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紫蘇鳥

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第15話 汚された過去

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 「えっとね、僕とアリスが会ったのは、彼女が1864歳の時だったんだ」
 ツイスターくんは淡々と話しているが、早速、歳にしては訳分からない桁が乱入し、僕らはしこたま困惑した。
「ちょっと待ってくれよ…えっと、そもそもアリスちゃんって何歳?」
 そう聞くと、ツイスターくんが口を開くより先に、アリスちゃんが前に出てきた。
「あたしは今年で1875歳!でも、2000歳程度じゃ天界ではまだまだ子供なんだよ~」
 突然の初耳情報。天界はやはり人間と時間の感覚が全く違うようだ。
「まあつまり、今から大体…11年前の時だね」
 ツイスターくんが即座に情報を纏める。恐らく、天界の時間感覚で言えばほんとに最近の事なんだろう。しかし、会ってからそこまで時間は経っていないようなのに、何故この2人(?)はこんなに仲睦まじいんだろう。
「2人はなんで短期間で仲良くなったんだ?」
 取り敢えず聞いてみる。すると、ツイスターくんが少し呆れたように苦笑いした。
「ちょ、確かに長い期間で見れば最近の事だけど一応普通に考えて11年だからねっw普通に仲良くなるには充分な時間だから」
「あっそなのぉごめんごめんっ☆」
 体感の時間は僕らの感じてる感覚と同じなのね。納豆食ったなっとくしたところで、ツイスターくんが話を続け出した。
「出会って関わるようになったのは、たまったま僕のことをアリスが見つけてくれたのが始まりなんだよね」
 そう彼が言うと、またまた流れるようにアリスちゃんが会話の中にアクロバッティング駐車してきた。
「星の妖精さんってチョーいっぱい、言ったら、みんなが見てる星空の星と同じ数いるんだけど、その時にその中でたまたま鉢合わせただけなんだよね」
 ほうほう、意外とシンプルに会ったんだな~と関心したと共に、一つ疑問が浮かんだ。
「え、でもその、一緒の空間にいるんだったら、会う機会はそれからでもいくらでもあるんじゃないかな?」
 僕の疑問に対し、ツイスターくんは少し考えた後に、こっちに向き直ってニヤッと笑った。
「星って合計で大体どれくらいあると思ってる?」
 まさかの逆に問題が飛んできた。
「え、えーっと、70京、とか?」
 突拍子もなく投げかけられたその難問が分かる筈もないので、適当に答えた。すると、今度はアリスちゃんが僕にノーと言わんばかりのどこか得意げな視線を送った。
「そんなんじゃないよ~!僕の仲間の数は…確か、7𥝱近くはいるんよ」
「うぇっ𥝱までいくの?!」
 楓花が僕の腕を揉みながら盛大に仰天しているように、日常で絶対に使わない単位が出てきてもう僕らの舌はぐるぐる巻きだ。兎に角、彼らが言うに星の妖精が7𥝱体余りが存在しているのとなれば、ただ鉢合わせることですらも、最早、奇跡と言っても差し支えがない確率にまで収束するんだろう。
「えっと、そのあとはどうなったの?」
 横から、物珍しい話に好奇心が刺激されてきた楓花が、「ほらぁ次々ぃ」と言うように2人に向かって訊く。
「それからまあフツーに意気投合して仲良くなったんだけど、数年経って、アリスが1871歳の時に、…事件が起こったんだ」
 僕と楓花は、彼の雰囲気が暗くなるのを見てここから内容が曇るのを察し、口を閉じてただ静粛に彼の話に耳を傾けた。
「その頃、アリスに上の天使、まあったら上司みたいな存在の天使が新しく就いたんだけど…そいつが、色んな意味でだけど、ほんとにヤバすぎたんだ…」
 ツイスターくんの表情が暗くなった。そして同時に、言葉を躊躇っているような様子だった。それだけ口にしづらい出来事なんだろうか。
