神石

MJ

文字の大きさ
3 / 5

神石3

しおりを挟む
所々で車がすれ違えるくらいの広さの道路に出てくると安心感からか尿意を催した。

どこかで車を止めて立ちションでもするしかないな。

そう思いながら、すれ違える十分な道幅を見つけて車を止めた。車外に出ると車内とは違った自然が広がっていた。優しい湿気に包まれた空気が充満している。車の扉には黒いシャクトリムシのようないきものが付いていた。どこかから偶然こぼれ落ちてきたに違いない。上を見上げると木が生い茂っており、枝の間から所々光が差し込んでいる。ここにはこんな虫が沢山いるに違いない。崖の下からは川のせせらぎが聞こえてくる。道路脇の木の幹にはしっかりとした苔が生えている。人の気配がしない。おそらく立ちションをしても人に見られることはないだろう。この数分間、人と一度もすれ違っていない。川で放尿しようと思い崖を少し下って行った。そういえば、昔、カナダの教会の裏の木の下で立ちションをした事を思い出した。
あの時も今日と同じように近くにトイレがなくて我慢ができなくなった。カナダでは珍しく土砂降りの雨が降っていた。こんな所で立ちションをしたらバチが当たるのではないかと思うような神聖な場所に思えたが、近くにトイレがなくてやむなく放尿した。バチが当たったのかどうか分からないが、その日のサッカーの試合で膝に怪我をして当分の間治らなかった。
今日はそれに比べれば自然の中に 方尿をするわけなのでバチは当たらないだろうと考えた。しかし、悪いことをする時には悪いことが起こる予感がする。マムシが現れて噛まれたりしたら大変だ。わざわざ草木の茂った中を進んで川まで下るのはやめて崖の途中で放尿することにした。急いで方尿を終えようとするがこういう時に限ってなかなか終わらない。
なんとか無事に用を済ませて車に戻るとまだシャクトリムシがドアにへばりついていた。払い除けようかどうしようか迷ったが、旅は道ずれとばかりにそのままにして車に乗り込んだ。この虫が自力では到底行けないような場所に移動してそこで一生を終えるのも面白いかもしれない。俺の車に落ちてきたのが運命。このままつけて走ろう。

山道は峠を超えて下り坂になってきた。慣れない道なので慎重に運転していると突如前方のカーブから軽四が突っ込んできた。俺は咄嗟に急ブレーキを踏んだ。助手席に置いてあったペットボトルが慣性の法則でダッシュボードにぶつかり、大きな音を立てて下に落ちた。ぬかるんだ土や湿った葉っぱの上でタイヤが少しスリップしてから止まる。すんでの所で車はぶつからなかったが、もしもこちらが相手と同じようにスピードを出していたら確実にぶつかっていた。ノロノロ運転をしていて良かった。しかし、山道で初めて出くわした車に衝突しそうになるとは恐ろしい。相手はこの道に慣れた地元の高齢者で、スピードを出しすぎていたと思ったのか、苦笑いをしながら頭を下げて通り過ぎて行った。俺もなんとなく苦笑いしてやり過ごしたが、ぶつからなくてほっとした。
それから二、三台の車とすれ違ったがどれも地元の高齢者であった。
なんとか片道一車線の広い道に出ると左右に田植えを終えたばかりの田んぼが広がっていた。
きれいに植えられた苗が規則正しく並んでいるのをみると心が明るくなってきた。前にも後ろにも車がほとんどいないので、スピードを緩めてどれほど規則正しく苗が植えられているのだろうか確認しながら走った。すると、苗は思ったよりも規則正しくは並んでいなかった。恐らく、ゴールデンウィークに普段農作業をしていない家族が来て手伝って植えたのだろう。子供達がワイワイと泥んこになって田植えをしている姿が連想されてほのぼのした気持ちになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

処理中です...