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7章 全道大会へ向けて
047話 組み立てと、追い込みと ②
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第一ゲームを取って第二ゲーム。藤堂さんの立ち位置以外にもう一つ気付いたことがある。
一ゲーム目は稔里ちゃん、二ゲーム目は絵東先輩の打球をレシーブしているが、どちらもシングルスで対戦するときよりも余裕を持って返球できている。藤堂さんの返球がコース回転共に厳しいから二人とも万全の体勢で打てていないのだ。
球速の遅いカットであそこまで体勢を崩すことは難しいだろうけど、稔里ちゃんと以前に話した、コースを突けばカットマンでも得点できることをこの場で体感することができた。
***
「ありがとうございました!」
試合はそのまま3-0で藤堂さんと私のダブルスが勝利した。途中から絵東先輩が何度も戦術を変えてきて私はそのたび返球が甘くなったけど、私の返球が甘くなることまで予測していた藤堂さんが全て完璧なカウンターで得点を重ねていった。
試合後の藤堂さんの講評が始まる。
「うん、ダブルスの完成度はかなり高いね。残り一週間は絵東さんのブランクを取り戻すことに重点を置いて」
「はい」
藤堂さんクラスの人から見てもアリスノーのダブルスの完成度は高いようだ。
「強いて言うなら、全国レベルだと駆け引きが優等生すぎるかな」
「優等生、ですか?」
稔里ちゃんが聞き返すが、隣の絵東先輩は心当たりがあるような表情をしている。
「そう。逆を突く、とかここからコンビネーションを変える、とか。相手の裏をかくタイミングが綺麗すぎて、駆け引きが得意な選手からするとわかりやすいね」
たしかに、普段から二人の相手をしていて私なんかはよく逆を突かれるけど、今の試合中の藤堂さんの逆を突くのは全く予期せぬタイミングというかリズム感だった。
「これはあと一週間でどうにかなるものではないから、今後もっと上のステージに行った時に考えてみてね」
「はい!」
もっと上のステージ。稔里ちゃんのシングルスもアリスノー二人のダブルスも、全道大会に出場することが目標ではない。その上、全国大会を目指してこれからラスト一週間の追い込みに入る。
本人たちだけでなく、その練習相手となる私と美夏にも今日は特別な一日となった。
***
「直美も入らなくていいの?」
「いいからいいから。はい、みんな並んで」
練習が終わり、記念に藤堂さんを囲んで写真を一枚撮ってもらう。今日のことは内緒なのでSNSにアップしたりはしないが、一生の宝物だ。
「今日はみんなと練習できて楽しかったよ。前原先生が顧問をやっているうちに都合がつけば、また来たいな。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
四人揃って礼をする。結局練習はせずにずっと観客をしていたバドミントン部からも拍手が起きる。
特別な一日を経験した私たち。
さぁ、これから一週間、最後の追い込みだ。
一ゲーム目は稔里ちゃん、二ゲーム目は絵東先輩の打球をレシーブしているが、どちらもシングルスで対戦するときよりも余裕を持って返球できている。藤堂さんの返球がコース回転共に厳しいから二人とも万全の体勢で打てていないのだ。
球速の遅いカットであそこまで体勢を崩すことは難しいだろうけど、稔里ちゃんと以前に話した、コースを突けばカットマンでも得点できることをこの場で体感することができた。
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「ありがとうございました!」
試合はそのまま3-0で藤堂さんと私のダブルスが勝利した。途中から絵東先輩が何度も戦術を変えてきて私はそのたび返球が甘くなったけど、私の返球が甘くなることまで予測していた藤堂さんが全て完璧なカウンターで得点を重ねていった。
試合後の藤堂さんの講評が始まる。
「うん、ダブルスの完成度はかなり高いね。残り一週間は絵東さんのブランクを取り戻すことに重点を置いて」
「はい」
藤堂さんクラスの人から見てもアリスノーのダブルスの完成度は高いようだ。
「強いて言うなら、全国レベルだと駆け引きが優等生すぎるかな」
「優等生、ですか?」
稔里ちゃんが聞き返すが、隣の絵東先輩は心当たりがあるような表情をしている。
「そう。逆を突く、とかここからコンビネーションを変える、とか。相手の裏をかくタイミングが綺麗すぎて、駆け引きが得意な選手からするとわかりやすいね」
たしかに、普段から二人の相手をしていて私なんかはよく逆を突かれるけど、今の試合中の藤堂さんの逆を突くのは全く予期せぬタイミングというかリズム感だった。
「これはあと一週間でどうにかなるものではないから、今後もっと上のステージに行った時に考えてみてね」
「はい!」
もっと上のステージ。稔里ちゃんのシングルスもアリスノー二人のダブルスも、全道大会に出場することが目標ではない。その上、全国大会を目指してこれからラスト一週間の追い込みに入る。
本人たちだけでなく、その練習相手となる私と美夏にも今日は特別な一日となった。
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「直美も入らなくていいの?」
「いいからいいから。はい、みんな並んで」
練習が終わり、記念に藤堂さんを囲んで写真を一枚撮ってもらう。今日のことは内緒なのでSNSにアップしたりはしないが、一生の宝物だ。
「今日はみんなと練習できて楽しかったよ。前原先生が顧問をやっているうちに都合がつけば、また来たいな。ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
四人揃って礼をする。結局練習はせずにずっと観客をしていたバドミントン部からも拍手が起きる。
特別な一日を経験した私たち。
さぁ、これから一週間、最後の追い込みだ。
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