「その上司だった奴、名前は…まあ…覚えてないって訳じゃないけど…いや、思い出したくもないな…とにかく、そいつがはっきり言って頭おかしかった」
 横でアリスも、因縁を噛み締めるような渋い顔で、静かに頷いていた。
「そいつは野菜を信仰してるってくらいの勢いで好きだったんだ。ヴィーガンとかよりも、なんか病的に、ね。それで、そのクソデカい野菜愛ってのは下の天使にも影響を与えてたんだ」
「やややや、野菜?」
 話の中に突然、野菜という不自然なくらい身近な言葉が耳に入ってきて、僕はクリティカルにギャップを感じる。
「いや、ふざけてるわけじゃなくてだよ。なんだろう、そいつ野菜食をくどいくらい布教してきたんだよ。あと勝手に飯を野菜多めにしてくるとか。まあ後者はあんまり大したことではないんだけどね。それで、ある時に」
 何だか変な話になってきてるなと思っていると、語っていたツイスターくんの声が更に一段階、重くなった。
「…ある時さ、アリスと僕がその布教のしつこさに耐えかねて、軽く反論したんだよ…そしたら…」
 言いかけたところで、さっきから重く、遅くなっていた彼の口が遂に止まった。ふとアリスちゃんの方を見てみると、彼女はいつの間にか僕のベッドの掛け布団をがっしりと掴み、怯えて小さく震えていた。その目には涙が溜まり始めていた。
「…拷問されたの…」
 アリスちゃんの搾り出すようなその言葉を聞いた瞬間、血の気が引いた。
「…は?」
「え?」
 楓花も硬直していた。…おいおい嘘であってくれよ。さっきの野菜がどうたらこうたらの話から、突然あまりにも恐ろしくなり過ぎじゃないか。ツイスターくんは、重い口を開け、再度話し出した。
「本当に軽く反論しただけなのに、途端にそいつはブチギレて、僕らにまずその場で暴力を振るってきた。それで、僕とアリス2人揃って立てなくなるくらい殴られて、その後そいつの自室に連れ込まれて…」
 どんどん話は進むが、軽くドン引きするような内容に表情筋が歪んでしまう。楓花を見ると、彼女の方も顔が真っ青になって、冷や汗が伝っている。
「それで…アリスは鞭とかで沢山叩かれたり、蹴られた打りして…僕に関しては、基本的に死なないのを良い事に体に電気を何度も流してきたよ…。あの時は気が狂うほど痛かった…」
 彼の声は、今その責め苦を喰らっているかのように、苦しそうだった。アリスちゃんに至っては、僕のベッドに顔を埋めて静かに泣いていた。また、さっきまで楓花の腕の中にいた青髪の天使の少女は、楓花の腕から出て彼女の側に駆け寄り、何度も「大丈夫だから…」と言い聞かせていた。僕はそんな暗澹あんたんな状況に声も出せなかった。
「でも…そんな事件があったから、上の天使達がそいつ許す筈も無くて、そいつは天界から即座に堕とされた。堕天使になって、僕らの元からはいなくなったんだ」
 ここで、やっとツイスターくんの声色が落ち着いて、喋るのを止めた。明らかに、僕が何を言うような場面では無かった。僕は、ただアリスちゃんが静かに泣く音だけが聞こえる、この自室の物悲しい雰囲気を、沈黙で受け流していた。
 少しの間音のしない時間が続いた後、空気を壊さないように慎重な楓花がゆっくり口を開いた。
「2人とも…大変だったんだね…」
 彼女は、どこか悲しそうに、しかしささやかに2人の心労を労う言葉を掛けた。ツイスターくんは、少しいつもの調子を取り戻して、
「…そんな重苦しい顔しなくてもいいよ。まあ、ほら、事情知ってもらわないと話は始まらないからさ」
 と、少し無理矢理に笑顔を見せた。
「というか、僕達に関する話は一旦ここでお預けになるんだよね」
 そう言った彼は、くるっとアリスちゃん達の方を見た。アリスちゃんは既に泣き止んでおり、こっちに気付くなり彼女ら2人は僕らの方に体を向けた。
「ねぇ、ちょっとあの人達に自己紹介してみて?」
