駅前お友達倶楽部―月々3000円の友情ごっこ

森野あとり

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九時、全員集合

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 ――翌朝。
 大型連休の最終日とあって、父親はまだ寝ていた。

「ナオ、このTシャツ、誰の?」

 尚の体格には合わないサイズのTシャツを、母親が洗濯機に放り込んだ。

「雨に降られたから、友達に借りた」

 歯を磨きながらつく適当な嘘。

「友達、ずいぶん増えたのね」

 つい四日前、買い物に行った相手は高校生の女の子だったはず。だが、このTシャツはどう見たって男物だ。
 何か追及したげな母親とは反対に、尚は時間を気にしながら、手早く身支度を済ませた。

「今夜は夕ご飯、いらないから! 友達と食べて来ると思う」

 母親の返事を待たずに家を飛び出した。
 通学と同じ時間帯のバス。さすがに休日のこの時間帯はガラガラだった。
 眩しい日の射す窓側に座り、思案する。

 ――さて、どうやって探すのだろう。

 「子供たちの親を探したい」――なんて言ったものの、尚にそのアイデアがあるわけでもなかった。
 電車に揺られながら頭を整理しようと頑張ってみたけれど、こんな時に限って駅に着くのが早い……気がする。日本の鉄道の時刻管理は世界一なのだから、それは完全なる尚の思い込みなのだ。
 結局、何も思い浮かばないままに、電車は新栄橋に到着した。尚は梨花のヘルメットを大事に抱え、佐野ビルに急いだ。
 午前九時より前に入る時は、外階段を使うよう言われていた。けれど、九時前だったにもかかわらず、正面の自動ドアが開いていた。
 佐野氏がエントランスに並べた観葉植物の世話をしていたのだ。

「おはようございます」

 丁寧にパキラの葉を拭いている佐野氏の背中に声をかけた。

「やあ、ナオ君。早いねえ」
「すみません」
「いや、いいんだよ。リュウヘイ君はもっと早くに来ていたからね」

 拭き終わったパキラの鉢を外に運び出した。

「たまには表に出さないと、弱っちゃうんですよ」

 大鉢のパキラと背の高いゲッケイジュ。間を縫うようにテラコッタの小鉢がリズミカルに並んでいる。明るい色のアジアンタムやポトス、赤い苞のアンスリウム……植物好きの尚は、観葉植物の手入れを手伝いたくてうずうずしたけれど、今日はそれどころじゃない。竜平が先に来ていると聞き、エレベーターではなく階段を駆け上がった。

「おはようございます!」

 息を弾ませ、部室のドアを開けた。龍也と竜平が揃って尚の方を見た。

「まだ九時じゃないのに、走って来たのか」

 肩で息をする尚を見て、竜平が呆れる。

「だってえ」
「……おい、ナオ、そのヘルメットは?」

 竜平の視線が尚の抱えた銀色のヘルメットに移った。

「昨日、タツヤさんに送ってもらったんです」
「……単車で?」
「はい。電車よりか早く家に着いたから助かりました。あ、これ、リカさんに返して来ましょうか?」

 尚は無邪気な笑顔で、龍也に尋ねた。

「たぁつうぅ……」

 尚の無邪気さに反するように、竜平が龍也のポロシャツの襟を締め上げた。

「え? なになに? リュウ、送れって言ったじゃん」
「電車でいいだろう。なんで単車なんだ。万が一事故ったらどうする?」
「いや、単車はねえだろ。バイクって言ってくれよお」
「んなも、どうでもいい! ちゃんと革ジャン着せたのか? せめてジージャンでも着せたのか? まさか」
「だってよ、昨日は蒸し暑かった」
「てぃ、てぃーシャツのまま乗せたのかあ?! あの悪魔の乗り物に!!」
「リュウ、声が裏返ってるううっ」

 竜平がぶんぶんと龍也を前後に揺さぶった。

「あ、あの、なにごと?」

 尚がオロオロしているところに、次郎長がドアを開けた。

「わあ! 次郎長さん! おはようございます」
「おはよ。何の騒ぎ?」尚に、耳打ちして尋ねた。
「昨日、タツヤさんにバイクで送ってもらったんだ。そしたら」
「ああね。前にリュウさん、タツのバイクに乗せてもらってえらい目に遭ったらしいからね」
「転んだ、とか?」尚は唾を飲み込んた。
「うんにゃ。ああやってカッコつけてるけど、リュウは高所恐怖症のスピード恐怖症。ジェットコースターなんてもっての外だからさ」

 またまた竜平の意外な一面を知った。

「そこ! 何をこそこそしてる」

 竜平がこちらをビシィっと指さした。

「おはよって言ってたんだよ」

 次郎長が小さい声で返す。にやりと口角を上げながら。

「ちっ。ナオ! 万一、次にバイクの後ろに乗る時は」
「万一ってなんだよ。俺のグラディウスちゃんの後ろは、尚の指定席だから。今日も乗るぞ」
「うるさいっ、黙れ。絶対、長袖のジャケットを着ろ!」
「うん。ごめんなさい」

 尚は素直に竜平の言うことを聞くことにした。

「まあ、安全面を考えると、そこは常識の範疇かな」

 次郎長もそう言っていることだし……。

「おはよ。もう、子供ちゃん達の探し方、決めたの?」

 わちゃわちゃしている間に、未沙もやって来た。
 すでに九時五分だった。
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