【完結】自己満足が世界を変える時、僕は……。

よーじろー

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九章

自己満足が世界を変える時、僕は……~part3~。

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 共用スペースの食堂であの後、起きたことを聞いた。
 あの後、竜崎組組長が直々に来て、実は清十郎が単独でやったことであり、竜崎組としてはそんなつもりは全くなかったらしい。
 とはいえ、竜崎組の若頭が行ったことは事実であるため、落とし前として清十郎を警察に出頭させ破門し縁を切ったこと、他の連中が後日謝罪しに来たことを教えてくれた。
 淡々と話す月島先生の話に僕は耳を傾ける。
 茉莉が自由になったことは良かったが、香椎組の一人娘であることはなんら変わらない。
 そのため、今後もこういったことがまたいつどこで起こってもおかしくない。
 そう思うと、心から安心することが出来ないのが事実である。

「ほんとざっくりだけど、これがとりあえず陸奥くんが倒れて入院している間に起きた事かな」
「……そうなんですね」

 僕は相槌を打ち出されたお茶に口をつける。

「まずひとつ」

 こほん、と香椎貞臣が咳払いをして口を開く。

「今回は娘を救ってくれて本当にありがとう。父親として感謝する」

 机につくほど頭を深く下げる。

「いえいえ、僕は何もしてないですよ。実際、助けたのは月島先生と香椎組の皆さんですから」
「いや、それでも、君があの時あの場所で奮闘してくれなかったら、私たちは間に合わなかったし、竜崎清十郎の暴走を止めることは出来なかっただろう。だから、ありがとう」

 再度頭を深々と下げる。

「それで、その償いと言っては何だが」

 そう言って、香椎貞臣は茉莉に目を移す。
 それを見た茉莉はいつになく顔を赤く染め、そして自分の手で身体の至るところを触る。
 ここ最近で茉莉の色んな顔を見てきたがこの顔は初めてだった。
 いつになく忙しなく身体を動かしている。
 綺麗に光る黒目はきょろきょろと動き定まらない。
 いつもの堂々とした立ち振る舞いは皆無である。
 香椎貞臣が茉莉の頭に手を置き、おもむろに口を開く。

「我が娘、茉莉の処女を貰ってはくれないだろうか?」

 その言葉にそこにいる全員の動きが止まる。
 もしかしたら誰かが魔術だとか超能力だとかの異能力を使っているのではないだろうか、と思ってしまうほど周囲の動きが止まる。
 一切の音や匂いが感じられない。
 空間そのものが凍ってしまったようだった。

「私は本気だ。今すぐにとは言わない。少し考えてはくれないだろうか?」

 香椎貞臣のその言葉が鍵となり、止まっていた時間が動き出す。

 ――これは、大変なことになってしまった。

 そして、もうひとつ、判明したことがある。

 ――月島先生の依頼の出処がまさかここだったとは……。

 月島先生を横目で見るが、当の本人は興味ないようで、いつものように煙草を吹かしている。
 神居先生も同様である。
 この二人には一片も期待していないが、自分たちの生徒が困っているのだから少しぐらいは助け船を出してくれてもいいのではないかと思ってしまう。
 一番の問題は雪乃である。
 鼻と目を大きくさせ眉間に皺を寄せている。
 今にでも飛びかかってきそうなほどの形相で僕を見ている。
 穴が開きそうなほどの視線が僕に刺さる。
 これに比べたら竜崎組の連中などは可愛いものだろう。

 ――まあ、雪乃にとってはそうなるのも仕方ないことなのかもしれないが、でも今は少し落ち付こうか。深呼吸だよ、深呼吸。

 静寂が空間を支配する。
 いつもより重力が強い気がするのは僕だけじゃないはずだ。

「……その、茉莉は?」

 かかる圧力を肌に感じながら訊く。
 先程まで明らかに照れていた茉莉は、今以外にも堂々としていた。

「私は構いませんよ」

 その言葉にいち早く反応したのは雪乃だった。

「いくら親公認とは言え、私たちはまだ高校生だ。不純が過ぎるぞ」
「それ本当に思ってる? 雪乃ちゃんもそろそろ素直になった方がいいんじゃないの?」

 にやけ顔で月島先生が横槍を挟む。
 明らかにこの状況を面白がっている。
 ここまでくると本当に教師なのだろうかと疑いたくなる。

「それは、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だけど」

 雪乃と月島先生が睨み合う。
 茉莉も察していたようで負けじと胸を張る。
 僕はその場が早く終わらないかなと願うばかりである。
 再度、重い空気が流れる。
 これが俗にいう修羅場というやつなのだろう。

「では、こうしたらどうだろうか。籍は茉莉と入れてもらって、一緒に住むのは雪乃さん、つまり、戸籍上は茉莉、実際一緒にいるのは雪乃さんというのは……」

 香椎貞臣は好意で口を挟んだのだろうが、僕でも分かる。

 ――さっきといい今といい、組長さん、空気読もう。それは一番まずいよ。

 当然、茉莉と雪乃が烈火のごとく噛みつく。

「お父様、失礼ながら申し上げさせていただきます。馬鹿ですか? 脳味噌腐ってるんですか? 一回死んでみますか?」
「その提案の意味が分からないし、考えも全く理解できない。故に断固反対だ」

 その瞬間、大きな存在感を放っていた香椎貞臣の身体が小さく萎んでいった。
 その優しさは嬉しいけど、火に油を注いだ形になった。

 ――誰か、この戦争を止めてくれ!

 そう切に願う一日になった。
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