婚約者から“◯◯なヒロイン”を引き離す良い方法

砂月ちゃん

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病弱な幼馴染み令嬢が現れた!

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あれはわたくしと2歳年上のアントニー殿下が婚約して間もない10歳の頃の事でした……


当時、アントニー殿下には婚約者のわたくしよりも大事な幼馴染みのキャンティス・F・シメジーナ伯爵令嬢がいらっしゃいました。


彼女はアントニー殿下と同い年。


わたくしとアントニー殿下のお約束の日に限って具合が悪くなり、その度に殿下は『イザベラは健康だからまた今度でも大丈夫だよね?
でもキャンティスは病弱だから、いつ何が起こるかわからないだ。』と言って、彼女の元に行ってしまわれるのです。


お忙しい王妃様がわざわざ王城にご招待してくださった月に二度のお茶会。


そろそろ慣れた頃だろうと、2人だけのお茶会が始まった途端に開始5分で、シメジーナ伯爵家の使いが来て……


「キャンティスお嬢様の具合が悪く、アントニー殿下を呼んでおられるのです!」


そう言ってアントニー殿下を度々呼び出すの!


「なんだと!?キャンティスが僕を呼びながら苦しんでるって?
直ぐ行く!!」


えっ!?ちょっと?
使いの人そこまで言ってないでしょ!?
何話しを盛ってるんですかアントニー殿下?


しかも、その伯爵家の使いは毎回同じメイドでした。
アントニー殿下が慌てて部屋を出て行こうとした時、チラリとわたくしの方を見てニヤリと笑ったのを見たのよ。


なんなの?あのメイド!!


という事が度々あり、2人だけのお茶会が開催されて5回目…とうとうアントニー殿下はお茶会の会場であるガゼボに現れませんでした。


わたくしが王城に着く1時間も前に『シメジーナ伯爵令嬢の具合が悪いから。』という理由で伯爵家にお見舞い行っていたですって!?


婚約者との約束をドタキャンして、伯爵家にお見舞い?
しかも何の連絡も無く!


こっちはお茶会の為に朝から支度したりして、準備に時間もお金も掛けているっていうのに!!


だいたいおかしいでしょ!『病弱、病弱』と言っていますけど、わたくしとの約束の日に限ってやれ『熱が出た。』だの『寂しくて、アントニー殿下がいらっしゃらないと眠れないの。』とか! 


その度に『病弱なキャンティスには、幼馴染みの僕が付いていてやらないと!』と言って彼女の所に行ってしまうアントニー殿下。


いいかげんにして欲しい!


だいたいアントニー殿下とわたくしのお茶会がある日に毎回『具合が悪い。』っていうのもおかしいのよね。


お父様にお願いして、侯爵家の影を使って調べてもらったら案の定……
しょっちゅうクシャミをして鼻水が止まらずに目が痒い程度で、それ以外はとても元気にしていたそうよ。


屋敷の者に聴き込んだところ、どうやらその症状はだとか……


領地に居る時は、そんな事はなかったそうなのよね。
私とアントニー殿下の約束の時に限って、特に具合が悪いというのはやはり嘘らしい。


わたくしはこの症状に心当たりがある。


わたくしの専属侍女だったモリー。
彼女は領地から王都に来る度にクシャミが止まらず、目が痒いと言っていた。
心配になって医師に診せたところ、とんでもない事が解った。


症状の原因は王都の象徴と言われ、王都やその周辺なら何処にでも生えている黄色い小さな花をたくさん付ける背の高い花、聖タカアワダチ草の花粉によるだった。


この病は庶民の間では昔から知られていて、王都の外からやって来た方は耐性がないからか症状も酷くなりやすいのだとか……


しかも貴族でこの病に罹る方はまれなんですって。
その理由はまだ調査中。


治療法も無く、聖タカアワダチ草の生えていない場所に移住する以外、症状を無くす方法はなかった為、離れるのは寂しかったけど、仕方なくモリーは領地へと帰って行った。


因みにわたくしは平気です。


シメジーナ伯爵家では王都の貴族専門の医師に、『謎の不治の病』だと言われて、毎回高額の治療費や研究費を払っているんだとか。


それって詐欺では?


そこでわたくしはさっそく、お父様を通じてシメジーナ伯爵に『謎の病』の正体が『聖タカアワダチ草の花粉による花粉症』である事を知らせ、転地療養をお勧めしてみた。


なにしろ聖タカアワダチ草は、1年中王都やその周辺にたくさん生えてますからね。


こうしてシメジーナ伯爵家は、キャンティス嬢の転地療養の為とお父様の推薦を受けて、聖タカアワダチ草の生えていない南の国へ大使としてご家族揃ってお引越しされ追い出す事に成功しました。


そのさい、キャンティス嬢は『王都を離れたくない!アントニー殿下と離れたくない!』と泣いてすがったようですが、12歳の娘を置いて行く訳にはいきませんから、もちろん彼女も一緒です。


あちらに移って数カ月もすると、『あの病の症状はすっかり出なくなり、とても元気に過ごしている。』とシメジーナ伯爵から感謝の手紙をいただきました。


あゝそうそう、キャンティス嬢の専属メイドだった彼女ですが、実は王都の産まれであの病の事も知っていて黙っていた事がわかり、解雇されたそうですわ。


貴族専門医師の方は、やはり詐欺罪で訴えられ、多額の賠償金を払う為に鉱山で働く事になったとか……


もちろん医師としてですわよ。


それからアントニー殿下の事ですが、しばらくはキャンティス嬢とこっそり文通をしていたようでした。


しかしどうやらあちらの学園で、他に好きな子が出来たようで、半年も立たずにキャンティス嬢からの返事が来なくなってしまい、かなり落ち込んでましたわね。


「お嬢様、お茶のお時間ですよ。
今日のオヤツはシメジーナ伯爵が送って下さった、パイナップルを使ったケーキでございます。」

「あら、ありがとうモリー。美味しそうね。」


最近、領地に戻っていたモリーが帰って来ました。
あの病の完全な治療法はまだ見つかっていませんが、実は予防法はあったの。


「それにしても、凄い格好ね…… 」

「仕方ないですわ。お嬢様のお世話をする為には、こうするしか方法がないんですから。」


モリーの格好は、ゴーグルという顔にピッタリくっつけるメガネと、マスクという鼻や口を覆う布。
こうすればあの病の原因である聖タカアワダチ草の花粉を、ある程度防ぐ事が出来るのですって。


いわゆる庶民の知恵です。
だってあの病に罹ったからと言って、皆んなが皆んな移住出来る訳ではありませんもの……


「まぁ、貴族の方達にはかなり勇気のいる格好ですわね。」


そう言ってモリーは窓に写った自分の格好を見る。


「モリーだって貴族でしょ?」

「私は貴族と言っても子爵家の三女ですから…… 
さぁお嬢様、紅茶が冷めてしまいますよ。」


わたくしはモリーの淹れてくれた紅茶を飲みながら、今は遠い地に居るキャンティス嬢の事を懐かしく思うのでした。











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