ヒカリノツバサ~女子高生アイドルグラフィティ~

フジノシキ

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第4章 アイドルとは、何ですか?

ailes

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 ステージの幕が上がる。

 それと同時にフロア中の観客が一斉に白、青、黄の三色のペンライトを掲げる。三色の光の海が目の前に広がり、驚く三人。

 それ以上に三人が圧倒されたのが、ステージ上の存在感だった。まだステージ上にライトが灯る前のシルエット状態。それでも、ポーズを決めた三人のアイドルの計算され尽くした腕や脚の角度、なによりその存在感に目が釘付けになり、離せなくなった。

「さあみんな、行くよー!!」

 スポットライトの点灯と同時にセンターのアイドルが叫ぶ。その声に呼応するように歓声が起こるフロア。佑香の想像していたアイドルライブ会場の雰囲気がそこにはあった。

「♪夢のー冒険をー」

 華麗なツーステップを決めながらAメロを歌うailes。ツーステップの動きひとつ取っても、ある時は流れるように、ある時は躍動感を持って、歌詞に合わせて細かく動きを変えていた。

「せーのっ、はーい! はーい! はいはいはいはい」

 フロアの観客が一斉に掛け声を上げる。アイドルソングやアニメソングでAメロからBメロに入るときに出る、俗に『警報』と言われる掛け声である。

「う~はい! う~はい! う~はい!」

 Bメロに入り、今度は観客が一斉に『PPPH』と呼ばれるコールを入れる。
 美空と玲は、動画の向こうでしか見たことのなかった光景が間近で行われていることに驚きながらライブを見ていた。しかし、佑香は違った。警報からBメロでPPPHが入るという、自分の求めていたライブの姿に、求めていたものを探し当てたという高揚感を覚えていた。

「♪TOKIMEKIをあげるあげるーよー」

 サビに入り、両腕をいっぱいに伸ばした大きな振り付けで歌うailesの三人。観客も「ふっふー!」と合いの手を入れて盛り上げる。サビの高音も綺麗に歌い上げるailes。歌唱力もそれまでのアイドルグループとは比べ物にならないくらいしっかりとしたものだった。

「ailesです、今日は思いっきり楽しんでいきましょう! せーのっ、ハイ! ハイ!」

 一番が終わり間奏に入って、センターのアイドルが観客を煽っていく。美空は観客の盛り上げ方を今日一日勉強するようにしていたが、ailesは盛り上げ方も抜群に上手だった。

「♪軌跡にー変えてー」
「ふっふー!」

 曲の終わりに合わせて観客が合いの手を入れる。そのまま観客の声が歓声に変わる。狭いライブホールの中で、歓声が地鳴りのように響く。
 歓声の中で、佑香は一瞬見惚れた後、はっと思い出してカバンの中を漁る。

「みなさんこんにちわー、私たち」
「「「ailesです!」」」

 センターのアイドルの言葉に合わせて、三人が声を揃えて自己紹介をする。そのままセンターのアイドルが話し始める。

「今日は天気があまり良くない中、来ていただきありがとうございます! 雨はまだ降ってないのかな?」

 観客の一人が「まだ降ってないー!」と叫ぶ。

「あ、まだ降ってないんだね、良かった。じゃ、このまま雨を降らせないように今日はみなさんの元気な声、聞かせてくださいっ!」

 ペンライトを振りながら歓声で答えるフロア。

「では自己紹介を、じゃ今日はー、よし、みっくから」
「はーい、じゃわたしからいきまーす」
 
 センターのアイドルに振られて、向かって左側のアイドルが自己紹介を始める。ふんわりとしたパーマをかけて、表情から出る雰囲気もふんわりとした感じだ。衣装は青をベースにしていて、観客も一斉にペンライトを青に切り替える。

「みなさんこんにちわ、ailesの三嶋みくです。今日はみなさんと楽しい、楽しい時間を過ごせたらいいなと思います。よろしくおねがいします」

 挨拶に合わせてフロアから歓声が上がる。そして、歓声が終わると同時に一斉にペンライトを青から黄色に変える。

「みんな、こんにちわ。ailesの北条流嘉です」

 向かって右側のアイドル、北条流嘉が自己紹介を始める。こちらは背が高く綺麗なストレートロングの髪で、外見的には玲に似ている。ただし、玲のような自信無さ気なところはなく、口調もさばさばとしている。

