駅前お友達倶楽部―月々3000円の友情ごっこ

森野あとり

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尚の秘密

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 誰かと秘密を共有することが、自分をどう変えていくのかわからない。
 けれど、この秘密を共有することで、自分が楽になれる気がした。

「秘密、一緒に共有してくれるんですね」

 全てを記入した用紙を、うなずく龍也の目の前に差し出した。

「キリシマナオ、平成……」
 龍也が声に出して読み上げる。

「ハロウィン生まれだな。で、O型ってことは、リュウと同じだ」
「タツヤさんは?」
「俺はB」
「へえ」

 関心なさそうに、尚は相づちをうつ。

「秘密……、ナオ、これリュウにも聞かせていいのか?」
「ええ、どうぞ」

 何となく、竜平なら大丈夫な気がした。

「『性分化疾患』……ごめん、俺、意味わからねえ」

 用紙を竜平に手渡す。

 ――『わからねえ』か。正直だな。

 でも下手にわかった振りをされるより、安心した。

 龍也から受け取った用紙を一瞥して、竜平は単刀直入に尋ねた。

「ナオ、どのタイプの疾患か、話せるか? 性の症状は遺伝子レベルのものから、ホルモンの受容体に関するもの、解剖学的なもの、その個人差が大きいからね」

 そして用紙を龍也につき返す。
 これは、龍也と尚の契約書だから。そして真面目な顔で冷静に言い放った。

「しかし僕は病理に関して、偏見の目は一切持たない」

 竜平の口調は、決して優しくはない。
 大学病院の内分泌科医の優しい口調には、寧ろ嫌悪を抱いた。医者は、今、竜平が説明した内容と似たようなことを分かりやすく説明してくれた。

 その時の様子を思い出す。
 尚の目が、少し陰った。

「僕は部分型だそうです。アンドロ何とかっていう、男性ホルモンの、その受容体が一部機能していない病気で……」
「部分型アンドロゲン不応症?」

 龍也は、全くわかっていないようだ。

「あ、それです。そのアンドロゲン。医者が言うには、染色体は男。けれどホルモンの受容体に異常があるから、体に普通の男性のような第二次性徴の特徴が表れないんだって。身体的に異常があるのは、そのせいだと」

 プチプチと、ダンガリーシャツのスナップボタンを外す。
 細身のフード付きTシャツの胸が、わずかに膨らんでいた。痩せた尚の体には不似合いな、ふくよかさ。

「下は、異様に小さいんですよね。幼児みたいに……。五年生の時、異常に気付きました」

 淡々と説明する尚の目は、どこか虚ろだった。

 尚のシルエットを見て、物わかりの悪い龍也も、尚の秘密を理解したようだ。龍也の拳がぎゅっと握られた。

「……異常なんて言うな。尚は、異常なんかじゃねえ。俺の前では、できそこないなんて、二度と言うな」

 龍也が震える声で言った。

 ――『解剖学的に見て異常がある部分は、外性器の先端の位置と……成長につれ女性的特徴が現れる可能性の高いのはね……さらに内生殖器で見られる異常は……』

 そうだ。
 冷たい声なのに、竜平の言葉が嫌じゃなかったのは――リュウヘイさんは、異常だって言わなかった。

「ホルモン治療が必要なレベルなのか?」

 尚の抱えた秘密に、少なからずショックを受けた龍也とは対照的に、竜平は冷静な口調を崩さずに質問を続けた。

「いえ。生きていくには放置しても平気だそうです。もっと年をとってホルモンバランスが崩れたりして、体調不良が出れば、治療すればいいって。ただ、このままだと男らしい体になれないから、本当は第二次性徴の終わる頃からホルモン投与だとか、外性器の形成手術を少しずつ始めた方がいいって」
「……じゃあ、ナオは何を悩んでいる?」
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