龍の錫杖

朝焼け

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第二章

六爪遺跡の決闘-5 【vs黒騎士】

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 厳つい見た目の装甲車はA区画の壮麗なビル群、工場群を背にB区画のどこか退廃的な町並みを抜けどこか牧歌的な懐かしさを感じさせるC区画を走り抜けている。
田畑が広がりポツポツとそれを管理する農家の家が有るだけだ。
ここまで来ると龍の錫杖から伸びるケーブルも大分減り、中々に眺めが良い。
隣の不愉快で五月蝿い男がいなければ、今どれだけ気分が良かっただろうとクザンは非常に勿体無い気持ちに陥っている。

「おい、碇さんよ! そもそも何で前に三人で後ろに一人なんだよ! 
おかしいだろうが!」

聖山は完全に分断された後部座席で優雅にドライブを楽しんでいるであろう大迫に悪態をつく。

「……申し訳ありません……ですが所長のいつものスタイルなので……どうかご理解頂けますか……」
「けっ! 権力者だからって調子に乗りやがって! いつか痛い目見せてやるぜ!」

その時ブツンとマイクが入る音が成り、大迫の嘲るような声が車両内に響き渡る。

「聞こえているぞ、グズが」
「え!」
慌てふためく聖山に碇は説明をする。
「聖山様、説明し忘れておりましたがこちらの会話は後部に聞こえております、これも所長のスタイルなので……」

青い顔をして黙る聖山を見て、クザンはこれでやっと静かになると安堵する。
クザンは碇からこの車両の仕組みを聞いていたので不用意な事を言わずに済んだが聖山には敢えて説明しなかったのだ。
先程乱暴を振るわれた彼のささやかな仕返しだろう。

「ふぅ……」

クザンは一つ大きな溜め息をつき、今回の依頼主の事を考える。
この大迫と言う男、この車両の仕組み一つ取っても中々に嫌らしい人物、普段からこんな調子であれば何者かに狙われたり同僚から護衛の手配の邪魔をされるのも頷ける。
そんな人間を守るなんて全くもって気が乗らない。
クザンも思わず聞こえないような小さな声で呟いてしまう。

「……やってられんな」

しかしクザンにはこの仕事で一つ密かに楽しみにしている事がある。
それは今回の目的地、宇宙素材研究所の研究対象、六爪遺跡を間近で見られる事である。
六爪遺跡とは龍の錫杖が撃墜した侵略者の巨大戦闘機の成れの果て。
地面に叩き込まれ、砂が堆積し今は翼に当たる部分しか地表に露出していないのだが、【地球外の侵略者が使う巨大戦闘機】、男であれば興味を持たざるを得ないワード、以前から見てみたいとクザンは考えていたのだ。

 数時間後、車はC区画の未開耕の荒れ地に差し掛かる。
サイドミラーには代わり映えのしない景色が延々と続く。
碇によればここまで来れば目的地まではもう少しらしい。
最低限の道路整備しかなされておらず辺りに人の気配は無い。
やることも喋ることもないクザンは頭の中でまだ見ぬ巨大戦闘機の翼をあれこれ想像しながら、その代わり映えのしない景色を映し続けるサイドミラーをぼぅっと眺めている。

「……!?」

だがその代わり映えのしない鏡の中の景色に一つだけ黒い点が表れる。
その黒い点は少しずつ大きくなりそれは恐らくバイクの様な物で有ることが見てとれる。

「……碇さん!!」
「何でしょう?」
「警戒を、後ろから何者かが追跡してきています!」
「本当ですか!」
「なんだとぉっ!」

碇と聖山が慌てて後方をみる。
二百メートル程先だろうか、確かにバイクの様な物で追跡をする何者かが居る。

「碇……スピードを上げろ……」

後部座席から大迫の指令が飛び碇は慌ててアクセルを踏み込む、車は唸りを上げ、速度計は百キロの表示を示す。

「……駄目だな、向こうの方が少しだけ速い」

黒い影は引き離される所か奇妙な高音をあげながらぐんぐんと装甲車との距離を詰めていく。

「くそっ! せめて目的地にまで逃げ切れれば……」
「ああ!? 六爪まで逃げればなにか変わるのか?」
「研究所には幾らかの兵力が有ります! そこまで逃げ切れれば……」
「そもそもあのバイクに乗っている野郎が何で敵だって解るんだ、碇さんよ!」

装甲車は緩やかな丘に差し掛かる。
ここを越えれば六爪遺跡が見えてくる。

「……恐らく敵かと……報告書に書いてあった証言と合致しますから……」
「おいっ、碇! 余計なことは喋るな!」
「しかしここまで来て!」
「五月蝿い! おいグズ二人、仕事だ! 後ろに居るあいつから私を守れ、質問は受け付けん!」
「ちっ、偉そうにっ!」

装甲車内で揉めている間にも黒い影は近づいてくる。
およそ距離百メートル!

