せめてヤンデレを回避しなくては!!

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プロローグ

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 昔から綺麗なものや価値のあるもの、花や武器に至るまでの様々な物に対してさほど興味がなかった。物欲というものが著しくなければ、全てのことがどうでも良く感じる。酷い執着もしないし、散財することも無い。それなのに人は皇子に卑しくも求めた。欲しい物、そんなの今まで考えた事もなかったのに、地位なんてものはいずれ継承される、名誉も権力も富も常にある。それ以上逆に何を求めれば良いのかと思った程だ。
 でもある日、欲しいものが急に分かった。あの日出会った彼が、まるで生きた人形の様に美しくて小さくて可愛くて、手元に置こうと思った。ずっと近くで眺めて抱き締めて、そう本物の人形の様に…。

「俺はあの子が欲しいです。陛下。」

「…そうか。」

 それが例え人間だろうと、皇子が欲しいと言った瞬間から、彼は皇室の人形になった。

 
 _____________



 ヒジリが少しだけ上目遣いで見上げなければいけないほどの背丈、きらきらと輝く柔い金糸の髪に、心の奥まで射抜いてしまいそうな赤い瞳。それが、この国の皇子、レオンだった。貴族の子供たちの顔合わせパーティ、「デビュタント」でヒジリはレオンにまだ挨拶に行ってもいないのにも関わらず、国王陛下に名前を呼ばれた。今まで家で引き篭もる様に暮らしをしていたヒジリは、産まれて初めての顔合わせパーティでこんなにもすぐ国王陛下から名前を呼ばれるとは思わず身体を振るわせる。元から酷く小心者で臆病。何をしても完璧とは呼ばれないヒジリは既に何かしらの無礼を働いてしまったのではないかと思ったのだ。
 一緒についてきていた両親と共に国王陛下の前に立ち深く礼をする。国王陛下の視線は冷めていて、何処と無く心苦しい。ヒジリの家は爵位も子爵という一番下の少し善を積んで得たようなもので、言うなれば下級貴族。何か問題があれば太刀打ち出来ないほどの何も無い弱い貴族であるにも関わらず、こんな公の場で何かしでかしてしまってはもはや没落してもおかしくない。一体何を言われるのかと、一向に収まる気のない身体の震えは止まらず、挨拶の声も緊張と不安から震えていた。

「わ、我が国の、沈まぬ太陽に、ご…ご挨拶申し上げ、ます…。」

「面をあげよ。」

 今日の主役はあくまでも子供たちである為、ヒジリが辿々しく言葉を並べると、低く威厳のある声がする。ヒジリにとっては国王陛下とも会話するのが今日が初めてだ。皇子レオンと同じ金髪で赤目の国王陛下は、何故か上から下までヒジリを見る。

「肩の力を抜きたまえ、今日はお願いがあって呼んだのだ。」

 不安げに揺らぐ瞳で国王陛下を見上げる。父も母も表情は笑っているが、苦しそうな笑みを浮かべており、父が「私たちにも出来る事でしょうか?」と丁寧に言葉を返した。それに国王陛下が薄っすらと笑みを浮かべると少しだけ場の雰囲気が柔らかくなった様な気がした。……それが気の所為であった事にはすぐに気づく事になる。

「ああ、これは国王からではなくて、父の願いとして聞いて欲しい。私の息子、レオンがマユズミ家の子息を欲しいと言うのでな。皇室の元で暮らす事を許可頂けないだろうか。」

「うちの子を…皇室で…?しかし、我が子は未だ教養を勉強中で御座います。何か不肖な事態があった際に皇室では我々が対応出来ません。」

「全部此方が非を持とう。私の息子が初めて欲しい物を言ってくれたのだ。勿論、其方にも悪くない条件を出す。…例えば位を公爵にするのは如何だろうか。」

 公爵、となればそれは上級貴族に当て嵌まる。それに、国王陛下は続けてマユズミ家の事を子爵でありながら貴族からも庶民からも評判が良く優秀である点からも公爵になれば更に繁栄するだろうと後押しまで押してくださった。そこまで言われて何も返さないのは気が引ける。確かに好条件、高待遇なのには変わりないが、それでも我が子を皇室に預けるのは気が引けた。皇室とは何かしらの問題が起こる場所、何かの拍子に巻き込まれて事件の被害者…最悪の場合加害者にまでなってしまっては両親に心が保たない。両親の姿勢があくまでも“受け入れられない”であると悟ったのか国王陛下はヒジリを見た。

「親同士で決めてしまうのもいけないだろう。子息であるヒジリに話を聞かせてもらおう。」

 ぴくっと、身体が跳ねる。まさか指名されるとは思ってもおらず、両親がどうにかしてくれるとばかり思っていた。それでも国王陛下の顔を見ているとヒジリは謎の恐怖心に苛まれていく。なんとなく此処で拒否をしたら我が家が崩壊してしまう気がしたのだ。両親が築き上げてきた軌跡を全てめちゃくちゃにされる、事業も家も、爵位なんかも全て、壊される様な気がして泣きそうになる。国王陛下の重圧にも耐えられなかったのだろう。どんなに唇を噛んで耐えようとも涙が溢れてきてしまう。しかしこの涙を「嫌だ」という否定に捉えられてはいけない。そう本能が言っていた。

