【完結】記憶を失った彼と植物になった彼女の七日間

よーじろー

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七日目

坂倉小太郎-Part3-

 十五年前の夏。
 坂倉夫妻は救急車の中で必死に息子の名前を叫んでいた。
「小太郎(こたろう)、頑張って! もうすぐ着くから!」
 先程まで苦しそうにしていたのに、今や身動き一つとらない。かろうじて呼吸はしているが、意識はない。
 ――このまま死んでしまうのか。まだ小さいのに、こんな事って……あんまりじゃない……。
 麻耶はそう思いながら、強く手を握った。握るしか出来なかった。
 病院に着き緊急手術が始まった。
 エントランスのベンチで幹夫と一緒に成功を祈る。
 麻耶と幹夫にとって小太郎は苦労してやっと授かった大事な宝物。
 あえて誤解を恐れずに言うのであれば――。
 ――他の子がどうなろうが知ったこっちゃない、小太郎さえ助かればそれでいい。
 そう思ってさえいた。
「大丈夫さ。僕達の息子を信じよう」
「……そうね」
 幹夫が麻耶の背中を優しくさする。
 四時間か五時間か……経った時間は定かではなく、その間何を思い何を考えていたのか、麻耶の記憶が曖昧になる中、〝手術中〟の電灯が消えたのは鮮明に覚えていた。そこから疲労し切った表情で出てきた医者が当時まだ医者になりたての蒲桜吏王であった。
「先生! 小太郎は……小太郎は大丈夫なんでしょうか⁉」
 麻耶が吏王に詰め寄る。
「はい。とりあえず、一命は取り留めました。ただ、山場はここからです。乗り越えられるかどうかは、本人次第ですね」
 失礼します、と言って、吏王はその場を去っていった。
 麻耶は安堵と不安が複雑に絡みあい、しばらくその場から動く事が出来なかった。
 一日、二日、三日……。
 日が経つごとに増す緊張感が坂倉夫妻の心中を圧迫する。
 病状が悪化したのは手術をしてから二週間後の夜だった。
 安定していた小太郎が急に吐き気と頭痛を訴え始めたのだ。
 連絡を受けた坂倉夫妻が吏王から説明を受ける。
「詳細な検査をしまして……驚かないで冷静に聞いてくださいね」
 吏王が少し間を空け、口を開く。
「小太郎君は白血病です」
 それを告げられた瞬間、麻耶を支えていた全身の力が抜ける。
 幹夫が信じられないというような表情で吏王を見る。
 吏王の言葉は夫婦にとって絶望の何物でもなかった。
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