 アリスちゃんは、天使の少女に、まるでお母さんを聞き違えるくらい優しい声色で聞いた。すると、やる気にはなったのか、少女はこちらに近寄ってきた。とぼとぼ歩いてくる彼女の足元を見たが、浮遊はしていなかった。彼女の着ている、フードの無いシスターの衣装に似た灰色の服は、人肌とは思えない積雪の如く白い彼女の脚とのコントラストを際立てていた。彼女は僕らのそばまで来ると、固く閉じていた口をゆっくり開いた。
「えっと…私っ…イザベルって言うの…これからよろしくね…」
「おっ、よ、よろしくね」
「えっと、よろしくねぇ~」
 彼女の名前を知ったところで、あまり喋らない彼女の代わりにアリスちゃんがフォローに入るため、こっちに戻ってきた。
「この子の本名はイザベル・サファイアって言うの。もちろん天使だよ。内気だけどかわいい子なんだよね~」
 アリスちゃんに撫でられて、少し顔を赤らめてほっぺに手をつけてぼーっとしているイザベルちゃんを横目に、アリスちゃんは次の話を切り出した。
「じゃあ、この子の年齢当ててみて~」
 彼女が突然、僕らにこんな問いを吹っ掛けてきた。なんとも難しい問題だこと…。
「1300歳…とか?」
 楓花が咄嗟に答えたが、アリスちゃんは首をブンブン横に振った。僕もなんか言わなければ…。
「んー…1830歳…くらい…だったりしない?」
「だったりしなぁ~い」
 答えてみたが即座にバツを貰う。いやいや元から当てるのほぼ無理じゃんかこんなの。
「2人とも全然違う~!ほら、じゃあ今から本人に聞いてみるよ」
 彼女はそう言いながら、イザベルちゃんの肩に手を置いた。すると、本人も話を聞いていたのか、俯いていた顔を上げた。
「私は今年で2761歳…」
 オイオイ、歳の差が凄すぎるってばよ。言ったら900歳近く歳が離れているだけでなく、アリスちゃんの歳上ということだ。所謂いわゆる、合法ロリってやつ。アリスちゃんを凌ぐクラスのロリロリしさの癖して、歳はイザベルちゃんの方が上というギャップに…萌えている僕の頭は果たしてどうなってしまっているのだろうか。メロンパンでも詰まってるのかな。
「ん~…じゃあなんで、そんな姿なの?」
 楓花は彼女らに向かって小動物っぽい動きで首を傾げた。んん~楓花は一挙手一投足かわいいな。アリスちゃんは、楓花の質問を受け取ると、にやっと笑った。
「これにはからくりがあるんですわ!」
 彼女は自信ありげに言う。そして、イザベルちゃんに後ろから近づき、何やら変な形をした髪飾りを懐から取り出した。菱形が沢山集まったような、不思議な模様のアクセサリーで、それに何か、強く惹かれるような心持ちになる。すると、今度はイザベルちゃんが今着けていた髪飾りを取り外した。一瞬見えたストレートのイザベルちゃんに、横の楓花と並んで少しばかり「きゅんっ💘」となってしまったのは許して貰いたい。そしてそのまま、取り出した髪飾りの方を、さっきと同じツインテールになる形で付け直した。それと同時、突如、イザベルちゃんの体躯がみるみる変わり始めた。
「?!?!」
 その状況に楓花共々翻弄されていると、彼女の身長がどんどん高くなっているのに目がついた。そして、10秒も過ぎないうちに、彼女は、スリムで背の高い、容姿端麗なお姉さんに変貌していた。

               ❤︎

 「いやマジでどゆことなんこれ…?へ?へ?」
「ふにゃあはぁ…」
 開いた顎が閉じられなくなるような変貌ぶりだ。楓花の呂律がおかしくなるのも無理はない。身長に関しては、雨羅さんに負けずかなりの高身長で、180cm近くはあるかも知れない。恐らく、背比べしたら僕はギリ負けるだろう高さだ。
「ん…あ、えーっと、はじめましてじゃ、ないのかな…」
 話し方も変わってるだとッ?!声もかなり低くなっていて、そのどこか白熊のようなそのクールさに、自然と惹かれてしまうような魅力があった。彼女のさっきのロリっぽさは、面影だけ残してどこかに消えてしまったように感じる。すると、アリスちゃんが前に出てきた。
「この姿が、かわいいかわいいイザベルのもう一つの姿なんだぁ」
