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川の向こう側
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「今日の授業はここまで…… 」
僕は今、ある女子高の教師をしている。
今日は何時もより、15分も早く授業が終わってしまった。
ペース配分間違えたな……
そうなると途端に煩くなるのが、このクラスだ。
しかも最近、授業が早く終わったら教師からいろいろな体験談を聞き出すのが、彼女達のマイブーム。
『先生~♪まだ時間あるから何か話ししてよ♪』
ほら、やっぱり……
案の定ムードメーカーの生徒が、何か話しをしろとせがんで来たのだ。
「ねぇ先生、なんか面白い話し無いの?」
以前、ネタ切れした同僚が『何か』と言って彼女達から白い目で見られ、次から暫く授業がやりづらくなった事があった。
「「「先生の若い頃の恋愛話しが、聴きたいなぁ♡」」」
えっ?恋愛話し??
「「何かないの~?」」
恋愛話しかぁ……
「「「早く早く~♪」」」
困ったなぁ……
そこで仕方なく、僕はあの話しをする事にした。
✾✾✾
それはまだ、僕が高校三年生だった頃の話……
その頃僕は大きな川沿いの町に一つ違いの妹と二人で住んでいて、毎日その川沿いの道を自転車で通学していた。
「いってきまーす。」
『いってらっしゃい。気をつけてね。』
妹に見送られ、川沿いの道を自転車で“部活の為”と言って早目に家を出る。
本当は部活に行くにはちょっと早い。
凄く眠いけどこの時間に出ると、ちょっとした楽しみがあるんだ。
川沿いの道を進んで行くと、川向うの道を僕とは反対方向に通う女の子とすれ違う。
あの制服は、妹の通ってる高校だ。
赤い自転車の篭にラケットを入れているのが見えるから、たぶんテニス部だろう。
因みに僕は吹奏楽部で、トロンボーンを吹いている。
彼女とはすれ違う時に川を挟んで、無言で挨拶をする程度。
お互い朝練に行く時に会うので、停ってゆっくり話す時間など無い……
ましてや川の向こう側とこちら側、僕が向こう側に行くには、橋を渡らなければいけないんだけど、僕はその橋が何処にあるか知らない……
吹奏楽コンクールが近づくと、帰りも彼女とすれ違う事になった。
たぶん彼女も大会が近いのだろう。
相変わらず川のこちら側と向こう側で、挨拶をするだけ……
相変わらず、彼女に声を掛ける勇気がない。
それから暫くして、僕達のコンクールは終わった。
いつも通り地区大会銅賞。
今年も県大会出場ならず……
三年生の僕らはこれで引退。
コンクール終了翌日、反省会を兼ねた三年生お疲れ様会。
下校時間ギリギリまで皆んなと騒いだ後、校門の外でまた話していたらすっかり遅くなってしまった。
夏とはいえ、薄暗くなった夜道を自転車のライトを点けて帰宅していると、川向うの道をライトも点けずに赤い自転車が走って来るのが視えた。
きっと彼女だ!!
よし!今日こそ話し掛けよう!!
そう思ったけど、なんとなく勇気が持てず走り去って行く彼女の青白い顔と赤い自転車が過ぎ去って行くのを見送った。
家に帰ってから、妹にその話しをすると真青な顔を更に真青にさせてこう言った……
『それってもしかして、春休みに亡くなったテニス部の先輩じゃない?』
「ええっ!?亡くなった??」
『ほら、うちの高校のテニス部員が二人部活の帰りに、自転車ごと車に撥ねられて亡くなったでしょ。』
あぁ…そういえばそんな話ししてたな……
『お兄ちゃん危なかったね。
もし声を掛けてたら、あっち側に連れて行かれてたよ?気をつけてよね。
お兄ちゃんてば霊感強すぎて、生きてる人と亡くなってる人の判断が出来ないんだから!!』
妹に怒られた。
「すまない。お前に言われるまで、まったく気が付かなかったよ。」
『本当だよ!気をつけてよね。
じゃあ私、もう逝くから身体に気を付けてね。』
そう行って妹はテニスラケットを持って家を出て行き、いつの間にか家の前に出来ていた橋を渡ってそれきり戻って来なかった。
どうやら僕は、最後まで妹に心配を掛けてしまったらしい……
その後、僕は大学進学を機に地元を出る事になり、川沿いの町を離れた。
✾✾✾
「「「………… 。」」」
あれ?なんか間違えた?
「先生それって恋愛話しじゃなくてホラーだって…… 」
「しかもそれって、実は妹さんもその先輩と一緒に亡くなってたって事でしょ?」
「怖っ!!私、川沿い通って帰らないといけないのに……」
『皆んな気にしすぎだよ。私は平気よ♪
幽霊なんか怖くないわ!!』
と、口々に文句を言い出す生徒達。
そんなに怖がらなくても良いじゃないか、それにとっておきの初恋の話しだったのになぁ……
“キーンコーン カーンコーン”
終業のチャイムが鳴った。
「じゃあ皆んな気をつけて帰れよ。」
そう言って僕は教室を後にした。
……………………………………………………………
※1
名古屋で行われる全国大会を目指して、毎年夏になると各地で予選を繰り広げている吹奏楽の大会。
銅賞、銀賞、金賞(次の大会に進める“金賞”と進めない通称“ダメ金”の二種類がある)。
吹奏楽の賞は全国大会以外、この四賞しかないので、銅賞だった先生の吹奏楽部は予選敗退でした。
僕は今、ある女子高の教師をしている。
今日は何時もより、15分も早く授業が終わってしまった。
ペース配分間違えたな……
そうなると途端に煩くなるのが、このクラスだ。
しかも最近、授業が早く終わったら教師からいろいろな体験談を聞き出すのが、彼女達のマイブーム。
『先生~♪まだ時間あるから何か話ししてよ♪』
ほら、やっぱり……
案の定ムードメーカーの生徒が、何か話しをしろとせがんで来たのだ。
「ねぇ先生、なんか面白い話し無いの?」
以前、ネタ切れした同僚が『何か』と言って彼女達から白い目で見られ、次から暫く授業がやりづらくなった事があった。
「「「先生の若い頃の恋愛話しが、聴きたいなぁ♡」」」
えっ?恋愛話し??
