龍の錫杖

朝焼け

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第二章

六爪遺跡の決闘-6【vs黒騎士】

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「悪いが仕事なんでな……逃げるわけにはいかないんだ」
「お仕事って大変なんですね? そんな最低最悪のどグズを守らなきゃいけないなんて?」

わざとらしく肩をすくめ黒騎士は呆れたようなポーズを取る。

「年を取れば解るさ、こういう大人の苦労ってやつがな」
「…………解りました……では少し……貴方には眠っていて貰いましょう!」

黒騎士の腰のマフラーがけたたましい音を上げて振動する。

「碇さん、大迫さん、こいつは俺が食い止める、走って研究所まで逃げてくれ! 速くっ!」
「は、はい!」
「くそっ! 覚えていろ、この犯罪者めっ!」

捨て台詞を吐いて大迫は逃げ出す。
バシュンとクザンの体から蒸気が吹き出し、一瞬で青鬼の姿に変身、クザンは戦闘体勢を取る!

「なっ! 青鬼!?」
「大迫さん、なに振り返ってるんですか! 速く!」

黒騎士はクザンの鬼への変貌に一切の怯みも見せず、腰のマフラーから爆風を吹き出しクザンに切りかかる!


 静寂の中で遠くから僅かに車両の走行音が聞こえてくる。
騒ぎに気づいた研究所の人間が武装車を繰り出してきた音だ。
他にも聞こえる音が二つ。
クザンの赤い血がポタポタとローブを伝って滴る音。
黒騎士の青い血がスウッと鎧から垂れ流れる音。
背中合わせに沈黙する二人。

「グフッ!」

コンクリート柱の上で膝をつく黒騎士。

「酷いですね……特に女性の顔を蹴るなんて……」

黒刀を振り払いながら振り返るクザン。

「悪いがコンクリート柱を投げつけてくる様な奴を女性扱い出来る程出来た男じゃないんでな、悪く思うな」
「峰打ちで仕留めようとしたり、わざと鎧の部分を狙う余裕は有る癖にですか?」
「それとこれとは話が別だ、それよりも研究所から武装車が出動している、速く逃げた方が良いんじゃないのか?」
「……そうですね、あの男への質問はまた今度にします、貴方みたいな強い人が居ないときに……」

黒騎士はそう言うと懐から細く長い鎖を取りだす。

そしてその先端を思いきり放り投げる。
鎖はまるで意思を持つ生き物のように乗り捨てたバイクに向かって飛んでいく。
鎖の先端が触れたバイクは突如タイヤを回転させながら自立し黒騎士の方へ走り出す。
黒騎士はまるでリードを使って猛獣を操るようにバイクを引き寄せると流れるようにそれに搭乗し、都市とは反対の区画外の方角へ消えていった。

「……がはぁっ!」

黒騎士の逃走を見届けるとクザンは脇腹を押さえながら膝を着く。
傷を押さえた掌からボタボタと血液が垂れ落ちる。
かなり深手の切り傷の様だ。

「……くそっ、痩せ我慢はするもんじゃないな……」

クザンは壊れた車両にゆったりと寄りかかり、研究所からの救援を待つ。
しかし恐らく救援が来る頃には脇腹の傷も塞がっているだろう。
巨大な宇宙船の翼、超能力を扱う謎の騎士、傷がすぐに塞がる改造人間、どれもこれもつい数ヶ月前の自分に聞かせていたら腹を抱えて笑いだすほど馬鹿馬鹿しい話だろうなと彼は思う。

「今更だが……エラい所に来ちまったもんだ……」

自嘲気味にクザンは笑い、そして救援が来るまでの束の間、楽しみにしていた六爪遺跡の見学を楽しんだ。
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