 やっぱりどこか自慢げに、彼女は話す。その横で、イザベルちゃん…いやイザベルさんは白けたような顔でぼーっと突っ立っていた。なんかさっきとすっごい印象が違う。彼女は、周りを見るなり、アリスちゃんの目線の高さまで屈んで、
「で…、ここはどこなの?なんか男子くさい部屋だけど」
 と、ボソッと聞いた。だ、男子くさいとはなんぞや…。アリスちゃんがかくかくしかじかを伝えると、彼女は関心の低そうな顔で、「へ~」とだけ呟いた。そして、暇そうに足元に敷かれているカーペットのモコモコを弄り出した。
「イザベルはね、実は元々はこっちと同じ姿だったの」
 アリスちゃんは、話しながら無意識のうちで2人のとてつもない身長差を見せつけている。彼女が話し出しても、話に上がっている当の本人は、やっぱり変わらずカーペットを触って、気にも留めていなかった。
「あたしがイザベルと出会ったのもこの姿だったんだけどね…あいつに会ってしまった時から…おかしくなっちゃった」
 彼女の声が低くなる様子は、これからする話の方向性が芳しくないのを暗示していた。
「さっき言ったさ、あのヤバいやついたじゃん」
「う、うん」
「あいつに会ったの」
「それで…そのやべーやつは何をしたの?」
 先に聞いてみた。すると、アリスちゃんは気が進まなさそうな顔をしながらも、続きを話し出す。
「えっと…あいつはイザベルに会った時はもう堕天使だった。つまり天界にいたのはおかしかった。言ったら、あいつが勝手に天界に侵入してたとこに、イザベルは偶々会っちゃったの。それで…あいつに…本人からは詳しいこと聞いてないからよく知らないけど…とにかく酷いことされたらしくて」
 彼女が言葉に詰まり出した丁度その時、横にいたイザベルさんが、アリスちゃんの肩に手を掛けた。アリスちゃんは少しびくっとして、イザベルさんの方を見た。彼女は小さく震えていた。
「そこからは…あたしが話すから…」
 彼女はそう言っているが、明らかに余裕も落ち着きもなくなっている。吐き気を堪えているのも見て取れる。もうそれは完全に、トラウマが蘇った時のもので間違いないものだった。
「あ…、あたしそれでね…はぁ…あいつに…無理矢理…レイプされたの」
 これまた胸糞の悪い話を前に、僕達は戦慄を隠せない。
「あたしを見つけるなり襲いかかってきて…馬乗りされて…」
「あの水晶の結晶みたいなやつで抵抗とかは…無理だったの?」
 彼女は僕の疑問を受けると、静かに首を振って、
「あたしなんかじゃ…あいつは強すぎて何も抵抗できなかった…」
 と、どこか悔しさを孕んだ顔をした。
「なんか無闇に聞いちゃってごめんね…」
 彼女の酷い様相に申し訳なくなったのか、楓花が詫びの言葉を入れた。
「いいの、共有しなきゃいけないことだから」
 曇った雰囲気を払うように、イザベルさんは楓花に微笑んでみせた。初対面のあの無愛想さは、どこかにほっぽり投げられたのか(それとも楓花と僕で忖度してるだけなのか…)。
「んで、ここからもっとよく分かんないかもだけど、そのショックで一時的に幼児退行しちゃって」
「一時的?」
 はたまた文脈に合わない単語がスポーンして、思わず聞き返した。
「そう、一時的に。でしかも、幼児退行するのは体も同じだったの。あたし達天使って、基本的に無理のない程度で自分の思うように姿を変えれるんだけど、それが幼児退行した時に制御できなくなっちゃったっぽくて、それが原因で…」
「体もロリっ子になったのね」
「う、うん、正解」
 楓花のオブラートに包装しなさすぎ発言に、イザベルさんはその顔に多少の困惑の色を見せた。
「で、その幼児退行したもう一人のあたしが結果的に2つ目の人格になって定着して共存しちゃったから、人格をはっきり区別するために、…何で言えば良いんだろ…なんか…とにかく特殊な力がある髪飾りで人格切替できるようにしてるってわけ」
 口から勝手にふむふむ、と声が出る。彼女の心身の仕組みは、僕らが思った数倍は複雑で難解そうだ。てか人格切替って何気に物凄いパワーワードじゃね。
