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六章
窮地に立たされた時、僕は……~Part6~
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僕の中で沸々と湧きあがる物はすでに器から少し漏れていたが、それでも僕は意外と冷静だった。
――それならば茉莉がすぐに殺されることはないか。むしろ大事なことは茉莉が従わざるを得ないこの状況を打破することが肝要だ。脅されているのであれば、その要因を取り除かなくては。
「でも、陸奥くんにも責任はあるのよ」
この後の事を考えていると、先生が少し頬を膨らませながら言う。
「え? 何でですか?」
「こんなになる前に早く処女を奪ってれば、茉莉が諦めることもなかったかもしれないし、こうなる前に先手を打つことが出来たかもしれないじゃない」
「そのためのあれだったんですね」
かなり強引な作戦ではあるが、意図は理解できた。
その上で訊かなくてはいけないことがあった。
「……あの、先生、訊いてもいいですか?」
「何?」
「結局のところ、先生は一体何者なんですか?」
心底不思議そうに目を丸くする。
「あれ、言ってなかったっけ? 香椎茉莉の護衛が私の役目よ」
そして、とぼけたような口調でさも当然かのようにさらっと告げる。
僕の中で時間が止まる。驚きで開いた口が塞がらない。
――それなら何か、香椎茉莉の護衛でありながら『処女を奪え』などという依頼、もとい脅迫をしたというのか。
「えっ! そんな話、一ミリも聞いてないですよ!」
「そうだったっけ?」
「そうですよ!」
「じゃあそれは陸奥くんが悪いわね」
「なんでそうなるんですか⁉」
「だって、訊かないんだもん」
驚きはしないが、先生のいい加減な性格に呆れ果てる。
時間を確認し、先生がさらにアクセルを強く踏む。一四〇か一五〇キロくらいだろうか。正確な速度はもはや分からない。その感覚も麻痺してきた。
「じゃあ、先生も香椎組の人なんですか?」
先生はそう訊かれ、うーん、と首を捻る。
「間違ってはいないんだけど、正確に言うとちょっと違うのよね……」
煙草をひとつ吹かし消す。
「ここまで連れてきといて、あれだけど……陸奥くん、君は茉莉を救える?」
そう訊かれて僕は茉莉を思い浮かべる。
初めて会った時、饒舌に毒舌を吐かれ拒絶された。演劇大会の代理人になり、さらに拒絶された。しかし、徐々に心の距離は縮まっていき、色々な感情を見ることができるようになった。
「今更だけど、降りてもいいのよ」
今ここで動かないと間違いなく後悔する。それは分かっている。しかし、僕に何ができるのか、行っても足手まといにしかならないのではないか。そう考えると足が竦む自分がいるのも事実である。
「誰も責めたりはしないわ」
「……分かっています」
ふと過去の自分が顔を出す。
――陸奥、お前はここまでよく頑張った。それだけで十分じゃないか。あとは先生に任せて逃げようぜ。これ以上、踏み込んでも何も得することはないし、それどころか、お前がまた傷つくだけだぞ。やめろ、やめろ、やめろ、やめろ……。ほら、後ろを振り返ってすぐに引き返せよ。さあ――――。
いまだに後ろ向きな考えが一瞬でも跋扈するあたり、どうしたって僕はちっぽけな人間なんだ。それは昔も今も変わらない。認めよう。それは変えようのない事実だ。
しかし。
「それでも僕はもう、引きません」
僕の心はもう決まっていた。
「正直、僕一人行ったところで茉莉を救えるとは到底思えないです。だけど、僕にしかできないことが絶対にあると思うんです」
「……そう。期待してるわ」
根拠は何もないし、具体的に何ができるのかも分からない。でも、人が嫌いな茉莉が話すことを許してくれた。色々な表情を見せてくれた。僕を信じて連絡先を教えてくれた。そのことが僕の背中を強く押す。
茉莉を助けに行くことにもはや迷いはなかった。
――それならば茉莉がすぐに殺されることはないか。むしろ大事なことは茉莉が従わざるを得ないこの状況を打破することが肝要だ。脅されているのであれば、その要因を取り除かなくては。
「でも、陸奥くんにも責任はあるのよ」
この後の事を考えていると、先生が少し頬を膨らませながら言う。
「え? 何でですか?」
「こんなになる前に早く処女を奪ってれば、茉莉が諦めることもなかったかもしれないし、こうなる前に先手を打つことが出来たかもしれないじゃない」
「そのためのあれだったんですね」
かなり強引な作戦ではあるが、意図は理解できた。
その上で訊かなくてはいけないことがあった。
「……あの、先生、訊いてもいいですか?」
「何?」
「結局のところ、先生は一体何者なんですか?」
心底不思議そうに目を丸くする。
「あれ、言ってなかったっけ? 香椎茉莉の護衛が私の役目よ」
そして、とぼけたような口調でさも当然かのようにさらっと告げる。
僕の中で時間が止まる。驚きで開いた口が塞がらない。
――それなら何か、香椎茉莉の護衛でありながら『処女を奪え』などという依頼、もとい脅迫をしたというのか。
「えっ! そんな話、一ミリも聞いてないですよ!」
「そうだったっけ?」
「そうですよ!」
「じゃあそれは陸奥くんが悪いわね」
「なんでそうなるんですか⁉」
「だって、訊かないんだもん」
驚きはしないが、先生のいい加減な性格に呆れ果てる。
時間を確認し、先生がさらにアクセルを強く踏む。一四〇か一五〇キロくらいだろうか。正確な速度はもはや分からない。その感覚も麻痺してきた。
「じゃあ、先生も香椎組の人なんですか?」
先生はそう訊かれ、うーん、と首を捻る。
「間違ってはいないんだけど、正確に言うとちょっと違うのよね……」
煙草をひとつ吹かし消す。
「ここまで連れてきといて、あれだけど……陸奥くん、君は茉莉を救える?」
そう訊かれて僕は茉莉を思い浮かべる。
初めて会った時、饒舌に毒舌を吐かれ拒絶された。演劇大会の代理人になり、さらに拒絶された。しかし、徐々に心の距離は縮まっていき、色々な感情を見ることができるようになった。
「今更だけど、降りてもいいのよ」
今ここで動かないと間違いなく後悔する。それは分かっている。しかし、僕に何ができるのか、行っても足手まといにしかならないのではないか。そう考えると足が竦む自分がいるのも事実である。
「誰も責めたりはしないわ」
「……分かっています」
ふと過去の自分が顔を出す。
――陸奥、お前はここまでよく頑張った。それだけで十分じゃないか。あとは先生に任せて逃げようぜ。これ以上、踏み込んでも何も得することはないし、それどころか、お前がまた傷つくだけだぞ。やめろ、やめろ、やめろ、やめろ……。ほら、後ろを振り返ってすぐに引き返せよ。さあ――――。
いまだに後ろ向きな考えが一瞬でも跋扈するあたり、どうしたって僕はちっぽけな人間なんだ。それは昔も今も変わらない。認めよう。それは変えようのない事実だ。
しかし。
「それでも僕はもう、引きません」
僕の心はもう決まっていた。
「正直、僕一人行ったところで茉莉を救えるとは到底思えないです。だけど、僕にしかできないことが絶対にあると思うんです」
「……そう。期待してるわ」
根拠は何もないし、具体的に何ができるのかも分からない。でも、人が嫌いな茉莉が話すことを許してくれた。色々な表情を見せてくれた。僕を信じて連絡先を教えてくれた。そのことが僕の背中を強く押す。
茉莉を助けに行くことにもはや迷いはなかった。
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