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九章
自己満足が世界を変える時、僕は……~part2~。
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それから少しずつリハビリをしながら何とか一人で歩けるようになり、ついに退院の日を迎えた。
「それじゃあ、如月さん、お身体に気を付けてくださいね」
僕が起きた時に来てくれた看護婦さんが僕を見送ってくれた。
「はい。お世話になりました」
リュックサックを背負い、お辞儀をする。
外は晴れているが少し肌寒い。
今年の秋はどうやら怠惰みたいで、そろそろ冬になるという。
病院から駅に向かって歩き出す。
相変わらず駅周辺は色々な音と匂いに包まれており、喧噪としていた。
いつもだったら何も感じていないだろうその光景がたまらなく懐かしかった。
それを感じるだけでも、ああ、帰ってきたんだな、と感じられるほど僕の心は満たされていた。
ことの顛末を聞こうと月島先生に連絡してみたが、音沙汰はなかった。
――なりたくはなかったが僕もあの事件の当事者の一人になってしまったのだから、どういう結末を迎えたのかを聞く権利はあると思うのだが……。
寮の門に着くとそこは休みの日の昼間だというのに人の気配が全くしなかった。
いつもだったらゲームをやって騒ぐ声とか、寮長である神居先生に怒られる生徒の悲鳴だとか、名物であるカレーの匂いがするとかあってもいいものだが、今はそれらの一切が感じられない。
恐る恐る近寄り、玄関を開ける。
――――ウゥー、ギィー……。
建付けの悪い玄関からいつも通りの呻き声が聞こえてくる。
「……ただいま、戻りました……」
周りに意識を向けながら声を振り絞る。
しかし、何の反応もない。
一体全体どうしたのだろうか、と思いながら靴を脱ごうとした時。
――――パーン、パーン、パーン。
「退院おめでとう!」
前後左右からクラッカーを鳴らす音とともに声が聞こえてくる。
そして、遅れて大きな拍手が玄関中を包む。
突然の出来事に筋肉が硬直し動かせずにいた。
「どうしたの、陸奥くん? サプライズの出迎えはお気に召さなかったかしら?」
「いえ、素直に嬉しいですよ。ありがとうございます……でも、もしかしてですけど、これをするためだけに僕の連絡を無視したとかは言わないですよね?」
不器用に口角を上げたまま月島先生の表情が固まる。
基本的には僕たちのことを考えてくれて頼りがいのある先生なのだが、強引で適当な性格だけはどうにかした方がいいと心の底から思う。
僕は深いため息をひとつ吐き、周りを見渡す。
玄関にいたのは、月島先生、雪乃、茉莉、神居先生。
各々の表情を見てみると、どうやらサプライズをしたかったのは月島先生だけで、他の人はやっぱりとでも言いたげな表情を浮かべている。
どこまでいっても月島先生に振り回される現状は変わらないのだな、と落胆しながら安心する。
そしてもう一人。
最後尾に見たことのないお爺さんが腕を組んでいる。
仙人の如く顎髭を蓄えたそのお爺さんは身体、威厳、眼力……どこからどう見ても公園でラジオ体操やゲートボールを楽しむご老人ではない。
本来であればこの手の地雷は触れないに越したことはない。
今回の経験でそれは重々学んだ。
下手に足を突っ込むと足どころか、身体全体を破壊してしまうほどの衝撃が僕を襲うことは目に見えている。
見えているのだが……しかし、まあ、この状況で訊かずにはいられないだろう。
「……あの、そちらの方は?」
恐る恐る訊くと、それには茉莉が答えてくれた。
「私の父です」
「あ、ああ、そうなんだね」
僕は脊髄反射よろしく、茉莉のお父さんの方に身体を向ける。
「お父さん、初めまして如月陸奥と言います」
「君にお父さんと呼ばれる筋合いはないと思うが」
「ああ、すみません、えっと」
「香椎貞臣だ」
「香椎貞臣さん、よろ……って、香椎貞臣⁉」
「呼び捨てにされる筋合いはもっとないのだがな」
驚きで声が出ない。
よく考えれば茉莉のお父さんと聞いた時点で分かりそうなものだった。
しかし、久しぶりに帰ってきたという安心感と無意味なサプライズで味わった脱力感が思考を止めていた。
「すみません、すみません……」
平謝りである。
「大丈夫だ。それよりも私たちもそろそろ中に入ろうか」
