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神子と騎士と幼なじみ
第14話 屋敷ーアルフォンスsideー
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瑠璃の捜索を初めて既に1ヶ月ほどが経過した今日、ようやく瑠璃がいると思われる場所を見つけることが出来た。
瑠璃の安否が分からない今1ヶ月と聞くと随分と長く感じるが、ルドルフの鼻に頼るしかない状態で1ヶ月で手がかりを掴めたのなら重畳と言えるだろう。
ルドルフの鼻に頼ると言っても、匂いが続く方へ進んでたどり着いた先は認識阻害魔法がかけられており、ルドルフだけでは何度辿っても神殿へと戻されるだけだった。
その時のルドルフは「まるで虹のふもとを目指してるみたいだ」と言っていた。
それは言葉の通りで、先が見えているのに進んでも進んでもたどり着かないということであり、ルドルフから言わせてみれば確実に匂いの跡はあるのにその先は何故か道が消える、との事らしい。
魔力の痕跡さえも辿ることができるルドルフの鼻ですら謀る事が出来るなど、相当高度な認識阻害魔法であることは明白だった。
やはり相手側には強力な魔法を扱う人間がいると確信し、近衛騎士団の持つ情報網を駆使して総出の捜索を始めたが、匂い以外なんの手がかりも無い状態での捜索は初めのうちは難航した。
王都の酒場や冒険者ギルドでの聞きこみ調査でも成果は得られず、白の焦りが伝播して騎士達も落ち着きがなくなっていった。
捜索から2週間が経過した頃、オルキナスから手がかりが見つかったと報告があった。
王都の婦人達の井戸端会議にお邪魔して聞き出した情報らしいそれは、女性の扱いに慣れたオルキナスでなければ手に入れることが難しいものだっただろう。
婦人達が言うに、エーデンの人間だと思われる男2人が青い目のガキの話をしているのを聞いたとのだった。
青い目と言えば魔族の可能性が高いという情報は王都内では知らない人間の方が少ないだろう。
例に漏れず青い目が何を示すか知っていた婦人達は、青い目という言葉が聞こえてきて恐ろしくなり、つい聞き耳を立ててしまったと言う。
男達とは少し距離があったせいで会話の全容は分からなかったが、王都内のどこかの屋敷に青い目のガキがいるということと、その男達の背格好の情報ただふたつだけだった。
しかしその情報ふたつだけでも、手がかりがひとつも無い状態だったアルフォンス達にとっては僥倖と言えた。
アルフォンスが1年前に1度だけ見た瑠璃の姿は、子供と言って差し支えないほどの背格好だったと記憶している。
青い目、そして子供に見える姿、その2点が該当する人間などそう何人もいるとは思えない。
どこかの屋敷にいるというのが瑠璃であるのはほぼ確実だろうと、まだ喜べる段階では無いが白もその情報を聞いてひとつ息をつくことができたようだった。
特に、拐われて以降の瑠璃に会ったことがあるかもしれない男の背格好が知れたのは手がかりとして非常に大きかった。
その男達のどちらかが瑠璃を拐った張本人なのか、はたまたただの関係者でしか無いのかはまだ不透明だが、拐われてその屋敷に監禁されているというのなら捜索がバレた場合瑠璃の身に何が起こるかは分からない。
慎重に尾行と聞き込みを続けた結果、件の屋敷を見つけ出すのに更に2週間を要した。
しかし尾行を続けると言っても、それすら一筋縄では行かなかった。
屋敷の周辺はかなり広い範囲に認識阻害魔法が仕掛けられていたようで、婦人達から聞いた背格好と一致する男を尾行しても、何故か途中で見失ってしまう。男を尾行して見失った地点から認識阻害魔法を解呪していく所から始まった。
2週間かけてやっと辿りいついた場所は意外にも神殿からそう遠くない場所にあった。
最後に屋敷全体にかけられていた認識阻害魔法を解呪すれば、霧がかかったようにぼやけていた屋敷の全容がわかった。
そこは王都に住む準富裕層が住んでいそうな、ごく在り来りな屋敷だった。
「ここに瑠璃がいるのか」
ルドルフの嗅覚とアルフォンスの解呪の魔法を以てして瑠璃がいると思われる場所を探し当ててから、万が一に備えた戦闘要員として他の騎士達も招集し、屋敷の前に集まった。
貴族の邸宅とまでは行かないが、そこそこの大きさを誇るその屋敷を見上げて、アルフォンスの隣で白が表情を引き締める。
「ルドルフ、ここにルリ殿とロルフの気配はありますか?」
「もしかしたら中にまだ結界が張られてるかもしれねぇっす。ロルフは絶対ここにいるって分かるくらい匂うけど、ルリさんのはだいぶ薄くなってる」
「うえ~、まだ結界張れるくらい余力あるの?王都中に認識阻害張り巡らせた挙句それって、エーデンってそんなに厄介な魔法士抱えてたわけ?」
ルドルフとオルキナスの言葉に、思わずアルフォンスも顔を顰める。
自らの能力に驕らず鍛錬を続けてはいるが、アルフォンスの実力が世界有数であり、そう簡単に引けを取るものでは無いことは純然たる事実だ。
しかし、瑠璃を拐ったであろう人間はアルフォンスと同等、下手をすればそれ以上の魔力量を有する可能性が出てきた。
もちろん魔法の精度や強さが魔力量だけで決まる訳では無いが、膨大な魔力で無制限に魔法を放てるとなると相当厄介な相手だ。
それに加えて高度な認識阻害魔法や結界も扱える人物となると、魔法士の力量によるランク付けでは最高位であるSSランクだったとしても不思議では無い。
改めて気を引き締める必要があると、腰に帯刀した剣の鞘を握り締めた。
「……入口にまで結界が張られていますね。私が切り開きますので皆さんは下がってください」
「え、ちょアルフォンス、爆破はやめてよ」
帯刀した騎士達が押し寄せるなど相当目立ちそうなものだが、そこはアルフォンスが全ての人員に認識阻害魔法をかけているため、関係者以外はアルフォンス達の姿を認識することが出来ない状態になっている。
認識阻害魔法のおかげで誰にも気づかれることなく屋敷の玄関口まで近づいたアルフォンスは、扉に残る残穢から結界の存在に気づいた。
「善処するが、そもそも皆に付与している認識阻害魔法は私の専門ではない。結界解除まで出力を調節する余裕はありません」
アルフォンスが最強と呼ばれる所以は攻撃魔法の強力さである。
攻撃魔法から結界解除魔法などはお手の物で他の追随を許さないが、唯一と言っていい不得手な魔法が認識阻害魔法だった。
認識阻害魔法を使役することなら常人以上には出来るが、専門分野では無いが故に他の魔法の出力が調節しづらくなるのだ。
オルキナスが苦い顔をしたのを見てアルフォンスは不服そうにあしらった。
爆破はやめて、など簡単に言ってくれるが、アルフォンスは涼しい顔をしていて実は超攻撃型魔法騎士なのだ。
他の魔法士であれば結界解除の際は結界解除の魔法を使って、知恵の輪を解くようにして解除するという手順を踏む。
しかしアルフォンスはそもそもの魔力が良質でその上魔力量も莫大であるが故に、細かいことは考えずに純粋な魔力の塊をぶつけて結界魔法を壊すのだ。
認識阻害魔法の併用さえしていなければ魔力の調節をしてすんなりと解除することが出来るが、今は認識阻害魔法にリソースを割かれてしまっている。
出力の調節が出来ない時の結界解除はどうしても魔法の物量で無理やり切り開くような形になってしまう。
「私が結界を破った後は先日話した通りの作戦で行きます」
認識阻害がかかっているおかげで、声を潜めることなく堂々と話しても誰にも気づかれる様子は無い。
アルフォンスがそっと扉に手を翳した数瞬後、大きな音を立てて扉が吹き飛んだ。
「もー!やっぱ爆破じゃん……!!」
「……仕方が無いだろう、これでも調節した方だ」
