72 / 73
九章
自己満足が世界を変える時、僕は……~part4~。
しおりを挟む
翌日、学校からの帰り道。
「――納得いきません」
「まだ言ってるの。もういい加減諦めなよ」
「いえ、諦めきれません。先輩はこれでいいんですか?」
「いや、僕は直接見てないから何とも言えないけど」
そう言って、うーん、と天を見上げる。
「まあ、仕方ないんじゃない。一組の円城君と加藤さんはドラマとかで活躍してる、言っちゃえば演技のプロなんだから」
三学年合同組対抗演劇大会のことである。
結果から言うと、僕たち三組は二位だった。
茉莉はその結果に納得いってないらしく、一ヶ月以上経った今でもそのことを根に持っている。
「いや、絶対に演技以外に力が働いたんですよ。そうに決まっています。確かに、演技力自体は劣っていたかもしれませんが、劇の構成は確実に優っていました……やっぱりあのハイエナどもを始末しましょうか、それとも」
「まつりさんや、まつりさんや、いつものが出てますよ。抑えて、抑えて」
「……これは失礼しました」
茉莉がわざとらしく手で口を隠す。
気温自体はそこまで高くないのだが、湿度が高く蒸し暑い。
人々はすでに夏の様相を呈している。
ところどころに冷たい霧を発生させる装置が置かれており、そこで涼む人も多い。
僕の感覚では繁華街とか都心で見かけるものだと思っていたが、今はそうでもないのかもしれない。
「でも、それだとひとつ何でもしてもらえません」
「ん? ああ、それね」
『優勝したらひとつ何でもする』
これは茉莉が役者として舞台に上がる際、交わした約束だった。
しかし、結果は二位であり、それが果たされることはなかった。
「ちなみに茉莉は何して欲しいの?」
「してくれるんですか?」
「いや、優勝してないから、一応聞くだけ」
「それじゃあ、言いませんよ」
茉莉が歩く速度上げ、僕は少し後方を歩く。
ここ二か月ほどの出来事を振り返ってみた。
――紆余曲折あったけど、思い返せば、最初はこの子の処女を奪うことが目的だったんだよな。
そう思うと、果てしなく不純でどこまでも最低な動機だが、今ではそれも悪くなかったと思う。非常に不本意ではあるが、月島先生のおかげと言わざるを得ない。
香椎茉莉という女性と出会い、彼女の過去に触れ、彼女の今を知った。
そして、そんな彼女を助けたいと思った。
彼女にとってそれが果たして良かったのか、それとも余計なお節介だったのかは分からない。
しかし、茉莉の怒った顔や泣いた顔、笑った顔を見ていると、僕のしたことはあながち間違っていなかったのかもしれないと思う。
幼い頃、僕は思い立ったままに振る舞い、自分の事だけを考え、周りを顧みることはなかった。その時、その瞬間で自分がやりたいことをやっていた……と思うが、若干、いやだいぶ流されることが多かった気もする……それは置いておこう。
昔も今も僕は自分勝手で、自分本位で、自分が一番可愛い。
それに変わりはないと思う。
言ってしまえば、自己満足の塊だ。
しかし、ここ二ヶ月で色々な経験をした今なら分かる。
僕は屈折していたのだ。
幼馴染である雪乃が僕と同じ中学、高校に入ってくれた。
高校に入り、吉備、月島先生、神居先生に出会った。
そして、香椎茉莉に出会った。
全員、僕のかけがえのない人達。
この人達のおかげで僕は自分を素直に出すことができるようになった。
折れ曲がった僕の心を矯正してくれた。
逃げ出していた過去から、立ち向かう現在に変えてくれた。
自己満足が世界を変える瞬間。
僕は胸を張って歩くことができるだろうか。
仮に中心にいなくても、その瞬間の末席にいることができるだろうか。
そう考えると、畏怖と不安が津波のように襲ってくる。
それは決して消えることはないだろう。
しかし、今はそれでいいと思える。
喜悦。憤怒。悲哀。愉楽。
その全てが僕の中の一部であり、全部なのだ。
そう思えるようになっただけ僕は成長したということなのだろう。
「――納得いきません」
「まだ言ってるの。もういい加減諦めなよ」
「いえ、諦めきれません。先輩はこれでいいんですか?」
「いや、僕は直接見てないから何とも言えないけど」
そう言って、うーん、と天を見上げる。
