットマンの立ち位置まで一歩下がるが、藤堂さんは三球目もツッツキで返してくる。そのまま基礎練のようなツッツキの打ち合いになり、十球目を私がネットに引っ掛けてしまう。
ツッツキに関してだけ言えば下回転ということで稔里ちゃんや絵東先輩よりも上手という自負があった。一球目から自分の土俵で相手に上回られたという感じだ。
二球目も同じようなサーブ。ツッツキで返そうとして、今度のはナックル系であることに気付く。相手のサーブでラケットを離れてから二回バウンドをするまでのコンマ数秒の世界での判断。慌てて押し出すような感じの対ナックルのツッツキに切り替える。
またツッツキの打ち合いになりそうだったが、今度は五球目を藤堂さんがフォアに回り込んでのドライブで打ってくる。逆クロスのパワードライブに私は慌ててバックハンドのカットで切ろうとするが、ラケットに当てるのが精一杯でボールは卓球台まで届かずに沈んでいく。
パワードライブはマリ女の村川さんのように全身で打ち込んでくるか、ヒラコーの秋野さんのように重心を低くしながら腕をしならせて打つのが通常だ。まして逆クロスとなるとしゃがみ込みながら全身の捻りで打つ人がほとんどだ。だが、藤堂さんはただの基礎打ちのような力感ゼロのドライブで逆クロスのパワードライブを打ち込んできた。
もしかしたら藤堂さんにとっては今のはパワードライブでも何でもないただのドライブなのかもしれない。想像していた以上に次元が違い過ぎる。
でも、できるだけ多くをこの試合から学ぶ。今日こそ後悔はしない。
私のサーブ権。格上相手だからといっていきなり全開とはしない。あくまでサーブの手の内はギリギリまで見せないのが私の卓球だ。
横下回転で、バックのツッツキしかできない場所へショートサーブを出す。村川さんの時は先読みされてチキータを打たれたのでその準備も欠かさない。
すると、藤堂さんはストップのような打ち方で手首だけを返し、バックフリックで返球してきた。フリックなので威力はそこまででもないが、不意を突かれたので返球のカットが浮いてしまう。浮いたとはいえ下回転はしっかりと掛かっていたはずだが、スマッシュで思い切り打ち抜かれてしまう。
「よし、ゆのち先鋒頼んだ!」
「はい、行ってきます」
メダリストの藤堂香さんによる一日臨時コーチの日。
練習試合とかやってもらえたら最高だねなんて話をしていたら、本当に一人ずつ試合をしてもらえることになった。
そして、もしやれたらということで決めていた順番は、私、稔里ちゃん、絵東先輩、美夏だったので、私がまず藤堂さんと試合をすることに。
「お、最初はキミだね。鈴原さんかな。よろしく」
「鈴原柚乃です。よろしくお願いします!」
ジャージを脱いでユニフォーム姿となった藤堂さんと対峙する。
マリ女の青ユニは威圧感がある、という話をした記憶があるが、テレビで見ていた日本代表ユニを着ている藤堂さんの存在感はその比ではない。
でも圧倒されてよくわからないまま試合終了、ということにだけは絶対にしたくない。高校最初の練習試合で平川高校の秋野さん相手にそうなってしまって、貴重な機会を勿体なくしてしまったという反省がある。
(すごい重さ、これがピンポン球!?)
試合前のラリー、お互いが粘着系ラバー同士の打ち合いというのはほぼ初めての経験だ。最初は重いと感じた絵東先輩のボールも今では普通に打ち返せるようになって、成長できていると思っていたが、世界レベルのボールは次元が違う。試合前の基礎打ちのフォームから全球パワードライブのようなボールが飛んでくる。
逆に同じ粘着ラバーの私も、しっかりとしたフォームで打てばこんな重たいドライブを打てるんだ。藤堂さんのフォームを目に焼き付けながらラリーを行う。
「ラブオール」
審判に入った美夏の掛け声と共にいよいよ試合が始まる。
最初は藤堂さんのサーブから。
藤堂さんの卓球の特徴といえば、中国選手並みのパワーで打ち抜く攻撃型かつトリッキーな動きだ。もう現役を引退されているのに、腕や脚の筋肉なんか陸上選手やボクシング選手みたいに細くてムキムキだ。
当然守備一辺倒に追い込まれてしまうカットマンは相性としては最悪で、この日が決まってから観た藤堂さんの現役時代の対カットマン戦の動画はカットマン側の全敗だった。
でもまずは相性なんて気にしないで食らいつく。
藤堂さんのサーブは、オーソドックスな下回転ショートサーブから。粘着ラバーということは当然下回転もかなり掛かる。ネットに引っ掛けないようしっかりとツッツキで返球する。
三球目で攻撃してくるイメージでカットマンの立ち位置まで一歩下がるが、藤堂さんは三球目もツッツキで返してくる。そのまま基礎練のようなツッツキの打ち合いになり、十球目を私がネットに引っ掛けてしまう。
ツッツキに関してだけ言えば下回転ということで稔里ちゃんや絵東先輩よりも上手という自負があった。一球目から自分の土俵で相手に上回られたという感じだ。
二球目も同じようなサーブ。ツッツキで返そうとして、今度のはナックル系であることに気付く。相手のサーブでラケットを離れてから二回バウンドをするまでのコンマ数秒の世界での判断。慌てて押し出すような感じの対ナックルのツッツキに切り替える。
またツッツキの打ち合いになりそうだったが、今度は五球目を藤堂さんがフォアに回り込んでのドライブで打ってくる。逆クロスのパワードライブに私は慌ててバックハンドのカットで切ろうとするが、ラケットに当てるのが精一杯でボールは卓球台まで届かずに沈んでいく。
パワードライブはマリ女の村川さんのように全身で打ち込んでくるか、ヒラコーの秋野さんのように重心を低くしながら腕をしならせて打つのが通常だ。まして逆クロスとなるとしゃがみ込みながら全身の捻りで打つ人がほとんどだ。だが、藤堂さんはただの基礎打ちのような力感ゼロのドライブで逆クロスのパワードライブを打ち込んできた。
もしかしたら藤堂さんにとっては今のはパワードライブでも何でもないただのドライブなのかもしれない。想像していた以上に次元が違い過ぎる。
でも、できるだけ多くをこの試合から学ぶ。今日こそ後悔はしない。
私のサーブ権。格上相手だからといっていきなり全開とはしない。あくまでサーブの手の内はギリギリまで見せないのが私の卓球だ。
横下回転で、バックのツッツキしかできない場所へショートサーブを出す。村川さんの時は先読みされてチキータを打たれたのでその準備も欠かさない。
すると、藤堂さんはストップのような打ち方で手首だけを返し、バックフリックで返球してきた。フリックなので威力はそこまででもないが、不意を突かれたので返球のカットが浮いてしまう。浮いたとはいえ下回転はしっかりと掛かっていたはずだが、スマッシュで思い切り打ち抜かれてしまう。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる