龍の錫杖

朝焼け

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第二章

荒野のデスロデオ! ! -2

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 武装車の窓から見えるのは突き抜けるような青い空、目が眩む程に輝く太陽。
乾いた大地を滑る暑い風が皆の頬を撫でていく。
気持ちの良いシチュエーションなのであろうが間部にはそれを楽しむ心の余裕は無い。
覚悟をしてはいたがああも唐突かつ陰惨な形で仲間の死という現実を突きつけられた故に凄まじい脱力感と無力感に襲われているからだ。

「間部ちゃん、落ち着いた? 取り敢えずこれで水分補給して」

桜が水の入った水筒を差し出す。

「すいません……今は何も喉を遠らな……」
「駄目よ、無理にでも飲みなさい、いざというときにからだが動かなくなるわよ」

言われるがまま間部は水筒を受け取り無理やりその中身を飲み干す。
その様子を見届けた桜は車外で調査をしているジェラルドとクザンを眺めながら間部に語りかける。

「二人の調査が終わったら、直ぐに生存者を探しに行くわ、運転は出来そう? 無理そうなら私が変わるけど……」

間部はゆっくりと首を横に降る。

「いえ、大丈夫です、やれます……それと…………」
「それと?」

間部はその小さな唇がまるで鉛にでもなってしまったかと思うほどに重そうに口を開く。

「生存者は……もういないと思います……」

桜は一瞬、何故そんなことを言うのかと間部を叱り飛ばしそうになったが彼女が何故そう考えるのかきっと理由が有ろうと思い直し彼女に質問をする。

「なんで……そう思うの?」
「あのご遺体の……靴で解ったんですけど………………あの人は第三班の班長の赤池 礼人さんです……責任感がとても強くて、仕事も出来て仲間思いの人です」
「それで?」
「ここは最後の緊急無線の現場からかなり国道寄りです、つまり赤池さんは現場から逃げようとしていたんです、あの人に限って仲間を残して逃げたりは絶対しません」

間部は重い口を無理やり動かす。

「きっと、あの散乱している書物、死んでいった仲間の最後の仕事だから、命懸けで都市に届けようとしていたんだと思います、彼は……そんな人なんです……」

一気に喋り終わると間部はガックリと項垂れる。
彼女の作業着に涙がポタポタと垂れ落ちる。
桜は何も言えずに間部の肩に手をかける。
暫く二人は無言でいたが、桜は今の間部の話をジェラルドに伝えなければと思い車を出る。



 「ジェラルド!」
桜の呼び声にジェラルドは振り向く。

「おぅ、どうだ? 間部ちゃんは落ち着いたか?」
「動揺は落ち着いたみたいだけど、まだ、安静にしてあげてほしい」
「おぅ解った、で、なんかあんのか?」

桜は先程の間部の予想をジェラルドに伝える、それを聞いたジェラルドは頭をポリポリと掻きながらため息をつく。

「探す振りだけでもしてやろうと思っていたんだがな……間部ちゃん自身が気づいてんなら、ここは出来るだけ本を拾って、死体を回収して、通信が途切れた箇所だけ調査して、そしたら一度帰るか……」
「何? 分かってたの?」
「まぁな……俺も第三班の班長の人柄を知ってたし、この有り様だからな……それに……」
「それに?」
「現場を調べるうちに思ったんだが、今回の奴は恐らく俺たちの手に余る、一度労管にそれを伝えて今後の指示を仰ごうと思う」

苦々しい顔をしながらジェラルドは腕を組む。

「嘘でしょ? 貴方がいて、クザンがいて、武装車まであるのに?」
桜は少し驚いた様子だ。
「あぁ、正直俺も驚いてる、恐らく今回の奴は今まで俺達が相手していた奴とはタイプが違う、街中ではなく、この荒野に特化した飛んでもねぇ奴だ」
「具体的にどんな奴なのよ」
「それはだな……」

ジェラルドが口を開きかけたその時、妙な音が荒野に響く。
まるで工事現場で鳴るような、金属が固いものを削るような高音だ。

「何? この……キィーンて音……」

地の底から響いてくるその不気味な音、少し遠くで調査をしていたクザンが血相を代えて走ってくる。

「ジェラルドッ!」
「あぁ、ヤバイな! 桜! 間部ちゃんには悪いが今は本と遺体は諦めて逃げるぞ!」
「何!? どういうこ……」

その時、突如巨大な地鳴りの音、崩落音と共に武装車が地面に飲み込まれ始めた!

「しまった!」

車内の間部は異常を察知し車の運転席に移動、エンジンを起動しアクセルを踏み込む!
タイヤは空しく空回りし、摩擦で煙を吹き上げる!

