不器用な姉弟は傷を舐め合う、舐め合う舌はちょっとざらつく

桜乃マヒロ

文字の大きさ
447 / 460
過去編

恥を知る 後編

 お風呂に入るためにここまでやってきたのだから、もちろん僕も姉さんも服を着ていなかった。
 つまり、肌色の主張がこう……これ以上ない状態だ。

 僕の方は浴槽に浸かっていたのでまだ隠れようもあったし、その上男だから上半身は隠す必要がない。
 対して隠れる場所もない姉さんは仕方なく両手で体を覆い隠そうとする……が、残念ながら両手だけでは全て隠しきれそうになかった。
 できるだけ露出した肌の体積を小さくしようと頑張っていた姉さんから僕も咄嗟に目を瞑って、そのうえ一応明後日の方向へと顔を逸らした。

 僕たちの関係を知っている人なら、一年弱前まではお風呂に入るのだって毎日一緒だったんだから、慌てるにしても今更過ぎるし、そもそも姉さんの体は見慣れているだろうに、それがなんて落ち着きのない……そう思うかもしれない。
 けど、姉さんは絶賛成長期中の身だ。
 窒息が落ち着いた後、不意打ち気味に姉さんの体をバッチリ目にしてしまったけれど……なんか、記憶にあるソレと全く違っていた。
 喉から出そうになった『誰?』をちゃんと飲み込めた自分を褒めたいくらいだ。

 姉さんもそれまでは僕が生命的な危機に瀕していたために全く気にしていなかったけれど、一度でも意識がそちらに向いてしまうと一気に頭の中は恥ずかしさで一杯になってしまったようだ。
 最後に目にして、温まる前だったのに既に全身真っ赤になっていた。

「…………」
「うぅ……!」

 姉さんの喉から漏れ出た声だけが聞こえてくる……僕の方からは何と声をかけていいのかさえわからない。
 二人して身動きの取れない絶対絶命の状況……しかし、幸か不幸か、浴室の外からドタドタと足音が聞こえてきた。

「どうした柊和⁉ ゴキブリでも出……」
「あ、飛鳥さ……‼」
「…………」
「あっ……おっ、お邪魔しましたぁ……」

 先程の姉さんの悲鳴を耳にして駆けつけてくれた飛鳥さんが僕と姉さんの現状を見て一瞬フリーズ。
 も、例に漏れず妙な邪推をするとすぐに姿を消そうとした。

「ま、待ってっ! お願いだからタオル取って来てぇ! 身動き取れないからぁ!」
「い、いいっていいって、遠慮しなくて! どうぞ姉弟水入らず、家族風呂ってことにしてしっぽり楽しんでいただければいいんですって……!」

 こんな状況で楽しむも何もないわけだけど、ありもしない真実にこの一瞬で囚われてしまった飛鳥さんは自分を邪魔者と思い込んで言うことを聞かない。
 いつもからかうようなことを言うくせに、実際に目の当たりにすると余裕をなくしているようだ。薄々感じてはいたけど、飛鳥さんはどうやら初心うぶらしい。

「もう、とにかくなんでもいいからタオルだけは取ってってばぁああ~っ!」

 こちらはこちらで余裕が音を立ててなくなり、もはや精神的に限界スレスレの姉さん。混乱が極まり泣きそうな声で叫ぶ。

 地獄だ……一つの渾沌が狭い浴室で繰り広げられている……。
 衣食足りて礼節を知るというけれど、食という生理的な欲求に並べられる程度には服を着ることも大事なんだなって、そんなことを考えながら僕は現実逃避に勤しんでいた。



 ──…………。

 あの後、混乱極まる浴室内の状況は色々苦労がありながらもなんとか穏便に対処された。
 飛鳥さんからタオルを受け取った姉さんはすぐさまそれを体に巻いて外へ飛び出し、服を着た。
 浴室に姉さんがいなくなってようやく視界の自由が聞くようになった僕も、その頃には既に眠気が跡形もなく消し飛んでいたため、姉さんが着替え終わるのを待ってから落ち着いてお風呂から上がった。
 振り返ってみると穏便にというよりは……無事にというか、それ以上傷を負うこともなくというか。

 けど、残念極まることに問題はそれで解決したわけじゃない。
 むしろ、上がってからのことを考えると頭が痛くて、もうあのままずっと湯船に浸かっていたかった。
 そのまま水に溶けてしまいたいと本気で願うくらいだ。

 脱衣所を出れば、恐らく姉さんがいる。
 雨に降られて寒いだろうに温まることもできず、制服から急いで着替えただけの姉さんが。
 でもだからって「お風呂入ってきたら?」なんて口が裂けても言えないんだけど。
 さっきの今で姉さんに向けてお風呂という単語を使う勇気は持ち合わせていない。
 というか、さっきの様子を思い返すと姉さん真っ赤になってたし、お風呂入らなくても、現状では暑いくらいかもしれないし……それはそれで心配だけど。

 脱衣所の扉の前で憂鬱な気持ちのまま立ち往生してしまう。
 こんなに重かったっけ、この扉……。
 お風呂に入ってきたのは姉さんの方とは言え、僕の方も寝落ちしてしまった過失がある。
 どちらが悪いという話ではないけれど、余りにも巡り合わせの悪い事故だった。 

 もうこの際だし、あの場で目にしたことは全部投げ置いて「窒息死するところを助けてくれてありがとう」と、肝心要の所はなかったことにしてしまおうか。
 お互いに白を切り合えば……なんて、意味ないよねそれじゃ。
 姉さん、思いっきり叫んでたし、泣きそうになってたし……あれをなかったことには、流石にできない。一年前まではむしろ僕が嫌がっても引っ張って強引に連れていくくらいだったのになぁ。

 いい加減ウジウジし続けてもしょうがないと腹を決め始める。
 この問題からはどうやったって逃げ切れないのだ。
 ひいては現状において最も求められるのは、僕が姉さんに対してどんな対応をするべきかということだけど……。

 僕は開口一番のスライディング土下座が最善手ではないかと考えるんだけど……どうだろうね?
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

疎遠だった叔父の遺産が500億円分のビットコインだった件。使い道がないので、隣の部屋の塩対応な美少女に赤スパ投げまくってる件

月下花音
恋愛
貧乏大学生の成瀬翔は、疎遠だった叔父から500億円相当のビットコインが入ったUSBメモリを相続する。使い道に困った彼が目をつけたのは、ボロアパートの薄い壁の向こうから聞こえる「声」だった。隣人は、大学で「氷の令嬢」と呼ばれる塩対応な美少女・如月玲奈。しかしその正体は、同接15人の極貧底辺VTuber「ルナ・ナイトメア」だったのだ! 『今月ももやし生活だよぉ……ひもじい……』 壁越しに聞こえる悲痛な叫び。翔は決意する。この500億で、彼女を最強の配信者に育て上げようと。謎の大富豪アカウント『Apollo(アポロ)』として、5万円の赤スパを投げ、高級機材を即配し、彼女の生活を神の視点で「最適化」していく。しかし彼はまだ知らなかった。「金で買えるのは生活水準だけで、孤独は埋められない」ということに。500億を持った「見えない神様」が、神の座を捨てて、地上の女の子の手を握るまでの救済ラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

絶交した幼馴染と大学の合コンで再会した。

孤独な蛇
恋愛
中学生の浅野春樹は上級生と喧嘩騒動を起こしたことがあった。 その上、目つきが悪く地毛は茶髪のため不良少年のような扱いを受けて学校では孤立していた。 そんな中、幼馴染の深瀬志穂だけは春樹のことをいつも気遣ってくれていた。 同じ高校に行こうと声を掛けてくれる志穂の言葉に応えたい一心で受験勉強にも力を入れていた。 春樹にとって、学校で孤立していることは問題ではなかった。 昔から志穂が近くにいてくれるから……。 しかし、3年生なってから志穂の態度がよそよそしくなってきた。 登下校も別々になり、学校で話しかけてくることも無くなった。 志穂の心が自分から離れていってしまっている気がした春樹は焦っていた。 彼女と話がしたい。笑った顔が見たい。 志穂と一緒に帰ろうと、彼女が部活動を行っている体育館へ向かったのだが……。 そこで春樹が耳にしたのは、自分の悪口を言って部活の友達と楽しそうにしている志穂の声だった。 その瞬間、春樹の中で志穂に対する想いや信頼は……消滅した。

俺をガチ推ししていた鬼姫と付き合うことになりました ~鬼ヶ島に行ったら巨乳で天然すぎる彼女ができた件~

月城琴晴
恋愛
おとぎの国で流行っているSNS ――「美女革命ランキング」。 そこには絶世の美女たちがランキング形式で掲載されている。 団子屋の青年・桃太郎は、ランキング三位の鬼姫が気になり、 友人たち(犬・猿・雉)と一緒に鬼ヶ島へ行くことにした。 「どうせ写真は盛ってるだろ?」 そう思っていたのだが―― 実際に会った鬼姫は 想像以上の美人で、しかも巨乳。 さらに。 「桃太郎様、ずっとファンでした。」 まさかのガチ推しだった。 そのまま流れで―― 付き合うことに。 しかも鬼姫の部屋には桃太郎のポスターが貼られ、 恋愛シミュレーションまで済んでいるらしい。 天然で可愛すぎる鬼姫と、 初彼女に戸惑う桃太郎。 これは―― 俺を推していた鬼姫が彼女になったラブコメである。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

この男子校の生徒が自分以外全員男装女子だということを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
平凡な俺、相葉祐樹が手にしたのは、ありえないはずの超名門男子校『獅子王院学園』からの合格通知。期待を胸に入学した先は、王子様みたいなイケメンだらけの夢の空間だった! ……はずが、ある夜、同室のクールな完璧王子・橘玲が女の子であるという、学園最大の秘密を知ってしまう。 なんとこの学園、俺以外、全員が“訳アリ”の男装女子だったのだ! 秘密の「共犯者」となった俺は、慣れない男装に悩む彼女たちの唯一の相談相手に。 「祐樹の前でだけは、女の子でいられる……」 クールなイケメンたちの、俺だけに見せる甘々な素顔と猛アプローチにドキドキが止まらない! 秘密だらけで糖度120%の学園ラブコメ、開幕!

クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている

夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。 ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。 無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。 クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。