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神石4
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カーナビが温泉施設までもうすぐだと示している。
温泉に着いたらまずは車を止めて30分くらい辺りを散歩して体を動かそうと考えていた。ゴロゴロとしていた体には刺激が必要だ。風呂に入る前に一汗かきたい。用水路の脇に広い歩道があるのを見かけてこの辺りまで歩いてこようかと算段する。チラホラと民家があり、どの家も庭と道路の境界が曖昧で広々とした空間を感じた。民家のひとつの庭に防空壕のような大きな洞穴のようなものがあった。中はどうなっているのだろうと気になり、散歩する際には中を確認しに行こうと思った。
温泉施設の駐車場に着くと、肩下げ鞄にペットボトルを入れて道路の方に向かった。温泉施設のバスの運転手が施設の玄関脇でタバコを吸いながらチラチラとこちらを見ている。田舎では余所者は目立つのだろうか。駐車場に車を止めて道路の方に歩いていくのは不自然かなあと思いながら、そんな事を気にする自分の性格を小心者だとたしなめる。まずは民家の脇の道を通る。玄関先に洗濯物が干してあり、そのひとつが風で飛ばされてコンクリートの上に落ちていた。拾って掛けておいてあげようか悩んだが、不審者と思われることを恐れて近づくのをやめた。小さな親切心よりも疑われるかもしれない危険を侵さない事を優先する思考はいつから身についてしまったのだろう。空には晴れ間が覗いていて、白い雲が流れていく。今日は小さなことはきにすまいと決めて、洗濯物のことなど気にせずどんどんと進んでいくと防空壕の近くに来た。中を遠目から覗いてみると物置のようになっていた。そんなに大事じゃないものをいれてあるんだろうけれども、土が露出している洞穴に物を入れておくというのがなんだかとても原始的な気がして驚いた。それを見て満足したので次は用水路の近くの広い歩道の方に向かって行った。なにも通らないのに無駄に広い道はとても贅沢な気がしていつもよりも大きめに手を振って、腰を余分に回転させながら歩いた。用水路には水草か雑草か分からないような植物が茂っていた。水量は多くてそれなりに流れがある。魚がいないか時々覗き込みながら歩いていると小さな魚が無数に泳いでいた。ハヤかオイカワの稚魚だろうか。何かを警戒しながらも集団で泳ぎ回っている。時おりスーッと何かから逃げる仕草を見せるがなにも追いかけていない。
俺はそれを眺めながら手すりを利用して腕立て伏せを始めた。なまった体にもう少し刺激が欲しかった。頑張ってノルマの五十回が終わる頃に小さな警報のような音が鳴り始めていた事に気がついた。ブッブッブッーウッーウッーウーーといったような甲高い音だ。そのうちなり止むだろうと思っていたが、なかなかやまない。よくよく耳をこらしてみると近くの小屋のような建物の中から聞こえてきている。近づいてみるとポンプが一生懸命水を用水路に送り込んでいた。こんな音を立てていて壊れていないのか不思議に思いながら通り過ぎると、足元に田んぼが現れた。田んぼと道路の間は白いコンクリートでまっすぐ区切られていた。コンクリートは太陽に照らされて余計に白く見えた。それに比べて田んぼの中はドロっとした有機的な泥の上に無色透明な水が10センチほどはられている。コンクリートからこちら側はやけに人工的な気がした。だけれどもよく考えてみると田んぼも人工的なものだったと気がついた。だったらこの硬いコンクリートと柔らかい田んぼの違いはなんだろう。そんなことを思いながら田んぼの方に近づくと何かが動いた。小さな白っぽいカエルが稲の下の方に潜って息を止めている。周りにはそのカエルと同じくらいの大きさのオタマジャクシが数匹のんきに泳いでいる。カエルはカエルになってからも大きくなるんだっけと思いながら小さな白いカエルを眺めた。
