誰かのヒーローになりたい俺の第一歩

よーじろー

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第二章

第十五話

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「おーい、ぼさっとしてるな。行くぞ」
 
 気づいたらあかりはすでにコテージに向かって歩き出していた。
 俺も遅れないように小走りで行く。
 近づいてみると使われている木の味わい深さがより伝わってくる。
 木々に囲まれているせいもあると思うが、その木目ひとつひとつがまるで呼吸しているかのように生き生きとしている。
 ここにいるだけで汚れた心が洗われるような不思議な感覚を受けた。

「今一度言っておくが」
「〝事務所に着いたら絶対に私の傍から離れないように〟でしょう。何回目ですか、もう聞き飽きましたよ」
「何回だって言うぞ。それくらい重要なことだ」
 
 ここに来るまでに耳にたこができるほど言われ続けたセリフだけに、一言一句間違えることなく暗記してしまった。
 俺の脳味噌は三歩歩いたら忘れてしまうほど小さくはない。
 
 ――しかし、それにしても……。
 
 歩きながら何度も巡らせた思考を呼び起こす。
 なぜあかりさんの傍を離れてはいけないのだろうか。
 どこからどう見ても中に入って迷うほど広いとは思えないし、複雑な構造になっているとも思えないのだが……。
 あかりが目の前の扉に手をかけ思い切り開ける。

「おーい、戻ったぞ」
「おかえりなさいませ、お嬢様。荷物を預かりましょう」

 あかりの言葉とともにどこから現れたのか、黒の燕尾服に身を包み、長い白髪を後ろに束ねた人が軽くお辞儀をしながら手を差し出す。
 顔立ちから察するに年齢は二十そこそこといったところだろう。
 恰好や立ち振る舞いはまさに何かのドラマで見た執事そのものである。
 あかりが軽く溜息を吐きながらリュックサックを渡す。

「お嬢様はやめろと言ってるだろ」
「いえ、お嬢様はお嬢様ですから」
「相変わらずくそまじめな奴だな、お前は」

 呆れてはいるが、その表情からは慈愛が感じられる。
 それだけで二人の間に太く強固な絆があることは明白だった。
 執事はあかりからリュックサックを受け取り、俺に軽くお辞儀をする。
 俺もそれに倣うが、すぐに足音を少しも立てることなくどこかに消えてしまった。
 来た時も去る時も視認することは叶わなかった。
 まさに一瞬という言葉がふさわしい。

「……あの人は、一体」
「言わずとも分かっている。あいつの紹介は後でするから心配するな」

 俺の言葉を遮り、あかりは乱暴に靴を脱ぎ正面の扉に向かう。
 疑念を抱きながら俺もあかりの後に続き家に上がる。
 その際、あかりの靴を整えることを忘れない。
 自分の物はどうでも良いのだが、人の物になると途端気になってしまう。
 同感してくれる人は……いないかもしれないが、まあ、気にするほどでもないだろう。
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