「こんなに沢山のファンの方に囲まれて嬉しいです。今日は盛り上がっていきましょう!」

 またフロアから歓声が上がる。そして、歓声が終わると今度は一斉にペンライトが白に変わる。真っ白に光り輝くフロアを前に、最後にセンターのアイドルが自己紹介をする。

「みなさんこんにちわ! ailesリーダーのひびき蘭です。今日のライブ、トリを務めさせて頂けるということで光栄です。今日この日、このライブがみなさんの記憶に一生残りますように、私たちもめいっぱい楽しんでライブをお届けします。みなさんも楽しんでください!」

 自己紹介が終わると、大歓声と共に四方から「蘭ちゃーん!」という叫び声が上がる。手を振って応えていた蘭だったが、やがてゆっくりとポーズを取る。みくと流嘉も同時にポーズを取っている。それを見て観客も自然と静かになる。


「それでは次の曲、聴いてください」

 蘭の言葉と共に、ピアノのゆったりとした前奏が流れる。今度の曲はバラードだった。フロア中の観客も、曲調に合わせて、ペンライトをゆっくりと下から上へと振り上げる。『捧げ』と呼ばれる、バラード調の曲で使われるペンライトの動きだった。
 その光の波の中に、自分のペンライトを持った佑香も混じっていた。純粋にフロアと一体となって盛り上げたいという思いが、佑香を突き動かしていた。

 三曲目はまたアップテンポの典型的なアイドル曲で、佑香も一緒になってPPPHを行う。四曲目はアイドルソングとしては珍しいエレクトロダンスミュージック、通称EDMと呼ばれる曲調の曲だった。重低音のバスドラムの四つ打ちに合わせてキレの良いダンスを決める三人。そのかっこよさに佑香はペンライトを振るのも忘れて見入っていた。特に佑香はセンターの蘭のファンになっていた。自分と同じセンターだからだというわけでなく、その歌、ダンス、MC全てが佑香の脳内にキラキラと焼き付いていた。


「それでは次でラストの曲です」

 流嘉の言葉にフロア中の観客が「えー!」と不満のブーイングを入れる。絶妙の間を空けてから蘭が口を開く。

「みなさんありがとうございます。最後はあの曲やるので、おもいっきり楽しんでくださいっ!」

 その言葉と共にポーズを決めるailesの三人。特に誰かが合図をするわけでもなく、自然に声が揃う。

「「「『レインボー フライト』!」」」

 ラストの曲は、出だしから強烈なアップテンポの曲だった。前奏からフロア中が「はい! はい!」と掛け声を入れる。

「♪もっとー激しくー いくよっ! レインボー」
「フライトッ!!」

 サビでは蘭の掛け声に合わせて観客全員が「フライト!」と歌詞を叫んでいた。ライマスのライブDVDで何度も見ていたステージ上と観客とのやりとりが目の前で繰り広げられ、佑香はただひたすらにその輪の中へと加わっていった。

「♪輝きのー向こうへー」

 歌い終わって三人が締めのポーズを決める。それに被せるようにフロア中から歓声が上がる。三人の名前を叫ぶ者もいる。佑香も観客の輪の中に入って、一緒に拍手をしていた。

「ありがとうございました! ailesでした。この後は入口付近で物販があります。ぜひみなさん今日参加したグループで気になったアイドルがいたら、CDやグッズなどお買い求めくださーい。私たちも着替えたらすぐ行きますね!」

 そう言ってステージ脇に去っていくailes。フロアの観客達も一斉に荷物をしまって会場を出て行く。

「あれ、みんな余韻に浸ったりしないんだ」
「ライブの後は、さっきMCで言ってたみたいにCDやグッズを買ったらアイドルと握手ができるから、みんな握手会に並びに行く、らしい」

 会場の流れがよくわかっていない美空に対し、玲がネットで調べてきた知識で答える。そんな二人の会話が聞こえているのか、佑香は暗くなったステージ上を見つめ続けていた。

「佑香……?」
「えっ、ごめん玲ちゃん呼んだ?」
「いや、佑香ずっとステージを見ていたから」
「『ailes』のステージ、凄かったね!」

 佑香の目は輝いていた。玲と美空も笑顔で返す。

「うん、凄かった……」
「観に来て良かったね」


 その時、佑香たち以外には数人しか残っていなかったフロアに、一人の女性が入ってきた。
 真っ白い衣装に銀色のシュシュで留められたポニーテール。それは、つい今までステージ上で歌っていた、ailesのひびき蘭その人だった。蘭は真っ直ぐに佑香達に近付いてくる。その姿を見た佑香が思わず声を出そうとするところを、蘭は指を口に当てて「静かに」というポーズを取る。

「みんな、私についてきてっ」

 三人は、わけがわからないままフロアの外へ連れ出された。
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