「アルフォンスってほんと顔に似合わず脳筋だよな……」
アルフォンスのすぐ後ろでオルキナスが頭を抱えて叫んだ。
屋敷全体が揺れるほどの爆発だったが、アルフォンスとしてはこれでも健闘した方だ。
白が引いたような口振りで言った言葉の通り、冷静沈着で戦い方も見た目通りかと思われるアルフォンスは実の所脳筋で、好き勝手な戦い方をしそうに見えるオルキナスの方が慎重に動くタイプなのだ。
白から変なものを見るような目線を感じた気がしたが、扉が開いたことにより一歩ずつ着実に瑠璃に近づいて行っている実感が湧いているのか、再度表情を引締めていた。
「…では、手筈通りに」
「おう。俺はルドルフと一緒にロルフの所へ、アルフォンス達は瑠璃を探し出して救出、だよな」
気を取り直して、アルフォンスが作戦の指示を飛ばす。
しかしあれほど瑠璃に会うことを切望していた白が何故ロルフの元に行くことが先決になったのか。
それには理由があった。
ロルフが獣人奴隷として使役されている場合、隷属魔法によって身柄を拘束されている可能性が高い。
そうであれば、隷属魔法を解除するのに最も適した魔法は光属性魔法、即ち神子である白のみ使役することが出来る浄化魔法だ。
これが一つ目の理由で、最初こそ自分が先に瑠璃の元に行くんだと言っていた白も、訳を話せばすんなりと承諾してくれた。
それが自分の役目でロルフの為にもなるなら、と言った彼を見てルドルフが目頭を熱くしていたのを覚えている。
そしてもう一つ、白には言っていない理由があった。
それは、この屋敷が娼館として使われているということだった。
暫くの聞きこみ調査によって判明したそれは、瑠璃の身は無事だと断言することが難しくなるものだった。
最初に情報を提供してくれた婦人以外にも、挙動不審なエーデンの人間を見たという証言は幾つか上がっていた。
情報によると、エーデンの男達は青い目のガキについて、具合が良かった、そんな言葉を交わしていたらしい。
アルフォンスもオルキナスも、それを聞いてなんの事やら分からないと言うような純朴な人間ではない。
それにこの屋敷周辺の認識阻害魔法を解除していく毎に、胸元をはだけさせた娼婦のような服装の女性が数人目撃されている。
それも踏まえてこの屋敷がそういった行為に使われていることはほとんど確実だと言えた。
エーデンの男が言ったらしいそれの意味も、この屋敷の存在も理解してしまったが故に、瑠璃の元に真っ先に白を向かわせるのは得策では無いと判断した。
考えたくは無いがもし瑠璃の身に何かあったとして、それを見てしまった白が取り乱すことなど想像に難くない。
オルキナスとも相談をした上で、この屋敷が一体何なのかは白には隠すことにしたのだった。
「ルドルフが付いていて心配など無用かと思いますが、シロ殿はくれぐれも無理はなさらないようお願いします」
「分かってるよ。ロルフを解放出来たら屋敷を出てアルフォンス達を待つ、だろ」
理由を聞いて一度納得したとはいえ、真っ先に瑠璃に会いに行けない事は少なからず不満なのだろう。
白が唇を尖らせて今回の作戦内容を口に出した。
「そうそう。ルリ君は俺らがちゃんと探し出すからさ。神子殿は安全第一、だからね」
「だから分かってるって!無理はしないし、お前らが決めた作戦に従う。…ほんとお前ら親でもねえのに心配しすぎ…」
白は1年に及ぶ浄化の旅で、自分がどれほどグレンツェ王国にとって大切な存在かを理解していた。
初めのうちは神子としての自覚が足りなかった白だが、近衛騎士団のそれも第1部隊が総出で護衛に着くという自体がどれほど特異なことなのか次第に分かったらしい。
それほどに神子の命は重く、何を差し置いても優先されるものなのだ。
それをわかっているからこそ、現に今もぶつぶつと不満こそ垂れてはいるが、アルフォンスの決定に背くことは滅多に無い。