「そういえば、さっきまでロリっ子の方の人格だったのはなんで?」
 僕の左腕をさっきからずっとこねくり回している楓花が、ぽろっと疑問を呟く。イザベルさんのやんごとなき太ももに乗っかっている(羨ましいこと限りなし)アリスちゃんは、少し考えてから、多少申し訳なさそうな雰囲気を含んだ顔を上げた。
「えっと…これ被害者のあなた達からしたら説得力が微塵も無いかもだけど…実際子供の人格の方が大人しくてかわいいから…かなっ?」
 彼女が話している後ろで、ツイスターくんが何やら言いたげな様子で、空中をホバリング飛行して近づいてきた。
「ああ言ってるけど、ほんとはあの高身長の方のイザベルに抱っこされるのが恥ずかしいって前話してたんだよね」
 オイオイオイ、かわいいかよ。彼がこんな話を持ち出す性格だと思っていなかったからか、尚更その裏話は印象に残った。
「…ん?ツイスター、何か言った?」
「いえいえ家家いえいえ何でもありませ~ん」
 アリスちゃんの詮索に、彼は綺麗にしらばっくれた。うん、初対面と印象違いすぎてキャラが読めない。
 「それで、そろそろボク達も自己紹介した方が良いかな?」
 話の切れ目を見て、楓花が3人に言う。そう言えば僕達はまだ身を明かしていなかった。と、楓花は早速自己紹介し始めるのかと思いきや、僕の方を振り返って、
「先行って…()」
 と、僕に歯を見せて苦笑いしながら頼んできた。
「そっちが言い出したことじゃんか…」
「ねぇお~ね~が~い~!急に恥ずかしくなったのぉ!」
 無責任とかそれ以前に、掌くるくるし過ぎである。もう回転力で風力発電できるよこれ。
「…はぁ、ほんとにもーしょーがねぇな」
 結局、楓花のごねる姿があまりにも愛おしすぎたので、僕が先に自己紹介をすることになった。
「えーと、星宮 瀧って言います。…まあ、はい、そこら辺の高校生です」
「ねー具体性に乏しいー」
「うっせ!いきなり自己紹介とか言われても何言ったら良いか分かんねーもん!」
 自分から頼んでおいて他人事のように楓花が横からいちゃもんを付けてきたので、むっとした。
「じゃあ楓花がお手本を見せてみろよ~!」
「えっそ…それはぁ…いやぁ…その…」
「とぼけるのは程々にしなされ」
「ふきゅーん…」
 アリスちゃ含む3人が困惑の表情を見せ始めたのに急かされたのか、楓花も仕方なさそうに彼らの方を向いた。
「ボクはえと、森崎 楓花って言います…とにかく瀧くんの一生の伴侶になる予定です!」
 そう楓花が言うと、アリスちゃんは少し驚いて、
「わ、結婚まで想定してるんだ…」
 と漏らした。それを聞くと楓花は急に目をうるうるさせた。
「だって…本気だもん…」
 小さい声でそう言いながら、彼女は僕に体を寄せてきた。もう駄目、かわいすぎ。
「俺も保証するよ、本気だよなっ」
 僕がそう言うと、楓花は見事に泣いた。本当に彼女は子供よりも子供である。
「ゔぅぅぅありがどぉ…大好きだよぉぉ…」
「えと、この子はすぐこうやって泣きます」
 適当に場を繋げるために言うと、聞いている3人も何となく察したのか、
「見るからにかわいい彼女さん!」
 と、表情を柔らかくしてくれた。そして、楓花の様子を見ていたイザベルさんはこっちに歩み寄ってきて、僕にしがみついている楓花の元まで来ると、楓花の背中に手を置いて、優しくさすり出した。楓花が顔を上げると、イザベルさんは優しく彼女に微笑んた。その笑顔には、見惚れてしまうような純真な美しさと、ペンギンみたく素朴で純粋な可愛さが見事に両立していて、僕と楓花共々、ハートを撃ち抜かれたような心地がした。間近で見ている楓花に至っては、溢れる程にときめきを感じて、顔も耳も赤く染まりきっていた。少なくとも、イザベルさんは楓花に対しては大分、愛想がありそうだ。
「大丈夫?」
 柔らかい声で訊くイザベルさんに対し、楓花は一言、
「大丈夫だから…一回キスして…♡」