「まあ、仕方ないんじゃない。一組の円城君と加藤さんはドラマとかで活躍してる、言っちゃえば演技のプロなんだから」
三学年合同組対抗演劇大会のことである。
結果から言うと、僕たち三組は二位だった。
茉莉はその結果に納得いってないらしく、一ヶ月以上経った今でもそのことを根に持っている。
「いや、絶対に演技以外に力が働いたんですよ。そうに決まっています。確かに、演技力自体は劣っていたかもしれませんが、劇の構成は確実に優っていました……やっぱりあのハイエナどもを始末しましょうか、それとも」
「まつりさんや、まつりさんや、いつものが出てますよ。抑えて、抑えて」
「……これは失礼しました」
茉莉がわざとらしく手で口を隠す。
気温自体はそこまで高くないのだが、湿度が高く蒸し暑い。
人々はすでに夏の様相を呈している。
ところどころに冷たい霧を発生させる装置が置かれており、そこで涼む人も多い。
僕の感覚では繁華街とか都心で見かけるものだと思っていたが、今はそうでもないのかもしれない。
「でも、それだとひとつ何でもしてもらえません」
「ん? ああ、それね」
『優勝したらひとつ何でもする』
これは茉莉が役者として舞台に上がる際、交わした約束だった。
しかし、結果は二位であり、それが果たされることはなかった。
「ちなみに茉莉は何して欲しいの?」
「してくれるんですか?」
「いや、優勝してないから、一応聞くだけ」
「それじゃあ、言いませんよ」
茉莉が歩く速度上げ、僕は少し後方を歩く。
ここ二か月ほどの出来事を振り返ってみた。
――紆余曲折あったけど、思い返せば、最初はこの子の処女を奪うことが目的だったんだよな。
そう思うと、果てしなく不純でどこまでも最低な動機だが、今ではそれも悪くなかったと思う。非常に不本意ではあるが、月島先生のおかげと言わざるを得ない。
香椎茉莉という女性と出会い、彼女の過去に触れ、彼女の今を知った。
そして、そんな彼女を助けたいと思った。
彼女にとってそれが果たして良かったのか、それとも余計なお節介だったのかは分からない。
しかし、茉莉の怒った顔や泣いた顔、笑った顔を見ていると、僕のしたことはあながち間違っていなかったのかもしれないと思う。
幼い頃、僕は思い立ったままに振る舞い、自分の事だけを考え、周りを顧みることはなかった。その時、その瞬間で自分がやりたいことをやっていた……と思うが、若干、いやだいぶ流されることが多かった気もする……それは置いておこう。
昔も今も僕は自分勝手で、自分本位で、自分が一番可愛い。
それに変わりはないと思う。
言ってしまえば、自己満足の塊だ。
しかし、ここ二ヶ月で色々な経験をした今なら分かる。
僕は屈折していたのだ。
幼馴染である雪乃が僕と同じ中学、高校に入ってくれた。
高校に入り、吉備、月島先生、神居先生に出会った。
そして、香椎茉莉に出会った。
全員、僕のかけがえのない人達。
この人達のおかげで僕は自分を素直に出すことができるようになった。
折れ曲がった僕の心を矯正してくれた。
逃げ出していた過去から、立ち向かう現在に変えてくれた。
自己満足が世界を変える瞬間。
僕は胸を張って歩くことができるだろうか。
仮に中心にいなくても、その瞬間の末席にいることができるだろうか。
そう考えると、畏怖と不安が津波のように襲ってくる。
それは決して消えることはないだろう。
しかし、今はそれでいいと思える。
喜悦。憤怒。悲哀。愉楽。
その全てが僕の中の一部であり、全部なのだ。
そう思えるようになっただけ僕は成長したということなのだろう。
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
女性が少ない世界でVTuberやります!
dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉
なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。
※恋愛大賞の投票ありがとうございました(o´∀`o)参加したみなさんお疲れ様です!
毎週火曜・金曜日に投稿予定 作者ブル
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる