キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ

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第1章 納車編 あるいは雪上スピードウェイ

第3話 ドライブトークはそこそこ軽快

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 王国で二番目に偉い騎士。
 そう名乗ったエストカーリアさんの横顔を、俺は――安全運転に支障のない範囲で――ちらちらと見やる。
 凛として壮烈なその美貌は、都合も聞かずに俺を召喚した罪悪感からか、力ない苦笑いで歪んでしまっていた。
 おいおい、やめてくれ。少なくとも貴女あなたがそんな顔をする必要は無いだろう。
 俺に魔石を持たせて、生き延びるチャンスをくれたのは貴女なんだから。

「ほ……誇らしくないって、エストカーリアさん――」
『こら』

 二番目に偉い騎士さんは不満げに、

『せっかく名乗ったんだ。クリスと呼んでくれ』

 言われて、俺はたじろいだ。
 空気が重くならないように明るく振る舞ってくれているようだ。それはわかる。わかるんだが……わけあって、素直に調子を合わせられない。あとウインクはやめて。美しすぎて心臓に悪い。

『どうした?
 偉いと言っても悪い王国に仕える騎士だよ。
 敬意など払うことはない』
「いえ払います。騎士だからとかじゃなく貴女個人に払います思いっきり」
『キミはアレか?
 私が一番嬉しい言葉を読み上げる≪スキル≫も持ってるのか泣くぞ』
「だとしたら姓で呼ばないと思いません?」
『それもそうだ』
「慣れてないんですよ、女性を下の名前……あー、ファーストネームで呼ぶの」
『えー』

 慣れてないというか、幼稚園以来経験がない。
 控え目に言って、女性とは常に一定の距離を置いて生きてきたのだ。名前、ましてや愛称でなんてとても呼べたもんじゃない。照れくさいというか恐縮するというか、こう、すっげえ申し訳ない気分になる。
 そういう意味のことを熱弁したが、騎士サマは納得してくれなかった。

『呼ばれる側が望んでいるんだから、恐縮する理由は無いんじゃないのか』
「その通りなんですけど」
『気持ちの問題か。難しいな。
 なら、そうだな……クリスというのが私の姓だと思ってみるのはどうだろう?』

 なんかおかしなことを言いだした。

『そう難しくもないと思うぞ。
 私たちの国とエイジの国では、名前の響きがずいぶん違うからね。
 私からすると、≪エイジ≫と≪マトバ≫ではどちらが姓かわからない。
 ≪クリステンデ≫、いや、≪クリス≫が姓だと最初に言われたら、エイジは信じていたんじゃないか?』
「んー……確かに……?」

 反論する材料も無いので、うなずく。知り合いに栗栖くりすさんいるし。

「じゃあ……それで。クリスさん」

 呼ぶと、彼女は嬉しそうに笑った。
 俺の方は無性にむずがゆかったが、慣れていくしかないだろう。こういう距離感で呼び合える人ができて、ちょっとウキウキするのも事実だし。
 口元が緩む俺の横顔を、クリスさんがいたずらっぽい目で眺めている。流し目をやめろ。えっち過ぎる。

『しかし、驚くよな』

 不意に言い出すクリスさん。驚いてる顔には見えない。
 横殴りの雪が吹きつける車外を、少し伏せた目で眺めつつ、

『この雪の中を進みながら、こんな雑談ができるとは。エイジの機動要塞おそるべし』
「機動要塞って」
『私の目にはそうとしか映らん。もしくはオシャレな髪型の猫か』
「落差よ」

 確かにこのクルマ、リーゼントの猫みたいな顔だけど。

『実際、これはどういうものなんだ? 地球の戦車か』
「あー……」

 あんまり答えたくなくて俺は暫く呻いていたが、不思議そうにのぞき込まれて白状する。

「キャンピングカーです……」
『キャン……何?』
「景色の綺麗な場所に乗りつけて、野宿を楽しむためのクルマです。嗜好品しこうひんたぐい
『何だとッ!?』

 今日一番の絶叫が、クリスさんの喉からほとばしる。
 目を見開いて車内を見回し、何やらブツブツ呟く横顔は、未知の科学に触れて戦慄する科学者か軍人さんのそれ。

『馬鹿な。
 これほどの安定性、居住性、走破性を併せ持つ車両が兵器ですらないだと……?
 遊覧船ゆうらんせん貴族馬車キャリッジと同じものだとでも?
 このキャン……キャンピ……何だっけ?
 これ一台でも我が騎士団で運用すれば、戦争が一変するというのに!』
「クリスさん? クリスさーん?」
『あぁすまない。職業病』

 魔王がいる世界の騎士は大変だな……。

「じゃあ、そんな騎士さんに質問です」
『何だろう』

 引き締まった顔でこっちを見るクリスさん。おお、騎士だ。やっぱプロだこの人。
 精悍せいかんなる女性騎士さんに、俺はずっと心配していたことをく。

「この辺に危険な動物とか出ます?」
『真っ先に訊きなさいそれは。気になっていたなら』
「すみません」
『謝らなくていい。キミの人柄ひとがらがうかがえて好ましい――さて、質問の答えだが』

 クリスさんはちょっと表情を緩めて、

『この雪が降っているうちは心配ない。
 魔物が多い場所ではあるが……今ここには、ある≪お客≫が来ていてね。
 そのかたが雪を降らせているんだ。
 彼女がいるうちはどんな魔物もねぐらに引っ込んで出てこない』
「彼女?」
『そう。信じられないと思うが、本来ここはこの季節に雪は降らないのさ』

 思わず、窓から車外を見回す。
 降りしきり、視界をさえぎる吹雪。かろうじて見える範囲には、ただただ雪と石畳のみ。
 この白い世界を生み出しているのが、一個の生き物だというのか。
 それも……そんなヤツが、すぐ近くに?
 ソワソワする俺を落ち着かせるように、クリスさんは目を細める。

『こちらから手を出さなければ紳士的な御仁ごじんだよ。女性だから淑女しゅくじょ的か。
安心して――』

 ごぅんっ

 突如とつじょとして車体を襲った揺れが、クリスさんの微笑を凍りつかせた。

「何だぁ!?」

 再びあたりを見渡せば、雪を断ち割り、現れる影。
 前方およそ五十メートル。大きい。二メートルを優に上回る、二足歩行の生物だ。
 だが明らかに人間ではない。
 頭には猛牛のような角。口の端から飛び出した牙。
 らんらんと光る赤い目には殺意を。
 筋骨隆々の両腕に、あろうことか長大な剣を。
 単独ではない。四体、五体。次々と、雪の向こうから現われる。

 ずんっ

 二度目の衝撃に振り向けば、後方の窓リア・ウインドウに張りついた赤い目。
 恐らく、車体に取りつかれている。
 これは――

『馬鹿な』

 クリスさんの声が、かすれる。
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