 と、僕達はそっちのけで、隠し切れない愛欲を言葉にした。それを聞いたイザベルさんは、何も躊躇うことなく楓花に顔を近づけ、そして、口付けした。またまた目に良いものを見せてもらって、つくづく感謝であります。幼くてかわいらしい楓花と、清楚で涼しげで、それでもって少し子供っぽい愛嬌があるイザベルさんの2人がディープに唇を交わす、その完璧で究極の光景に、心の中に言い知れぬエモさ、そして感動が共に溢れ出してきて、素早くポケットからスマホを取り出し、2人が気付く前にシャッターを押した。シャッター音に気付いた2人は、目を開けるなりびっくりして更に顔を赤く変色させたが、大して気にすることも無く、イザベルさんは楓花を抱き締めて、遂にはフレンチキスに移行した。流石にここまでくると、僕もツイスターくんもアリスちゃんも、皆んな気まずくなって、顔を見合わせて静かに苦笑いした。そう言えば、当たり前のように見てたけど、こうやって他の人とキスするのは本来彼氏の前でする事ではないんだよネ。楓花がキス魔なのは承知だし眼福だから快諾してるけど。
「ぷはぁっ♡んにゃぁ…♡はぁ…♡」
 フレンチキスを終えた楓花は、大袈裟なくらい恍惚とした表情で余韻に浸っていた。イザベルさんは、口を軽く拭うと、
「ど、これで満足できた?♡」
 と、にこにこしながら楓花に言った。すると楓花は、嬉しそうに、
「大満足だったぁ…♡あっ…♡イザベルさんのキス…気持ち良過ぎてイっちゃったぁ…♡」
 と恥ずかしそうに言った。いやうっそ~ん。軽く衝撃発言じゃん。どうりであんなに気持ち良さそうな顔をしてたわけだ。しかし、キスで絶頂とかどんだけテクニック高いんだ…是非とも教えて欲しいところですな。
 なんて思っていたのだが、不意に楓花のスカートの下が濡れているのを見て、僕は一瞬にして冷や汗だくだくになった。
「ふ、楓花…パンツ濡れ…」
 楓花は、僕が言い終わる前に下着を覗いて、直様、顔色を変えた。
「…へ?うそ…?だよね?」
 冗談でしょと言わんばかりに口角は上がっていたが、明らかに表情は歪んでいた。そして、2度見してやっと、
「やぁーこの後どうすれば良いの~!/////」
 と慌てふためき出した。そして、何故かイザベルさんを腕で捕まえて、前後にゆさゆさし始めた。イザベルさんに関しては、どうすれば良いか分からず目を閉じてされるがままになっていた。キスを頼んだのも我慢できなかったのも含めて自業自得なのに、何を物申しますかねぇと思いながら、僕は終わるまでその姿を小動物を観察するように見物していた。
「…ねー彼氏さんこの子どうしたら良いの…」
 傍観していた矢先、突然sosを出された。まぁ…これは僕が何とかするしかないか。
「楓花」
「…ん?どしたの?」
「…琉奈の下着借りよーぜ」
 僕の提案を聞いた楓花は、途端に顔がもう一段階赤くなった。まあ無理は無いだろう。いきなり人の下着を借りるなど誰でも恥ずかしいのは承知している。
「ちょ、ちょっとそんなの…何て言うか…破廉恥過ぎるよ!///」
「いやどう破廉恥なのよん」
 僕が訊き返すと、彼女は言葉に詰まって下を向いた。
「いや…なんかさ…彼氏の妹の下着を借りるっていう展開…なんかすっごい…破廉恥じゃない?」
「そういうのを語彙力が足りないって言うんだぞ~」
 僕が呆れてそう言うと、彼女は決心がついたのか、仕方なさそうにため息をいて、
「じゃあ琉奈ちゃんの下着履くしかないかぁ~…」
 と引き下がった。という事で、琉奈には悪いが、楓花の下着のピンチヒッターとして、彼女の下着を使わせて貰おう。

               ❤︎

 それから、楓花には取り敢えず僕の家のシャワーで下半身を洗って貰い、その後、サイズが合う琉奈の下着の中から、良い感じの物をチョイスして履いて貰った。
「えっと、タオルまで使わせてもらって…ごめんね」
「いいよいいよ、可愛いうちの彼女なんだから」
 そう言って撫でてあげたら、彼女はめちゃめちゃ嬉しそうな顔をした。
