龍の錫杖

朝焼け

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第一章

廃病院の怪-7【vsグレイトサンダー】

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――全く……今日は厄日だ……緊急事態とは言え折角作り込んだ光学迷彩の能力を自身の電力で焼き切ってしまうとは――

――繊細な電気操作と巨大な出力の両立はやはり難しい……まあ良い……造り直す時間はたっぷりある……今日はひとまず……こいつをいたぶり殺して……新鮮な脳髄をすすり……ゆっくり眠ろう……いや、恐らく三人……逃がしてしまったから、隠れ家も変えねばなるまい……全く忌々しい……――

害獣は人の言葉に訳したとしたら、そんなことを考えながらもはやボロボロの猛にまるで八つ当たりでもするように攻撃を叩きつける。
それを必死にガードする猛を嘲笑うかの様に電撃の様な速さで彼の背後に回り込み思いきり蹴り上げる。

「ぐはぁっ!」

地面に這いつくばる猛を見下しながらわざとらしくゆっくりと近づき害獣は改めて自身の強大さを再認識する。

――俺は強い……しかし単純な強さには限度がある……思い知らされた……だからこそ……だからこそ……姿を隠し確実に敵を仕留める力が欲しい……こんなに直線的な力では駄目……かといって光学迷彩だけでは追い詰められたときに今回の用な不安が残る……――

今後の人生プランを練り上げながら害獣は猛をなぶり倒す。
しばらくは死なないように丁寧に痛ぶっていたがリアクションがなくなりまるで芋虫の様に転がる猛を見て、もはや飽きたとでも言わんばかりに上腕の甲殻から生えた鋭く巨大な槍を振りかぶる。

「グルルゥ……」

溜めの姿勢に入った害獣の筋肉はまるで金属の様に固く絞まり上がり、皮膚には体内に溜め込まれた電撃がバチバチとほとばしる。
恐らく必殺の一撃で猛を串刺しにしようとしているのだろう。

「ド畜生……」

絶体絶命の危機を察知しながらも猛の体は動かない、いや動けないのだ。
並のハンターならば三回は絶命していたであろうダメージ量、当然と言える。
強烈な落雷の様な音と共に、まるで夏の太陽の下にあるかの様に地下室がまばゆく照らされる。

「バオォォォォ!」

猛は膨大なエネルギーを推進力としながら突進してくる害獣の姿を見て、ついに自身の生存を諦める。
終わった、民間人すら録に助ける事が出来ず義理とはいえ大切な妹を一人遺して逝く自分を情けなく思いながら梶 猛は瞳を閉じる。
幼い頃から今に至るまでの走馬灯が猛の脳裏によぎり始めたその時、その儚いリフレインは強烈な激突音と共に遮られた。
最後の走馬灯ぐらい楽しませてくれ、意識が混濁する頭でそんな事を考えながら猛はゆっくりと目を開ける。
恐らく串刺しになった自分の体を拝むはめに成るだろうと思っていたが自身の体は未だに地面に横たわったまま、そして視線の先、部屋の入り口に命懸けで逃げさせた筈の寺野の姿があった。

「バカやろ……」

猛は頭が追い付かず混乱する。
今一体どうなっている? 敵は? くそ! もう動けない! 速く逃げてくれ! と。
何とか情報を確保しようと視線を上に向ける。
何者かが害獣と組み合っている。
助けが来たのか? 時間的にあり得ない! よしんば来たとしても一対一で倒せる敵ではない! 民間人を救出して逃げてくれ!
猛が大声でその旨を謎の助っ人に叫ぼうとしたその時である。
強烈な打撃音と共に害獣が揉んどりうって倒れ込む。

「嘘だろ……」

あの強烈な膂力とスピードを持つ害獣が何者かに膝をつかされている。
一体どんな化物が救出に来たのか? 恐る恐る猛は助っ人を見上げる。

「大丈夫か、梶 猛」

青く輝く鎧の体、禍々しい2本の角、鎧の隙間から覗く眼は静かに紅く煌めいている。
助っ人の正体は伝説の青鬼、ハナサキ クザンであった。



「あんた……なんでここに……」

息も絶え絶えながら猛はクザンに質問する。

「そうだな……君が自身にかけられたコストを無視して必死に助けた人たちが……道標になったのさ……」

「どういう……ことだ……?」

意味が解らないとでも言うように呆然とする猛。
クザンは青い鉄仮面の奥でクスリと笑う、そしてふわりと敵に向き直る。

「似るもんだな、兄妹ってのは!」

そう言うが速いかクザンは猛から二つののククリナイフ掠めとり膝をつく敵に飛びかかる。

「バオオオオォォ!!」

突然の乱入者にプライドを傷つけられ害獣は激昂、飛び起き様にクザンに電磁力で加速させた槍の一撃を叩き込む。
クザンは害獣の初動を見切り、クロスカウンター気味にナイフを敵の顔面に叩き込む。

「バウゥ!」

害獣は一瞬ふらつく、その一瞬をクザンは見逃さず追撃、だがその瞬間バチンと電気の弾ける音。

「消えた!?」

「兄さんっ! 後ろだ!」

猛の声で振り向くクザン、背中を仰け反らせて後方から放たれた槍の一撃を鼻先すれすれでかわしきる。
交差する両者の体、クザンはそのまま敵に向かってサマーソルトキック。
骨のへし折れる音と共に害獣の首が嫌な方向にへし折れる。
だが知ったことかと害獣は体を一回転させ滞空中のクザンに思いきりテールスマッシュを叩きこみ、宙に打ち上げる。

「ぐあっ!」

宙に打ち上げられたクザンは敵を見逃すまいと下にいる筈の害獣に視線を向ける、しかし何処にもいない。
自身の後ろでバチンと電気の弾ける音、まさかとクザンは自分よりも上を見る。
そこには折れて妙な方向にへし曲がった頭で尚クザンを睨み付け槍を振りかぶる害獣の姿!
弾き飛ばされたクザンよりさらに速く上空に回り込んでいたのだ。

「クソッ!」
「バオオオオォォ!」

害獣の渾身の一撃、クザンは床にクレーターが出来るほどの勢いで叩き付けられる。
強烈な墜落音。
そのまま自身の落下の勢いを利用し獣は止めの一撃を叩き込む!
その衝撃で砂埃が舞い状況が視認できなくなる。

「兄さん……」

青鬼が負けたのか? 猛がそう思った瞬間二つの影が砂埃から飛び出し激突する。

「オォォオオォラァァアッ!!」
「バオオオオォォォォッ!!」

お互いに受けるダメージなど何のそのと言わんばかりに敵に攻撃を撃ち込み続ける。
だが両者、傷を受ける側から傷が塞がっている。
クザンは高性能な身体改造による回復能力、害獣は体に蓄積した膨大な電気エネルギーによって加速させた害獣特有の再生能力によってだ。
激しく撃ち合う両者、クザンは敵よりも明らかに多く剣撃、打撃を叩き込んでいる。
害獣の強烈な移動スピードにも何とか食らいつき確実に、確実に攻撃を当て続ける。
だがしかし、徐々に、徐々に、クザンの鎧にダメージが蓄積。
対して害獣はあれだけ攻撃を当てたにも関わらずダメージは見受けられない。

「くそっ!」

たまらずクザンは一端飛び退く。

「猛っ! なんであいつはあれだけ切りつけてもピンピンしているんだ!?」

「おいっ!? あれだけ自信満々で飛び込んで来てそんな事もしらねぇのかっ!?」

「しらんっ!! ノリと勢いで飛び込んできただけだっ! すまんっ!」

その潔い台詞でこの男は記憶喪失だった事を猛は思い出す。
対害獣の基本的なメソッドを知らないのだ。
猛は残りの体力を使って思いきり叫ぶ。

「いいかっ! 害獣は大抵の奴は強力な再生能力を持ってる! そいつは特にそれが強ぇっ! 再生が追い付かないスピードで同じ部分にダメージを蓄積させて再生不能なところまで体組織を破壊するんだっ! 薄皮一枚程度のダメージをばら蒔いても焼け石に水なんだっ!」

言い終わらない内に害獣はクザンに突撃、稲妻で煌めく二振りの槍が襲いかかる。
槍とナイフがぶつかり合う激しい音が乱れ弾ける。

「攻撃を……同じ箇所にっ!」

害獣の右肩をナイフで思いきり叩きつけ、再度同じ箇所に攻撃を試みる!

