龍の錫杖

朝焼け

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第二章

魔の殺人団地-4 vs武装集団

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 薄暗い部屋の中、目の前にある無数の監視カメラ、そこに映る四人の人間を眺めながら髭面の、痩せこけ不健康そうな男は小さく溜め息をつく。
そして後ろにいる体格の良い、いかにも粗暴そうな男二人組に話しかける。
「思いの外、次が来るのが早かったな」
男達が口を開く。
「こいつらも餌にするのか?  才羽(さいば)さん?」
「こいつらも改造人間何だろ? あれも沢山湧くだろうなぁ」
才羽と呼ばれたその男はもう一度深い溜め息をつく。
「確かに、いいモノが取れそうだ……だが、今回は修羅場になるぞ……お前らも覚悟をしておけ、園田(そのだ)、江角(えすみ)……」
「大丈夫だって、この場所ならぁ俺たちには武装ハンターだって歯がたたねぇんだ、見ただろ? あの無様な命乞いをよっ!」
「ぶはははっ!  あれには笑っちまったよなぁっ!」
高笑いする二人を才羽は横目でぎろりと睨み付ける。
「……油断をするな……恐らく今回の奴等は前のとは次元が違う……」
「大丈夫だっつってんだろおっ! ?  才羽さん? あそこなら俺たちに敵はいねぇっ!」
「そうだそうだ、ぎゃはははっ!」
突如机を蹴り飛ばす音。
金属製の太い脚が煙を上げてひしゃげている。
「油断するなっつってんだろうが!! この馬鹿どもが!! あのトラップや俺達の身体改造の維持費……一つに一つにどれだけの手間と労力と金がかかってると思ってる!  一つとして無駄には使えん! 前の奴も抽出出来た分量と受けた被害を考えればギリギリ黒字って所だ……今回は確実に大きな黒にしなきゃいかん……しかし今度の獲物は俺の勘が正しければ前の奴の数倍は強い……確実に仕留めろっ!」
突然の激昂に言葉を失う二人。
「返事ぃっ!!」
「はっはいっ!」
「お……おうっ!」
さっきまでの威勢を削がれた二人はそそくさと部屋から出ていった。
「ふぅ……」
才羽はモニターから目を離し深く椅子に座り直す。
煙草に火をつけ、ゆっくりと隣に目を移す。
「あうぅ……」
「うあぁ……」
目を向けた先にあったのは裸でギロチンの様な拘束具に身を縛られた百数十人もの人間たち。
規則正しく並べられ、点滴を施され、首もとには奇妙な機械装置がつけられている。
機械装置からはチューブが伸び、何処かしらに繋がっている。
全員一様に不健康そうな顔色で呻き声をあげながら力無く蠢いている。
その様子を見て才羽はニヤリと口角を引き上げる。
「まぁ……流石に今回の狩りが上手く行ったら……潮時か……良く稼がせてもらったぜ……しかし」
ここで唐突に表情が、哀愁を孕んだものに切り替わる。
「最後の獲物があいつとはな……」
そのギョロつく眼が監視カメラに映る金髪の大柄な白人をなんとも言えない様子で見据える。
そしてゆっくりと視界を天井に移し、ゆっくりと、そして大きく、紫煙を吐いた。
「…………あんたも生きていたのか……ジェラルド ペレス少佐……」