「「何かないの~?」」
恋愛話しかぁ……
「「「早く早く~♪」」」
困ったなぁ……
そこで仕方なく、僕はあの話しをする事にした。
✾✾✾
それはまだ、僕が高校三年生だった頃の話……
その頃僕は大きな川沿いの町に一つ違いの妹と二人で住んでいて、毎日その川沿いの道を自転車で通学していた。
「いってきまーす。」
『いってらっしゃい。気をつけてね。』
妹に見送られ、川沿いの道を自転車で“部活の為”と言って早目に家を出る。
本当は部活に行くにはちょっと早い。
凄く眠いけどこの時間に出ると、ちょっとした楽しみがあるんだ。
川沿いの道を進んで行くと、川向うの道を僕とは反対方向に通う女の子とすれ違う。
あの制服は、妹の通ってる高校だ。
赤い自転車の篭にラケットを入れているのが見えるから、たぶんテニス部だろう。
因みに僕は吹奏楽部で、トロンボーンを吹いている。
彼女とはすれ違う時に川を挟んで、無言で挨拶をする程度。
お互い朝練に行く時に会うので、停ってゆっくり話す時間など無い……
ましてや川の向こう側とこちら側、僕が向こう側に行くには、橋を渡らなければいけないんだけど、僕はその橋が何処にあるか知らない……
吹奏楽コンクールが近づくと、帰りも彼女とすれ違う事になった。
たぶん彼女も大会が近いのだろう。
相変わらず川のこちら側と向こう側で、挨拶をするだけ……
相変わらず、彼女に声を掛ける勇気がない。
それから暫くして、僕達のコンクールは終わった。
いつも通り地区大会銅賞。
今年も県大会出場ならず……
三年生の僕らはこれで引退。
コンクール終了翌日、反省会を兼ねた三年生お疲れ様会。
下校時間ギリギリまで皆んなと騒いだ後、校門の外でまた話していたらすっかり遅くなってしまった。
夏とはいえ、薄暗くなった夜道を自転車のライトを点けて帰宅していると、川向うの道をライトも点けずに赤い自転車が走って来るのが視えた。
きっと彼女だ!!
よし!今日こそ話し掛けよう!!
そう思ったけど、なんとなく勇気が持てず走り去って行く彼女の青白い顔と赤い自転車が過ぎ去って行くのを見送った。
家に帰ってから、妹にその話しをすると真青な顔を更に真青にさせてこう言った……
『それってもしかして、春休みに亡くなったテニス部の先輩じゃない?』
「ええっ!?亡くなった??」
『ほら、うちの高校のテニス部員が二人部活の帰りに、自転車ごと車に撥ねられて亡くなったでしょ。』
あぁ…そういえばそんな話ししてたな……
『お兄ちゃん危なかったね。
もし声を掛けてたら、あっち側に連れて行かれてたよ?気をつけてよね。
お兄ちゃんてば霊感強すぎて、生きてる人と亡くなってる人の判断が出来ないんだから!!』
妹に怒られた。
「すまない。お前に言われるまで、まったく気が付かなかったよ。」
『本当だよ!気をつけてよね。
じゃあ私、もう逝くから身体に気を付けてね。』
そう行って妹はテニスラケットを持って家を出て行き、いつの間にか家の前に出来ていた橋を渡ってそれきり戻って来なかった。
どうやら僕は、最後まで妹に心配を掛けてしまったらしい……
その後、僕は大学進学を機に地元を出る事になり、川沿いの町を離れた。
✾✾✾
「「「………… 。」」」
あれ?なんか間違えた?
「先生それって恋愛話しじゃなくてホラーだって…… 」
「しかもそれって、実は妹さんもその先輩と一緒に亡くなってたって事でしょ?」
「怖っ!!私、川沿い通って帰らないといけないのに……」
『皆んな気にしすぎだよ。私は平気よ♪
幽霊なんか怖くないわ!!』
と、口々に文句を言い出す生徒達。
そんなに怖がらなくても良いじゃないか、それにとっておきの初恋の話しだったのになぁ……
“キーンコーン カーンコーン”
終業のチャイムが鳴った。
「じゃあ皆んな気をつけて帰れよ。」
そう言って僕は教室を後にした。
……………………………………………………………
※1
名古屋で行われる全国大会を目指して、毎年夏になると各地で予選を繰り広げている吹奏楽の大会。
銅賞、銀賞、金賞(次の大会に進める“金賞”と進めない通称“ダメ金”の二種類がある)。
吹奏楽の賞は全国大会以外、この四賞しかないので、銅賞だった先生の吹奏楽部は予選敗退でした。
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