71 / 73
九章
自己満足が世界を変える時、僕は……~part3~。
しおりを挟む
共用スペースの食堂であの後、起きたことを聞いた。
あの後、竜崎組組長が直々に来て、実は清十郎が単独でやったことであり、竜崎組としてはそんなつもりは全くなかったらしい。
とはいえ、竜崎組の若頭が行ったことは事実であるため、落とし前として清十郎を警察に出頭させ破門し縁を切ったこと、他の連中が後日謝罪しに来たことを教えてくれた。
淡々と話す月島先生の話に僕は耳を傾ける。
茉莉が自由になったことは良かったが、香椎組の一人娘であることはなんら変わらない。
そのため、今後もこういったことがまたいつどこで起こってもおかしくない。
そう思うと、心から安心することが出来ないのが事実である。
「ほんとざっくりだけど、これがとりあえず陸奥くんが倒れて入院している間に起きた事かな」
「……そうなんですね」
僕は相槌を打ち出されたお茶に口をつける。
「まずひとつ」
こほん、と香椎貞臣が咳払いをして口を開く。
「今回は娘を救ってくれて本当にありがとう。父親として感謝する」
机につくほど頭を深く下げる。
「いえいえ、僕は何もしてないですよ。実際、助けたのは月島先生と香椎組の皆さんですから」
「いや、それでも、君があの時あの場所で奮闘してくれなかったら、私たちは間に合わなかったし、竜崎清十郎の暴走を止めることは出来なかっただろう。だから、ありがとう」
再度頭を深々と下げる。
「それで、その償いと言っては何だが」
そう言って、香椎貞臣は茉莉に目を移す。
それを見た茉莉はいつになく顔を赤く染め、そして自分の手で身体の至るところを触る。
ここ最近で茉莉の色んな顔を見てきたがこの顔は初めてだった。
いつになく忙しなく身体を動かしている。
綺麗に光る黒目はきょろきょろと動き定まらない。
いつもの堂々とした立ち振る舞いは皆無である。
香椎貞臣が茉莉の頭に手を置き、おもむろに口を開く。
「我が娘、茉莉の処女を貰ってはくれないだろうか?」
その言葉にそこにいる全員の動きが止まる。
もしかしたら誰かが魔術だとか超能力だとかの異能力を使っているのではないだろうか、と思ってしまうほど周囲の動きが止まる。
一切の音や匂いが感じられない。
空間そのものが凍ってしまったようだった。
「私は本気だ。今すぐにとは言わない。少し考えてはくれないだろうか?」
香椎貞臣のその言葉が鍵となり、止まっていた時間が動き出す。
――これは、大変なことになってしまった。
そして、もうひとつ、判明したことがある。
――月島先生の依頼の出処がまさかここだったとは……。
月島先生を横目で見るが、当の本人は興味ないようで、いつものように煙草を吹かしている。
神居先生も同様である。
この二人には一片も期待していないが、自分たちの生徒が困っているのだから少しぐらいは助け船を出してくれてもいいのではないかと思ってしまう。
一番の問題は雪乃である。
鼻と目を大きくさせ眉間に皺を寄せている。
今にでも飛びかかってきそうなほどの形相で僕を見ている。
穴が開きそうなほどの視線が僕に刺さる。
これに比べたら竜崎組の連中などは可愛いものだろう。
――まあ、雪乃にとってはそうなるのも仕方ないことなのかもしれないが、でも今は少し落ち付こうか。深呼吸だよ、深呼吸。
静寂が空間を支配する。
いつもより重力が強い気がするのは僕だけじゃないはずだ。
「……その、茉莉は?」
かかる圧力を肌に感じながら訊く。
先程まで明らかに照れていた茉莉は、今以外にも堂々としていた。
「私は構いませんよ」
その言葉にいち早く反応したのは雪乃だった。
「いくら親公認とは言え、私たちはまだ高校生だ。不純が過ぎるぞ」
「それ本当に思ってる? 雪乃ちゃんもそろそろ素直になった方がいいんじゃないの?」
にやけ顔で月島先生が横槍を挟む。
明らかにこの状況を面白がっている。
ここまでくると本当に教師なのだろうかと疑いたくなる。
「それは、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だけど」
雪乃と月島先生が睨み合う。
茉莉も察していたようで負けじと胸を張る。
僕はその場が早く終わらないかなと願うばかりである。
再度、重い空気が流れる。
これが俗にいう修羅場というやつなのだろう。
「では、こうしたらどうだろうか。籍は茉莉と入れてもらって、一緒に住むのは雪乃さん、つまり、戸籍上は茉莉、実際一緒にいるのは雪乃さんというのは……」
香椎貞臣は好意で口を挟んだのだろうが、僕でも分かる。
――さっきといい今といい、組長さん、空気読もう。それは一番まずいよ。
当然、茉莉と雪乃が烈火のごとく噛みつく。
「お父様、失礼ながら申し上げさせていただきます。馬鹿ですか? 脳味噌腐ってるんですか? 一回死んでみますか?」
「その提案の意味が分からないし、考えも全く理解できない。故に断固反対だ」
その瞬間、大きな存在感を放っていた香椎貞臣の身体が小さく萎んでいった。
その優しさは嬉しいけど、火に油を注いだ形になった。
――誰か、この戦争を止めてくれ!