「バォォッ!」

即座に害獣の反撃。
突如、金属が砕け散る音が響く。

「何っ!!」

最悪の事態、大ダメージを狙い大振りになった攻撃に害獣は見事に反撃、ナイフ二本は無惨にへし折れる。

「しまった!」

動揺するクザンに再度テールスマッシュが炸裂、思いきり壁に叩き付けられる。
間髪入れずに害獣は猛スピードで突撃、クザンの腹に風穴を空けようと槍を振りかぶる。

「ふんっ!」

突進する害獣の動きに見事に反応しクザンはカウンターのアッパーカットを敵の顎に撃ち込む。

「バグァァッ!」

揉んどりうって倒れる害獣、しかし即座に体勢を立て直し、静かに獣はクザンを睨み付ける、強敵を前に慎重になっているのか、はたまた、作戦でも考えているのか。

「むぅ……」

対してクザンも動けない、ナイフを失った今、強力な再生能力と堅牢な外皮を持つ害獣に対して決定打がないのだ。
もしこれがボクシングのファイナルラウンドであったならば与えた手数でクザンは勝利していただろう。
だがこれは命の取り合い、現状八対二で害獣の有利!
何故ならば害獣の折れた首はもうすでに七割がた回復、さらに両手の得物も健在だ。
対してクザンは体の傷の治りが悪くなり始め、得物は粉々に粉砕されてしまっている。

「バウゥッ!」

害獣はまたも消えて見える程のスピードでクザンの死角に回り込み槍の一撃を繰り出す。
クザンはその一撃を何とかかわし、敵との距離を詰めて強烈な打撃を敵の腹に叩き込む。

「バゥオゥッ!」

ダメージを受けるや否や害獣はクザンとの距離を開けてダメージの回復を図る。

「クソッ! このままでは埒が明かん!」

害獣は強烈なスピードと回復力でじわじわとクザンの体力を削りきる作戦に出た。
敵のパラメーターを正確に把握し、適切な戦術をとる。
知能の高さもこの害獣の武器なのだ。

「やっぱり……無理か?」

一時は希望を持った猛も怪しくなる戦況に一計を案じる。

「兄さん、作業員二人を連れて逃げてくれ……あんたの脚力ならギリギリ行けるだろう?」
「馬鹿なことを言うなっ! そんなことをしたら、君が殺されるだろう!」
「うるせぇっ! 俺はいいっ! このまま全員死にたくは無いだろう?」
「待って下さい!」

言い争う二人に寺野の制止の声がかかる。

「青鬼……さん、掌底を! なんで使わないんですか?」
「……?」

クザンは首を傾げる。
危機的状況にパニックになっているのだろうか? そう考えた。
だが猛は違う。

「そうだっ! 兄さん! 掌底だ!」
「……??」

クザンはさらに首を傾げる。
その刹那、電気の弾ける音、回復した害獣が困惑するクザンの隙を見計らい奇襲を仕掛けた。

「バオオオオォォ!」
「ウオォッ!?」

完全に虚を突かれたクザンは苦し紛れに、二人のアドバイス通りに右手で掌底を繰り出した。
まるでレーザーを放ったかの用な高い音が地下室に響く。
続いて巨大な爆発音。

「バウオォォッッ!」

二三メートル吹き飛ばされた後ガックリと膝から崩れ落ちる害獣、なんと左脇腹が半分近く抉り飛ばされている。

「アガァ……アバァ……」

青い血液と涎を垂らし、混乱と苦痛に呻いている。
クザンの掌から噴出したエネルギーが敵の肉体を吹き飛ばしたのだ。

「やったっ!」
「なんだ……これは……」

クザンは自身の掌から吹き出る煙をみながら困惑している。

「兄さん……あんた自分の切り札まで忘れちまってんだな……」
「これが何か知っているのか?」
「何かはしらんが……ゲホッ! 青鬼の掌底は爆発するって聞いたことがある、そこの兄ちゃんの言葉で思い出した、まさかこれ程の威力とは思わなかったがな……」
「よし……こいつを後二三発奴に叩き込んで……」
「ま……待って下さいっ!」

意気込むクザンに再度、寺野の制止の声がかかる。

「何を言っているんですか!? 青鬼さん! 爆裂掌は左右の掌で1回ずつしか打てないんですよね!?」
「!?……本当かっ!? それは!?」

彼の知識は昔の青鬼と赤鬼をモデルにした漫画作品の知識である。
だがしかしそれは正しい、今の爆裂する掌底はあと一撃しか放てない。
何故なら爆発を引き起こす特殊な燃料は変身1回につき左右の掌で1回分ずつしかチャージされないのだ。

「兄さんっ! ゲホッ……ゴホッ! 構わねぇっ! その最後の一発を奴の頭に叩き込むんだっ!」

最後の勝機、猛はクザンに血を吐きながらも檄を飛ばす。
そう、脇腹のダメージを回復される前に敵の頭に最後の一撃を叩き込めば勝利の可能性は十分にある。
このチャンスを逃す手は無い。

「解った!」

クザンは膝を着き項垂れる害獣の頭に掌底を叩き込まんと風を巻き上げ突進する。

「!?」

その刹那、クザンは自身の聴覚にほんの少しの違和感を覚えた。
もし彼にその違和感を言葉にする猶予があったならばこう言っただろう。

――見ていないのに扉の向こうの部屋でテレビがついているのが何故か分かる、あの時の感覚と一緒だった――と。

「……!!」

「……あぁっ!」

猛と寺野は絶句する、まだこれが残っていたのかと!!