「お、仰せの、ままに…。」

 今にもその場に泣き崩れそうなヒジリだったが、その言葉を伝えた後、国王陛下はふっと笑って「良い返事を感謝する」とだけ言いその場を去る様に指示した。補佐官と思われる人物に後ほど契約の書類を渡しますと両親は伝えられており、半ば放心状態でその場を後にする。誰もいないテラス席に逃げるとヒジリは小さな身体で父も母も抱きしめた。怖かったと声を殺しながら泣き、両親もそんなヒジリを強く抱きしめ返してくれる。優しく諭す様に、両親は語った。本来であればどんな条件を出されても両親は頷く気はなかった、と。大事な一人息子を皇室には置いていけない。元より、今の国王陛下は酷く残忍な性格だ。国王の地位さえも兄弟で殺し合い手に入れたと言っても過言では無い。不要になれば殺される。それが分かっていたからこそ、マユズミ家は目に入らぬ様に細々と生活する事を決めていたのだ。だのに、不運な事にもヒジリが目をつけられた。
 確かにヒジリは非常に可愛い顔立ちをしている。男児でありながら、くりくりとした丸い宝石を嵌め込んだ様な紫色の瞳。薄紫の髪はふわふわと風に靡くだけで柔らかさが分かり、触れば絹の様に心地良い。それでいて肌は陶器のように白く口元には映える黒子が一つ。全体的に女子の様な線の細さと可愛らしさを持っているヒジリは今日注目の的だった一人。子爵家だったが故に大きなパーティに呼ばれる事もなく、自分たちでも開催していなかったマユズミ家にとって今日が本当のお披露目であった。少しでも貴族間で友好的な関係が結べれば良いなと思っていた矢先の出来事である。まさか、息子を取られようとは誰が思っただろうか。

「嫌だったらいつでも帰って来なさい。家はずっとあそこにあるから。」

「貴方の安全と幸せが一番なのよ。」

 これからの事がとても怖い。まだレオンにも会っていないにも関わらず、欲しいと名指しされた事や環境が一変する事。怖くない訳がなかった。まだ齢も七歳の幼子なのにもう両親から引き離されるとは、嫌だ嫌だと駄々を捏ねるも、時既に遅い。両親は実際、ヒジリに助けられた様な所があった。あそこでヒジリが頷いていなければ、きっと我が家は何かしらの“事故”で消えていた。そうしてヒジリだけが保護され皇室に預けられる。きっとそんな未来が断っていればあった事だろう。なんて酷い世界なのかと、彼らは抱きしめ続けた。
 
 一時間後。

 扉の隙間から音楽が鳴り始める。ダンスの時間である事が分かり、何時間もテラスに居るわけにはいかないと両親の手を握ってホールに戻った。泣き腫らした目をしていながらもヒジリを見れば誰もが守りたくなる様な庇護欲を感じるだろう。既に噂となり広まっているのかひしひしと感じる視線にもうそろそろお暇しても良いのかもしれない、とそう母は提案したが、まだ挨拶も出来ていないと父に言われヒジリは壁際で初めてのパーティの様子を見る事にした。顔を上げて見てみれば、豪勢な食事に煌びやかな装飾、照明、飾りつけ。財力を示す様なドレス、紳士服に包み込まれている貴族たち、とそこはまるで物語に出てきそうなほど魅力的であった。あんな出来事が無ければ、ヒジリは感動していた事だろう。
 どれほど魅力的であっても気分は晴れず、下を向いて壁の花になっていた所、ヒジリの足元に影がかかった。誰かが目の前で止まっているのか、顔を上げるとヒジリは身体が硬直する。

「初めましてお人形さん。俺の事はレオンと呼んでください。」

「…お…皇子…。」

「レオンですよ。言っている意味、分からなかった?」

 ひっ、と小さく声がもれる。甘いマスクをしている彼の笑みから、氷の様な冷たさを感じた。かたかたと震えながら「レオン様…。」と名前を呼べば、赤い瞳に射抜かれて、次は花が綻ぶ様にレオンは笑う。

「いつか呼び捨てでレオンと呼んでね。君はもう、俺のものなんだから。」

 心臓の鼓動が異様に速い。これはきっと恐怖からなのだろう。レオンの欲しいもの、それがヒジリだというのは些か本当なのか疑ってしまう。今日初めて会ったばかりで、そんな事があって良いものか。ヒジリは差し出された手に恐る恐る自身の手を重ねる。手を握りしめられ、ヒジリは手を引かれるがままに歩き出した。レオンの後ろをとてとてと覚束ない足取りでついて行く。ホールを抜け、長い廊下を歩き、休憩室と思われる一室に通される。ヒジリを隣に座らせると、レオンはじっと顔を見た。
 そうして髪、頬、耳、腕、手と全身に触れ、擽ったさも感じ始めた時に膝に乗る様に指示された。確かレオンはヒジリの二つ上、九歳ではあるがヒジリよりも筋肉がありがっしりとした体型をしている。身体を強張らせながらも言われた通りに膝の上に乗ると肩を抱いて更に近くでヒジリの顔を見る。額を合わせて長い睫毛が触れ合いそうな距離で、じっと見つめられ、それが何とも気恥ずかしい。
 レオンは思わず見惚れるほどの美貌を持っている。まだ成長中の子供でありながら既に凛々しさと洗礼された美しさがあり、特に赤い瞳はこの世のものとは思えない輝きがあった。初めは怖く感じた赤い瞳が、今ではその真の美しさに気付いたと言わんばかりに煌めいている。それにヒジリがうっとりとしていると、くすっとレオンが笑う。

「そんなに俺の瞳が気に入ったならずっと見ていていいよ。代わりに俺も君をずっと見ているから。」

 なんて蠱惑的な笑みだろうか。ヒジリはまだ、レオンの真の執着に気付いていなかった。


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