13 / 34
第一章
廃病院の怪-4 【vsビビッドシャドウ】
しおりを挟む
「あ……ありがとう……ございっゲホッゲホ!」
「無理して喋んな、その様子じゃあ走って逃げんのは無理そうだな」
猛は寺野の口元に垂れる吐瀉物をハンカチで吹いてやりながら語りかける。
「はい……すみま……うぐっ!」
何処かを骨折でもしているのだろう、録に言葉も発する事が出来ない様子だ。
「気にすんな、やつの相手は俺がする、もし逃げられるようになったら俺の事は気にせずとっとと逃げるんだ、わかったな!」
「は、はい……」
猛は申し訳なさそうにする寺野から目を放しゆっくりと害獣の方へ向き直る。
「手前ぇ……ずいぶんと好き勝手してくれたな!」
青筋を立てながら明らかに激昂した様子の猛。
「グガァァ……」
苦悶しながら自身の手の切り傷が再生していく様子を見守る害獣。
お互い嫌悪と怒りの混じる視線を交錯させる。
一瞬の静寂。
バチンと電流が走ったように両者は攻撃行動に入る。
先手を打つのは猛、2本のククリナイフを振りかぶり力任せに害獣に叩きつける。
腕の皮膜をマントのようにひらめかせなから害獣は鮮やかにそれをかわす。
そしてそのまま流れるように、豪快な爪による斬撃を猛の腹目掛けて狙い打つ。
猛は湿気た空気を切り飛ばすようなその一撃を皮切れ一枚でかわしまたも害獣に斬りかかる。
何度も何度も両者、打撃残撃を交換して行く。
五分近く打ち合っている両者、だが徐々に均衡が崩れていく。
猛の猛攻を捌ききれずに害獣がジリジリと後退を始める。
その弱気につけこみ猛は更に気勢を強める。
恐らく並のハンターであれば三人がかりでようやく仕留められる程のこの害獣を猛は一人で易々と追い詰めていく。
突如、部屋に響く程の巨大な打撃音。
「グガァアッ!」
害獣は苦悶しながら後方に飛び退く。
猛がナイフを持ったまま放った右ストレートが害獣のみぞおちを捉えた、この戦いで最初の有効打、更に追撃を仕掛けようと彼は闘牛のような勢いで距離を詰め害獣に一撃を加えるため自身の武器を振りかぶる。
これで終わりだ! 猛は心の中でそう叫ぶ。
「!?」
その刹那、猛は自身の聴覚にほんの少しの違和感を覚えた。
もし彼にその違和感を言葉にする猶予があったならばこう言っただろう。
―見ていないのに扉の向こうの部屋でテレビがついているのが何故か分かる、あの時の感覚と一緒だった―と。
降り下ろされたナイフはガチンと火花を散らせながら蓄電室の床を叩く。
「…………ッ! 何だと!?」
猛は困惑した。
何も居ない。
二メートルを軽く越える体躯の化け物が闘いによって巻き起こったかび臭い埃の中に紛れ消えてしまったのだ。
「……どこに消えた?」
猛は用心深く、そして油断なく辺りを見回す、だが敵の姿は何処にもない。
頭脳をフル回転させ敵が何処に隠れたかを導き出そうとする。
天井? 地面? 何処かへ隠れたか?
何処を見ようと敵の影は影も形も存在しない…………。
機械だらけの蓄電室に広がる静かで不気味な緊張感。
闘いによって巻き起こった空気の流れが猛の頬を優しく撫でる。
…………その時、自身の背後、なにもないはずの空間から濃密な殺気が沸きだしている事に猛は気付く。
「やべぇっ!!」
反射的に猛はその場を飛び退く、その瞬間彼の立っていた床が轟音と共に見えない何者かに砕かれた。
「何が起こりやがった!?」
地面を転がり体勢を立て直した猛はそう言った瞬間、聞きなれた音を聞く、重たくしなやかな何かが風を切って振り抜かれる音、害獣の尾を使った攻撃の音!
