アルガルン

ケモ蚤

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世界には様々な種族がいる。
人間やエルフ、ドワーフに小人。
一般的に柔らかく汗を多量にかく種族を人族といい、ワニやサメなど鱗を持つ種族を竜族と分けられていた。
まぁ、竜人からすればワニやサメが自分達と同じ分類にされていることに不満を持ち怒るだろうが、人族の中ではそう言われ生物学的に分類されている。
最後にグループ分けされた2つの種族の他に全身が毛皮に覆われている生物を獣族と分類される。
最低限人間ほどの知能がある獣であればこれらに分類される。
その獣族の一つである獣頭に毛皮を持つ獣人種…狼獣人は犬獣人と違い遠い昔から彼らだけで生きてきた。
他種族と触れ合い自らを変えていった犬獣人とは違い、規律や規則に重きを置き他種族と交わらないよう何千年…何億年もずっと昔から孤独であった。
そんな中繁殖に特化した種族である人間が知恵と力を身に着け平原を森を、そして世界を開拓し始め狼獣人と半ば無理やり交流し始めた。
老いた狼は更に森の奥へと去っていったが若い狼は人間と共に生活を始めるが人間には理解が難しい部分が露呈してきた。
昨今それらの問題について私なりに考え、そしてどう向き合っていくか話そう。
私と狼である彼との日記を恥ずかしくもあるが残そう。
純粋で美しい彼らとの縁を切って欲しくない私のわがままを。




「アルーン」
「なに?」
「アルーン…」
「どうしたの?」
「アルーン」

仕事中の僕に彼は名を呼ぶ。
僕は慣れたようにガラスで出来た容器に様々な液体を注ぐ。
冬の冷えた空気がすぐに割れそうな安物のガラスや隙間のある壁を通って部屋を冷やしていた。
そんな僕を狼である彼、ドゥーガルは後ろから温めるようにお腹に手をまわして抱きしめ膝に乗せていた。
人間の中で大柄な僕の座高よりも高い位置にある狼のマズルが僕の襟ぐりに突っ込みクンクンと匂いを嗅いでいた。

「耳をパシパシ叩かないで見えないにくすぐったい」
「えへへへ…」

ドゥーガルは冒険者だ。
今では僕のお願いで街の中で終わる比較的に安全な依頼しかしていないが、僕と出会う前は外でバリバリに魔物と戦う戦士だった。
顔には駆け出しの頃にゴブリンにやられた古傷もあるし、獣の咬み傷が引っかき傷何かも体に無数にある。
筋肉質で顔も体も厳つく強者の風格を持つドゥーガルは現在冒険者達に見せられない情けない言動をしていた。

「薬飲んだ?」
「アレ、嫌」
「仕事もうすぐ終わるから後数日だけ飲んで」
「グルルル……わかった」

本当は薬の副作用で風邪のような気だるさが出て嫌だろうに、番の僕の言うことを素直に聞くドゥーガルを褒めるように優しく頭を撫でた。
スピスピとなる鼻の音を聞きながら昔を思い出す。
ドゥーガルと番となってもう5年目の冬。
ドゥーガルと出会わなければ今頃親が決めた婚約者と結婚して不自由のない生活をしていただろう。
温かい部屋に柔らかいベッド、そして家事を全てしてくれる使用人。
今の生活は誰がどう見ても貧乏と言えるが僕はドゥーガルのいない裕福な生活はしたくなかった。

「やっぱり薬は今日で終わり。仕事中は僕を運んでね」
「!!あぁ…!」

驚きで目を見開いたドゥーガルは僕を連れて行く。
彼の匂いが染み付いた寝室へ。



人間には特質な能力を持って生まれることはない。
獣族の一つである魔獣であれば体内にある魔石で魔法とは似ても似つかない不思議な現象を起こせるのだが、人間では到底そんな事は起きない。
だけど、僕は、そんな魔獣のような特質な魔法を使えてしまった。
意識するだけで空間で半透明な四角い黒い箱が現れて、その箱の中に入る物であれば何でも何処かへ飛ばし、そして飛ばした物を持ってくる能力。
物質を透明化させる能力でも消し去る能力でもなく、何処かへ生物以外を収納する能力。
僕の能力で戦争の食料運搬は大量にそして安全に運搬できるようになり、勝てない戦はなかった。
精通もしていないまだ子供だった僕に沢山の女に言い寄られアピールされ結婚に対して嫌な気持ちがあった。
そして戦争の貢献により褒美として王族の姫と婚約が決まってしまった。
王は次の王になって側近と沢山の子をなせば同じ様な能力を持つ子が生まれる可能性が高く国の戦力にもなるだろうと思ったのだろう。
王も親も乗り気で姫とずっといられるように予定を調整された。
姫に猛烈なアピールをされ続け12歳の春、魔術学園に入学することになった。
そして学園の野外授業に教師として参加したドゥーガルと出会った。
当時出会ったばかりのドゥーガルは獣臭く近寄りがたかったが、ドゥーガルからやたらと絡まれて一緒にいた姫を敵視していたように思う。
その数日後に我が家に僕の護衛として雇って欲しいと身だしなみを整えたドゥーガルがやってきて、雇えば僕を守れるついでに他の貴族に対してマウントを取れるだろうと両親は喜んでドゥーガルを招いた。
ドゥーガルは容易く接触できるだろうと考えて本能に従い僕を奪いにやってきた。
更にその数日後にはドゥーガルによって処女を奪われ、その数年後の魔術学園卒業の翌日にドゥーガルと一緒に国から逃げた。
感情を隠すことが出来ない耳と尻尾に純粋な愛を行動で示されてしまえば、学園で主席を取った僕ならドゥーガルと姫の本心を覗くことは容易かった。
姫の本心は下水のようにドロドロとしていて汚れきっていた。