香椎貞臣の言葉に頭を上げると、そこにはもう僕と香椎貞臣しかいない。
帰って来て早々に思う。
――ああ、ようやく帰ってきたんだな。
「それじゃあ、如月さん、お身体に気を付けてくださいね」
僕が起きた時に来てくれた看護婦さんが僕を見送ってくれた。
「はい。お世話になりました」
リュックサックを背負い、お辞儀をする。
外は晴れているが少し肌寒い。
今年の秋はどうやら怠惰みたいで、そろそろ冬になるという。
病院から駅に向かって歩き出す。
相変わらず駅周辺は色々な音と匂いに包まれており、喧噪としていた。
いつもだったら何も感じていないだろうその光景がたまらなく懐かしかった。
それを感じるだけでも、ああ、帰ってきたんだな、と感じられるほど僕の心は満たされていた。
ことの顛末を聞こうと月島先生に連絡してみたが、音沙汰はなかった。
――なりたくはなかったが僕もあの事件の当事者の一人になってしまったのだから、どういう結末を迎えたのかを聞く権利はあると思うのだが……。
寮の門に着くとそこは休みの日の昼間だというのに人の気配が全くしなかった。
いつもだったらゲームをやって騒ぐ声とか、寮長である神居先生に怒られる生徒の悲鳴だとか、名物であるカレーの匂いがするとかあってもいいものだが、今はそれらの一切が感じられない。
恐る恐る近寄り、玄関を開ける。
――――ウゥー、ギィー……。
建付けの悪い玄関からいつも通りの呻き声が聞こえてくる。
「……ただいま、戻りました……」
周りに意識を向けながら声を振り絞る。
しかし、何の反応もない。
一体全体どうしたのだろうか、と思いながら靴を脱ごうとした時。
――――パーン、パーン、パーン。
「退院おめでとう!」
前後左右からクラッカーを鳴らす音とともに声が聞こえてくる。
そして、遅れて大きな拍手が玄関中を包む。
突然の出来事に筋肉が硬直し動かせずにいた。
「どうしたの、陸奥くん? サプライズの出迎えはお気に召さなかったかしら?」
「いえ、素直に嬉しいですよ。ありがとうございます……でも、もしかしてですけど、これをするためだけに僕の連絡を無視したとかは言わないですよね?」
不器用に口角を上げたまま月島先生の表情が固まる。
基本的には僕たちのことを考えてくれて頼りがいのある先生なのだが、強引で適当な性格だけはどうにかした方がいいと心の底から思う。
僕は深いため息をひとつ吐き、周りを見渡す。
玄関にいたのは、月島先生、雪乃、茉莉、神居先生。
各々の表情を見てみると、どうやらサプライズをしたかったのは月島先生だけで、他の人はやっぱりとでも言いたげな表情を浮かべている。
どこまでいっても月島先生に振り回される現状は変わらないのだな、と落胆しながら安心する。
そしてもう一人。
最後尾に見たことのないお爺さんが腕を組んでいる。
仙人の如く顎髭を蓄えたそのお爺さんは身体、威厳、眼力……どこからどう見ても公園でラジオ体操やゲートボールを楽しむご老人ではない。
本来であればこの手の地雷は触れないに越したことはない。
今回の経験でそれは重々学んだ。
下手に足を突っ込むと足どころか、身体全体を破壊してしまうほどの衝撃が僕を襲うことは目に見えている。
見えているのだが……しかし、まあ、この状況で訊かずにはいられないだろう。
「……あの、そちらの方は?」
恐る恐る訊くと、それには茉莉が答えてくれた。
「私の父です」
「あ、ああ、そうなんだね」
僕は脊髄反射よろしく、茉莉のお父さんの方に身体を向ける。
「お父さん、初めまして如月陸奥と言います」
「君にお父さんと呼ばれる筋合いはないと思うが」
「ああ、すみません、えっと」
「香椎貞臣だ」
「香椎貞臣さん、よろ……って、香椎貞臣⁉」
「呼び捨てにされる筋合いはもっとないのだがな」
驚きで声が出ない。
よく考えれば茉莉のお父さんと聞いた時点で分かりそうなものだった。
しかし、久しぶりに帰ってきたという安心感と無意味なサプライズで味わった脱力感が思考を止めていた。
「すみません、すみません……」
平謝りである。
「大丈夫だ。それよりも私たちもそろそろ中に入ろうか」
香椎貞臣の言葉に頭を上げると、そこにはもう僕と香椎貞臣しかいない。
帰って来て早々に思う。
――ああ、ようやく帰ってきたんだな。
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