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五章
無力を感じた時、僕は……~Part6~
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翌日の放課後、教室で賛否をとる。
結果、賛成多数にて可決。
三組の出し物は〝心地よい鳥籠〟に決定した。と言っても積極的に参加している人は少ないので、元より異論などでないだろう。もし参加していない人があーだこーだ言ってきたら、意見を言わない方が悪いと一蹴するつもりだ。断固として異論は認めない。
「次に劇に出る人を決めたいと思います」
登場人物はそこまで多くないが、ここが決まらないと先に進まない。
書記が黒板に配役を書いていく。
〝伊沢 光(姉)〟〝伊沢 純(妹)〟〝伊沢 薫(母)〟…………。
書き終えたところを見計らって、月島先生は椅子から立ち綺麗な姿勢でチョークを持つ。
〝伊沢 光(姉) 香椎 茉莉〟
〝伊沢 純(妹) 如月 陸奥〟
直したところと加えたところを一度見て、もう一度見る。
僕を含めた全員が驚きを隠せない。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。
僕が姉か妹のどちらかを演じることは知っていたが、しかし、姉役がまさか茉莉とは……。
「ちょ、月島先生!」
茉莉が血相を変え、柄にもなく大きな声を上げる。
その声に本日二回目の驚きが教室に走る。
僕はもはや見慣れたが、茉莉がここまで感情的になるところを皆は初めて見るのだろう。漫画やアニメだったら確実に眼球が飛び出している。
「ん、何?」
「何、じゃないですよ! どうして私が、よりによって、伊沢光を演じなくちゃいけないんですか!」
もはや茉莉は隠す気はないらしい。僕としてはこっちの茉莉の方が断然魅力的だから何の問題もない。むしろ、これを機に一人でも多く茉莉に近づいてくれる人が出てくればなお嬉しい。
「だって、香椎さん、演じるの得意じゃない」
「私のどこをどう見たらその結論に至るのか、詳しく説明していただきたいのですが!」
「どこをどう見たらって……ねぇ、陸奥くんはどう思う?」
月島先生が目を泳がせながら話を僕に振る。こんな先生の姿を見るのは珍しいが、って、おい! ここで振らないでくれ! どっちの肩を持ったとしても、待ってるのは非業な死じゃないか!
「…………」
頭をフル回転させる。
先生の言わんとすることは分からなくはない。僕と純同様、茉莉と光も似ているところが多い。僕が知る限り、茉莉以上に光の心を理解し表現できる人はいないだろうし、さらに言えば普段から毒舌という仮面を被って生活していた経験がある。言うならば演技を日常からしていたのだ。これほど適任な人物はいないだろう。しかし、だからといってやりたくないことを押し付けるのは嫌だし、第一そんなことで劇が成功するとは到底思えないし、ならば、できれば使いたくなかったし、使ったからといって確実に茉莉が納得して応じてくれるわけでもないし……。
この間、およそ一秒。
僕は素早くメモ帳に伝えるべき内容を殴り書き、破って茉莉に渡す。
鼻息を荒くしたまま茉莉はそれに視線を這わせる。
すると次第に落ち着きを取り戻し、最後にはいつもの表情に戻っていた。
「……分かりました。やります」
そう呟くと、紙をポケットにいれ席に戻る。
月島先生を含めたこの場にいる全員が唖然とする。
策を講じた僕自身も驚きを隠せない。
少し遅れて教室がざわめき立つ。隣の人と話をし、ちらりと茉莉に目をやる人がほとんどだ。
それを知ってか知らずか、茉莉はずっと下を向いたままだった。時折、鼻を啜る音も聞こえてくる。そんなに嫌だったのか。後でもう一回聞いて、本当に嫌なら僕が殴られることを承知で月島先生に直談判してこよう……少し手足が震えるが、そんなことは関係ない。
「じゃ、じゃあ、他の配役を決めましょうか。何かやりたい人はいますか?」
僕と茉莉のことなど露知らず、会議は進んでいく。
立候補を募るが、案の定、そんな奇特な人は皆無なため、推薦を集め何とか配役を決めた。不満を漏らす人も中にはいたが、その人達は月島先生に頼んだ。他の教室に連れていかれ、戻ってきた時には、満面の笑みで引き受けてくれた。何があったのかは詮索しない方が本人のためだろう。ちなみに、いない人は僕が勝手に割り振った。もし、文句を言ってくる人がいたら、また月島先生に頼もう。
