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五章
無力を感じた時、僕は……~Part5~
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〝心地よい鳥籠〟の主人公、光は幼い頃から自分のことは自分でやるしっかりした子供だった。それゆえ、それ以外には驚くほど無関心だった。 女手ひとつで育ててくれている母親に迷惑をかけたくなかったのだ。
それはたとえ妹であっても例外ではなかった。
妹、純は母親から暴力を受けていた。
最初こそ、父親がいなかったこともあり、仕事と家事、育児とひとつの身体でこなさなければいけないことへのストレスがそうさせているのだろうと無理やり自分を納得させていたが、それは日に日にエスカレートしていった。聞こえてくる悲鳴と罵声から容易に判断できた。
それを光は見て見ぬ振りをした。
耳にイヤホンを付けて、妹の泣き声を聞かないようにした。中途半端な正義感を発揮した時、自分に降りかかる火の粉が怖かったのだ。
しかし、その考えもある小説を読んで変わった。それはとある作家が書いたものでとっくのとうに廃版になっていたが、たまたま立ち寄った古本屋で見つけたのだ。内容は陳腐なものでお世辞にも面白いと言えるようなものではなかった。しかし、調べるとその小説家はまだ活動していた。不定期ではあるが、本も出版している。
それを知った時、光は思い知らされた。
――努力も何もしていない自分がいかに卑怯な存在か。
ある日、妹と風呂に入った。現状を知るのが怖くて避けていたが、立ち向かおうと思ったのだ。しかし、その姿を見て驚愕した。妹は身体中青痣だらけになっても、大丈夫、と言い続け不器用に笑みを浮かべるのだ。我慢しても涙が止まらなかった。愚かな私を責め立てるために流れるその涙ひと粒ひと粒が重い。自分の情けなさ、弱さ、不甲斐なさが、ああ、恥ずかしい。妹は極限まで耐えているというのに、それに甘えて逃げていた。これでは姉として、なにより人間として腐ってしまう。
そう感じ、いざ行動しようとした時。
突如、それは終わりを告げた。
母親が自殺したのだ。
原因は分からない。もしかしたら自殺に見せかけた殺人だったのかもしれないが、元より光にとってそんなことは瑣末なことだった。
その後、頼れる身寄りのいない二人は別々の孤児院に入れられ育った。
光があの時からの念願だった小説家になれたその日の夜。もう二度と会うことはないと思っていた最愛の妹、純を偶然街で見つけた。本当ならば、すぐにでも言って抱きしめたいところだった。しかし、妹の目はまさにあの時、母親の暴力を受けていた時、大丈夫と無理やり笑みをこぼした時に見せた目そのものだったのだ。
それを機に光は純に気づかれることなく、純の力になることを胸に誓う。もうあの時みたいな後悔はしたくない。
探偵を雇い調べてみると二十代前半で結婚した純は優しい夫と二人の子供に囲まれ、一見すると幸せそのものだった。
夫が仕事に出かけ二人の子供が学校に行き、黙々と家事をこなすが、そこに帽子を深く被った男がチャイムを鳴らす。
純は人目を気にしながら恐る恐る扉を開け、その男を招き入れる。
男は薬の売人だった。純は近所のママ友に騙され、薬を転売していたのだ。
それを知った光は男の居場所を突き止め、問い詰める。
純に薬を売らせるのはもうやめてくれ。
あの子は私が更生させる。
しかし、男は聞く耳を持たなかった。それどころか、光に薬を勧めてきた。
その後、口論になった光は衝動的に男を殺してしまう。最初は狼狽えた光だったが、純がこれで薬から足を洗えるなら本望だと思った。しかし、それは甘かった。次の日、別の男が純の家の門を叩く。結局、替えはいくらでもいるのだった。
そして、光は決心した。
純の代わりに私が薬を売る、と。
そして、三〇年が経ったある日。
初孫を嬉しそうに抱く純。
光はその姿を目に焼き付ける。
もう会うことはおろか、姿を見ることはできないということを知っていたのだ。
その後、光の姿を見た者は誰一人としていなかった。
終始重苦しく進み起伏は緩やか。そして、涙を誘うようなラストでもなければ気持ちが晴れるわけでもないラスト。本で読む分には人の複雑な心情が上手に描写されており、また読者に考えさせる部分も多いため、素晴らしい物語だと思う。