「行くぞルドルフ。ロルフのことだって早く助けてやらねえとだろ」
白が屋敷の中に入ってルドルフの案内に従ってロルフを探すため屋敷の入口を離れたのを見送ると、アルフォンスとオルキナスは腰に帯刀した剣の柄に手をかけた状態で白達とは逆方向に歩き出した。
瑠璃の安否が分からない今1ヶ月と聞くと随分と長く感じるが、ルドルフの鼻に頼るしかない状態で1ヶ月で手がかりを掴めたのなら重畳と言えるだろう。
ルドルフの鼻に頼ると言っても、匂いが続く方へ進んでたどり着いた先は認識阻害魔法がかけられており、ルドルフだけでは何度辿っても神殿へと戻されるだけだった。
その時のルドルフは「まるで虹のふもとを目指してるみたいだ」と言っていた。
それは言葉の通りで、先が見えているのに進んでも進んでもたどり着かないということであり、ルドルフから言わせてみれば確実に匂いの跡はあるのにその先は何故か道が消える、との事らしい。
魔力の痕跡さえも辿ることができるルドルフの鼻ですら謀る事が出来るなど、相当高度な認識阻害魔法であることは明白だった。
やはり相手側には強力な魔法を扱う人間がいると確信し、近衛騎士団の持つ情報網を駆使して総出の捜索を始めたが、匂い以外なんの手がかりも無い状態での捜索は初めのうちは難航した。
王都の酒場や冒険者ギルドでの聞きこみ調査でも成果は得られず、白の焦りが伝播して騎士達も落ち着きがなくなっていった。
捜索から2週間が経過した頃、オルキナスから手がかりが見つかったと報告があった。
王都の婦人達の井戸端会議にお邪魔して聞き出した情報らしいそれは、女性の扱いに慣れたオルキナスでなければ手に入れることが難しいものだっただろう。
婦人達が言うに、エーデンの人間だと思われる男2人が青い目のガキの話をしているのを聞いたとのだった。
青い目と言えば魔族の可能性が高いという情報は王都内では知らない人間の方が少ないだろう。
例に漏れず青い目が何を示すか知っていた婦人達は、青い目という言葉が聞こえてきて恐ろしくなり、つい聞き耳を立ててしまったと言う。
男達とは少し距離があったせいで会話の全容は分からなかったが、王都内のどこかの屋敷に青い目のガキがいるということと、その男達の背格好の情報ただふたつだけだった。
しかしその情報ふたつだけでも、手がかりがひとつも無い状態だったアルフォンス達にとっては僥倖と言えた。
アルフォンスが1年前に1度だけ見た瑠璃の姿は、子供と言って差し支えないほどの背格好だったと記憶している。
青い目、そして子供に見える姿、その2点が該当する人間などそう何人もいるとは思えない。
どこかの屋敷にいるというのが瑠璃であるのはほぼ確実だろうと、まだ喜べる段階では無いが白もその情報を聞いてひとつ息をつくことができたようだった。
特に、拐われて以降の瑠璃に会ったことがあるかもしれない男の背格好が知れたのは手がかりとして非常に大きかった。
その男達のどちらかが瑠璃を拐った張本人なのか、はたまたただの関係者でしか無いのかはまだ不透明だが、拐われてその屋敷に監禁されているというのなら捜索がバレた場合瑠璃の身に何が起こるかは分からない。
慎重に尾行と聞き込みを続けた結果、件の屋敷を見つけ出すのに更に2週間を要した。
しかし尾行を続けると言っても、それすら一筋縄では行かなかった。
屋敷の周辺はかなり広い範囲に認識阻害魔法が仕掛けられていたようで、婦人達から聞いた背格好と一致する男を尾行しても、何故か途中で見失ってしまう。男を尾行して見失った地点から認識阻害魔法を解呪していく所から始まった。
2週間かけてやっと辿りいついた場所は意外にも神殿からそう遠くない場所にあった。
最後に屋敷全体にかけられていた認識阻害魔法を解呪すれば、霧がかかったようにぼやけていた屋敷の全容がわかった。
そこは王都に住む準富裕層が住んでいそうな、ごく在り来りな屋敷だった。