そう切に願う一日になった。
あの後、竜崎組組長が直々に来て、実は清十郎が単独でやったことであり、竜崎組としてはそんなつもりは全くなかったらしい。
とはいえ、竜崎組の若頭が行ったことは事実であるため、落とし前として清十郎を警察に出頭させ破門し縁を切ったこと、他の連中が後日謝罪しに来たことを教えてくれた。
淡々と話す月島先生の話に僕は耳を傾ける。
茉莉が自由になったことは良かったが、香椎組の一人娘であることはなんら変わらない。
そのため、今後もこういったことがまたいつどこで起こってもおかしくない。
そう思うと、心から安心することが出来ないのが事実である。
「ほんとざっくりだけど、これがとりあえず陸奥くんが倒れて入院している間に起きた事かな」
「……そうなんですね」
僕は相槌を打ち出されたお茶に口をつける。
「まずひとつ」
こほん、と香椎貞臣が咳払いをして口を開く。
「今回は娘を救ってくれて本当にありがとう。父親として感謝する」
机につくほど頭を深く下げる。
「いえいえ、僕は何もしてないですよ。実際、助けたのは月島先生と香椎組の皆さんですから」
「いや、それでも、君があの時あの場所で奮闘してくれなかったら、私たちは間に合わなかったし、竜崎清十郎の暴走を止めることは出来なかっただろう。だから、ありがとう」
再度頭を深々と下げる。
「それで、その償いと言っては何だが」
そう言って、香椎貞臣は茉莉に目を移す。
それを見た茉莉はいつになく顔を赤く染め、そして自分の手で身体の至るところを触る。
ここ最近で茉莉の色んな顔を見てきたがこの顔は初めてだった。
いつになく忙しなく身体を動かしている。
綺麗に光る黒目はきょろきょろと動き定まらない。
いつもの堂々とした立ち振る舞いは皆無である。
香椎貞臣が茉莉の頭に手を置き、おもむろに口を開く。
「我が娘、茉莉の処女を貰ってはくれないだろうか?」
その言葉にそこにいる全員の動きが止まる。
もしかしたら誰かが魔術だとか超能力だとかの異能力を使っているのではないだろうか、と思ってしまうほど周囲の動きが止まる。
一切の音や匂いが感じられない。
空間そのものが凍ってしまったようだった。
「私は本気だ。今すぐにとは言わない。少し考えてはくれないだろうか?」
香椎貞臣のその言葉が鍵となり、止まっていた時間が動き出す。
――これは、大変なことになってしまった。
そして、もうひとつ、判明したことがある。
――月島先生の依頼の出処がまさかここだったとは……。
月島先生を横目で見るが、当の本人は興味ないようで、いつものように煙草を吹かしている。
神居先生も同様である。
この二人には一片も期待していないが、自分たちの生徒が困っているのだから少しぐらいは助け船を出してくれてもいいのではないかと思ってしまう。
一番の問題は雪乃である。
鼻と目を大きくさせ眉間に皺を寄せている。
今にでも飛びかかってきそうなほどの形相で僕を見ている。
穴が開きそうなほどの視線が僕に刺さる。
これに比べたら竜崎組の連中などは可愛いものだろう。
――まあ、雪乃にとってはそうなるのも仕方ないことなのかもしれないが、でも今は少し落ち付こうか。深呼吸だよ、深呼吸。
静寂が空間を支配する。
いつもより重力が強い気がするのは僕だけじゃないはずだ。
「……その、茉莉は?」
かかる圧力を肌に感じながら訊く。
先程まで明らかに照れていた茉莉は、今以外にも堂々としていた。
「私は構いませんよ」
その言葉にいち早く反応したのは雪乃だった。
「いくら親公認とは言え、私たちはまだ高校生だ。不純が過ぎるぞ」
「それ本当に思ってる? 雪乃ちゃんもそろそろ素直になった方がいいんじゃないの?」
にやけ顔で月島先生が横槍を挟む。
明らかにこの状況を面白がっている。
ここまでくると本当に教師なのだろうかと疑いたくなる。
「それは、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だけど」
雪乃と月島先生が睨み合う。
茉莉も察していたようで負けじと胸を張る。
僕はその場が早く終わらないかなと願うばかりである。
再度、重い空気が流れる。
これが俗にいう修羅場というやつなのだろう。
「では、こうしたらどうだろうか。籍は茉莉と入れてもらって、一緒に住むのは雪乃さん、つまり、戸籍上は茉莉、実際一緒にいるのは雪乃さんというのは……」
香椎貞臣は好意で口を挟んだのだろうが、僕でも分かる。
――さっきといい今といい、組長さん、空気読もう。それは一番まずいよ。
当然、茉莉と雪乃が烈火のごとく噛みつく。
「お父様、失礼ながら申し上げさせていただきます。馬鹿ですか? 脳味噌腐ってるんですか? 一回死んでみますか?」
「その提案の意味が分からないし、考えも全く理解できない。故に断固反対だ」
その瞬間、大きな存在感を放っていた香椎貞臣の身体が小さく萎んでいった。
その優しさは嬉しいけど、火に油を注いだ形になった。
――誰か、この戦争を止めてくれ!
そう切に願う一日になった。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
女性が少ない世界でVTuberやります!
dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉
なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。
※恋愛大賞の投票ありがとうございました(o´∀`o)参加したみなさんお疲れ様です!
毎週火曜・金曜日に投稿予定 作者ブル
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる