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五
心地良い場所
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「さてと、ひと眠りするかな」
竜平がソファーに脚を投げ出した。
三人掛けのソファーは、横になるにはちょうどいい大きさ。
「ナオ、連休の予定はあるか?」
横になったまま言った。
「二十九日に、塾の模試があるだけ。あとはここに来ようかなって」
「じゃあ、模試に向けて、しばらくゲームは禁止だな」
「う、」
早速、次郎長からメッセージが入っていた。
――「ゲームしようぜ」
ちらりと竜平を見る。
もう寝息を立てていた。
こっそり、ソファーから立ち上がって、ゲーム機の電源を入れた。
「タツヤさんは?」
つい、声が小さくなる。
「サーチで交代な」
サーチアンドデストロイだ。リスポン(蘇り)が無いから面白い。
「ナオ、足引っ張んなよ」
「ちょっとは上手くなったんですよう」
尚がヘッドホンを着けたら、ゲーム開始。
ヘッドホンの中から次郎長の叫ぶ声。
「なんで、イモるんだよ、出て来いっつうの!」
「クソゲーだもんな」
龍也が横から茶々を入れる。
「えー、僕はこれが一番好きですよ」
「あ、ラスデス! ハハハハ!ナオ、下手過ぎだろ」
「ああ、もう交代しろよ」
「サーチ交代って言ったじゃないですかあ、嫌です」
「あ、マジかよお! 敵、ガチ勢だぜ、キモっ」
「るさい、俺だってガチだぜ!次郎長、フォローしろ!」
「わ、次郎長さん、上手い、アタッ」
背後からクッションが飛んできた。
恐る恐る振り返ると、竜平が睨んでいた。
「お前ら、うるさい。声のボリュームを下げるか、向こうへ行け」
尚と龍也が顔を見合わす。
どうせ、声のボリュームは下げられない。
だから、オフィス机の方へ移動した。
それでも結局、ソファーにあるクッション四つ、全てが飛んでくるほどに、大騒ぎしてしまったのだが。
*
週明け月曜日、大型連休に入るということで全校集会があった。
学園長、生徒指導教諭の訓話のあと、生徒会から休み中の注意事項や休み明けの行事予定が告げられる。
当然マイクの前に立ったのは、竜平である。
時折、眼鏡をくいっと、指で押し上げながら、いつもの冷静な口調を崩さず、千人近くいる生徒の前で堂々と話す。
クールで秀才――天は二物を与えた。
けれど、尚は知っている。
彼が実は寂しがりで、少女コミックのBL漫画が好きで、スイーツ好きで、神経質だということを。
「今まで集会って退屈だったんだけどさ、リュウヘイさんが話してるって思ったら、ちゃんと起きてたよ」
月曜日の放課後は、未沙と尚の二人が一番乗りだった。
竜平は生徒会の役員会で、龍也は五時まで下のドラックストアで雑用の臨時バイト。
「うーん、じゃあさ、リュウの話は面白いの?」
「……話はつまんない」
「やっぱり~ ナオちゃん、正直すぎるよ~」
未沙がころころと笑う。
「ミサちゃんこそ『やっぱり』って酷くない?」
「そう? ほんとのことじゃん。あ、このロールケーキ、ほんと、美味しいね」
尚と未沙は、お互いを「ちゃん」付けで呼んだ。
昔、良夏たちと遊んでいた時のような気軽さを、未沙には感じていた。昔と言っても、ほんの五、六年前。
だが、尚にとってはずいぶん昔のことのように思える。
こんな風に無邪気に笑って友達と話せる日が来るなんて、自室にカギを付けた日には、思いもしなかった。
いつの間にか、女の子は別の世界に行ってしまった。男の子は自分を傷付ける。おとな達は心を踏み荒らす……
三千円で買った居場所は、その金の価値以上の心地よさを、尚に与えてくれていた。
「ミサちゃん、ゴールデンウィークもバイト?」
未沙は隣の市にある、フリースクールに通っている。休日はほとんどバイトで、ここには平日の放課後にしか来ない。
「ううん。一日と四日はお休みよ」
「じゃあさ、どちらか買い物に付き合ってよ。僕、服を買いたいんだ」
休日に家から出ないから、洋服の手持ちが少ない。
尚は未沙のセンスが好きだった。だから、洋服を買うなら彼女と行きたいと思っていた。
「どこ行こうか。ココシティーまで行く? 安いお店いっぱいあるしさ」
未沙は嬉しそうに尚の提案に乗ってくれた。
中学生になって初めて友達と遊びに行く。初めての待ち合わせ。初めてのショッピング。
なんてワクワクするんだろう。
――ああ、その前に塾の模試を忘れていた。
五時のアラームが流れると同時に、竜平が顔を出した。
「お待たせ、ナオ。さあ、今日はみっちり、数学をしようか」
こんなにも機嫌のいいの竜平は珍しいと思えるほどに、素晴らしい笑顔を見せた。
竜平がソファーに脚を投げ出した。
三人掛けのソファーは、横になるにはちょうどいい大きさ。
「ナオ、連休の予定はあるか?」
横になったまま言った。
「二十九日に、塾の模試があるだけ。あとはここに来ようかなって」
「じゃあ、模試に向けて、しばらくゲームは禁止だな」
「う、」
早速、次郎長からメッセージが入っていた。
――「ゲームしようぜ」
ちらりと竜平を見る。
もう寝息を立てていた。
こっそり、ソファーから立ち上がって、ゲーム機の電源を入れた。
「タツヤさんは?」
つい、声が小さくなる。
「サーチで交代な」
サーチアンドデストロイだ。リスポン(蘇り)が無いから面白い。
「ナオ、足引っ張んなよ」
「ちょっとは上手くなったんですよう」
尚がヘッドホンを着けたら、ゲーム開始。
ヘッドホンの中から次郎長の叫ぶ声。
「なんで、イモるんだよ、出て来いっつうの!」
「クソゲーだもんな」
龍也が横から茶々を入れる。
「えー、僕はこれが一番好きですよ」
「あ、ラスデス! ハハハハ!ナオ、下手過ぎだろ」
「ああ、もう交代しろよ」
「サーチ交代って言ったじゃないですかあ、嫌です」
「あ、マジかよお! 敵、ガチ勢だぜ、キモっ」
「るさい、俺だってガチだぜ!次郎長、フォローしろ!」
「わ、次郎長さん、上手い、アタッ」
背後からクッションが飛んできた。
恐る恐る振り返ると、竜平が睨んでいた。
「お前ら、うるさい。声のボリュームを下げるか、向こうへ行け」
尚と龍也が顔を見合わす。
どうせ、声のボリュームは下げられない。
だから、オフィス机の方へ移動した。
それでも結局、ソファーにあるクッション四つ、全てが飛んでくるほどに、大騒ぎしてしまったのだが。
*
週明け月曜日、大型連休に入るということで全校集会があった。
学園長、生徒指導教諭の訓話のあと、生徒会から休み中の注意事項や休み明けの行事予定が告げられる。
当然マイクの前に立ったのは、竜平である。
時折、眼鏡をくいっと、指で押し上げながら、いつもの冷静な口調を崩さず、千人近くいる生徒の前で堂々と話す。
クールで秀才――天は二物を与えた。
けれど、尚は知っている。
彼が実は寂しがりで、少女コミックのBL漫画が好きで、スイーツ好きで、神経質だということを。
「今まで集会って退屈だったんだけどさ、リュウヘイさんが話してるって思ったら、ちゃんと起きてたよ」
月曜日の放課後は、未沙と尚の二人が一番乗りだった。
竜平は生徒会の役員会で、龍也は五時まで下のドラックストアで雑用の臨時バイト。
「うーん、じゃあさ、リュウの話は面白いの?」
「……話はつまんない」
「やっぱり~ ナオちゃん、正直すぎるよ~」
未沙がころころと笑う。
「ミサちゃんこそ『やっぱり』って酷くない?」
「そう? ほんとのことじゃん。あ、このロールケーキ、ほんと、美味しいね」
尚と未沙は、お互いを「ちゃん」付けで呼んだ。
昔、良夏たちと遊んでいた時のような気軽さを、未沙には感じていた。昔と言っても、ほんの五、六年前。
だが、尚にとってはずいぶん昔のことのように思える。
こんな風に無邪気に笑って友達と話せる日が来るなんて、自室にカギを付けた日には、思いもしなかった。
いつの間にか、女の子は別の世界に行ってしまった。男の子は自分を傷付ける。おとな達は心を踏み荒らす……
三千円で買った居場所は、その金の価値以上の心地よさを、尚に与えてくれていた。
「ミサちゃん、ゴールデンウィークもバイト?」
未沙は隣の市にある、フリースクールに通っている。休日はほとんどバイトで、ここには平日の放課後にしか来ない。
「ううん。一日と四日はお休みよ」
「じゃあさ、どちらか買い物に付き合ってよ。僕、服を買いたいんだ」
休日に家から出ないから、洋服の手持ちが少ない。
尚は未沙のセンスが好きだった。だから、洋服を買うなら彼女と行きたいと思っていた。
「どこ行こうか。ココシティーまで行く? 安いお店いっぱいあるしさ」
未沙は嬉しそうに尚の提案に乗ってくれた。
中学生になって初めて友達と遊びに行く。初めての待ち合わせ。初めてのショッピング。
なんてワクワクするんだろう。
――ああ、その前に塾の模試を忘れていた。
五時のアラームが流れると同時に、竜平が顔を出した。
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こんなにも機嫌のいいの竜平は珍しいと思えるほどに、素晴らしい笑顔を見せた。
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初回公開日時 2019.01.25 22:29
初回完結日時 2019.08.16 21:21
再連載 2024.6.26~2024.7.31 完結
❦イラストは有償画像になります。
2024.7 加筆修正(eb)したものを再掲載
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