「グハァッ!!」
猛が突然、一人でに五メートル近く吹っ飛ぶ。
「……げほッ! クソがっ!」
派手に地面に叩き付けられた猛はようやく状況を理解する、そして今日の奇妙な出来事全てに合点がいった。
この害獣はどうやっているのか解らないが肉体を景色に完全に溶け込ませることが出来る。
地下室へのドアの隠蔽も恐らくこの能力による物であろう。
最初から、この病院に入ったその時から自分たちはこいつに観察されていたのだ。
「グルルルゥ…………」
何もないその発電室の空間が唸っている、品定めをするように、期を伺うかの様に、ねっとりとした殺気をまといながらその空間がのしりのしりと近づいてくる。
「やべぇな……」
普段の猛ならば逃げて体勢を整え作戦を練っていたであろう。
しかしここには重症の一般人二人、内一人は痛みにより気絶、自分だけ逃げるような真似は絶対にしてはならない。
だからと言って二人を抱えて逃げれば確実に追いつかれる。
この状況において正解は只一つ、自身が勝利し二人に早急に治療を受けさせる事だ。
「しんどいが……仕方ねぇ」
敵が居るであろうその空間を睨みナイフを構える。
ジャリリと地面を踏み締める音と気味の悪い呼吸音は猛の闘気を察したのかピタリと止まる。
「オラァッ!!」
猛は、害獣が恐らく居るであろうその空間に二つのナイフを叩きつける。
金属同士が激突するような音を上げナイフは空中に停止する。
不思議な光景。
爪でガードをされていると猛は推察し角度を変えてもう一撃攻撃を叩き込む。
「うぉ!?」
しかしその一撃は埃を巻き上げ空しく空振りする。
そして先程と同じ重たくしなやかな尾が振り抜かれる音が猛に迫る。
「ヤバい! そっちか!?」
猛は慌てて防御体勢を取る。
巨大な打撃音、猛の鉛色の前腕が煙を吹く。
害獣の尾による一撃を猛は間一髪で防ぐ。
「くそ!!」
当てずっぽうにナイフを振り抜く猛、しかしまたも空しく2本の武器は空を切る。
「ぐふぁっ!」
すかさず害獣の攻撃が猛の体に次々と叩き込まれる。
たまらず猛は横っ飛びでその場を離れ体勢を立て直す。
「やっぱり……厳しいか……どうしたもんかな……」
歴戦の勘で致命傷こそ回避しているがこのままでは一方的に痛ぶられ死ぬのをまつばかりであろう。
このままでは害獣の勝利は時間の問題である。
誰にも見ることは出来ないが今、害獣の口角はひきつるほどにつり上がっている。
イキの良い三人の人間の脳髄を啜る事が楽しみで仕方のない様子だ。
だが絶望的なこの状況、ただ一人、逆転の可能性を見いだしたものがいた。
「無理して喋んな、その様子じゃあ走って逃げんのは無理そうだな」
猛は寺野の口元に垂れる吐瀉物をハンカチで吹いてやりながら語りかける。
「はい……すみま……うぐっ!」
何処かを骨折でもしているのだろう、録に言葉も発する事が出来ない様子だ。
「気にすんな、やつの相手は俺がする、もし逃げられるようになったら俺の事は気にせずとっとと逃げるんだ、わかったな!」
「は、はい……」
猛は申し訳なさそうにする寺野から目を放しゆっくりと害獣の方へ向き直る。
「手前ぇ……ずいぶんと好き勝手してくれたな!」
青筋を立てながら明らかに激昂した様子の猛。
「グガァァ……」
苦悶しながら自身の手の切り傷が再生していく様子を見守る害獣。
お互い嫌悪と怒りの混じる視線を交錯させる。
一瞬の静寂。
バチンと電流が走ったように両者は攻撃行動に入る。
先手を打つのは猛、2本のククリナイフを振りかぶり力任せに害獣に叩きつける。
腕の皮膜をマントのようにひらめかせなから害獣は鮮やかにそれをかわす。
そしてそのまま流れるように、豪快な爪による斬撃を猛の腹目掛けて狙い打つ。
猛は湿気た空気を切り飛ばすようなその一撃を皮切れ一枚でかわしまたも害獣に斬りかかる。
何度も何度も両者、打撃残撃を交換して行く。
五分近く打ち合っている両者、だが徐々に均衡が崩れていく。
猛の猛攻を捌ききれずに害獣がジリジリと後退を始める。
その弱気につけこみ猛は更に気勢を強める。
恐らく並のハンターであれば三人がかりでようやく仕留められる程のこの害獣を猛は一人で易々と追い詰めていく。
突如、部屋に響く程の巨大な打撃音。
「グガァアッ!」
害獣は苦悶しながら後方に飛び退く。
猛がナイフを持ったまま放った右ストレートが害獣のみぞおちを捉えた、この戦いで最初の有効打、更に追撃を仕掛けようと彼は闘牛のような勢いで距離を詰め害獣に一撃を加えるため自身の武器を振りかぶる。
これで終わりだ! 猛は心の中でそう叫ぶ。
「!?」
その刹那、猛は自身の聴覚にほんの少しの違和感を覚えた。
もし彼にその違和感を言葉にする猶予があったならばこう言っただろう。
―見ていないのに扉の向こうの部屋でテレビがついているのが何故か分かる、あの時の感覚と一緒だった―と。
降り下ろされたナイフはガチンと火花を散らせながら蓄電室の床を叩く。
「…………ッ! 何だと!?」
猛は困惑した。
何も居ない。
二メートルを軽く越える体躯の化け物が闘いによって巻き起こったかび臭い埃の中に紛れ消えてしまったのだ。
「……どこに消えた?」
猛は用心深く、そして油断なく辺りを見回す、だが敵の姿は何処にもない。
頭脳をフル回転させ敵が何処に隠れたかを導き出そうとする。
天井? 地面? 何処かへ隠れたか?
