豪雨

MJ

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浸水

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消防団の詰所には副隊長の赤井他3名が待機していた。彼らはこの非常事態に何もしていないことにやきもきしていた。何か出来ることはないかと話し合っていた。困っている人がいたら助けたい。それが彼らが消防団に入る動機でもあったわけである。今夜のような事態に何もしないでのんびりしている訳にはいかない。
LINEやTwitterでは次々と豪雨による被害が報告されていた。土砂崩れや浸水の被害の様子が次々と写真や動画で投稿されている。この地域ではこれまでに経験したことのないほどの広範囲での被害である。
「隣町でも床下浸水しておおごとになっとるらしいぞ。助けに行かんか」
「行きましょうか」
「じゃけど出動の命令が来てないのに行ってもええんじゃろうか」
「隊長に言ったら危ないゆうて止められるでしょう」
「内緒でこっそり行きゃあええわ。危ないようじゃったら引き返そう」
隊員からは若干躊躇する声も聞かれたが、結局は副隊長の言葉に押し切られて出動することになった。
雨はまだまだ止む気配を見せない。時おり怒ったようにものすごく激しくなる。

消防団の車は国道を走り、その後川沿いの県道を北上して行った。途中、道が周りより低くなったところで道路が水溜まりになって塞がれていた。
「副隊長、道路が水溜まりになっていて進めません」運転手が車を止める。
「構わん。行ってみろ。そんなに深くないわ」と副隊長が言う。
運転手は少しバックしてから勢いをつけて水溜まりに突っ込んだ。
ざざざーっ。消防団の車は勢いよく水を押しのけながら突き進んだ。普通の車よりは若干車高が高い分通り抜けられるだろうと思った瞬間、車は水たまりの中で止まってしまった。
隊員達は全員ゴクリと唾を飲み込んだ。
「やばい!」
隊員は車から飛び降りて状況の確認をする。すぐさま強い雨が隊員の顔を濡らした。水たまりの1番深いところは膝位の高さまであり、車はそこで止まっていた。
「とりあえず押すぞ」
運転手以外の三人で車を押してみる。
全員で血管が切れるのではないかと言うほどの渾身の力を込める。火事場のクソ力ならぬ水場のクソ力である。幸い車はゆっくりと動き出した。上り坂で車を押すのはきつい。どうにかこうにか水たまりから車を引き上げた時には三人の息は上がっていた。
「副隊長、どうしましょう」
「このままエンジンがかからんかったらやばいですよ」
出動命令出てないのに勝手に来て車一台お釈迦にしてしもうたとなったら大変なことになる。特に副隊長の赤井の責任は重大だ。
先程までの誰かを助けに行かなければという使命感はもはや微塵も無くなっていた。
自分達のこの危機からどうすれば抜けられるのか。果たして浸水して動かなくなってしまった車のエンジンをかけても良いのだろうか。しばらく全員がスマホで車の浸水について調べてみる。
全員で調べてみて分かったことは、エンジンや電気系統に水が入っていたらアウト。マフラーが塞がれていてエンストしているだけだったらセーフという事だ。
水の深さと車高を考えるとエンジンや電気系統がやられているとは考えにくい。しかし、もしエンジンや電気系統に浸水していたならば、エンジンをかけると漏電したりエンジン内に水が入って取り返しのつかないことになる。

エンジンをかけてみるのか、それともかけないでレッカー車を呼ぶのか。この二択のどちらを選択するのかで隊員達はしばらく話し合った。

レッカーを呼べば車を最悪な状態にしてしまうことはないが、確実に隊長にバレてしまう。このままエンジンがかかれば、無かったことにして帰ればここまで来たことは内緒にしておけば良い。
迷っている最中に後方から車の明かりが近づいてきた。後ろから衝突されては困るのでウィンカーを付ける。ウィンカーは問題なく点灯した。
「どうしたんですか」
「水溜まりが出来とって通れんようになっとるけ迂回してください」
「そうですか。ありがとうございます」
と車は引き返して行った。

ウィンカーついたから電気系統大丈夫じゃないかという安易な期待からエンジンをかけてみようという気持ちに傾いた。
「よし、一か八かかけてみようか」
副隊長が車の鍵に恐る恐る手をかける。

祈るように捻るとブルブルブルルンとエンジンがかかった。
「よっしゃー!」
隊員達は今日一番の歓声を上げた。そして急いで車に乗り込んで帰路に着いた。
この事は他の隊員達には内緒にしたが、クーラーが全く効かなくなっていたので電気系統は若干やられていたと考えられる。
その頃、豪雨による被害は各地でさらに深い爪あとを残していた。
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