「ヤバイ!」

クザンは武装車に向かって突っ走る。
走るクザンの体が真っ白な蒸気を噴出、体を包み込む!
そしてその蒸気を振り払うように中からは青鬼と化したクザンが飛び出して来た! 
超スピードで変身したクザンは車体の下に手を差し込み、思いきり引っ張りあげる。

「がああぁっ!!」

落下のスピードは遅くなった物の未だに車は沈み行く。
無理も無い、この武装車の重量は4トン、更に砂にはまってしまっていては巨大な重機でも無いと引き上げられ無いだろう。

「間部さん! ギアをローにしてアクセル全開だっ!」
「その声、クザンさん!? もうやってます!」
「クソッ! 駄目か!」

クザンが車ごとの救出を諦め、乗っている間部の救出に切り替えようとしたときガクンと車両の沈降が停止する。

「……何っ!?」

遅れて来たジェラルドが車両の右側面を支えている。
だがその姿はクザンの見知ったものではなかった。
全身が赤く染まり、逞しい体は更に筋肉で膨れ上がり両の腕には鋭い爪と甲殻が形成、顔はどこか獣染みた相貌になっている。
その見馴れぬジェラルドはいつもの声でクザンに合図を送る。

「クザンっ! 思いっきり引っ張れ! 行くぞぉっ! せーのぉっ!」

砂煙を巻き上げながら武装車は地面から引っこ抜かれ、重量感のある落下音をたてる。

「やったっ!」

安全な大地に復帰した武装車に三人は飛び乗り、エンジンを全開にして突っ走る。

「間部ちゃん! 国道まで突っ走れ!」
「はいっ!」
「何なのあれ! 何が起こったのよ!」

今度はクザンが桜に状況を説明しようと口を開こうとする。
しかしその時、車が沈没した現場からまたも巨大な地鳴りが響く。
皆がそちらに目を見やると沈没跡の近くで地面がぼこぼこと不気味な音を立てながら隆起する。
その隆起はまるで波のように蠢きながら武装車の追跡を開始する!

「見てもらえば解るが……ああ言うことだ」
「地面を掘り進んでるって言うの!? 信じられないわ!」

驚愕する桜を横目にジェラルドは間部に話しかける。

「もうこれ以上スピードは上がらねぇか?」
「はい、限界です、でも大分引き離しましたし、これでなんとか……」
「いや、皆油断するなよ、車で逃げられるんなら第三の班長は死ななくて済んだんだからな」
「確かにそうですが……でもこれ以上どうするって言うんでしょうか……」

間部の言うことも最もである。
既に武装車は追跡してくる地中の敵を五十メートルは引き離している。
今回は大丈夫かもしれない、皆がそう思い始めたその時、この世の物とは思えないほど巨大な高音と地鳴りが大地に響く。
次の瞬間、追跡して来た敵が砂煙を纏って爆音と共に宙に打ち上がり、武装車の方へダイブして来た!

「きゃあっ!」
「うおおっ!?」

武装車に一瞬影がかかる。
勢い余った敵は、走る車両を軽々と飛び越え、車両の向かい進む道路の地中にのたうちながら素早く潜り込む。
はるか後方に居たはずのその敵は、一瞬にして武装車の前方に回り込んだのだ。

「うそでしょ!? 回り込まれた!?」
「信じられんっ!」
「不味いっ! このままじゃ下から突き上げられるぞ!  曲がれぇ!」

ジェラルドが言うが早いか間部はハンドルを左に限界まで切る。その刹那、車の数十センチ右側の地面が砂塵と共に爆裂! 
轟音と共に地面から巨大な害獣が飛び出す!  
武装車はその飛び出してきた害獣を間一髪ギリギリで避ける!

「ジシァアアァァアアッ!!」


地面から、ぎらつく太陽に噛みつかんばかりの勢いで飛び出してきたその害獣の姿を見て、四人は今回の事件の全容を完璧に把握した。
その正体は例えるならば竜、しかしそれだけではない。
頭部に巨大なドリル状の器官と黒く堅牢そうな甲殻を備え、その甲殻の隙間、魚で言えばエラに当たる部分に一ヶ所ずつ、喉元に一ヶ所、計三ヶ所からまるでスペースシャトルのブースターの様に炎が吹き出されている。
その炎の推進力は害獣の巨体を軽々と宙に打ち上げている。
害獣はこのブースターを使って走る軽トラックに飛び付き破壊、鉄塔の上に逃げた獲物を補食したのだ。

「皆、腹ぁくくれ……こいつからは……ちょっとやそっとじゃ逃げ切れんぞ」
ジェラルドはその額から冷や汗をたらしながら、静かに皆に語りかけた。
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