何はともあれ、とりあえず一件落着を迎えた。
「それでは、今日の会議を終了します。次は一週間後になります。その時は各々進捗状況を報告していただきますので、くれぐれも遅くならないように余裕をもって準備してください。お疲れさまでした」
終わってからも話している人もいたが、それも一〇分程度で全員はけた。しかし、それでも茉莉は下を向いたまま席を立とうとしない。
心配になり近くまで行くが……いや、ごめん。演じるのが心底嫌なのか、と思ったが、謹んで訂正しよう。
「……あの、まつりさん」
「はい?」
「隠れてラノベを読んでんじゃねえ!」
心配は全くの杞憂だった。
茉莉は歯牙にもかけないどころか、本から目を離すことをやめない。
「ええー」
そして、駄々を捏ね始めやがった。
「『ええー』じゃない」
「りいー」
「『りいー』でもない」
「おおー」
「『おおー』でも……って駄々を捏ねているのかと思いきや、ただ単にヒロインの名前を言ってるだけじゃないか! 第一、僕はりゅうしさんの方が好きだよ!」
大好きなラノベだけについ思いが声に乗ってしまった。無意識のうちにツッコミが板についてきてしまっていることが、なんだか腑に落ちない。
「おっ、奇遇ですね。私もです」
「……あっ、さようですか……」
そう言って茉莉がカバンに本をしまい、席を立つ。そして、その後、僕の顔を見ることも何かを言うこともなく教室を後にする。静寂の中、ひとつ溜息を吐き僕も教室を出る。こういう空気になることももう慣れた。
本番まであと二か月。急にかつ半ば強引に決められてしまった役ではあるが、決まった以上、投げ出す選択肢はない。というより、そんなことをしたら月島先生に冗談抜きで殺されるだろう。嫌でも全うしなくてはいけない。
「陸奥」
そう思いながら教室を出ると、扉で待っていた吉備に声をかけられた。
「あの時、香椎さんにどんな魔法かけたんや?」
「魔法なんて、そんな大層なものじゃないよ。ただ……」
「ただ?」
「『優勝したらひとつ何でもする』って伝えただけ」
吉備が瞬きを数度した後、目を丸くする。
「ふーん、そうなんや、あの香椎茉莉がな、ふーん」
吉備はそう独り言ちるとそそくさと去ってしまった。
意味ありげな言葉に僕は首を傾げ考えるが、いくら考えても僕には見当もつかなかった。
結果、賛成多数にて可決。
三組の出し物は〝心地よい鳥籠〟に決定した。と言っても積極的に参加している人は少ないので、元より異論などでないだろう。もし参加していない人があーだこーだ言ってきたら、意見を言わない方が悪いと一蹴するつもりだ。断固として異論は認めない。
「次に劇に出る人を決めたいと思います」
登場人物はそこまで多くないが、ここが決まらないと先に進まない。
書記が黒板に配役を書いていく。
〝伊沢 光(姉)〟〝伊沢 純(妹)〟〝伊沢 薫(母)〟…………。
書き終えたところを見計らって、月島先生は椅子から立ち綺麗な姿勢でチョークを持つ。
〝伊沢 光(姉) 香椎 茉莉〟
〝伊沢 純(妹) 如月 陸奥〟
直したところと加えたところを一度見て、もう一度見る。
僕を含めた全員が驚きを隠せない。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。
僕が姉か妹のどちらかを演じることは知っていたが、しかし、姉役がまさか茉莉とは……。
「ちょ、月島先生!」
茉莉が血相を変え、柄にもなく大きな声を上げる。
その声に本日二回目の驚きが教室に走る。
僕はもはや見慣れたが、茉莉がここまで感情的になるところを皆は初めて見るのだろう。漫画やアニメだったら確実に眼球が飛び出している。
「ん、何?」
「何、じゃないですよ! どうして私が、よりによって、伊沢光を演じなくちゃいけないんですか!」
もはや茉莉は隠す気はないらしい。僕としてはこっちの茉莉の方が断然魅力的だから何の問題もない。むしろ、これを機に一人でも多く茉莉に近づいてくれる人が出てくればなお嬉しい。
「だって、香椎さん、演じるの得意じゃない」
「私のどこをどう見たらその結論に至るのか、詳しく説明していただきたいのですが!」
「どこをどう見たらって……ねぇ、陸奥くんはどう思う?」
月島先生が目を泳がせながら話を僕に振る。こんな先生の姿を見るのは珍しいが、って、おい! ここで振らないでくれ! どっちの肩を持ったとしても、待ってるのは非業な死じゃないか!
「…………」
頭をフル回転させる。
先生の言わんとすることは分からなくはない。僕と純同様、茉莉と光も似ているところが多い。僕が知る限り、茉莉以上に光の心を理解し表現できる人はいないだろうし、さらに言えば普段から毒舌という仮面を被って生活していた経験がある。言うならば演技を日常からしていたのだ。これほど適任な人物はいないだろう。しかし、だからといってやりたくないことを押し付けるのは嫌だし、第一そんなことで劇が成功するとは到底思えないし、ならば、できれば使いたくなかったし、使ったからといって確実に茉莉が納得して応じてくれるわけでもないし……。
この間、およそ一秒。
僕は素早くメモ帳に伝えるべき内容を殴り書き、破って茉莉に渡す。
鼻息を荒くしたまま茉莉はそれに視線を這わせる。
すると次第に落ち着きを取り戻し、最後にはいつもの表情に戻っていた。
「……分かりました。やります」
そう呟くと、紙をポケットにいれ席に戻る。
月島先生を含めたこの場にいる全員が唖然とする。
策を講じた僕自身も驚きを隠せない。
少し遅れて教室がざわめき立つ。隣の人と話をし、ちらりと茉莉に目をやる人がほとんどだ。
それを知ってか知らずか、茉莉はずっと下を向いたままだった。時折、鼻を啜る音も聞こえてくる。そんなに嫌だったのか。後でもう一回聞いて、本当に嫌なら僕が殴られることを承知で月島先生に直談判してこよう……少し手足が震えるが、そんなことは関係ない。
「じゃ、じゃあ、他の配役を決めましょうか。何かやりたい人はいますか?」
僕と茉莉のことなど露知らず、会議は進んでいく。
立候補を募るが、案の定、そんな奇特な人は皆無なため、推薦を集め何とか配役を決めた。不満を漏らす人も中にはいたが、その人達は月島先生に頼んだ。他の教室に連れていかれ、戻ってきた時には、満面の笑みで引き受けてくれた。何があったのかは詮索しない方が本人のためだろう。ちなみに、いない人は僕が勝手に割り振った。もし、文句を言ってくる人がいたら、また月島先生に頼もう。
何はともあれ、とりあえず一件落着を迎えた。
「それでは、今日の会議を終了します。次は一週間後になります。その時は各々進捗状況を報告していただきますので、くれぐれも遅くならないように余裕をもって準備してください。お疲れさまでした」
終わってからも話している人もいたが、それも一〇分程度で全員はけた。しかし、それでも茉莉は下を向いたまま席を立とうとしない。
心配になり近くまで行くが……いや、ごめん。演じるのが心底嫌なのか、と思ったが、謹んで訂正しよう。
「……あの、まつりさん」
「はい?」
「隠れてラノベを読んでんじゃねえ!」
心配は全くの杞憂だった。
茉莉は歯牙にもかけないどころか、本から目を離すことをやめない。
「ええー」
そして、駄々を捏ね始めやがった。
「『ええー』じゃない」
「りいー」
「『りいー』でもない」
「おおー」
「『おおー』でも……って駄々を捏ねているのかと思いきや、ただ単にヒロインの名前を言ってるだけじゃないか! 第一、僕はりゅうしさんの方が好きだよ!」
大好きなラノベだけについ思いが声に乗ってしまった。無意識のうちにツッコミが板についてきてしまっていることが、なんだか腑に落ちない。
「おっ、奇遇ですね。私もです」
「……あっ、さようですか……」
そう言って茉莉がカバンに本をしまい、席を立つ。そして、その後、僕の顔を見ることも何かを言うこともなく教室を後にする。静寂の中、ひとつ溜息を吐き僕も教室を出る。こういう空気になることももう慣れた。
本番まであと二か月。急にかつ半ば強引に決められてしまった役ではあるが、決まった以上、投げ出す選択肢はない。というより、そんなことをしたら月島先生に冗談抜きで殺されるだろう。嫌でも全うしなくてはいけない。
「陸奥」
そう思いながら教室を出ると、扉で待っていた吉備に声をかけられた。
「あの時、香椎さんにどんな魔法かけたんや?」
「魔法なんて、そんな大層なものじゃないよ。ただ……」
「ただ?」
「『優勝したらひとつ何でもする』って伝えただけ」
吉備が瞬きを数度した後、目を丸くする。
「ふーん、そうなんや、あの香椎茉莉がな、ふーん」
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