「ここに瑠璃がいるのか」
ルドルフの嗅覚とアルフォンスの解呪の魔法を以てして瑠璃がいると思われる場所を探し当ててから、万が一に備えた戦闘要員として他の騎士達も招集し、屋敷の前に集まった。
貴族の邸宅とまでは行かないが、そこそこの大きさを誇るその屋敷を見上げて、アルフォンスの隣で白が表情を引き締める。
「ルドルフ、ここにルリ殿とロルフの気配はありますか?」
「もしかしたら中にまだ結界が張られてるかもしれねぇっす。ロルフは絶対ここにいるって分かるくらい匂うけど、ルリさんのはだいぶ薄くなってる」
「うえ~、まだ結界張れるくらい余力あるの?王都中に認識阻害張り巡らせた挙句それって、エーデンってそんなに厄介な魔法士抱えてたわけ?」
ルドルフとオルキナスの言葉に、思わずアルフォンスも顔を顰める。
自らの能力に驕らず鍛錬を続けてはいるが、アルフォンスの実力が世界有数であり、そう簡単に引けを取るものでは無いことは純然たる事実だ。
しかし、瑠璃を拐ったであろう人間はアルフォンスと同等、下手をすればそれ以上の魔力量を有する可能性が出てきた。
もちろん魔法の精度や強さが魔力量だけで決まる訳では無いが、膨大な魔力で無制限に魔法を放てるとなると相当厄介な相手だ。
それに加えて高度な認識阻害魔法や結界も扱える人物となると、魔法士の力量によるランク付けでは最高位であるSSランクだったとしても不思議では無い。
改めて気を引き締める必要があると、腰に帯刀した剣の鞘を握り締めた。
「……入口にまで結界が張られていますね。私が切り開きますので皆さんは下がってください」
「え、ちょアルフォンス、爆破はやめてよ」
帯刀した騎士達が押し寄せるなど相当目立ちそうなものだが、そこはアルフォンスが全ての人員に認識阻害魔法をかけているため、関係者以外はアルフォンス達の姿を認識することが出来ない状態になっている。
認識阻害魔法のおかげで誰にも気づかれることなく屋敷の玄関口まで近づいたアルフォンスは、扉に残る残穢から結界の存在に気づいた。
「善処するが、そもそも皆に付与している認識阻害魔法は私の専門ではない。結界解除まで出力を調節する余裕はありません」
アルフォンスが最強と呼ばれる所以は攻撃魔法の強力さである。
攻撃魔法から結界解除魔法などはお手の物で他の追随を許さないが、唯一と言っていい不得手な魔法が認識阻害魔法だった。
認識阻害魔法を使役することなら常人以上には出来るが、専門分野では無いが故に他の魔法の出力が調節しづらくなるのだ。
オルキナスが苦い顔をしたのを見てアルフォンスは不服そうにあしらった。
爆破はやめて、など簡単に言ってくれるが、アルフォンスは涼しい顔をしていて実は超攻撃型魔法騎士なのだ。
他の魔法士であれば結界解除の際は結界解除の魔法を使って、知恵の輪を解くようにして解除するという手順を踏む。
しかしアルフォンスはそもそもの魔力が良質でその上魔力量も莫大であるが故に、細かいことは考えずに純粋な魔力の塊をぶつけて結界魔法を壊すのだ。
認識阻害魔法の併用さえしていなければ魔力の調節をしてすんなりと解除することが出来るが、今は認識阻害魔法にリソースを割かれてしまっている。
出力の調節が出来ない時の結界解除はどうしても魔法の物量で無理やり切り開くような形になってしまう。
「私が結界を破った後は先日話した通りの作戦で行きます」
認識阻害がかかっているおかげで、声を潜めることなく堂々と話しても誰にも気づかれる様子は無い。
アルフォンスがそっと扉に手を翳した数瞬後、大きな音を立てて扉が吹き飛んだ。
「もー!やっぱ爆破じゃん……!!」
「……仕方が無いだろう、これでも調節した方だ」
「アルフォンスってほんと顔に似合わず脳筋だよな……」
アルフォンスのすぐ後ろでオルキナスが頭を抱えて叫んだ。
屋敷全体が揺れるほどの爆発だったが、アルフォンスとしてはこれでも健闘した方だ。
