ヒカリノツバサ~女子高生アイドルグラフィティ~

フジノシキ

文字の大きさ
31 / 38
第4章 アイドルとは、何ですか?

アイドルの意味

しおりを挟む
 ailesのひびき蘭に手を引かれ、佑香達が入ったのはアイドル達の控え室らしい部屋だった。壁際にずらっと今日登場したアイドル達の衣装が掛けられている。他のアイドル達は握手会に向かったらしく、部屋には蘭と三人だけしか居なかった。

「急に連れてきてゴメンね。キミたち、『スノーフェアリーズ』だよね?」
「えっ!?」

 三人が驚く。蘭の口から出てきたのは、自分達のユニット名であるスノーフェアリーズという単語だったからだ。

「どうしてそれを……」
「今札幌で赤マル急上昇! の注目新人アイドルだからね」

 玲の質問に茶目っ気のある話し方で答える蘭。

「あ、自己紹介まだだったね。私はアイドルグループ『ailes』のひびき蘭。よろしくっ!」
「あ、えっと、わたし『スノーフェアリーズ』の柿木佑香ですっ」
「同じく、葛西美空です」
「成瀬玲、です……」

 玲にはailesと同じように自分達をスノーフェアリーズだと紹介するのが恥ずかしかった。それくらい今日のailesのパフォーマンスは圧巻だった。

「えっと、ひびきさん」
「蘭でいいよ。私も佑香さん、って呼んでいいかな?」
「は、はいっ、蘭さん。蘭さんはどうしてわたしたちを知っていたんですか?」
「さっきも言ったでしょ、赤マル新人アイドルだって。それに、私は実際にみんなのライブ観に行ったしね」

 そう言ってウインクする蘭。

「えっ、H大の……」
「うん。最初から観てたからね。一組目から凄いなって感動したよっ」
「あ、ありがとうございますっ」

 そう返事をしてかしこまる佑香。実際、さきほどまでのパフォーマンスを見せられた後に自分達を褒められてもお世辞ではないだろうかと思ってしまう。

「それにしてもビックリだよ、みんな変装どころかメガネも掛けてないんだもん。絶対にここのファンの人なら気付いてた人いたと思うよ。札幌の中でも特にアイドルに詳しい人が集まってるんだから」
「あ、それで……」

 そう言って笑う蘭の言葉に玲がやっぱりと納得する。途中で感じていた視線は、気のせいや自意識過剰ではなく本当に自分達に向けられていたのだ。

「こういうライブに来たのは初めて?」
「は、はい」
「私たちのライブどうだった?」

 そう聞いてくる蘭に対し、佑香が身を乗り出して答える。

「凄かったです! みなさん歌もダンスも上手で、もう存在感が「アイドル」でした! お客さんも凄い盛り上がっていたし、盛り上げ方もプロみたいで……」
「あはは、私たちも一応プロなんだけどね」
「あっ、す、すみませんっ!」
「いいよいいよ、やっぱりプロって言ったらJPNとかれつマニとか想像するもんね」

 そう言って笑う蘭。そんな会話の中、美空がここに連れて来られてからずっと疑問に思っていたことを口にする。

「あの、蘭さん」
「ん、何?」
「蘭さんは、今日のライブの感想が聞きたくて私達を呼んだのですか?」

 言ってしまってから、もうちょっと言葉を選んだ方が良かったと思いながらも、美空は尋ねる。

「うーんとね……。じゃあ美空さん、美空さんにとってアイドルって何?」
「え?」

 いきなりの蘭からの質問返しに、美空は返答に困ってしまう。

「抽象的すぎたね。えっと、じゃアイドルの目的って何だと思う?」
「アイドルの目的、ですか」

 まだ自分の質問の回答になっているとは思えなかったが、美空は返された質問について考える。

「最高の歌と踊りを見せることだと思います」

 その迷いのない答えと表情に満足そうに頷く蘭。

「うん、それはもちろん大切なこと」

 そう言うと、ふっと優しい、包み込むような笑顔に変わる蘭。

「でも、いちばん大切なこと、アイドルの目的は、観てくれる人に笑顔をとどけること、みんなが笑顔になること。って私は思ってるんだ」

 その言葉に美空ははっとする。自分は今日のライブを見ていて、お客さんを盛り上げるということばかりを気にしていたが、ailes、蘭にとっては盛り上げることは笑顔にすることの副産物だったのだ。

「だからね、私は大事なホームであるこの札幌に、新たに笑顔を生み出してくれるアイドルが増えたことが嬉しいんだ。中にはライバルが増える、っていう子もいるけど、私は大歓迎。笑顔を届けられるアイドルはたくさんいた方がハッピーだもん」

 蘭が、三人の手を取る。

「これからも、一緒にこの札幌を盛り上げていこうね!」

 その手の温かみを感じながら、三人も答える。

「「「はい!」」」

「じゃ私物販に戻るね! 後ろのドアから出たら気付かれずに帰れるからっ」

 そう言い残し、蘭は外の物販列へと消えていった。おそらく蘭が現れたからであろう、部屋の外からは歓声が聞こえる。

「とりあえず、外に出ようか」

 自分達だけになってしまい、控え室の居心地が悪くなった玲が話す。


 とりあえず会場の外に出た三人。ライブの熱気、蘭との会話、色々な出来事を反芻し、しばらく無言のまま三人で向かい合う。

「すごかったね……」

 玲がぽつりとつぶやく。それを合図に、佑香が溢れる思いを口に出す。

「わたしね、今までそんな目標みたいな大それたものはなくて、自分もライマスや他のアイドルアニメの世界にいけるんだ、くらいの気持ちでやってたんだ」

 その佑香の言葉を、美空も玲も真っ直ぐに聞いている。

「でも、今日のライブを見て、蘭さんの言葉を聞いてわかったんだ。わたしがライマスのアニメや中の人のライブを見ていたとき、そして今日ailesのライブを観ていたとき、わたし、いつも笑顔だった」
「うん」
「だから、わたしもこれからアイドル・スノーフェアリーズとして、みんなを笑顔にする、そんな存在になるんだ」

 佑香の言葉に頷く美空と玲。

「うん、私も笑顔を意識して練習していくよ」
「アタシも、頑張る」

 笑顔で見詰め合う三人。いつの間にか空一面を覆っていた雲は薄くなり、雲の切れ間から綺麗な満月が三人を照らしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

処理中です...