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二章
十五話
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朱里が三十分程祈りを捧げた後、美波の写真を見据える。
「美波、どうして私を置いて逝ってしまったの……私はあなたにまだまだやってあげたいこともあったし、一緒にやりたいことだってあったのに……せめて私よりも後に逝って欲しかったのに、どうしてよ……それにまだ美波を轢いた犯人だって分かってないし……もう、私、どうしたらいいのよ……」
涙を流し時折嗚咽を漏らしながら、笑顔の美波に向かって呟く。
朱里は葬式の時、気丈に振る舞っていた。表情を崩さず参列者ひとりひとりに丁寧に頭を下げ、声をかけていた。
やはり当然と言うべきか、その心中は悲しみと怒りと虚しさと遣る瀬無さが混ざり合い混沌としていた。それは言葉で言われなくても容易に理解出来た。
その姿に美波が激しく嗚咽を漏らす。
大雅にしか聞こえていないとはいえ、暗く冷たい山の中で響く嗚咽はさながら狼の咆哮にも似た寂しさがあった。
「せめてこの祈りが届いてくれれば……そして、出来ることならば一度だけで構いません。美波に会わせてください。伝えきれなかったことを伝えさせてください。お願いします、春豊(しゅんほう)さん」
朱里がそう言い、頭を床につける。
――……ん? 春豊さん?
ふと出された名前に大雅は引っ掛かりを覚えていた。
――この名前、どこかで……。
そう考え必死に記憶を辿るが、それを掴むことは出来なかった。
「美波、今、春豊って名前、どこかで聞いたことある?」
『…………っうぐ……』
依然として嗚咽を漏らし、涙を流す美波に訊く。
「ねえ、美波」
美波は一度こちらを睨むように視線を向けるが、反応することはない。
「まあ……落ち着いたらで」
『知らないですけど……テレビで見たんじゃないですか? 確か有名な占い師だったはずですから』
美波は大雅の言葉を遮るように言う。
「うーん、占い師……あっ!」
その言葉に大雅は一週間前のことを思い出し、合点がいった。
美波の葬式でのことだった。
参列していたその中に一際目立つ容姿の人がいた。
腰くらいまで伸ばした鮮明な赤髪に百八十センチほどはあろうかと思われる身長が特徴的な女性だった。二重の瞼に見開かれた紅玉、すっと筋の通った鼻梁に薄めの口唇。そのどれもが彼女を彼女とたらしめるのに相応しいパーツだった。どれかが一つでも欠けるか、もしくは一センチでも横にずれていたら彼女ではなくなってしまう。それほどに均整の取れた女性であった。
参列していた人は男性も女性も彼女に目を奪われていた。
葬式の時は分からなかったが、それがまさしく占い師春豊であった。
今日日、テレビやラジオなどのメディアで占い師を見る機会が減ってしまった現代において、冠番組をいくつも持ち、今や占いだけではなく情報番組のコメンテーターも務めるのが彼女であった。
その時はどうしてこんなところにこんな女性が来るのだろうか、と不思議だったが、繋がっていたのは美波ではなく、朱里の方だった。
「美波のお母さん、その人に何かされたんじゃない?」
『……ん? どうしてですか?』
泣き止んだ美波が心底分からないといった表情で訊く。
「いや、美波のお母さんには悪いけど……占いってどうしても胡散臭くて信じられないんだよね。誰にでも当てはまりそうなことを言って煙に巻いているような感じがして」
『へえー、幽霊はいるのに、占いは信じないんですね』
美波がじと目で大雅を見る。
一瞬見えるその異様に冷たい視線が、大雅の心に響く。
「それとこれとはまた別でしょ」
『まあ、それもそうですかね』
宙に視線を泳がせ考えた後、先程まで泣いていたとは思えないほどの無表情で返す。
小屋の電気が消え、朱里が小屋から出てくる。
それに合わせて音をたてないように気を付けながら茂みに隠れる。
朱里がこちらに気づくような様子は微塵もなく、懐中電灯一つで暗闇の森を抜けていく。
大雅と美波もその後を追い、美波の家に着いたところで本日の尾行は終了した。
「美波、どうして私を置いて逝ってしまったの……私はあなたにまだまだやってあげたいこともあったし、一緒にやりたいことだってあったのに……せめて私よりも後に逝って欲しかったのに、どうしてよ……それにまだ美波を轢いた犯人だって分かってないし……もう、私、どうしたらいいのよ……」
涙を流し時折嗚咽を漏らしながら、笑顔の美波に向かって呟く。
朱里は葬式の時、気丈に振る舞っていた。表情を崩さず参列者ひとりひとりに丁寧に頭を下げ、声をかけていた。
やはり当然と言うべきか、その心中は悲しみと怒りと虚しさと遣る瀬無さが混ざり合い混沌としていた。それは言葉で言われなくても容易に理解出来た。
その姿に美波が激しく嗚咽を漏らす。
大雅にしか聞こえていないとはいえ、暗く冷たい山の中で響く嗚咽はさながら狼の咆哮にも似た寂しさがあった。
「せめてこの祈りが届いてくれれば……そして、出来ることならば一度だけで構いません。美波に会わせてください。伝えきれなかったことを伝えさせてください。お願いします、春豊(しゅんほう)さん」
朱里がそう言い、頭を床につける。
――……ん? 春豊さん?
ふと出された名前に大雅は引っ掛かりを覚えていた。
――この名前、どこかで……。
そう考え必死に記憶を辿るが、それを掴むことは出来なかった。
「美波、今、春豊って名前、どこかで聞いたことある?」
『…………っうぐ……』
依然として嗚咽を漏らし、涙を流す美波に訊く。
「ねえ、美波」
美波は一度こちらを睨むように視線を向けるが、反応することはない。
「まあ……落ち着いたらで」
『知らないですけど……テレビで見たんじゃないですか? 確か有名な占い師だったはずですから』
美波は大雅の言葉を遮るように言う。
「うーん、占い師……あっ!」
その言葉に大雅は一週間前のことを思い出し、合点がいった。
美波の葬式でのことだった。
参列していたその中に一際目立つ容姿の人がいた。
腰くらいまで伸ばした鮮明な赤髪に百八十センチほどはあろうかと思われる身長が特徴的な女性だった。二重の瞼に見開かれた紅玉、すっと筋の通った鼻梁に薄めの口唇。そのどれもが彼女を彼女とたらしめるのに相応しいパーツだった。どれかが一つでも欠けるか、もしくは一センチでも横にずれていたら彼女ではなくなってしまう。それほどに均整の取れた女性であった。
参列していた人は男性も女性も彼女に目を奪われていた。
葬式の時は分からなかったが、それがまさしく占い師春豊であった。
今日日、テレビやラジオなどのメディアで占い師を見る機会が減ってしまった現代において、冠番組をいくつも持ち、今や占いだけではなく情報番組のコメンテーターも務めるのが彼女であった。
その時はどうしてこんなところにこんな女性が来るのだろうか、と不思議だったが、繋がっていたのは美波ではなく、朱里の方だった。
「美波のお母さん、その人に何かされたんじゃない?」
『……ん? どうしてですか?』
泣き止んだ美波が心底分からないといった表情で訊く。
「いや、美波のお母さんには悪いけど……占いってどうしても胡散臭くて信じられないんだよね。誰にでも当てはまりそうなことを言って煙に巻いているような感じがして」
『へえー、幽霊はいるのに、占いは信じないんですね』
美波がじと目で大雅を見る。
一瞬見えるその異様に冷たい視線が、大雅の心に響く。
「それとこれとはまた別でしょ」
『まあ、それもそうですかね』
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小屋の電気が消え、朱里が小屋から出てくる。
それに合わせて音をたてないように気を付けながら茂みに隠れる。
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