何処を見ようと敵の影は影も形も存在しない…………。
機械だらけの蓄電室に広がる静かで不気味な緊張感。
闘いによって巻き起こった空気の流れが猛の頬を優しく撫でる。
…………その時、自身の背後、なにもないはずの空間から濃密な殺気が沸きだしている事に猛は気付く。
「やべぇっ!!」
反射的に猛はその場を飛び退く、その瞬間彼の立っていた床が轟音と共に見えない何者かに砕かれた。
「何が起こりやがった!?」
地面を転がり体勢を立て直した猛はそう言った瞬間、聞きなれた音を聞く、重たくしなやかな何かが風を切って振り抜かれる音、害獣の尾を使った攻撃の音!
「グハァッ!!」
猛が突然、一人でに五メートル近く吹っ飛ぶ。
「……げほッ! クソがっ!」
派手に地面に叩き付けられた猛はようやく状況を理解する、そして今日の奇妙な出来事全てに合点がいった。
この害獣はどうやっているのか解らないが肉体を景色に完全に溶け込ませることが出来る。
地下室へのドアの隠蔽も恐らくこの能力による物であろう。
最初から、この病院に入ったその時から自分たちはこいつに観察されていたのだ。
「グルルルゥ…………」
何もないその発電室の空間が唸っている、品定めをするように、期を伺うかの様に、ねっとりとした殺気をまといながらその空間がのしりのしりと近づいてくる。
「やべぇな……」
普段の猛ならば逃げて体勢を整え作戦を練っていたであろう。
しかしここには重症の一般人二人、内一人は痛みにより気絶、自分だけ逃げるような真似は絶対にしてはならない。
だからと言って二人を抱えて逃げれば確実に追いつかれる。
この状況において正解は只一つ、自身が勝利し二人に早急に治療を受けさせる事だ。
「しんどいが……仕方ねぇ」
敵が居るであろうその空間を睨みナイフを構える。
ジャリリと地面を踏み締める音と気味の悪い呼吸音は猛の闘気を察したのかピタリと止まる。
「オラァッ!!」
猛は、害獣が恐らく居るであろうその空間に二つのナイフを叩きつける。
金属同士が激突するような音を上げナイフは空中に停止する。
不思議な光景。
爪でガードをされていると猛は推察し角度を変えてもう一撃攻撃を叩き込む。
「うぉ!?」
しかしその一撃は埃を巻き上げ空しく空振りする。
そして先程と同じ重たくしなやかな尾が振り抜かれる音が猛に迫る。
「ヤバい! そっちか!?」
猛は慌てて防御体勢を取る。
巨大な打撃音、猛の鉛色の前腕が煙を吹く。
害獣の尾による一撃を猛は間一髪で防ぐ。
「くそ!!」
当てずっぽうにナイフを振り抜く猛、しかしまたも空しく2本の武器は空を切る。
「ぐふぁっ!」
すかさず害獣の攻撃が猛の体に次々と叩き込まれる。
たまらず猛は横っ飛びでその場を離れ体勢を立て直す。
「やっぱり……厳しいか……どうしたもんかな……」
歴戦の勘で致命傷こそ回避しているがこのままでは一方的に痛ぶられ死ぬのをまつばかりであろう。
このままでは害獣の勝利は時間の問題である。
誰にも見ることは出来ないが今、害獣の口角はひきつるほどにつり上がっている。
イキの良い三人の人間の脳髄を啜る事が楽しみで仕方のない様子だ。
だが絶望的なこの状況、ただ一人、逆転の可能性を見いだしたものがいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる