駅前お友達倶楽部―月々3000円の友情ごっこ

森野あとり

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可哀そうな子供たち

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「見つけてすぐここへ?」

 佐野氏が確認するように尋ねた。

「いえ、しばらく待ってて、でも誰も来ないし、しんちゃんはじっとしていなくてロータリーに飛び出したら危ないから……」

 確かにしんちゃんは部屋に入ってからもじっとしていなかった。たどたどしい足取りで、それでもちょこまかと家具の間を走り回っていた。

「交番には?」
「あそこ、いつも誰もいないし、北口まで連れて行くの、大変そうだったから、とりあえず……」

 尚は知らない大人にそのまま預けるのが不安だった。
 尚の対処を聴いた佐野氏が苦笑いをこぼす。

「でもね、このままだったら誘拐犯だよ」 
「あらあなたそう言うけど、この子たちきっと捨て、」

 『捨て子よ』と言いかけた梨花の口を、龍也が手で覆った。

「余計なこと言うなよ」
「こんな子供に意味なんて」
「わかるんだよ、そういう言葉は。なんとなくさ……」

 龍也のけわしい表情に、梨花は口をつぐんだ。
 そしてふうーっと大きなため息を吐き出し言った。

「わかったわ。タツ、しんちゃんを見ていてよね。そのくらいの子は、何でも口に入れるから。あなた、赤ちゃんをお願い」

 梨花は細い腕を佐野氏の首に巻き付けるようにし、後ろから耳たぶにキスをした。

「姉貴、どこ行くつもりだよ?」
「決まってるでしょ。この子たちの着替えを買いに行くのよ。ケーサツに渡すにしろ、うちで保護するにしろ、このまんまじゃあんまりでしょ」

 佐野氏からさっと離れ、ブランド物のエナメルバッグを脇に抱えた。

「商店街のベビー本舗なら開いているはずよ」

 梨花が出掛けたと同時に、佐野氏が警察に電話をした。

「ええ、ええ、一人は二~三歳の男児、服は……」

 ダイニングから聞こえる佐野氏の声に、尚は耳を澄ましつつも、赤ん坊の小さな赤い手をそうっと握っていた。

「タツヤさん、ごめんなさい」
「なんでナオが謝るんだよ」
「だって、なんだか大ごとになっちゃって」

 龍也はさらに『まんま』をねだるしんちゃんに、食パンの耳をしゃぶらせていた。

「けどさ、ナオがこいつらを見てみぬふりをしていたらさ、その方が俺は嫌だぜ。少しでも早くああちゃんのおむつを替えてあげれてよかったじゃねえか」

 しんちゃんが龍也のワークパンツを引っ張った。

「しんちゃん、おしっこ~」
「お、漏らす前にダッシュだ!」
「ダッシュー!」

 面倒見のいい龍也に、尚の口元が緩む。
 ミルクを飲んで満足したのか、赤ん坊の目が幸せそうに、とろんと微睡んだ。


 佐野氏の電話は長引いていた。

「姉貴、遅いな」

 しんちゃんが退屈して、指を吸い始めた。

「タツヤ君、すまないがしんちゃんを寝かせてやってくれないか。傍で寝てやるとそのうち眠りにつくだろうから」

「ああ。そうするよ」

 龍也がしんちゃんを抱きかかえ、佐野夫婦の寝室に連れて行った。

 すでに赤ん坊は、リビングのラグの上で気持ちよさそうに眠っていた。
 尚はまだ赤ん坊の手を握っていた。

「可愛い……けどかわいそう」
「もうすぐ、警察の人が迎えに来るよ」

 尚が佐野氏を見上げた。

「それからどうなるの?」
「二十四時間経っても、迷子の届けが無ければ捨て子として養護施設に入ることになるんだろうね。今のところ、迷子も誘拐の届け出も無いらしいよ」

 何の夢を見ているのだろう。赤ん坊の小さな桃色の唇がむぐむぐと動いた。


 ――僕には何もできない。

 尚の胸に無力感が広がった。

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