「前から思ってたけど、楓花ちゃんはほんと何するか分かんないよね~」
 アリスちゃんが小さく笑いながら、僕に愛でられている楓花に言った。楓花は僕に撫でられたまま、顔の向きだけ変えてアリスちゃんの方を見て、
「アリスちゃんだって、初対面の時は首折ってくるのかと思ったよー」
 と、頬を膨らませた。その様子が可愛すぎて撫でる激しさが増したのはここだけの話。
「あっはは、あれは冗談だよ~。確かにあたしの能力ならできることではあるけど、少なくとも楓花ちゃんみたいに無垢で可愛い女の子の首を進んで折る気になんかなろうにもなれないよ~」
 アリスちゃんの話を聞いていると、本当に、楓花は人にも天使にも何にでも好かれるんだなぁと関心する。
「え、俺だったら折るの?」
 出来心で聞いてみた。アリスちゃんは苦笑いして、
「いやいや、折らないよ心配しないで()」
 と言ってくれた。うん、僕の頸椎はまだ安泰そうだね。ジョーダン履く(冗談吐く)のは足だけにしておいて(?)、そろそろ、大事な話に戻る頃合いだ。僕の部屋に戻り、定位置に着いたら、脱線していた本題について、話を切り出すことにする。
「…えっと、僕達を襲った理由を…訊きたいんだ」
 こんな所で躊躇っていては永遠に進展しないため、単刀直入に聞いてみた。イザベルさんは、僕の質問を聞くなり、顔を曇らせた。
「…多分、過去のあたしとアリスの様子を重ね合わせちゃって…それでカッとなっちゃったのかも…」
 彼女がそう言うのも無理はない。きっと、楓花がアリスちゃんをレイプしていなければ、あの事件はきっと起こらなかっただろう。普通に考えて、良くないのは楓花の方だ。しかし、イザベルさんは楓花を嫌ってはいないし、ディープキスするくらい打ち解けてくれている。イザベルさんは、本来凄く優しくて穏やかな天使であることは、今日会って彼女と話してみて、身に沁みて分かった。楓花が心からしっかり謝罪してくれれば、きっと彼女も許してくれるだろう。楓花にアイコンタクトすると、彼女は少し息を吸った。
「…とにかく…アリスちゃんに変に手を出しちゃって…ごめんなさい」
 楓花はそう言い切って、目を瞑ってイザベルさん達の方に頭を下げた。それをイザベルさんは静かに聞くと、楓花に柔らかい声で、
「いいよ。もうしないでね」
 と、短く言い切った。彼女に不機嫌な様子は無く、仏様みたいに安らかな笑顔だった。僕も、その様子にホッとして、安堵のため息をいた。なんて安心する暇は無く、楓花が顔を上げるなり、「びぇぇぇぇんありがどうごじゃいますぅぅぅっ」と言ってまたイザベルさんにくっ付いて泣き出したので、今度は呆れのため息が口から出てしまった。
「うちの周りには泣き虫が多いよ…」
「その心労、察するよ()」
 ツイスターくんがぽつんと同情の声を漏らした。楓花や琉奈を手懐けるのは本当に大変なこっちゃ。因みに、楓花に襲われた張本人は、「あんま覚えてないけどいいよー」の一言で許してくれたので、楓花も精神的に楽そうだった。その証に、さっき思いっきりアリスちゃんに抱きついて、ロリは堪らんなぁとばかりに顔を擦り寄せているのが確認できた(もしかしたらあんまり懲りてないかも知れない)。
 なんだかんだ、お互いを許し合えた事で、天使と人間という小さからぬ相違はあれど、僕と楓花は彼女らと友達と言えるくらいの関係になる事がきた。折角だから、天使3人(?)が人間と同じ物を食べられるかは知らないが、お菓子でもついばみながら、もうちょっと打ち解けた話をしようと考えていた。ところが、聞こえてきたインターホンの音がそれを不可能にした。
「あっ待ってごめん妹が帰ってきたかもしんねぇ…」
「ひょへぇっ?!」
 普段聞く筈がないような声を出して一番驚いたのは何故だか楓花だった。
「やばいって下借りたの言うの恥ずい…」
「あっそっち気にしてたの」
 アリスちゃんが苦笑する。楓花の羞恥を感じるラインは未だに不明瞭過ぎて分かっていない。多分、彼女のそういった如何わしい方面のセンスによって大きく左右されているんだろう。
