誰かのヒーローになりたい俺の第一歩

よーじろー

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第五章

第四十九話

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「あつき、元気かい?」

 入院しているお袋からだった。
 明楽のおかげでドナーが見つかり、手術をすることが出来るようになった。
 それ自体は良いことだし、奇跡に近いようなことである。
 これでお袋を救うことが出来ると泣いて喜んだが、実際問題まだ安心はできない。
 当然手術が失敗することもあるし、その後拒絶反応が出ることもある。
 ひとつ壁を越えたと思ったら次はそれよりも高く厚い壁が立ち塞がるのだ。
 その不安がある中でもお袋は一日に一回、夜に必ず連絡してくれる。
 自分も不安と恐怖でいっぱいだろうに……しかし、そんなことなど微塵も見せず、俺のことを気遣ってくれる。
 話す内容自体は他愛のないことばかりだが、その内容に意味はない。
 お袋の声を聞くとそれだけで気持ちが落ち着く。
 後ろを向いている心が不思議と消え、すっと前を向くことが出来る。
 やはり自分で意識していないだけで、初めての職場で慣れない仕事、癖のある人たち……想像以上にストレスを感じているのだろう。

「お袋こそ、身体は大丈夫? 悪くなってない?」
「私は大丈夫だよ」

 その声はいつも以上に高く、そして温かかった。
 気丈に振る舞っているのは一目瞭然だった。
 本来であれば俺がお袋を力づけなくてはいけないのに、逆に生きるための元気を貰っている。
 そんなことをさせてしまっている自分が情けない。

「手術、来週だよね?」
「そうだよ」
「万全の状態で手術を受けられるように、身体には気をつけて」
「うん。ありがとう」

 お袋との最初のやり取りはいつも決まっていた。

「それはそうと、あつきが入った会社……えっと」
「悩み買い取り屋、桜」
「そうそう、そこそこ。何回も聞いてるのに全然覚えられないね」

 お袋が渇いた笑い声を上げ、言葉を継ぐ。

「そこはどうだい?」
「うーん……まあ、ぼちぼちってところ」

 俺はどう答えていいものだろうかと迷った。
 嘘はつきたくないが、正直に話してもお袋を心配させるだけだ。
 それ故の煮え切らない返答だった。

「ぼちぼちって、あつき、あんたね……はあー、まあ、いいわ」

 電話越しにお袋の溜息が漏れる。

「ようやく決まったところなんだから、しっかりやりなさいよ。それにただでさえ、あんた、他の人よりも要領が悪いんだから、がむしゃらに頑張りなさい。それだけがあんたの取り柄なんだから」
「もう、分かってるって」

 邪険にしながらも心配してくれるのは嬉しい。

「そういえば、今日はどうしたの? まだ夜じゃないけど」
「ああ、少しあつきに伝えたいことがあってね」
「ん、何?」

 そこで少し間が空く。

「おーい、お袋?」
「……あんた、またぐずぐずと考えては何もしないでいるんだろう? 悪い癖だね、ほんと」

 突然の発言に心臓が跳ねる。その衝撃が全身に届くまでに数秒とかからなかった。そして、それは瞬く間に俺の思考を侵食し、分厚く覆っていた霧を吸い込んでいく。

「まだ入ったばかりで自分に何ができるのか分からないし、何をしたらいいのか分からない気持ちも十二分に分かる。それなら動かない方が皆のためになるんじゃないか、と考えることも、あんたの性格を考えると容易に想像できる」

 お袋の言葉に驚きを隠せない。

 ――何かを話したわけではないのに、どうしてお袋は今の俺の状況を知っているのだろうか?

「でも、あんた、本当にそれでいいのかい?」
「……どうして、お袋がそのことを」

「あつきにはあつきにしかできないことがある」

 お袋が俺の言葉を遮り言う。
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