「うぅ……傘持ってくれば良かったわ……雨嫌いなのよね、私」
「俺も好きではないな……ただ天候云々で仕事をしないわけにもいかないしな」
不気味な雰囲気を醸し出す、一つの超巨大な要塞のような団地、そのエントランスを目指して四人は庭園を進む。
庭園の中心には仕切りに囲まれた巨大な穴。
地盤沈下の影響で崩れ落ちたのだろう。
「おいおい、大丈夫かよ、俺達のいるときに大崩落とかしないだろうな……」
心配する猛。
「がはははっ! 大丈夫だって、もう何年もここはこの状態を維持してる、よっぽど運が悪くなきゃ崩れやしねぇよ」
その心配を笑い飛ばすジェラルド。
「なーにー? びびっちゃってんのー猛ー?」
「うっせぇっ! おめぇに言われたくねぇっ!」
程度の低い兄妹喧嘩が始まろうとしたその矢先。
「……? おいっ!」
九山が団地の中央エントランスの壊れた電動ドアの前に佇む二つの小さな影を捉える。
明らかにこちらを意識して待ち構えている様子だ。
その様子はひどく動揺しているように思える。
小走りで四人はその影に近寄る。
「子供……兄弟?」
影の正体は十歳前後の兄弟、二人は唐突に四人に懇願する。
「お願いです! 両親が害獣に襲われているんです! 助けてください! 今すぐっ!」
「何っ!?」
表情の変わる四人、何処か気の抜けた様子が一気に引き締まる。
「何処だっ!」
「こっちですっ!」
兄弟は中央エントランスに走り込む。
猛と桜は彼らに急いでついて行く。
それに追従しようとクザンも走りかけたその時である。
「……まて」
ジェラルドがクザンに制止をかける。
「どうしたっ! 急がんと間に合わなくなるぞ!?」
「……焦んな、明らかに様子が変だったろ、冷静に考えればお前にも解るはずだ、お前は少し後ろを走って様子を見ていてくれ」
そう言ってジェラルドは二人を追いかけ駆け出す。
「……確かに……少し変だ……」
クザンは後ろを走りながら思索する。
確かにあの兄弟の態度には違和感がある。
まるで自分たちハンターがやって来るのを知っていたかのような待ち構え方だった。
しかし兄弟の放っていた焦りや恐れは明らかに演技で出来る物ではない。
だからこそ猛と桜はいの一番に走り出したのだ。
彼らの放つ本物の焦りと恐れに微妙な違和感はマスキングされたのだ。

兄弟と三人は巨大な中央エントランスを走る。
そのエントランスの大きさたるやまるで巨大なダンスホールだ。
恐らくイベント会場の様な用途で使われていたのだろう。
ちょっとしたイベントならば十分可能な広さである。
吹き抜け造りの二階層で構成され、二階にはギャラリーが座るような席まである。
だが今はガラクタが溢れ、埃にまみれ、カーテンは朽ち果て、雨漏りでカビだらけ。
足場など録に無い、まるでゴミ屋敷の様だ。
「君たち! お父さんと母さんは何処!?」
桜の問いに兄弟は答える。
「あのドアの向こうです!」
エントランスの一番奥に、居住エリアに繋がる大きめの鉄扉がある。
桜はそこを見据え、走るスピードを上げる、しかしその時である。
「え……キャアア!」
突然彼女は仰天し飛び上がる。
急に速度を落とした彼女に猛は思い切りぶつかり派手に二人はこける。
「おいっ! なにバカやってんだっ!? ってうおおっ!」
猛も仰天しながら飛び上がる。
二人は混乱しながらも後方に跳び跳ねる。
「おいおいどうしたっ!」
後から追走してきたジェラルドが二人に訪ねる。
「床に電気が流れてる!」
桜が面食らいながら床を指差す。
そこには大量にぶちまけられた水、そしてそこに、鉄扉の脇の巨大なコンセントから電気が放たれていた。
「何だこりゃあ……」
「ってあの子達はっ!? 大丈夫なの?」
三人がぐずぐずしている間に兄弟はエントランスを走り抜け、鉄扉を開く。
その兄弟の足元を見て三人は気付く。
彼らの靴は分厚いゴムの様な靴。
恐らく絶縁加工が施してあるのだろう。
つまりこの電撃の罠に三人を嵌めたのはあの兄弟。
「ごめんなさいっ!」
兄弟は謝りながらその鉄扉をガシャンと閉め切り、そして施錠をした。
一瞬の静寂、三人は何が起きたかまだ解らない。
だがその思索の間すら与えぬかの様にエントランスの二階席から怒号が放たれる。
「全員っ! 撃ちやがれぇぇえぇ!」
「何だっ!?」
その瞬間、二階席から十数人のマシンガンを構えた男たちが現れ、三人に豪雨の様な銃撃を浴びせかけた。
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