「くそっ、追い付かれる!」

装甲車と黒い影は砂煙を巻き上げ丘を登りきると今度は半分飛ぶように丘を下り出す。
今まで丘に隠れて見えなかった目的地、六爪遺跡が見えて来た。
それは、まるで機械仕掛けの蟹の半身が埋められているかの様な奇妙で巨大な建造物。

「おぉっ……」

緊急事態の最中でありながらクザンはその異様な存在感に圧倒される。
しかしおよそ翼には見えない造形だ。

「見えました! 六爪遺跡です!」
「ふん! 何とか逃げられそうだな、碇、研究所の人間に連絡しろ、誘きだして全員で袋叩きにしてやれっ!」
「……承知しました!」

命令通り碇は車内の連絡用電話に手を伸ばす。
しかしその時、巨大な何かが空を切る音。
鉄の砕ける鈍い音と共にボンネットが何かに突き破られ装甲車は飛んでもない勢いで急停止!

「ぐわぁっ!」
「ぐおっ!」

突然の衝撃に大迫と聖山の怒号が飛ぶ。

「おいっ碇ぃっ! 何のつもりだ!」
「てめぇ! 気を付けろ!」

一方クザンはボンネットに突き刺さる物を見て顔を青くする。
突き刺さっていたのは先端に鎖の巻き付いた巨大なコンクリート柱。
エンジンを貫通し装甲車を完全に機能停止させている。
十中八九この物体を投げつけてきたのはあの黒いバイクの追跡者。
こんな物をあんな距離から? こんな強さで? こんな精確に?
もし、奴の狙いが我々を殺すことであれば……。

「全員外へ出ろ! 二発目が来るかもしれんぞ!」

クザンは慌ててドアを蹴破り碇を外へ投げ飛ばす。
そして後部座席のドアを引き剥がし中で転がる大迫を引きずり出しまたも同様に碇の倒れ込む場所へ投げ飛ばす。
聖山は腐っても戦闘員、クザンの叫びで全てを察し車両の外へいち早く飛び出す。
外へ逃げ出した一行は即座に追跡者を注視する。
二発目の攻撃の餌食に成らぬために皆一様に警戒する。
けたたましいエンジン音を発し、黒い影が迫り来る。
クザンは労管支給の黒い刀を、聖山は腰に携えた蛮刀を取りだし戦闘体制。

「おい、てめぇは手ぇ出すなよ、そこの二人をびくびく守ってやがれ」
「そうさせてもらう、しかし危ないようだったらこちらも手を出させてもらうぞ」
「へっ、てめぇの出番はねぇよ!」
「来るぞっ!」

激突まで後三十メートル! その瞬間黒い影は乗ってきたバイクを乗り捨て、前方に蹴り飛ばす!

「おぐぁっ!」

乗り手を失ったバイクは何故か速度を急激に増し、とんでもない勢いで弾丸の様に聖山に激突!
聖山は蛮刀を取り落としバイクと共に遥向こうに吹き飛ばされる!
反動で宙に打ち上がった黒い影はふわりと空中で体勢を建て直しコンクリート柱が突き刺さる装甲車のボンネットに鮮やかに着地する。

その姿は漆黒の鎧に包まれた騎士の様。
右手には蛇腹状の剣、腰の左右にはバイクのマフラーの様な筒が備え付けられ不気味な煙を立てている。
黒騎士はその禍々しい姿とは裏腹にまるで凍った鈴で奏でているような美しい声で喋りだす。

「そこの青いローブの方と眼鏡の方、逃げればそれ以上追いません、さっさと逃げてください……私はそこのグズ野郎……じゃなくて大迫 儀流さんに聞きたいことがあるだけですから」

鎧の軋む音と共に黒騎士はその剣で大迫の方を指し示す。

「グッ……グズ野郎だと!? 貴様誰に向かって……」
「黙れっ!  殺されたいかっ!? 」
「ぐぅ……」
「…………失礼、後でたっぷり、限界まで喋らせてあげますから、今は黙っていて下さい」

目の前で護衛を一人瞬殺され、さしもの大迫も萎縮する。

「ひぃぃ……」

碇はこれでもかと言うほどの恐怖の形相。

「……まったく……やれやれだ、ここ数ヵ月、本当にツいていない」

しかし警戒こそすれ萎縮はしていない男が一人。
ぶつぶつと文句を言いつつもクザンは黒刀を肩に担ぎ黒騎士の剣の前に立ちはだかった。
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