白が引いたような口振りで言った言葉の通り、冷静沈着で戦い方も見た目通りかと思われるアルフォンスは実の所脳筋で、好き勝手な戦い方をしそうに見えるオルキナスの方が慎重に動くタイプなのだ。
白から変なものを見るような目線を感じた気がしたが、扉が開いたことにより一歩ずつ着実に瑠璃に近づいて行っている実感が湧いているのか、再度表情を引締めていた。
「…では、手筈通りに」
「おう。俺はルドルフと一緒にロルフの所へ、アルフォンス達は瑠璃を探し出して救出、だよな」
気を取り直して、アルフォンスが作戦の指示を飛ばす。
しかしあれほど瑠璃に会うことを切望していた白が何故ロルフの元に行くことが先決になったのか。
それには理由があった。
ロルフが獣人奴隷として使役されている場合、隷属魔法によって身柄を拘束されている可能性が高い。
そうであれば、隷属魔法を解除するのに最も適した魔法は光属性魔法、即ち神子である白のみ使役することが出来る浄化魔法だ。
これが一つ目の理由で、最初こそ自分が先に瑠璃の元に行くんだと言っていた白も、訳を話せばすんなりと承諾してくれた。
それが自分の役目でロルフの為にもなるなら、と言った彼を見てルドルフが目頭を熱くしていたのを覚えている。
そしてもう一つ、白には言っていない理由があった。
それは、この屋敷が娼館として使われているということだった。
暫くの聞きこみ調査によって判明したそれは、瑠璃の身は無事だと断言することが難しくなるものだった。
最初に情報を提供してくれた婦人以外にも、挙動不審なエーデンの人間を見たという証言は幾つか上がっていた。
情報によると、エーデンの男達は青い目のガキについて、具合が良かった、そんな言葉を交わしていたらしい。
アルフォンスもオルキナスも、それを聞いてなんの事やら分からないと言うような純朴な人間ではない。
それにこの屋敷周辺の認識阻害魔法を解除していく毎に、胸元をはだけさせた娼婦のような服装の女性が数人目撃されている。
それも踏まえてこの屋敷がそういった行為に使われていることはほとんど確実だと言えた。
エーデンの男が言ったらしいそれの意味も、この屋敷の存在も理解してしまったが故に、瑠璃の元に真っ先に白を向かわせるのは得策では無いと判断した。
考えたくは無いがもし瑠璃の身に何かあったとして、それを見てしまった白が取り乱すことなど想像に難くない。
オルキナスとも相談をした上で、この屋敷が一体何なのかは白には隠すことにしたのだった。
「ルドルフが付いていて心配など無用かと思いますが、シロ殿はくれぐれも無理はなさらないようお願いします」
「分かってるよ。ロルフを解放出来たら屋敷を出てアルフォンス達を待つ、だろ」
理由を聞いて一度納得したとはいえ、真っ先に瑠璃に会いに行けない事は少なからず不満なのだろう。
白が唇を尖らせて今回の作戦内容を口に出した。
「そうそう。ルリ君は俺らがちゃんと探し出すからさ。神子殿は安全第一、だからね」
「だから分かってるって!無理はしないし、お前らが決めた作戦に従う。…ほんとお前ら親でもねえのに心配しすぎ…」
白は1年に及ぶ浄化の旅で、自分がどれほどグレンツェ王国にとって大切な存在かを理解していた。
初めのうちは神子としての自覚が足りなかった白だが、近衛騎士団のそれも第1部隊が総出で護衛に着くという自体がどれほど特異なことなのか次第に分かったらしい。
それほどに神子の命は重く、何を差し置いても優先されるものなのだ。
それをわかっているからこそ、現に今もぶつぶつと不満こそ垂れてはいるが、アルフォンスの決定に背くことは滅多に無い。
「行くぞルドルフ。ロルフのことだって早く助けてやらねえとだろ」
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