44 / 52
七日目
坂倉小太郎-Part3-
十五年前の夏。
坂倉夫妻は救急車の中で必死に息子の名前を叫んでいた。
「小太郎(こたろう)、頑張って! もうすぐ着くから!」
先程まで苦しそうにしていたのに、今や身動き一つとらない。かろうじて呼吸はしているが、意識はない。
――このまま死んでしまうのか。まだ小さいのに、こんな事って……あんまりじゃない……。
麻耶はそう思いながら、強く手を握った。握るしか出来なかった。
病院に着き緊急手術が始まった。
エントランスのベンチで幹夫と一緒に成功を祈る。
麻耶と幹夫にとって小太郎は苦労してやっと授かった大事な宝物。
あえて誤解を恐れずに言うのであれば――。
――他の子がどうなろうが知ったこっちゃない、小太郎さえ助かればそれでいい。
そう思ってさえいた。
「大丈夫さ。僕達の息子を信じよう」
「……そうね」
幹夫が麻耶の背中を優しくさする。
四時間か五時間か……経った時間は定かではなく、その間何を思い何を考えていたのか、麻耶の記憶が曖昧になる中、〝手術中〟の電灯が消えたのは鮮明に覚えていた。そこから疲労し切った表情で出てきた医者が当時まだ医者になりたての蒲桜吏王であった。
「先生! 小太郎は……小太郎は大丈夫なんでしょうか⁉」
麻耶が吏王に詰め寄る。
「はい。とりあえず、一命は取り留めました。ただ、山場はここからです。乗り越えられるかどうかは、本人次第ですね」
失礼します、と言って、吏王はその場を去っていった。
麻耶は安堵と不安が複雑に絡みあい、しばらくその場から動く事が出来なかった。
一日、二日、三日……。
日が経つごとに増す緊張感が坂倉夫妻の心中を圧迫する。
病状が悪化したのは手術をしてから二週間後の夜だった。
安定していた小太郎が急に吐き気と頭痛を訴え始めたのだ。
連絡を受けた坂倉夫妻が吏王から説明を受ける。
「詳細な検査をしまして……驚かないで冷静に聞いてくださいね」
吏王が少し間を空け、口を開く。
「小太郎君は白血病です」
それを告げられた瞬間、麻耶を支えていた全身の力が抜ける。
幹夫が信じられないというような表情で吏王を見る。
吏王の言葉は夫婦にとって絶望の何物でもなかった。
坂倉夫妻は救急車の中で必死に息子の名前を叫んでいた。
「小太郎(こたろう)、頑張って! もうすぐ着くから!」
先程まで苦しそうにしていたのに、今や身動き一つとらない。かろうじて呼吸はしているが、意識はない。
――このまま死んでしまうのか。まだ小さいのに、こんな事って……あんまりじゃない……。
麻耶はそう思いながら、強く手を握った。握るしか出来なかった。
病院に着き緊急手術が始まった。
エントランスのベンチで幹夫と一緒に成功を祈る。
麻耶と幹夫にとって小太郎は苦労してやっと授かった大事な宝物。
あえて誤解を恐れずに言うのであれば――。
――他の子がどうなろうが知ったこっちゃない、小太郎さえ助かればそれでいい。
そう思ってさえいた。
「大丈夫さ。僕達の息子を信じよう」
「……そうね」
幹夫が麻耶の背中を優しくさする。
四時間か五時間か……経った時間は定かではなく、その間何を思い何を考えていたのか、麻耶の記憶が曖昧になる中、〝手術中〟の電灯が消えたのは鮮明に覚えていた。そこから疲労し切った表情で出てきた医者が当時まだ医者になりたての蒲桜吏王であった。
「先生! 小太郎は……小太郎は大丈夫なんでしょうか⁉」
麻耶が吏王に詰め寄る。
「はい。とりあえず、一命は取り留めました。ただ、山場はここからです。乗り越えられるかどうかは、本人次第ですね」
失礼します、と言って、吏王はその場を去っていった。
麻耶は安堵と不安が複雑に絡みあい、しばらくその場から動く事が出来なかった。
一日、二日、三日……。
日が経つごとに増す緊張感が坂倉夫妻の心中を圧迫する。
病状が悪化したのは手術をしてから二週間後の夜だった。
安定していた小太郎が急に吐き気と頭痛を訴え始めたのだ。
連絡を受けた坂倉夫妻が吏王から説明を受ける。
「詳細な検査をしまして……驚かないで冷静に聞いてくださいね」
吏王が少し間を空け、口を開く。
「小太郎君は白血病です」
それを告げられた瞬間、麻耶を支えていた全身の力が抜ける。
幹夫が信じられないというような表情で吏王を見る。
吏王の言葉は夫婦にとって絶望の何物でもなかった。
あなたにおすすめの小説
絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。
孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。
その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。
そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。
同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。
春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。
昔から志穂が近くにいてくれるから……。
しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。
登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。
志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。
彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。
志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。
そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。
その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。
リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜
ゆずき
恋愛
公爵家の御令嬢クレハは、18歳の誕生日に何者かに殺害されてしまう。そんなクレハを救ったのは、神を自称する青年(長身イケメン)だった。
イケメン神様の力で10年前の世界に戻されてしまったクレハ。そこから運命の軌道修正を図る。犯人を返り討ちにできるくらい、強くなればいいじゃないか!! そう思ったクレハは、神様からは魔法を、クレハに一目惚れした王太子からは武術の手ほどきを受ける。クレハの強化トレーニングが始まった。
8歳の子供の姿に戻ってしまった少女と、お人好しな神様。そんな2人が主人公の異世界恋愛ファンタジー小説です。
※メインではありませんが、ストーリーにBL的要素が含まれます。少しでもそのような描写が苦手な方はご注意下さい。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
わたしたち、いまさら恋ができますか?
樹沙都
恋愛
藤本波瑠《ふじもとはる》は、仕事に邁進するアラサー女子。二十九歳ともなればライフスタイルも確立しすっかり独身も板についた。
だが、条件の揃った独身主義の三十路には、現実の壁が立ちはだかる。
身内はおろか取引先からまで家庭を持って一人前と諭され見合いを持ち込まれ、辟易する日々をおくる波瑠に、名案とばかりに昔馴染みの飲み友達である浅野俊輔《あさのしゅんすけ》が「俺と本気で恋愛すればいいだろ?」と、囁いた。
幼かった遠い昔、自然消滅したとはいえ、一度はお互いに気持ちを通じ合わせた相手ではあるが、いまではすっかり男女を超越している。その上、お互いの面倒な異性関係の防波堤——といえば聞こえはいいが、つまるところ俊輔の女性関係の後始末係をさせられている間柄。
そんなふたりが、いまさら恋愛なんてできるのか?
おとなになったふたりの恋の行方はいかに?
半年間、俺の妻になれ〜幼馴染CEOのありえない求婚から始まる仮初の溺愛新婚生活〜 崖っぷち元社畜、会社が倒産したら玉の輿に乗りました!?
とろみ
恋愛
出勤したら会社が無くなっていた。
高瀬由衣(たかせゆい)二十七歳。金ナシ、職ナシ、彼氏ナシ。ついでに結婚願望も丸でナシ。
明日までに家賃を用意できなければ更に家も無くなってしまう。でも絶対田舎の実家には帰りたくない!!
そんな崖っぷちの由衣に救いの手を差し伸べたのは、幼なじみで大企業CEOの宮坂直人(みやさかなおと)。
「なぁ、俺と結婚しないか?」
直人は縁談よけのため、由衣に仮初の花嫁役を打診する。その代わりその間の生活費は全て直人が持つという。
便利な仮初の妻が欲しい直人と、金は無いけど東京に居続けたい由衣。
利害の一致から始まった愛のない結婚生活のはずが、気付けばいつの間にか世話焼きで独占欲強めな幼なじみCEOに囲い込まれていて――。