カエルは無色透明な水の中に潜って隠れているつもりみたいだ。そこで俺は少し意地悪をしてみたくなり、カエルの息が続かなくなるまで観察することにした。
温泉に着いたらまずは車を止めて30分くらい辺りを散歩して体を動かそうと考えていた。ゴロゴロとしていた体には刺激が必要だ。風呂に入る前に一汗かきたい。用水路の脇に広い歩道があるのを見かけてこの辺りまで歩いてこようかと算段する。チラホラと民家があり、どの家も庭と道路の境界が曖昧で広々とした空間を感じた。民家のひとつの庭に防空壕のような大きな洞穴のようなものがあった。中はどうなっているのだろうと気になり、散歩する際には中を確認しに行こうと思った。
温泉施設の駐車場に着くと、肩下げ鞄にペットボトルを入れて道路の方に向かった。温泉施設のバスの運転手が施設の玄関脇でタバコを吸いながらチラチラとこちらを見ている。田舎では余所者は目立つのだろうか。駐車場に車を止めて道路の方に歩いていくのは不自然かなあと思いながら、そんな事を気にする自分の性格を小心者だとたしなめる。まずは民家の脇の道を通る。玄関先に洗濯物が干してあり、そのひとつが風で飛ばされてコンクリートの上に落ちていた。拾って掛けておいてあげようか悩んだが、不審者と思われることを恐れて近づくのをやめた。小さな親切心よりも疑われるかもしれない危険を侵さない事を優先する思考はいつから身についてしまったのだろう。空には晴れ間が覗いていて、白い雲が流れていく。今日は小さなことはきにすまいと決めて、洗濯物のことなど気にせずどんどんと進んでいくと防空壕の近くに来た。中を遠目から覗いてみると物置のようになっていた。そんなに大事じゃないものをいれてあるんだろうけれども、土が露出している洞穴に物を入れておくというのがなんだかとても原始的な気がして驚いた。それを見て満足したので次は用水路の近くの広い歩道の方に向かって行った。なにも通らないのに無駄に広い道はとても贅沢な気がしていつもよりも大きめに手を振って、腰を余分に回転させながら歩いた。用水路には水草か雑草か分からないような植物が茂っていた。水量は多くてそれなりに流れがある。魚がいないか時々覗き込みながら歩いていると小さな魚が無数に泳いでいた。ハヤかオイカワの稚魚だろうか。何かを警戒しながらも集団で泳ぎ回っている。時おりスーッと何かから逃げる仕草を見せるがなにも追いかけていない。
俺はそれを眺めながら手すりを利用して腕立て伏せを始めた。なまった体にもう少し刺激が欲しかった。頑張ってノルマの五十回が終わる頃に小さな警報のような音が鳴り始めていた事に気がついた。ブッブッブッーウッーウッーウーーといったような甲高い音だ。そのうちなり止むだろうと思っていたが、なかなかやまない。よくよく耳をこらしてみると近くの小屋のような建物の中から聞こえてきている。近づいてみるとポンプが一生懸命水を用水路に送り込んでいた。こんな音を立てていて壊れていないのか不思議に思いながら通り過ぎると、足元に田んぼが現れた。田んぼと道路の間は白いコンクリートでまっすぐ区切られていた。コンクリートは太陽に照らされて余計に白く見えた。それに比べて田んぼの中はドロっとした有機的な泥の上に無色透明な水が10センチほどはられている。コンクリートからこちら側はやけに人工的な気がした。だけれどもよく考えてみると田んぼも人工的なものだったと気がついた。だったらこの硬いコンクリートと柔らかい田んぼの違いはなんだろう。そんなことを思いながら田んぼの方に近づくと何かが動いた。小さな白っぽいカエルが稲の下の方に潜って息を止めている。周りにはそのカエルと同じくらいの大きさのオタマジャクシが数匹のんきに泳いでいる。カエルはカエルになってからも大きくなるんだっけと思いながら小さな白いカエルを眺めた。
カエルは無色透明な水の中に潜って隠れているつもりみたいだ。そこで俺は少し意地悪をしてみたくなり、カエルの息が続かなくなるまで観察することにした。
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