「ふぅ…今日はもう終わりにしよう」
「もうちょっとだけ…後一回」
「それ何回目だよ」

私と出会う前は装備で蒸れた毛がぐちゃぐちゃにされ強い匂いを放ち、ゴワゴワでゴミが毛に絡まっていたのに私の日々のブラッシングとお風呂のおかげでドゥーガルの毛皮はサラサラでふわっとしている。
発情期前の相手と自分の匂いを一緒に混ぜたくて風呂に入るのを拒んでいるけれど、今までのケアのおかげで撫で心地は最高の物となっていた。
高ぶる男根をアナルで受け止め、孕みもしないのに必死に中と外に匂いを擦り付ける行為がただの快感によるついでであっても愛が籠もっているように感じ、嬉しくて微笑みが浮かぶ。

「もう寝よっか」
「後少しだけ…腰動かさないから…」
「しょうがないな…」

正常位でドゥーガルが体重をかけて私の胸に頭を寄せるせいで足が真上に上がり苦しいが寄せられた頭を優しく撫でる。
体重をかけられコブが更に奥の前立腺を押しつぶすせいで私の男根から精液が漏れてへそに出来た小さな池に新たな精液を追加した。
毛皮のせいで汗をかかないと言われる獣人は実はほんの少し汗をかく。
人間と違いにじみ出るように出る獣人の汗は本人の匂い…雄としてのフェロモンを多分に含み雌を誘惑するものなのだが、ドゥーガルのそれは僕の皮膚に染み込むように擦り付けそしてドゥーガルの毛皮に僕の汗を馴染ませるように擦り付けている。
人間からしたらただの獣臭い匂いもドゥーガルの匂いに慣れた私からしたら獣人の体臭は一つ一つ全く異なるそれを人間と獣人の汗が混ざることで全く新しい別の匂いに変わっていた。
布団と尻尾からポスポスという抜けた音と中を満たす精液が奥へと流れ込む汚い音しか聞こえない静かな部屋で静かな時間を過ごす。
本格な発情期から約1ヶ月程私の中からドゥーガルの男根が抜かれることはないだろう。
排泄物は魔法で汚れることなく排便以外の方法で体から排出ができるようになった今の時代は本来の狼が持つ離れたくない本能を悪化させ、文字通りコブで離れられない状態にさせた。
特にドゥーガルのような狼獣人の冒険者は魔法は使えなくとも身体を強化する魔法を使えるため、男根一点集中の強化を自然としてしまい本来長時間の勃起で壊死しないようになってしまったから何の憂いもなくドゥーガルは番のアルーンを腕の中に閉じ込めていた。
更にアルーンにとって運の悪いことに1ヶ月間の男根のフル稼働によりドゥーガルの男根は年々長さと太さが一回りずつ大きくなってきていて、広がった穴をギチギチに密着しコブだけでなく男根全体が精液を溢れなくしている。

「それじゃそろそろ薬飲もうか」

狼獣人の1ヶ月の発情期に身体が耐えられるよう私が作った睡眠導入剤をイヤイヤと抵抗するが強くいうと渋々薬を一緒の飲む。
人間用には理性が興奮にまさり気が乗らないのを防ぐために精力剤を混ぜ、獣人には興奮を抑えるために睡眠導入剤を多めに。
飲んだ後は寝ている間に何処かへいかないように中に入っている男根と腕と足で全身を絡め取りきつく抱きしめ深い眠りに入った。
夜は薬で無理やり眠り、昼は背面座位をしながら仕事椅子に座りひたすらドゥーガルの責めを耐えながら残りの冒険者用ポーションを作り続けた。
そんな性活をして冒険者用ポーションを作り終えて約1ヶ月経つとドゥーガルの発情期は終わりを迎え、一ヶ月間入れっぱなしだったアナルは男根の形を覚え閉まらず代わりにプラグをドゥーガルの手によって入れられていた。
暖炉の前で自ら椅子になるドゥーガルは膨れた腹を優しく撫でながら静かな時間を過ごす。
早めの発情期が来る獣人は人々がまだ外で働く頃に家に篭もり雪が降り積もる時期に発情期を終えて理性が戻る。
雪が降り静かな家の中で暇な冬の間に作られた書物をこの時間で消化していく。
ページがめくれる音と無限に揺れる狼の尻尾のポスポスとした音だけが生物の存在を主張し、人間は知識を貯め獣人は愛を満たす。

「なぁ」
「んー?」
「それ面白いか?」
「まぁまぁ?ドゥーガルにつまらないかもね。ポーションの新しい作り方とか素材の代替品とか書かれたやつだし」

久しぶりに聞いた理性的な声は低くて触れている背中から直接重低音が響いてきて心地が良い。

「なぁ」
「んー?」
「そろそろさ、ガキ作らないか?」
「んーー?代理出産?」

今の技術では男同士での子作りは出来ない。
だから死亡する可能性がある出産を大金を支払って代理でしてもらう事が一部の同性愛者や子供が出来ない金持ちの男がやるから、ドゥーガルもそれをしたいと思って口にしたらいきなり背後から強めに肩を噛まれた。

「いっ!え、なに!?」
「俺、昔言ったよな。お前だけを愛すって。お前だけは必ず絶対に守るって。その後言ったこと覚えてる?」
「えー…っと…」

学生時代の魔物と戦った時の怒気を少し孕んだ片目が横から見つめられ、気押されながら遠い昔の記憶を探る。
確か、貴族という地位を捨て他国へ逃げる前日だったか。
初めてを奪われてから肉体的に依存し始めて、結婚後どうなるか不安になっている時に言われた言葉…。

---アルーン。お前が好きだ。身体も性格も匂いも全て。だから一緒にここから出ていかないか?
---いや、無理やりにでも一緒に行くぞ。これから行く先々でお前だけは必ず守ってやるから。人間のようにお前以外に身体を許さないからお前も許さないでくれ

そうだ思い出した。
ドゥーガルに卒業後すぐに結婚することになって、その事を話したら焦ったように一方的に言われたんだ。
勝手に混乱して私をドゥーガルが羽織っていた服で声が出ないよう顔を押さえて金も持たずに城壁を無理やり飛び越えて森へ。
それに気づいた兵士は助けに追いかけてきたけどドゥーガルは夜中もずっと走り続け私はドゥーガルの匂いが染み付いた服を嗅ぎながら腕の中で眠って………。
あまりの無謀さに自然と笑ってしまった。

「な、なに笑ってんだよ…俺は怒ってるんだぞ!」
「いや、ね?絶対に守るって言って連れ出したのに一日走り続けて疲れて適当な洞窟で僕をほったらかしにして寝てるやつがよく言ったなーって。言ってなかったけど寝てる間に魔物来たんだよ?」
「今は!そんな話しじゃ……」

お互いに約束を守っていなかった事に気づいたのか先程まで勢いづいていたドゥーガルはわかりやすくその目と耳と尻尾が下へと下がっていく。
人間では表現出来ないその表情がアルーンのお気に入りだった。
意外と分かりやすい表情がコロコロと変わる。
表現豊かな狼の頭を優しく撫でてその目の近くにキスを落とす。

「ごめんね。僕、子供作るならドゥーガルの子供が欲しいんだ。本当は僕が妊娠できるなら良かったんだけど、出来ないから…さ。ごめんね」
「謝ることねぇよ…。俺も悪かった。約束をすぐに破る情けない雄で…」

再び静かな時間が流れる。
ドゥーガルが落ち込み尻尾の揺れる音が消え、二人の息遣いと暖炉で小さく爆ぜる薪の音だけが部屋を満たす。

「俺は、アルーンが雌を抱く事も俺が雌を抱くことも嫌だ。アルーンは俺のもので俺はアルーンのものだから…」
「うん」
「だから、養子を教会で引き取らないか?アルーンが俺と同じ種族の子を欲しいなら俺と同じ種族でアルーンの赤い瞳を持つ子を、さ。俺は冒険者をやって学んだ技術と知識をアルーンは魔術をその子供に教えて俺達が生きていた時間を子供に託したい」
「そうだね」

子を為し技術と知識と誇りを託すことを最も至上とする狼のドゥーガルは毎年やってくる発情期後の寂しさに悩んでいたようだった。
子供をつくって一人前の雄になり自身が生きていた時間と託された時間を子供に託したい雄としての本能が暴れ、アルーンが男で子供が出来ないと頭がわかっていても心は理解してもらえず年々発情期の衝動が強まりアルーンを抱き殺さないか不安になりながら腕に閉じ込めて。
アルーンとドゥーガルの中に雌を入れたくなくて、でも子供が欲しくて。
そう、本心を語ってくれた。

「アルーンは?アルーンの本心は…どうなんだ?」

小さく詠唱して魔法を唱えると、自室にある一冊の分厚い本が宙に浮き、ひとりでにドアが開きアルーンの手元に飛んでくる。
とても古く薄汚れているがその本の革表紙には竜の革が使われていた。

「この本わね遠い昔、竜が栄えていた時の本なんだ。全て竜語で書かれているんだけど、ここのページにね男が妊娠する方法が書かれているんだ」

本には分かりやすく素材や使い方が絵で書かれていているから読めないのにドゥーガルはじっと本を見つめて、ほんの少し抱擁を強めてた。

「ここら辺では手に入らないのか?」
「わからないけど貴族で学んだ中にはこの素材は見たことも聞いたこともない。外側ならあるかも」
「よし、行こう」
「外側だよ!?」

何を考えているかわからないドゥーガルの表情は僕を連れ去ったあの日を思い出させた。
人の手が届いていない未知の領域である外側へと行きたい欲求は冒険者のサガなのかそれともそれほどまでに僕との子供が欲しいのか。
他の冒険者へと依頼をだして入手するほうが安全だと思う一方で外側で生活する狼獣人のドゥーガルであれば安全だとも思え、そして僕の能力のことも一緒に考えれば僕とドゥーガルが外側で生きていける確率は非常に高いと思えた。

「しょうがないな…それじゃ春になったら行こっか。外側に」
「おう!!」

毎年のまったりとした読書の冬は終わりを告げ翌日から準備を始めた。
持っている素材を全て使い様々なポーションや魔法のアイテムを作り、ドゥーガルは春に向けて肉体作りと全財産を使い武器防具を発注し、食料を買い込むために街を駆けずり回る。
僕の能力は時間を止め熱を保存しあらゆる微生物をはじく。
その結果一度収納した物は全て無菌で毒物自体なければ川の水を飲んでもお腹をくださない。
だから井戸水やドゥーガルが買い漁った食料を全て収納する。
ひたすら買い続けるドゥーガルは住民の話題になり広まってしまった。
目立たないように金があってもボロ家に住み名前を捨てたのに気が緩んでしまった。




「貴方はアル=ムマキア=ヴェレレスト様ですね?」

雪が溶けはじめ春を知らせる花が蕾をつけた頃、ドゥーガルとの家に馬に乗った騎士がやってきた。

「違います。僕の名前はアルーンです」

鎧の胸の部分に教会の聖印が描かれている男は馬から降りて低姿勢で話してくるが、他の騎士は馬から降りずに警戒していた。
まるで私が逃げたときのために。

「では、魔法で確認させていただいても?」
「ダメです。私は錬金術を営んでいます。貴方がたの聖なる気は一部のポーションをダメにしてしまいます」
「それではこの家から離れてから確認しましょうか。抵抗は…しませんよね?」

遠く離れたこの地にやってきてひっそりと質素な暮らしをしていたのに。
私の占術を防御する魔法を貫通されてしまったんだろうか?
何故国名のヴェレレストが名前についているのだろうか?
騎士に連れられ色々考え、そして察した。
ドゥーガルに助けてほしいと思いながら危ないから来て欲しくない。
そんな気持ちをいだきながらゆっくりと家から離れ、街壁のないこの街ではすぐに外の広い平原へとたどり着く。

「ではいきますよ」

5人いた騎士のうち3人が神に許しを請うような詠唱をする。
騎士を見ながらいつ切り札を出すか悩む。
故郷のヴェレレスト国では私がいないのにあの姫と結婚していることにされ、失踪もしくは誘拐されたことになっているのだろう。
だとすればドゥーガルは指名手配されている可能性がある。
私にとって理解しがたい神の詠唱が終わり天から光が私に降り注ぐ。

『竜の言伝』

バレないように膨大な魔力に紛れて透明の小さな竜を召喚して飛ばす。

「やっぱり貴方様はアル=ムマキア=ヴェレレスト様ですね。保護いたします」
「…わかりました」

相手が何処に何人いてどれほどの実力かわからない以上むやみに動くのは不味い。
それに父が国王が私がいないのにも関わらず勝手に魔法で私の分身を作って無理やり籍を入れさせたんだろう。
言いたいこともあるしついでに遠く長い旅に出る挨拶もしよう。
ドゥーガルはきっと今頃聖騎士と戦ってるかもしれない。
あの強さなら大丈夫だろうと思いながらも心配で見えなくなるまで遠ざかっていく街を見つていた。

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