 と、そんな事を気にしていては外にいるであろう琉奈がぴゃーぴゃー泣き始めるので、鍵を開けに玄関に向かった。
「ねー鍵忘れたからお兄ちゃん開けてー!」
 と外から聞こえてくる声で、琉奈だと簡単に分かる。因みに琉奈が鍵を忘れてくる確率は大体78%くらいである。
「はいよっ」
 鍵を開錠してドアを開けて外を見れば、やはり少し申し訳なさそうな顔して立っている琉奈の姿があった。
「えっとぉ…ごめん」
軽く謝る琉奈に「いつもの事でしょー」とフォローになってないフォローを入れながら、再度家の中に戻る。琉奈が上がってくる間に、不自然に思われない速歩きで自室に戻って、天使の3人に、
「ごめん君らの事知らない人が来ちゃったから戻った方が良いっぽい」
と言っておいた。イザベルさんは小さく笑って、
「妹だよね?今度はその子にも会いたいな」
と、琉奈の事を気にしている様子だった。
「次会う時までに何とか説明付けとくね」
彼女にそう言うと、イザベルさんは小さく頷いた。
「じゃああんまここいるとバレるからそろそろ帰るね。呼びたい時はさっきとおんなじようにやれば良いからね!」
ツイスターくんは僕らにそう伝えて、後ろの2人を纏めると、恐らく天界の方に戻る準備体制みたいなのを取った。
「それじゃ元気で」
「ばいばーいっ」
軽めの別れの言葉を言い合った後、彼らは僕の部屋の空気にフェードアウトするように、静かに消えていった。やはり、その有り様は何度見ても不思議な光景だった。
「…ボクはどーすれば良いの?」
彼らが消えてから数秒を開けて、楓花が僕に話しかけてくる。
「どうするって…そりゃ借りもんは申告しておかないとねぇ」
そう言うと、彼女はまたまた顔を熱らせて目を背けた。可愛過ぎて少し意地悪したくなったので、油断している楓花の胴体を不意に両腕で掴むと、抱き上げてリビングの方にダッシュした。
「ちょっと瀧くん待って!待ってぇ!」
彼女は焦って手足をじたばたさせるが、そんな事では落とさない。ささっとリビングまで向かい、琉奈の所まで楓花を持って行くと、
「あっお姉ちゃんじゃんっ」
と琉奈は意外そうな顔をした。楓花は恥ずかしさで、それに対して何も返事できないようだった。
「2人で何してたの?」
琉奈が無邪気に質問するが、楓花は答える気になれないのだろう、顔を真っ赤に染め上げて、額に汗を滲ませながら口を噤み続けている。琉奈が困惑すると思ったので、「ヤってた」と単純に説明すると、琉奈はくすっと笑って、
「もぉ~いっつもそんな感じじゃん♡」
と、楓花の頬をもちもちしておちょくっていた。そこで、何も言わない楓花に代わって例の件を繰り出す。
「でさぁ、楓花パンツ濡らしちゃって…緊急だからお前のやつ借りさせてもらってるんだよね()」
そうやって説明すると、琉奈の方も顔が少し赤くなった。楓花は目を瞑って羞恥心を堪えている。さあどういう反応をするのかと思ったら、琉奈はと口角を上げて、目を瞑っていた楓花の顔を手で持って、ぐいっと自分の顔に近づけた。楓花は突然のことにびくっと大きく震えて、「にゃあぁっ?!///」と情けない声を漏らした。
「おにーちゃん…貸し出し料としてお姉ちゃんにべろちゅーしても良いかな?♡」
僕は、手に持ったスマホを上げながら、
「俺はすっごく寛容だから一向に構わんよ」
と快諾した。自分でも、表情筋が琉奈の顔の鏡写ししたかの如くにやけているのは実感していた。
「お姉ちゃん、いくよ~♡」
「ふんむぅっ?!!♡」
 そうして漏れなく、楓花は琉奈の唇の餌食になった。そして、僕はその様子をしっかりと録画して、後で、僕と楓花と琉奈の3人のグループLINEに動画を貼り付けておいた。後日楓花にビンタされたが、何故か気持ちが良かったのはここだけの話だ。

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