「また……消えた!?」

そう、さっきまで脇腹を抉られ膝を着いていた害獣が消えたのだ。
先刻までの超スピードによる激しい消えかたではなくまるで景色に溶け込むかの様に。

「どこだ……今度は完全に消えたぞっ!?」

敵を見失い辺りを見回すクザンに入口近くにいる寺野が叫ぶ。

「ちょっと待って下さい! 今、敵を見えるように……ヒィッ!」

電灯のスイッチに寺野が手を伸ばそうとしたその時寺野の体が一人でに浮き上がる。
そして倒れ込む猛の側に投げ飛ばされる。
光学迷彩を施した害獣が寺野を投げ飛ばしたのだ。

「おいっ! 大丈夫かっ? ぐあぁっ!!」

間髪入れずに10メートルは離れた位置にいたクザンに三発の打撃が叩き込まれる。

「くそっ! 速ぇ……」

尋常ではないスピード。
害獣は明らかに光学迷彩の能力と大電力による加速能力を両立している。
それは何故か?
死の瀬戸際ギリギリまで追い詰められたと感じた害獣の細胞は火事場の馬鹿力めいた力で再構築に時間のかかる光学迷彩の能力を一瞬にして再生、更に両立不可能と思われた大電力による加速能力との両立を成立させたのだ。
異常な再生、適応能力である。
いかに青鬼と言えど完全に姿を眩まし雷の速度で動き回る敵に対して成す術はない。

「バルルル……キェアアアァァァアアァッッ!」

害獣の、悦びの絶叫が地下室に響き渡る。

――やったぞっ! 遂に両立したぞっ! これで俺は無敵だっ!――

そう叫んでいるのだろう。
皮膚組織の急速再生の余波で回復に向かう脇腹に手を当てクザンに向き直ると害獣は誰にも見えてはいないが口角をひきつらせニヤリと笑う。

――ありがとう、青い鎧の人間、おまえのお陰だ、そして、さようなら――

「バオオオオォォオオオォォッ!」

害獣は持てるエネルギー全てを持ってクザンに最高最速のラッシュをかける。
光学迷彩を施し、重機を越えるパワーを持った獣が雷速で暴れまわる。
傍目には一人でに床がひび割れ砕け、壁や機械類は弾け飛んでいっている様に見えるだろう。
まるでその空間全てが自壊していくかのような光景だ。
その破壊の中心でクザンはピンボールのように転がされ叩きのめされる。

「ぐおあぁっ!」

クザンはたまらず距離を取ろうと跳躍するがその破壊の空間から逃れることはかなわない、鎧は砕け角は折れ、真っ赤な血が噴出する。

「あぁ……」

「駄目か……」

猛と寺野は無力な自分に歯軋りしながらこの凄惨な光景を眺める事しか出来ない。
猛は言わずもがな、寺野も重傷の体で猛のサポートや青鬼の案内に奔走した上に思いきり投げ飛ばされたのだ。
二人とももう逃げ出す気力すらない。
クザン自身も前後不覚の状態で気力も体力も限界に近づいてきていた。
万策尽きた人間達は遂に生存を諦める。
この場にいる四人はもう死に逝く運命……の筈であった。

 しかし何故か、クザンは今、死に逝く者の最後の安らぎである走馬灯を妙な記憶に邪魔されていた。
ある筈のない記憶、その中でクザンは今よりもっとボロボロになりながら、今よりさらに大量の流血を気にも留めず、今よりずっと恐ろしい害獣に立ち向かっていた。
自身が失ってしまった五十年の記憶の片鱗だろうか。
その記憶の中で闘う青鬼を見てクザンは思う、あぁ、そうだったな……あの時は右腕を飛ばされながらも敵の頭を切り飛ばした……あの時は猛毒のガスの中を突っ切って敵を殴り付けたか……そう言えば内蔵を半分啜り喰われた状態で敵をビルの天辺から自分もろとも地面に叩き落とした事もあったか……。

「それに比べれば……今の状況……」

クザンの眼がギラリと深紅に輝く。

「どうと言うことはないっ!!」

クザンは瞬時に体勢を立て直し思いきり地面を踏み砕く。
まるで地震でも起きたかの用な地響きと共に砂ぼこりが舞い上がる。
するとおぼろげだが害獣の姿が砂ぼこりの中に浮かび上がる!

「そこかぁぁあっ!!」

その一瞬をクザンは逃さない、獣の鼻面に思いきり腰を入れた渾身の右ストレートを繰り出す。
重たい打撃音。

「ブギャアアアッ!」

鼻を抑えながら害獣は絶叫する。
何故だ! 何故まだ反撃出来る!?
害獣は混乱しながらも素早く敵との距離を置く。
ダメージの回復と様子見の為に時間を稼ぐ。

「ふん……このままでは埒が明かんな……」

慎重極まる害獣の戦法をクザンは鼻で笑う。
そして敵が居るであろう方向に向かってちょいちょいと手招きをする。

「来い、逃げるか隠れるかしか能の無い臆病者」

「!?……バグルルルッ!」

勿論今の台詞の意味を害獣は理解していない。
しかし獣はクザンの態度で、声色で彼の意を理解する。

――俺を舐めていやがる、格下扱いしていやがる!!――

最強無敵の能力を完成させた自分を、ボロボロに痛め付けられた人間が、たかが一発パンチを決めただけで格下扱い、まさにこの世の王となった気分でいた害獣のプライドは怒りで激しく燃え上がる。

「バオオオオォォッッ!!」

害獣は怒りの雄叫びを上げながらクザンに突進する。
クザンはまたも地面を踏み砕き砂ぼこりを舞い上げる。

「何っ!」

今度は砂ぼこりの中に害獣の姿が浮かび上がらない。
それは何故か?
害獣の透明化は表皮にテレビ画面の様に周囲の景色を写し出す能力と体に入り込む光の屈折を調節する能力で実現させる。
正しその変化スピードは害獣の反射神経に依存している。
先程は敵が想定外のアクションで環境を変化させた為に反応が遅れてしまった。
つまり砂ぼこりが舞うことを想定さえしていれば例えこの様な状況でも透明化出来るのだ。
害獣はこの高い適応能力と超スピードでクザンの背後に回り込み、左腕で全身全霊の突きを繰り出す。

「後ろかっ!」

すんでの所で振り向いたクザンの腹に巨大な槍が突き刺さる!
砕ける青い鎧、吹き出す真っ赤な血液。
その瞬間、害獣はテレビの電源を消すような音と共に能力を解除、勝利を確信したからだ。
そして、クザンも勝利を確信した。

「捕まえたぞっ!!」

クザンは自身の腹に刺さる槍の根本まで、自身のダメージ等一切気にせず突進、そして右腕で害獣の左肩を掴み上げ強烈なパワーで自身の側に引き寄せる。

「バウォオ!?」

クザンは勝利を確信していた害獣の顔面をそのまま左腕で殴り付ける。
何度も、何度も、何度も。
必死に抜け出そうとする害獣、しかし左手の槍は血を吹き出すクザンの腹筋に押さえ込まれ使用不可能、右腕の槍は密着され過ぎたせいで満足に敵に届かない、噛みつこうにもたった今、全ての歯牙を拳によって叩き折られている。

――なんだこいつは! 理解出来ない! ヤバい! 逃げなければ!――

自身の思考の遥か斜め上の戦術を取られた害獣は恐慌状態に陥り必死にクザンを振りほどこうと暴れまわる。
しかしクザンの右腕と腹筋によるホールドはまるで龍の顎のごとき力強さ、どうあがいても外れない。
その間にも唸りを上げる鉄拳が害獣の頭に叩き込まれる。

「カ……ガフッ!」

最早害獣の頭は腫れ上がり、肉が吹き飛び見るも無惨な状況だ、しかし驚いたことにその傷は既に回復が始まっている。
だが回復しようがもう手遅れ。
クザンが構えるのは掌底の構え。

「バオオオオォォ!」

この意味を理解した害獣はより一層もがき暴れる。
だが抵抗空しく顔面に掌底が叩き込まれる。

「悪いな、これで終わりだっ!」

まるでレーザーを放ったかの用な高い音が地下室に響く。
続いて巨大な爆発音。
害獣の頭に最後の切り札、爆裂掌が炸裂した。
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