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1話 運命
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しおりを挟む「っていうのがこの物語の始まりなの!だからヒジリはぜーーったいにデビュタントに出ちゃダメなんだからね!」
「すごいねリリアン。いつもリリアンの想像力には驚いちゃうや。」
「だーかーらー!これは現実になるの!お人形になっちゃうのよ!?」
「ふふふ、リリアンと居ると本当に楽しいね。」
ヒジリは紅茶を一口啜る。茶髪の髪を揺らしながらリリアンが大きな緑色の瞳でヒジリを見ると項垂れる様に丸机に突っ伏した。もうすぐデビュタントを迎えるレディにしては作法のなっていない姿だが、ヒジリは気にしない。元はリリアンの方がヒジリより美しい所作をする事が出来るからだ。時折こうしてお茶会を開けば、リリアンは読んだ小説の話を聞かせてくれる。
リリアンによれば此処は「暴君のお人形」という名前の大人向け小説らしい。未だに大人向けの理由は分からないが、暴君である主人公がデビュタントで出会ったヒジリというヒロインに一目惚れして、ヒロインに関わった人物を一人残らず消していく、そんな執着深い主人公と人形として暮らすヒロインとの話らしい。ヒロインとなれば女性じゃないのか、と幾度か聞いた事があったがこれは“びーえる小説”だから違うと熱弁された。
確かにこの国の皇子はレオンという名で金髪の赤眼。ヒジリという子爵家の子息で、薄紫の髪に紫の瞳と共通点はいっぱいある。それでもヒジリがこの話を信じた事はなかった。皇子が自分なんかに興味を持つわけがないし、原作とやらと違うところも結構ある。
まずヒジリはリリアンという侯爵令嬢と急激に親しくなってから、教養の授業に力を入れていた。原作だとヒジリは教養にも不十分が見受けられると書かれているが、今のヒジリは力を入れたおかげか一通りは自信を持って行う事が出来る。リリアンが教養は大事だからと熱心になってくれたのだ。同時にヒジリは運動として武術も少しだけ習っていた。センスはないが、知っていると知らないでは違うからとリリアンと共に勉強をしていて、つい先日は馬術をひとかじりしたばかりだ。
こんなにも充実しているのにヒジリはデビュタントを迎えた時に人生が一変してしまうらしい。リリアンは会う度に熱心にその話をしてくれるが俄には信じられず、そうしている内にヒジリはそれを似た様な小説に自分の名前を当て嵌めたリリアンの想像だと思う様になっていた。
そんなヒジリもリリアンも現在七歳。今年はデビュタントとしてお披露目がある。時期が近付いたからかリリアンは更に熱心にヒジリに詰め寄りこの話をしてくれる様になったがヒジリには一切届いている様には感じない。
「ヒジリあのね!私はヒジリに幸せになって欲しくて…!」
「今でも十分楽しくて幸せだよ。ありがとうリリアン。でもデビュタントは貴族に定められてるお披露目会だから出ないといけないって先生にも言われてるし…。」
「デビュタントにでたら貴方は暴君に捕まってあんなことやらあんなことまでされて…ほぼ監禁なんだからね!」
「大袈裟だなぁ。ふふふ、じゃあぼくはリリアンの近くから離れなければいいの?」
「姿を隠す必要があるわ。……そうよね子爵だから出ないわけには行かないわよね…でも出ちゃったら…出ちゃったらヒジリは……。」
ころころと表情を変えながら悩むリリアンにヒジリがくすくすと可愛く笑う。
ヒジリは紛れもないヒロインだ。恵まれた容姿はこの時を待っていたと言わんばかりにデビュタントで注目を浴びる事だろう。正装に身を包んだ時、何故かヒジリは非常に愛らしくなる。正に可愛いお人形そのもの。似合わない服を探したが、ものの見事に全てを着こなした。リリアンはこの時には既にデビュタントに出るしかないと思いつつも、原作を知っている私が推しをわざわざあんな野郎の前に出す必要があるのかと頭を抱えた。
リリアンは原作を愛していたが、本当に愛していたのはヒロインのヒジリであった。何も悪いことはしていないし逆に初心で愛らしくて、特に馴染もうと健気にも頑張る姿。これをきっと庇護欲というのだろう。こんなにもヒロインは素晴らしいのに、あのヤンデレ執着暴君男の所為でヒジリの生活は一変する。原作アンチという訳ではない。ただただ、あの原作通りに行って欲しくないだけなのである。私の前にいるのに、推しを危険に晒す訳にはいけない。それが今彼女が一心に思っていることだった。
「大丈夫だよ。そんな顔しないで、ぼくは絶対にリリアンとの約束守るから。」
「もう何回も言ってるけど、私が言ったこと全部覚えてる?」
「もちろん。まず会場に入ったら姿を消すのと、何かあったらまずリリアンの近くによること。それから皇子が近くに来たら逃げること。」
「うーーーん完璧よヒジリ!取り敢えずそれで様子を見ましょう。絶対にお人形にはならない様にするんだから…!えいえいおー!」
「おー!」
拳を作り高く上げるリリアンの真似をして、ヒジリも拳を作り控えめに腕を上げる。しかしまだリリアンは知らなかった。原作の力…いや運命というものはそう簡単に変えられないという事を。
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