しかし、仮にプロの役者が演じたとして、これを実写化させ観客を満足させることができるだろうか、という不安を感じずにはいられない。ましてや僕たちは一介の高校生である。
それはたとえ妹であっても例外ではなかった。
妹、純は母親から暴力を受けていた。
最初こそ、父親がいなかったこともあり、仕事と家事、育児とひとつの身体でこなさなければいけないことへのストレスがそうさせているのだろうと無理やり自分を納得させていたが、それは日に日にエスカレートしていった。聞こえてくる悲鳴と罵声から容易に判断できた。
それを光は見て見ぬ振りをした。
耳にイヤホンを付けて、妹の泣き声を聞かないようにした。中途半端な正義感を発揮した時、自分に降りかかる火の粉が怖かったのだ。
しかし、その考えもある小説を読んで変わった。それはとある作家が書いたものでとっくのとうに廃版になっていたが、たまたま立ち寄った古本屋で見つけたのだ。内容は陳腐なものでお世辞にも面白いと言えるようなものではなかった。しかし、調べるとその小説家はまだ活動していた。不定期ではあるが、本も出版している。
それを知った時、光は思い知らされた。
――努力も何もしていない自分がいかに卑怯な存在か。
ある日、妹と風呂に入った。現状を知るのが怖くて避けていたが、立ち向かおうと思ったのだ。しかし、その姿を見て驚愕した。妹は身体中青痣だらけになっても、大丈夫、と言い続け不器用に笑みを浮かべるのだ。我慢しても涙が止まらなかった。愚かな私を責め立てるために流れるその涙ひと粒ひと粒が重い。自分の情けなさ、弱さ、不甲斐なさが、ああ、恥ずかしい。妹は極限まで耐えているというのに、それに甘えて逃げていた。これでは姉として、なにより人間として腐ってしまう。
そう感じ、いざ行動しようとした時。
突如、それは終わりを告げた。
母親が自殺したのだ。
原因は分からない。もしかしたら自殺に見せかけた殺人だったのかもしれないが、元より光にとってそんなことは瑣末なことだった。
その後、頼れる身寄りのいない二人は別々の孤児院に入れられ育った。
光があの時からの念願だった小説家になれたその日の夜。もう二度と会うことはないと思っていた最愛の妹、純を偶然街で見つけた。本当ならば、すぐにでも言って抱きしめたいところだった。しかし、妹の目はまさにあの時、母親の暴力を受けていた時、大丈夫と無理やり笑みをこぼした時に見せた目そのものだったのだ。
それを機に光は純に気づかれることなく、純の力になることを胸に誓う。もうあの時みたいな後悔はしたくない。
探偵を雇い調べてみると二十代前半で結婚した純は優しい夫と二人の子供に囲まれ、一見すると幸せそのものだった。
夫が仕事に出かけ二人の子供が学校に行き、黙々と家事をこなすが、そこに帽子を深く被った男がチャイムを鳴らす。
純は人目を気にしながら恐る恐る扉を開け、その男を招き入れる。
男は薬の売人だった。純は近所のママ友に騙され、薬を転売していたのだ。
それを知った光は男の居場所を突き止め、問い詰める。
純に薬を売らせるのはもうやめてくれ。
あの子は私が更生させる。
しかし、男は聞く耳を持たなかった。それどころか、光に薬を勧めてきた。
その後、口論になった光は衝動的に男を殺してしまう。最初は狼狽えた光だったが、純がこれで薬から足を洗えるなら本望だと思った。しかし、それは甘かった。次の日、別の男が純の家の門を叩く。結局、替えはいくらでもいるのだった。
そして、光は決心した。
純の代わりに私が薬を売る、と。
そして、三〇年が経ったある日。
初孫を嬉しそうに抱く純。
光はその姿を目に焼き付ける。
もう会うことはおろか、姿を見ることはできないということを知っていたのだ。
その後、光の姿を見た者は誰一人としていなかった。
終始重苦しく進み起伏は緩やか。そして、涙を誘うようなラストでもなければ気持ちが晴れるわけでもないラスト。本で読む分には人の複雑な心情が上手に描写されており、また読者に考えさせる部分も多いため、素晴らしい物語だと思う。
しかし、仮にプロの役者が演じたとして、これを実写化させ観客を満足させることができるだろうか、という不安を感じずにはいられない。ましてや僕たちは一介の高校生である。
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