【完結】記憶を失った彼と植物になった彼女の七日間

よーじろー

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後日談

植物になった私と記憶を失った彼の七日間の結末-Part3-

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 茅ヶ崎駅に降りた途端、吹く潮風が圭の頬を撫でる。前回来た時からそこまで時間は経っていないのにもかかわらず、その風と匂いに圭はどこか懐かしささえ覚えていた。
 駅に隣接する商業施設の喫茶店でコーヒーを飲む。心を落ち着かせる事よりも往生際の悪い足掻きに近い。十二分に溜息と愚痴を吐き、バス乗り場に行く。程なくして来たバスに乗り込む。思ったよりも混んでいなかったが、いまだ海水浴目当てに来た客ばかりであった。
 最寄りの停車場で降りて、少し歩くと茶華の家は目の前だった。
 家の前で鏡花が目を閉じ深呼吸をする。
「大丈夫?」
 圭が心配そうに声をかける。
「うん。大丈夫」
 そう言って、チャイムを鳴らそうとした時。
「――前にも言っただろう。勝手に入ってきな」
 押す前に家の中から声が聞こえてきた。
 鏡花はそのぶっきらぼうな声に一度心臓が跳ねるが、同時にどこか安心していた。
「……お邪魔しまーす」
 小さな声で恐る恐る足を踏み入れる。まるでお化け屋敷にでも入るかのような所作だが、鏡花にとってまだお化け屋敷の方が容易かった。
 泥棒よろしくなるべく足音を立てずに進む。なるべく痕跡を残したくない。
「やけに遅かったじゃないか。どこで道草を食っていたんだい?」
 リビングへの扉を開けるとすでに茶華は準備万端だった。
「いえいえ、道草なんて、そんな……ねえ?」
「そ、そうよ。まさか……ねえ」
「ほお、そうかい。駅の喫茶店で一時間半も使っておいて、どの口がそんな事を言ってるんだろうね」
 やはりと言うべきか、茶華には全ての行動が筒抜けであった。ここまでくると発信機が仕掛けられているのではないか、と疑ってしまう。
「まあ、そんな事は置いといて……鏡花、無事で何よりだよ」
「……うん」
「ほんと大変だったね。辛い事や悲しい事の連続だっただろう。でも、ここまでよく我慢したよ」
「うん」
「うーん……だめだ、本当は小言の一言や二言くらいは言ってやろうかと思ったんだけど、もう歳かね。忘れちまったよ」
「うん」
「鏡花」
「うん?」
「おかえり」
「ただいま」
 茶華が柔らかい笑みを浮かべ、鏡花は微笑みながら目尻を濡らす。そこに過去の気まずさや後ろめたさは一片たりともなかった。
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